道徳的動物日記

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動物倫理

マーサ・ヌスバウムによる動物の「繁栄・開花」/「可能力アプローチ」論と、その問題点

ドナルドソンとキムリッカの『人と動物の政治共同体』を読んだついでに、同じく政治哲学の視点から動物を扱っている、マーサ・ヌスバウムの『正義のフロンティア』の第6章「"同情と慈愛"を超えて」も、ぱらぱらと読み返してみた。 『正義のフロンティア』は…

野生動物と境界動物:『人と動物の政治共同体』(3)

人と動物の政治共同体-「動物の権利」の政治理論 作者: スー・ドナルドソン,ウィル・キムリッカ,Sue Donaldson,Will Kymlicka,青木人志,成廣孝 出版社/メーカー: 尚学社 発売日: 2016/12/26 メディア: 単行本(ソフトカバー) この商品を含むブログ (3件) を…

「植物への倫理的配慮?」 by ゲイリー・フランシオーン

A Frequently Asked Question: What About Plants? – Animal Rights: The Abolitionist Approach 今回訳して紹介するのは、動物の権利論者・動物の権利運動家のゲイリー・フランシオンがホームページに掲載した記事。記事の正式なタイトルは「よくある質問:…

家畜動物のシティズンシップ:『人と動物の政治共同体』(2)

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「動物実験のコストとベネフィット」 by アンドリュー・ナイト

今回紹介するのは、倫理学者のアンドリュー・ナイト(Andrew Knight)が2011年New Internationalist のwebページに掲載した「動物実験のコストとベネフィット(The costs and benefits of animal experiments)」という記事。ナイトは同じ題名の単著も出して…

動物の市民権:『人と動物の政治共同体』(1)

< 原著は数年前に読んだことがあるのだが、スー・ドナルドソンとウィル・キムリッカの共著『人と動物の政治共同体 「動物の権利」の政治理論(原題:ZoopolisA Political Theory of Animal Rights)』の邦訳をようやく入手することができたので、この本の第…

野生動物とペット・家畜に対する道徳的責任の違い - クレア・パーマー『文脈のなかの動物倫理』

Animal Ethics in Context 作者: Clare Palmer 出版社/メーカー: Columbia University Press 発売日: 2010/12/05 メディア: Kindle版 この商品を含むブログを見る 数年前にClare Palmer(クレア・パーマー)という人が書いた『Animal Ethics in Context(文…

動物園にまつわる倫理的問題

davitrice.hatenadiary.jp 某アニメの影響で動物園への関心が高まっているようだが、倫理学者のローリー・グルーエンの著書および記事を参考にしながら、動物園にまつわる倫理的問題について整理しておこう。 動物園の基本的な問題点は、広い自然環境で生き…

動物倫理とポストモダン思想

davitrice.hatenadiary.jp ゲイリー・シュタイナーの主張は以前にも本人が書いた短い記事を訳して紹介したが、何しろ短かい記事だったのでシュタイナーの主張がわかりづらかったかもしれない。今回は、シュタイナーが著書『動物と、ポストモダニズムの限界』…

「動物の権利と先住民の権利」 by ウィル・キムリッカ、スー・ドナルドソン

政治哲学者のウィル・キムリッカとスー・ドナルドソンの共著『人と動物の政治共同体(現代:Zoopolis)』の邦訳が発売されたが、何週間か前にAmazonに予約したというのにまだ届かないので、代わりにキムリッカとドナルドソンが無料で公開している論文「動物…

読書メモ:デール・ジェイミーソンの環境倫理学入門

Ethics and the Environment: An Introduction (Cambridge Applied Ethics) 作者: Dale Jamieson 出版社/メーカー: Cambridge University Press 発売日: 2008/01/24 メディア: ペーパーバック この商品を含むブログを見る 先日に読んでいた本。著者のデール…

「限界事例の議論」に関する、ゲイリー・ヴァーナーの議論

道徳的地位やパーソン論に関する議論では「限界事例の議論(Argument from Marginal Cases)」がよく出てくる。 「人間はパーソンであるが動物はパーソンではない」と論じるとき、人間がパーソンである理由として「過去・現在・未来に渡って自分が存在すると…

メモ・道徳的地位と道徳的重要性、なぜパーソンの生は特別な道徳的重要性を持つのか

davitrice.hatenadiary.jp 前回の記事の付け足し、補足的な内容。書き終わってから気付いたが、前回では「人格」「準-人格」と訳していたところを「パーソン」「準-パーソン」と訳してしまった。直すのめんどくさいのでそのままにしておく。意味は一緒。 パ…

「捕鯨に対する文化的偏見?」 by ピーター・シンガー

www.project-syndicate.org 今回紹介するのは、倫理学者のピーター・シンガーが2008年の1月に Project Syndicate に発表した、「Hypocrisy on the High Seas?(公海上の偽善?)」という記事。2016年に発売されたシンガーの倫理学エッセイ集である…

『動物と、ポストモダニズムの限界』 by ゲイリー・シュタイナー

哲学者のゲイリー・シュタイナー(Gary Steiner)が、本人の著書『Animals and the Limits of Postmodernism(動物と、ポストモダニズムの限界)』について短く解説している記事を紹介する。 私はポストモダニズムにはあまり詳しくないのだが、いくつかの本…

科学的知識に基づいた動物倫理:ゲイリー・ヴァーナーのパーソン論

動物について言及する倫理学的主張の多くは「人間だけでなく動物も道徳的地位を持つ」「人間だけでなく動物も道徳的配慮の対象になる」と主張するが、「人間と動物は全く全く同じ道徳的地位を持つ」とは主張しない。例えば人間と猫を比較する場合には、多く…

ペット動物の去勢に関する倫理

猫や犬などのペット動物に去勢・不妊手術を行うことは日本でも一般に行われているし、動物愛護協会も各都道府県の獣医師会も環境省も支持しているようだ*1。だが、インターネットやメディアではペット動物に去勢・不妊手術を行うことへの反対意見を見かける…

動物倫理・功利主義における「置き換え可能性」の議論

www.irishtimes.com 今回紹介するのは The Irish TImes というサイトに掲載された、功利主義系の倫理学者タティアナ・ヴィサクのインタビュー記事。ピーター・シンガーの『実践の倫理』などでも取り上げられている、動物や人間の生命の「置き換え可能性(rep…

アメリカにおける動物愛護運動の歴史

www.csmonitor.com 今回紹介するのは、2014年の4月にクリスチャン・サイエンス・モニター誌のホームページに掲載された、アメリカの歴史家 ダイアン・ビアーズ(Diane Beers) へのインタビュー記事。 ビアーズはアメリカの動物愛護運動の歴史について…

「なぜ動物を食べることに罪悪感を抱かないのか?」

theconversation.com 今回紹介するのは、心理学者のキャロライン・スペンス(Caroline Spence)という人が2015年にオーストラリアの Conversation 誌に掲載誌した記事。社会心理学の論文が色々と参照されている。 「なぜ私たちは動物を食べることにもっ…

「工場畜産は人類史上最大の罪の一つだ」 by ユヴァル・ノア・ハラリ

www.theguardian.com 今回紹介するのは歴史学者のユヴァル・ノア・ハラリ(Yuval Noah Harari)がイギリスのGuardian誌に掲載した記事。 最近邦訳が出たハラリの著書『サピエンス全史 文明の構造と人類の幸福( "Sapiens: A Brief History of Humankind" )…

環境倫理と動物倫理についての論文を雑に紹介

davitrice.hatenadiary.jp 昨日に紹介したこの記事に関連して、倫理学者のゲイリー・ヴァーナー(Gary Varner)が The Oxford Handbook of Animal Ethicsに寄稿している記事「環境倫理、狩猟、動物の位置付け(Environmental Ethics, Hunting, and the Place…

「猫戦争:自然保全の道徳的汚点」 by ウィリアム・リン

www.huffingtonpost.com 本日紹介するのは、環境や動物に関する倫理や政策を研究しているウィリアム・リン(William Lynn)が英語版ハフティントンポストに発表した記事。 natgeo.nikkeibp.co.jp 上の記事にて紹介されている、『Cat Wars』という著作とそれ…

「シンシナティ動物園の問題はゴリラを射殺したことではなく、動物園であることそのものだ」 by ローリー・グルーエン

www.washingtonpost.com 今回紹介するのは、倫理学者のローリー・グルーエン(Lori Gruen)がワシントン・ポストに投稿した記事。グルーエンは霊長類保護に関するプロジェクトにも積極的に関わっている人のようであり、最近では動物や人間を監禁状態に置くこ…

「昆虫に意識はあるか?」 by ピーター・シンガー

www.project-syndicate.org 今回紹介する記事は、Project Syndicateに掲載された倫理学者ピーター・シンガーのコラム「Are Insects Conscious?」。 「昆虫に意識はあるか?」 by ピーター・シンガー 昨年の夏、私が栽培していたルッコラの葉にモンシロチョウ…

肉食を正当化する心理

nymag.com 今回紹介するのは、 Science of Usというwebページにジェシ・シンガル(Jesse Singal)という人が掲載した「肉食を正当化する4つの方法(The 4 Ways People Rationalize Eating Meat)」という記事。 Why We Love Dogs, Eat Pigs, and Wear Cows:…

「人道革命」by ニコラス・クリストフ (消費者主導の、動物福祉の改善運動についての記事)

http://www.nytimes.com/2016/05/15/opinion/sunday/a-humane-revolution.html 今回紹介するのは、ニューヨークタイムス紙にコラムニストのニコラス・クリストフ(Nicholas Kristof)が、全米人道協会(Humane Society of the United States)の会長のウェイ…

「人権から感覚のある存在の権利へ」 by アラスデア・コクレーン

www.casj.org.uk 先日に引き続き、イギリスの政治学者アラスデア・コクレーンがCentre for Animals and Social Justiceに掲載した記事を紹介。 記事の原題はFrom Human Rights to Sentient Rights. 別のところで発表された論文の圧縮版のようである。記事の…

「誰が動物の福祉に責任を負っているのか?」 by ロバート・ガーナー

www.casj.org.uk 今回の記事はイギリスのレスター大学の政治学部の教授であるロバート・ガーナー(Robert Garner)によるもの。ガーナーは以前から動物に関する政治学的な著作を書いており、この分野では有名な人。 先日の記事と同じく、イギリスの「Centre …

「動物の福祉 VS 動物の権利:誤った二分法」 by アラスデア・コクレーン

www.casj.org.uk 今回は、イギリスのシェフフィールド大学の政治学部で政治学理論の講師をしている政治学者アラスデア・コクレーンの記事を紹介。コクレーンは動物の権利・動物倫理に関する単著も出版している。 原文が掲載されているサイトは「Centre for A…