道徳的動物日記

倫理学、社会科学、時事問題、世相などについて論じます。

学問論

ひとこと感想:『ステレオタイプの科学:「社会の刷り込み」は成果にどう影響し、わたしたちは何ができるのか』

ステレオタイプの科学――「社会の刷り込み」は成果にどう影響し、わたしたちは何ができるのか 作者:クロード・スティール 発売日: 2020/04/06 メディア: Kindle版 本の題名だけ見ると、わたしたちが"他人"に対してどのようなステレオタイプを抱いているか、わ…

スティーブン・ピンカーとブラック・ライヴズ・マター

togetter.com ↑ 自分でまとめたこの件について、思うところをちょっと書いておこう。 ●今回はスティーブン・ピンカーという大物がターゲットになったことで話題になったが、アメリカのアカデミアにおける「キャンセル・カルチャー」の問題はいまに始まったこ…

フェミニズムを素直に受け入れ過ぎ(ひとこと感想:『女性のいない民主主義』)

女性のいない民主主義 (岩波新書) 作者:前田 健太郎 発売日: 2020/01/30 メディア: Kindle版 日本の民主主義における「女性不在」の問題について、参政権や政策、投票行動や立候補などの問題に細かく分別しながら、「ジェンダー論」や「フェミニズム」という…

労働から逃避したところで幸せになれるの?(読書メモ:『隠された奴隷制』)

隠された奴隷制 (集英社新書) 作者:植村邦彦 発売日: 2019/08/23 メディア: Kindle版 本のタイトルはマルクスの『資本論』に出てくるキーワードであり、この本の内容もマルクス主義的なものだ。 第一章〜第三章では、ロックやモンテスキューからはじまってア…

ひとこと感想:『美学への招待:増補版』

美学への招待 増補版 (中公新書) 作者:佐々木 健一 発売日: 2019/07/19 メディア: 新書 旧版は学部生のころに読んだような気がするが、詳細は忘れた。 タイトル通り「美学」の入門書だが、美学について主張してきた思想家たちを通時的に解説するタイプの本で…

読書メモ:『感性は感動しない』

感性は感動しないー美術の見方、批評の作法 (教養みらい選書) 作者:椹木 野衣 発売日: 2018/07/13 メディア: 単行本(ソフトカバー) 美術評論家のおじさんが書いたエッセイ集。第一部「絵の見方、味わい方」は著者なりの"批評"観や"美術"観が出ていてそれな…

リバタリアンはフレンドリーで温かい白人男性ばっかり?(読書メモ:『リバタリアニズム:アメリカを揺るがす自由至上主義』)

リバタリアニズム アメリカを揺るがす自由至上主義 (中公新書) 作者:渡辺靖 発売日: 2019/05/17 メディア: Kindle版 タイトル通りリバリアニズムについて書かれた本であるが、政治哲学や経済学などにおける理論としてのリバタリアニズムについて書いた本では…

「ていねいな暮らし」のなにが悪い?

www.webchikuma.jp 大塚英志による上記の記事は、はてブでも先日から人気記事となっておりおおむね好意的に受け止められているようだが、わたしは読んでいてモヤモヤ……というよりも「うんざり」という感情を抱いてしまった。 なので、わたしが共感するブコメ…

ネオリベラリズムとしてのエロティック・キャピタル

エロティック・キャピタル すべてが手に入る自分磨き 作者:キャサリン・ハキム 発売日: 2012/03/03 メディア: 単行本(ソフトカバー) 数年前に読んだ本であるが、思うところあって改めて再読。 「すべてが手に入る自分磨き」という邦訳版オリジナルの副題は…

自己責任論の風景

www.univ.gakushuin.ac.jp ↑ 先日、上記の謝辞が話題になった。特に以下の部分が批判されている。 支えてくれた人もいるが、残念ながら私のことを大学に対して批判的な態度であると揶揄する人もいた。しかし、私は素晴らしい学績を収めたので「おかしい」こ…

続・「男性のつらさ」論についての雑感

davitrice.hatenadiary.jp ↑ この記事を書いた後に出版された本とかネットに上がった記事などを見ての雑感。 ジェンダー論の本やジェンダー論的なネットの記事などで「男性のつらさ」ということが論じられる際には、男性同士の「競争」がつらさの原因である…

「お気持ち」はいけないのか?

davitrice.hatenadiary.jp 先日の記事でも書いたが、ケアの倫理やフェミニズム倫理などの「理性」より「感情」を重視する倫理学理論には根本的に問題点があり、理論として破綻しているように思える。 しかし、「“理性的”を標榜する既存の倫理学理論によって“…

「一見非合理的に見えるものにも実は合理的な理由がある」論について

エルスターの「酸っぱい葡萄」については論文の方の感想は先日に記事にしたわけだが、オンラインで一部公開されている単著の方の「訳者あとがき」も参考になる。今回はこの「訳者あとがき」の方を読んでの雑感*1。 分析的マルクス主義者でもあるエルスターに…

動物に関する文化人類学の議論の有害性について

今回書くことは数年来考えてきたことであり、これまでにもTwitterなどでぶつぶつと文句は言ってきたのだが、まとまった文章を書くタイミングはなかった。 しかし、先月に文化人類学者の奥野克巳氏(以下敬称略)がアップした「分別と無分別の間で ~動物解放…

村上春樹「ヒエラルキーの風景」、受験制度についての雑感

やがて哀しき外国語 (講談社文庫) 作者: 村上春樹 出版社/メーカー: 講談社 発売日: 1997/02/14 メディア: 文庫 購入: 5人 クリック: 29回 この商品を含むブログ (115件) を見る 高校生の頃から村上春樹にはまっていて、小説だけでなくエッセイも多々読んだ。…

私が"議論"が嫌いな理由

ひとくちに議論と言っても色々とあるだろうが、私には世の中で行われている議論というものはおおむね2種類に分かれているように思える。ひとつは、議論に参加している双方がお互いのことを対等に見なしており、互いがどう思っているかを明らかにしたり相互…

「"女性の上昇婚志向"論」についての雑感

このブログではこれまでにも何度かジェンダー論について話題にしてきたし、ジェンダーや恋愛に関して論じた本についての読書メモなども残している*1。また、ブログには取り上げなくても、進化生物学や社会科学などの観点から男女論や恋愛論や結婚制度などに…

大学受験の正義論(読書メモ:『これからの「正義」の話をしよう』)

これからの「正義」の話をしよう (ハヤカワ・ノンフィクション文庫) 作者: マイケルサンデル,Michael J. Sandel,鬼澤忍 出版社/メーカー: 早川書房 発売日: 2011/11/25 メディア: 文庫 購入: 4人 クリック: 204回 この商品を含むブログ (81件) を見る 功利主…

護心術としてのレトリック(読書メモ:『論証のレトリック - 古代ギリシアの言論の技術』)

論証のレトリック―古代ギリシアの言論の技術 (講談社現代新書) 作者: 浅野楢英 出版社/メーカー: 講談社 発売日: 1996/04 メディア: 新書 購入: 6人 クリック: 69回 この商品を含むブログ (2件) を見る 古代ギリシャのレトリックを概説した本。論理学的な内…

「表現の自由」の意義はどこにある?(読書メモ:『自由論』)

自由論 (光文社古典新訳文庫) 作者: ミル 出版社/メーカー: 光文社 発売日: 2013/12/20 メディア: Kindle版 この商品を含むブログを見る 近頃は「議論」というものに関する興味が増してきているでので、第2章の「思想と言論の自由」を中心に再読してみた。 …

"文学的" な哲学のリスク(読書メモ:『若者のための<死>の倫理学』)

若者のための死の倫理学 作者: 三谷尚澄 出版社/メーカー: ナカニシヤ出版 発売日: 2013/01/01 メディア: 単行本 クリック: 2回 この商品を含むブログ (1件) を見る なかなか感想を書くのが難しい本である。 テーマは「死」となっており、身近な人が亡くなる…

「お前の意見は感情的だ」という批判がダメな理由

反共感論―社会はいかに判断を誤るか 作者: ポール・ブルーム,高橋洋 出版社/メーカー: 白揚社 発売日: 2018/02/02 メディア: 単行本 この商品を含むブログ (2件) を見る 心理学者のポール・ブルームによる『反共感論』については、原著が出版される前にブル…

「自己責任論」を批判するのはいいけれど…(読書メモ:『高学歴女子の貧困』)

高学歴女子の貧困 女子は学歴で「幸せ」になれるか? (光文社新書) 作者: 大理奈穂子,栗田隆子,大野左紀子,水月昭道 出版社/メーカー: 光文社 発売日: 2014/02/18 メディア: 新書 この商品を含むブログ (14件) を見る 貧困状態にある高学歴女性が現状を綴る私…

「研究」ってそんなに魅力的か?(読書メモ:『在野研究ビギナーズ』)

在野研究ビギナーズ――勝手にはじめる研究生活 作者: 荒木優太 出版社/メーカー: 明石書店 発売日: 2019/09/06 メディア: 単行本 この商品を含むブログを見る 私自身、「在野」にありながら学術書や洋書を読んだりその内容をまとめてブログにして発信したり、…

「道徳の秩序」と「政治の秩序」(読書メモ:『資本主義に徳はあるか』)

資本主義に徳はあるか 作者: アンドレコント=スポンヴィル,Andr´e Comte‐Sponville,小須田健,コリーヌカンタン 出版社/メーカー: 紀伊國屋書店 発売日: 2006/08 メディア: 単行本 クリック: 6回 この商品を含むブログ (10件) を見る フランス人の哲学者であ…

進化心理学はなぜ批判されるのか?

quillette.com 上記のQuilletteの記事を要約紹介しつつ、雑感を書く。…というか、ダラダラと長ったらしい記事なので、思い切って要点や特徴的な点だけ紹介する。 上記の記事では、デビッド・バスとウィリアム・フォンヒッペルという二人の進化心理学者が行っ…

「攻めの倫理」と「守りの倫理」(『ふだんづかいの倫理学』読書メモ)

ふだんづかいの倫理学 (犀の教室Liberal Arts Lab) 作者: 平尾昌宏 出版社/メーカー: 晶文社 発売日: 2019/03/12 メディア: 単行本 この商品を含むブログを見る 前回の記事でも言及した内容とはまた別口で、『ふだんづかいの倫理学』を読んで考えたことにつ…

「"正義"について語るのはもう止めよう」

記事のタイトルは、過去に自分で訳した記事のパロディ*1。 ふだんづかいの倫理学 (犀の教室Liberal Arts Lab) 作者: 平尾昌宏 出版社/メーカー: 晶文社 発売日: 2019/03/12 メディア: 単行本 この商品を含むブログを見る 先日から『ふだんづかいの倫理学』と…

読書メモ:『 大学なんか行っても意味はない? 教育反対の経済学』

大学なんか行っても意味はない?――教育反対の経済学 作者: ブライアン・カプラン,月谷真紀 出版社/メーカー: みすず書房 発売日: 2019/07/17 メディア: 単行本 この商品を含むブログを見る 雇用主が大学を卒業した人そうでない人よりも高い給料を払うのは、そ…

「有害な男らしさ」論のイデオロギー

まとまった文章を書く気力がないので、最近の議論を見ていて思ったことをだらだらと。 日本のインターネットでは「男のつらさ」とか「男性の孤独」というトピックは周期的に話題になるが、今月は特にそれらの話題についての議論が盛んだ。 議論のきっかけは…