道徳的動物日記

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批評

【2023年版】キャンセル・カルチャーのなにが問題か

(6/14追記:トークイベントをやりましたのでよかったら視聴(※チケット購入)してください) #左からのキャンセル・カルチャー論無事終了!!あいちトリエンナーレの件から小山田圭吾事件、あらゆる差別問題…様々な角度から“キャンセル・カルチャー”につ…

読書メモ:『哲学人 生きるために哲学を読み直す』

哲学人―生きるために哲学を読み直す〈上〉 作者:ブライアン マギー 日本放送出版協会 Amazon 著者のブライアン・マギーはオックスフォードやケンブリッジを学んだ経歴を持つが、アカデミシャンや職業的な「プロ哲学者」ではなく、あくまで在野の人間としてテ…

ピーター・シンガーによる「言論の自由」論

出勤前の短い時間なのでメモ的な記事。 www.project-syndicate.org 昨年の11月に倫理学者のピーター・シンガーが書いたコラム。イ ーロン・マスクがTwitterを買収したことに言及しながら、自身が編集委員をやっている雑誌 Journal of Controversial Ideas …

ミソジニー論客たちのエコーチェンバー

お嬢さんと嘘と男たちのデス・ロード ジェンダー・フェミニズム批評入門 作者:北村 紗衣 文藝春秋 Amazon 大して話題になっている問題でもないが、つい気になってしまってTwitterで言及してしまったので、ブログのほうでも考えを残しておく。 togetter.com …

「正しい」議論と「優しい」議論

とある雑誌に依頼を受けて文章を書き出したはいいものの、批判対象を明示せずにふわっとした印象に基づいてレッテルを貼ってぐちぐち論難する文章になっていき、書き進めているうちに自分でウンザリしちゃったのでボツにして雑誌のほうはまったく異なるトピ…

「ハッピーエンド」を唱える議論には警戒せよ(『資本主義が嫌いな人のための経済学』読書メモ①)

資本主義が嫌いな人のための経済学 作者:ジョセフ・ヒース NTT出版社 Amazon まずは「エピローグ」から引用。 若かりしころの私は、社会正義の問題など簡単だと考えていた。世界には二種類の人間がーー根っから利己的な人間と、もっと寛大で思いやりのあ…

デュルーケム流功利主義とダーウィン左翼(『社会はなぜ左と右にわかれるのか』読書メモ②)

社会はなぜ左と右にわかれるのか――対立を超えるための道徳心理学 作者:ジョナサン・ハイト 紀伊國屋書店 Amazon 前回の記事ではジョナサン・ハイトによる「道徳基盤理論」をかなりディスって、『社会はなぜ左と右にわかれるのか』という本自体についても辛め…

保守の道徳はリベラルより「広い」のか?(『社会はなぜ左と右にわかれるのか』読書メモ①)

社会はなぜ左と右にわかれるのか――対立を超えるための道徳心理学 作者:ジョナサン・ハイト 紀伊國屋書店 Amazon ジョナサン・ハイトの『社会はなぜ左と右にわかれるのか:対立を越えるための道徳心理学』は、大学院生のころに原著の The Righteous Mind のほ…

インターネットで「言論」は成立するか?(『啓蒙思想2.0』読書メモ⑦)

啓蒙思想2.0―政治・経済・生活を正気に戻すために 作者:ジョセフ・ヒース NTT出版 Amazon 政治的言説の質にインターネットが与える長期的な影響はまだはっきりとわからない。これはテクノロジーが急速に変化しているからでもあり、伝統的なメディアーー特に…

「男性のセルフケア」論についての雑感

gendai.ismedia.jp なんとなく上記の記事を眺めていたら色々とひっかかるところがあり、以前からのわたしの問題意識や関心とも関連している内容でもあるので、思うところをメモしていく*1。 現代社会における「男らしさ」は多様化していますが、それでも「男…

文芸時評って意味あるの?

わざわざブログ記事にするほどの内容でもないんだけれど、しばらくTwitterに書き込むことはお休みすることにしたので、こっちに書く。 togetter.com この件が話題なので、朝日新聞にログインして、問題の文芸時評を読んでみた。 www.asahi.com 読んでみて思…

「弱者男性」でありたがることのなにが問題か

gendai.ismedia.jp ↑ 「弱者男性論」に関するわたしの記事が講談社現代ビジネスに掲載されてからちょうど一ヶ月になるが、この記事をきっかけに「弱者男性論」が盛り上がったようで、SNSや個人ブログに匿名ダイアリーなどで、弱者男性について書かれた文章が…

「人生の意味」の進化心理学

野蛮な進化心理学―殺人とセックスが解き明かす人間行動の謎 作者:ダグラス・ケンリック 発売日: 2014/07/18 メディア: 単行本 ダグラス・ケンリックの『野蛮な進化心理学:殺人とセックスが解き明かす人間行動の謎』の白眉は、やはり、第七章の「マズローと…

幸福には「仕事」が欠かせない理由

しあわせ仮説 作者:ジョナサン・ハイト 発売日: 2011/07/06 メディア: 単行本 『しあわせ仮説:古代の知恵と現代科学の知恵』の第10章から、仕事(労働)に関する議論を紹介しよう。 カール・マルクスによる資本主義批判は、産業革命が、職人と生産物とのあ…

誰もが平等に幸福になれるわけではない

(某所に掲載する原稿として書きはじめたのだが、書いているうちに論旨が迷子になって自分でも無理を感じる内容になってしまったので、「これじゃダメだな」と判断して取り止めた。でもせっかく書いたのが無駄になるのもイヤなので、無理やりにまとめて、こ…

ひとこと感想:『Vitrtue Signaling: Essays on Darwinian Politics & Free Speech』

Virtue Signaling: Essays on Darwinian Politics & Free Speech (English Edition) 作者:Miller, Geoffrey 発売日: 2019/09/18 メディア: Kindle版 以前からすこし気になっていた本であり、ほしいものリストから頂いたので、読んだ。しかし、贈ってくれた方…

覚え書き:「被害者性の文化」と「美徳シグナリング」

(深夜に突貫で書いた記事なので、かなりグダグタな内容になっている) ポリティカル・コレクトネスとそれが引き起こす問題は様々な場面に存在している。このブログでは主にアカデミアにおけるポリコレの問題を扱ってきたし、今年からはじめた映画日記の方で…

ひとこと感想:『美学への招待:増補版』

美学への招待 増補版 (中公新書) 作者:佐々木 健一 発売日: 2019/07/19 メディア: 新書 旧版は学部生のころに読んだような気がするが、詳細は忘れた。 タイトル通り「美学」の入門書だが、美学について主張してきた思想家たちを通時的に解説するタイプの本で…

読書メモ:『感性は感動しない』

感性は感動しないー美術の見方、批評の作法 (教養みらい選書) 作者:椹木 野衣 発売日: 2018/07/13 メディア: 単行本(ソフトカバー) 美術評論家のおじさんが書いたエッセイ集。第一部「絵の見方、味わい方」は著者なりの"批評"観や"美術"観が出ていてそれな…

読者のことなんて気にしなくても「批評」はできるよ(読書メモ:『はじめての批評:勇気を出して主張するための文章術』)

はじめての批評 ──勇気を出して主張するための文章術 作者:川崎昌平 発売日: 2016/06/25 メディア: 単行本 この本の「はじめに」に書かれている、著者の問題意識は以下のようなものである。 …若い人々から、「書きたいけど、書けない」といった悩みを打ち明…