道徳的動物日記

『21世紀の道徳』発売中です。amzn.asia/d/1QVJJSj

読書メモ:『原理の問題』

原理の問題 作者:ロナルド・ドゥオーキン 岩波書店 Amazon 政治哲学っぽい『平等とは何か』や議論がシンプルな『自由と法』はまだ読めたのだけれど、この本は法哲学という個人的に馴染みのない分野であるうえに議論もやたらとくどくどとしており、3章ぶん(…

リベラリズムにとって「手続き」と「平等」が大切な理由(読書メモ:『リベラリズム:リベラルな平等主義を擁護して』)

リベラリズム: リベラルな平等主義を擁護して 作者:ポール・ケリー 新評論 Amazon ジョン・ロールズなどの特定の思想家の解説本や思想史の本ではなくリベラリズムの「理論」への入門書が数少ないことには先日にも言及したが、今月の上旬にめでたく邦訳が出版…

読書メモ:『ジェンダー格差 実証経済学は何を語るか』

ジェンダー格差-実証経済学は何を語るか (中公新書 2768) 作者:牧野 百恵 中央公論新社 Amazon 「ジェンダー格差」と「実証経済学」の組み合わせに惹かれたこと、そして中公新書というレーベルの信頼度から、発売日直後に購入。 他にも読んでいる本はあるん…

言論の自由の「手段的」擁護論と「構成的」擁護論(読書メモ:『自由の法』②)

自由の法―米国憲法の道徳的解釈 作者:ロナルド・ドゥウォーキン,文彦, 石山 木鐸社 Amazon ほんとはちゃんとした記事にしたかったけれど本日中に図書館に返却する必要があり、家庭の事情のために早朝には家を出発する必要があるので、写経で済ませます。 憲…

学問の自由と倫理的個人主義(読書メモ:『自由の法』①)

自由の法―米国憲法の道徳的解釈 作者:ロナルド・ドゥウォーキン,文彦, 石山 木鐸社 Amazon 家庭の事情(飼い始めた猫の夜泣きがひどくて睡眠に支障が出ているなど)のために執筆時間はもちろんのこと読書に割ける時間もかなり目減りしている状況なのだが、今…

理性と論理に基づくリベラリズム(読書メモ『Liberalism : the basics』)

Liberalism: The Basics (English Edition) 作者:Charvet, John Routledge Amazon 次の本の執筆に向けて昨年からリベラリズムのことを勉強し続けているうちに気が尽かされたのだが、哲学や理論としてのリベラリズムの入門書は意外なほどに少ない。 中公新書…

責任否定論に現実味がない理由(読書メモ:『考えるあなたのための倫理入門』)

考えるあなたのための倫理入門 作者:メアリー・ウォーノック 春秋社 Amazon この本は返却期限の問題から3章の「権利」と5章の「自由、責任、決定論」しか読めていない。前者の議論はいろいろと納得ができなかったが、後者にはピーター・ストローソンの講演…

「公共道徳」と「私的倫理」(読書メモ:『J・S・ミル:自由を探究した思想家』)

J・S・ミル 自由を探究した思想家 (中公新書) 作者:関口正司 中央公論新社 Amazon この新書に関しては先日に前夜祭的な記事を書いている。 davitrice.hatenadiary.jp また、『自由論』についてはこのブログやWebメディアに掲載した記事などでもたびたび登…

読書メモ:『社会正義論の系譜:ヒュームからウォルツァーまで』

社会正義論の系譜―ヒュームからウォルツァーまで (叢書フロネーシス) ナカニシヤ出版 Amazon 先日にリチャード・ベラミーの『哲学がわかる シティズンシップ』の邦訳が発売されて、このブログでも記事を書いた。 davitrice.hatenadiary.jp また、8月にはポー…

読書メモ:『分配的正義の歴史』

分配的正義の歴史 作者:フライシャッカー,サミュエル 晃洋書房 Amazon 数年前にも読んだことあるはずだが内容はまったく覚えていない。 思想史の本ではあるがその主張と主張と明快だ。現在では当たり前に思われている「(功績 meritではなく)必要性に基づい…

「政治」は「法」よりも重要か?(読書メモ:『哲学がわかる シティズンシップ』)

哲学がわかる シティズンシップ: 民主主義をいかに活用すべきか 作者:リチャード・ベラミー 岩波書店 Amazon シティズンシップ(Citizenship) という単語は様々に訳せられる言葉であり、単に「市民であること」を意味する場合もあれば、「市民権」「公民権…

続・公共的理性とはなんぞや(読書メモ:『公共哲学入門』)

公共哲学入門 自由と複数性のある社会のために NHKブックス 作者:齋藤 純一,谷澤 正嗣 NHK出版 Amazon 「公共哲学」と書くと見慣れない人も多いかもしれないし、本書の第一章では他の哲学ではなく「公共哲学」に特有の課題とは何かということが解説されて…

読書メモ:『J・S・ミルと現代』&『一冊でわかるJ・S・ミル』

来週に中公新書の『J・S・ミル』が出版されるし*1、表現の自由論を勉強したり『経済学の倫理学』を読んだりしたことで最近はまたミルに触れる機会が増えてきたので*2、中公新書の予習というか前夜祭的な感じで岩波新書とオックスフォードのVery Short Intr…

読書メモ:『哲学人 生きるために哲学を読み直す』

哲学人―生きるために哲学を読み直す〈上〉 作者:ブライアン マギー 日本放送出版協会 Amazon 著者のブライアン・マギーはオックスフォードやケンブリッジを学んだ経歴を持つが、アカデミシャンや職業的な「プロ哲学者」ではなく、あくまで在野の人間としてテ…

「思想の自由市場」の価値とはなんだろうか?

ヘイト・スピーチという危害 作者:ジェレミー・ウォルドロン みすず書房 Amazon 前回の記事でも紹介したジェレミー・ウォルドロンの『ヘイト・スピーチという危害』では、表現の自由を擁護する議論の古典であり現代でも頻繁に参照されているジョン・スチュア…

読書メモ:『ヘイト・スピーチという危害』ほか

davitrice.hatenadiary.jp 前回に引き続き、来たる6月13日の「左からのキャンセル・カルチャー論」トークイベントに向けて、表現の自由というトピックに関して復習中*1。 最近に読んだり再読したりした本は以下の通り。 ヘイト・スピーチという危害 作者:…

「思いやり」があれば正しいってもんか?(読書メモ:『ケアの倫理と共感』)

ケアの倫理と共感 作者:マイケル・スロート 勁草書房 Amazon この本は邦訳の発売直後、2021年の年末に当時もらった図書カードで購入済だったのだが積んでいたところ、先日の日本哲学会のワークショップに向けて、『もうひとつの声で』に続いて読んだ、という…

「片目の男」(読書メモ:『ノージック 所有・正義・最小国家』)

ノージック―所有・正義・最小国家 作者:ジョナサン ウルフ 勁草書房 Amazon 政治哲学者ロバート・ノージックの思想について、『アナーキー・国家・ユートピア』を中心に解説する本。 ノージックといえばリバタリアニズム(自由尊重主義)を正当化する思想を…

読書メモ:『もうひとつの声で 心理学の理論とケアの倫理』

もうひとつの声で──心理学の理論とケアの倫理 作者:キャロル・ギリガン 風行社 Amazon 言わずとしれた、「ケアの倫理」を最初に提唱した元祖的な本。このブログの以前の記事でねだったら購入してもらえましたので読みました*1。また、この本を読むために、批…

【翻訳希望!】『資本主義の倫理学』

The Ethics of Capitalism: An Introduction (English Edition) 作者:Halliday, Daniel,Thrasher, John Oxford University Press Amazon さきほどの記事で書いたように、この4月は引越しに伴う作業と会社の仕事とでなかなか読書・執筆の時間が取れなかった…

「気概」とリベラルな民主主義(読書メモ:『歴史の終わり』)

歴史の終わり〈上〉 作者:フランシス フクヤマ 三笠書房 Amazon 歴史の終わり〈下〉「歴史の終わり」後の「新しい歴史」の始まり 三笠書房 Amazon フランシス・フクヤマの『歴史の終わり』は数年前にも読んで感想を書いているが、『IDENTITY 尊厳の欲求と憤…

「普遍的な道徳」は存在するか?(読書メモ:『道徳性の発達と道徳教育』)

道徳性の発達と道徳教育 作者:ローレンス・コールバーグ,アン・ヒギンズ 麗澤大学出版会 Amazon 「ケアの倫理」を最初に提唱したキャロル・ギリガンの『もうひとつの声で』の批判対象として有名な……というか、哲学・倫理学界隈では「ギリガンに批判された人…

「アニマル・ウェルフェア」の多様な意味(読書メモ:『アニマル・スタディーズ 29の基本概念』⑤)

アニマル・スタディーズ29の基本概念 平凡社 Amazon 第29章「ウェルフェア」の執筆者はクレア・パルマーとぺテル・サンデュ。どちらも倫理学者であり、前者についてはこのブログでも過去に何度か取り上げている。また、両者はコンパニオン・アニマルの倫理…

クリスティン・コースガードの「理性」論(読書メモ:『アニマル・スタディーズ 29の基本概念』④)

アニマル・スタディーズ29の基本概念 平凡社 Amazon 第20章「理性」の執筆者は、カント主義の哲学者クリスティン・M・コースガード。なかなか難しい内容であった。 義務とアイデンティティの倫理学 規範性の源泉 作者:クリスティーン・コースガード 岩波…

効果的な利他主義と動物の権利運動(読書メモ:『アニマル・スタディーズ 29の基本概念』③)

アニマル・スタディーズ29の基本概念 平凡社 Amazon 第2章「アクティヴィズム」の著者はジェフ・スィーボウとピーター・シンガー。どちらも倫理学者であると同時に動物の権利運動に実践的に関わっている人だ。 この章で主に論じられるのは<効果的なアニマ…

ローリー・グルーエンの「からまりあう共感」論(読書メモ:『アニマル・スタディーズ 29の基本概念』②)

アニマル・スタディーズ29の基本概念 平凡社 Amazon 本書の編者でもある倫理学者のローリー・グルーエンは、第9章「共感」を執筆している。 この章の議論はグルーエンの単著 Entangled Empathy: An Alternative Ethic for Our Relationships with Animals …

動物倫理における「有感覚主義」(読書メモ:『アニマル・スタディーズ 29の基本概念』①)

アニマル・スタディーズ29の基本概念 平凡社 Amazon 先日に発売された『アニマル・スタディーズ 29の基本概念』を図書館で入手してきたので(とても個人で購入できるような値段ではない)、気になる章をいくつか読んで読書メモを取っていく。 まずは、倫理学…

読書メモ:『フェミニストの理論』

フェミニストの理論 作者:ジョゼフィン ドノヴァン 勁草書房 Amazon davitrice.hatenadiary.jp 先日に英語論文を読んだジョゼフィン・ドノヴァンが1985年に書いた単著の『フェミニストの理論』がAmazonで安く売っていたので、せっかく論文を読んだのというの…

フェミニズムと動物:まとめと批判

An Introduction to Animals and Political Theory (The Palgrave Macmillan Animal Ethics Series) (English Edition) 作者:Cochrane, Alasdair Palgrave Macmillan Amazon 先日に引き続き、「フェミニズムと動物倫理」というテーマでお勉強。 今回は政治哲…

読書メモ:『現代思想入門』

現代思想入門 (講談社現代新書) 作者:千葉雅也 講談社 Amazon 大学生から大学院一年生の頃までのわたしはいっちょまえに「哲学」や「思想」に対する興味を抱いており、哲学書そのものにチャレンジすることはほとんどなかったが、様々な入門書は読み漁ってい…