道徳的動物日記

倫理学、社会科学、時事問題、世相などについて論じます。

雑感

覚え書き:「被害者性の文化」と「美徳シグナリング」

(深夜に突貫で書いた記事なので、かなりグダグタな内容になっている) ポリティカル・コレクトネスとそれが引き起こす問題は様々な場面に存在している。このブログでは主にアカデミアにおけるポリコレの問題を扱ってきたし、今年からはじめた映画日記の方で…

読者のことなんて気にしなくても「批評」はできるよ(読書メモ:『はじめての批評:勇気を出して主張するための文章術』)

はじめての批評 ──勇気を出して主張するための文章術 作者:川崎昌平 発売日: 2016/06/25 メディア: 単行本 この本の「はじめに」に書かれている、著者の問題意識は以下のようなものである。 …若い人々から、「書きたいけど、書けない」といった悩みを打ち明…

「トランプ支持者の白人労働者」について書かれた本をまとめて読んでみて…

ヒルビリー・エレジー~アメリカの繁栄から取り残された白人たち~ 作者:J・D・ヴァンス 発売日: 2017/03/24 メディア: Kindle版 新たなマイノリティの誕生―声を奪われた白人労働者たち 作者:ジャスティン・ゲスト 発売日: 2019/05/31 メディア: 単行本 壁…

読書メモ:『アメリカを動かす「ホワイト・ワーキング・クラス」という人々』②

アメリカを動かす『ホワイト・ワーキング・クラス』という人々 世界に吹き荒れるポピュリズムを支える“真・中間層”の実体 作者:ジョーン・C・ウィリアムズ 発売日: 2017/08/25 メディア: 単行本 ●ワーキング・クラスの人種差別 カナーシーのワーキング・クラ…

労働者のエートスとエリートのエートス(読書メモ:『アメリカを動かす「ホワイト・ワーキング・クラス」という人々①』)

アメリカを動かす「ホワイト・ワーキング・クラス」という人々 世界に吹き荒れるポピュリズムを支える“真・中間層”の実体 (集英社学芸単行本) 作者:ジョーン・C・ウィリアムズ 発売日: 2017/10/27 メディア: Kindle版 2016年の大統領選では多くの人がヒラリ…

道徳や規範を認識できない人たちについての省察

note.com みんなが批判している通りの酷い内容の記事である。特に以下の箇所がヤバい。 フェミニストという言葉はネットのごく一部の界隈でしか聞いたことがないので一体どこのイベントなのかと純粋に興味がありました。僕が参加するイベントでは一度も聞い…

「ていねいな暮らし」のなにが悪い?

www.webchikuma.jp 大塚英志による上記の記事は、はてブでも先日から人気記事となっておりおおむね好意的に受け止められているようだが、わたしは読んでいてモヤモヤ……というよりも「うんざり」という感情を抱いてしまった。 なので、わたしが共感するブコメ…

読書メモ:『経済政策で人は死ぬか?:公衆衛生学から見た不況対策』

経済政策で人は死ぬか?: 公衆衛生学から見た不況対策 作者:デヴィッド スタックラー,サンジェイ バス 発売日: 2014/10/15 メディア: 単行本 邦訳が出たのは6年前であるが、コロナ禍により再注目されている。わたしは数年前にこの本をいちど通読していたが、…

「叩いていい存在」を叩く行為と、ネット民の幼児性について

oriza.seinendan.org 平田オリザ騒動についての雑感。 ある有名人が人の癇にさわるようなことを言う。わたし自身としてもその発言を見聞して不愉快な気持ちになり、身内との会話でその話題を出して文句を言ったり愚痴ったりすることもあれば、SNSにネガティ…

自己責任論の風景

www.univ.gakushuin.ac.jp ↑ 先日、上記の謝辞が話題になった。特に以下の部分が批判されている。 支えてくれた人もいるが、残念ながら私のことを大学に対して批判的な態度であると揶揄する人もいた。しかし、私は素晴らしい学績を収めたので「おかしい」こ…

続・「男性のつらさ」論についての雑感

davitrice.hatenadiary.jp ↑ この記事を書いた後に出版された本とかネットに上がった記事などを見ての雑感。 ジェンダー論の本やジェンダー論的なネットの記事などで「男性のつらさ」ということが論じられる際には、男性同士の「競争」がつらさの原因である…

「卓越した人間」の代用品としてのスポーツ選手?

卓越の倫理―よみがえる徳の理想 作者:リチャード テイラー 出版社/メーカー: 晃洋書房 発売日: 2013/10/01 メディア: 単行本 先ほどの記事でも『卓越の倫理』の感想を長々と書いたが、とりわけ印象深かった以下の箇所に関連して、自分の思うところをさらに書…

「表現の自由」の滑りやすい坂道?

2019年の日本のネット論壇では、例年のごとく「萌え絵」や二次元キャラクターの性的表現、およびそのような表現を公共の場で展示することの是非、などなどが話題になった。 毎年のように繰り返されている論争であり、今年も大して議論の進展があったように思…

「出羽守」批判についての雑感

日本社会の構造的な問題点や、日本社会で起きた事件の問題性について、海外のメディアや記者が取り上げることはめずらしくない。たとえば、ここ最近では以下のような記事が記憶にあたらしいだろう。↓ www.nytimes.com www.bbc.com toyokeizai.net そして、こ…

ネット言説における「合理性」信奉

もしかしたらこのブログの読者ならご存知かもしれないが、私にはインターネット中毒の傾向がある。 特に、Twitterとはてなブックマークはついつい見てしまう。 会社でフルタイムで働きだすようになってからは本を読める時間が減った一方で、インターネットを…

「一見非合理的に見えるものにも実は合理的な理由がある」論について

エルスターの「酸っぱい葡萄」については論文の方の感想は先日に記事にしたわけだが、オンラインで一部公開されている単著の方の「訳者あとがき」も参考になる。今回はこの「訳者あとがき」の方を読んでの雑感*1。 分析的マルクス主義者でもあるエルスターに…

仕事と倫理

magazine-k.jp この記事を読んで思ったことや、さいきん考え続けていることを書きなぐる。ただし、内容自体は上記の記事とはあまり関係ナシ。 上記の記事の後半では本の流通の問題や書店・本の存続そのものについての危惧が語られているが、それはおいておい…

切り抜きメモ:ミルの「功利主義」の「満足した馬鹿であるより不満足なソクラテス」論

功利主義論集 (近代社会思想コレクション05) 作者:J・S・ ミル 出版社/メーカー: 京都大学学術出版会 発売日: 2010/12/05 メディア: 単行本 ミルの「功利主義」に書かれている文章でいちばん有名なものといえば、やっぱりコレ。 満足した豚であるより、不満…

社会運動の「戦略」の問題を指摘する人について

現代思想 2018年7月号 特集 性暴力=セクハラ ―フェミニズムとMeToo― 作者: 伊藤詩織,北原みのり,武田砂鉄,雨宮処凛,坂上香,上岡陽江,牟田和恵,岡野八代,仁藤夢乃,後藤弘子 出版社/メーカー: 青土社 発売日: 2018/06/27 メディア: ムック この商品を含むブロ…

労働・やりがい・疎外・ベーシックインカムなどについての雑感

働くことの哲学 作者: ラーススヴェンセン,Lars Svendsen,小須田健 出版社/メーカー: 紀伊國屋書店 発売日: 2016/04/07 メディア: 単行本 この商品を含むブログ (4件) を見る ここ最近、仕事や労働や賃金、および財産の分配に関する哲学や思想史の本を何冊か…

義務論と帰結主義のすれ違い?

「倫理学入門」的なタイトルが付けられた本や授業では、規範倫理について紹介する際には、「倫理学の代表的な理論としては帰結主義(功利主義)と義務論がありまして、この二つの理論は対立するものとして見られておりますが、また別の角度から道徳を論じる…

村上春樹「ヒエラルキーの風景」、受験制度についての雑感

やがて哀しき外国語 (講談社文庫) 作者: 村上春樹 出版社/メーカー: 講談社 発売日: 1997/02/14 メディア: 文庫 購入: 5人 クリック: 29回 この商品を含むブログ (115件) を見る 高校生の頃から村上春樹にはまっていて、小説だけでなくエッセイも多々読んだ。…

私が"議論"が嫌いな理由

ひとくちに議論と言っても色々とあるだろうが、私には世の中で行われている議論というものはおおむね2種類に分かれているように思える。ひとつは、議論に参加している双方がお互いのことを対等に見なしており、互いがどう思っているかを明らかにしたり相互…

「"女性の上昇婚志向"論」についての雑感

このブログではこれまでにも何度かジェンダー論について話題にしてきたし、ジェンダーや恋愛に関して論じた本についての読書メモなども残している*1。また、ブログには取り上げなくても、進化生物学や社会科学などの観点から男女論や恋愛論や結婚制度などに…

読書メモ:『もてない男 - 恋愛婚を超えて』

もてない男―恋愛論を超えて (ちくま新書) 作者: 小谷野敦 出版社/メーカー: 筑摩書房 発売日: 1999/01/01 メディア: 新書 購入: 4人 クリック: 121回 この商品を含むブログ (174件) を見る ちょうど20年も前の本だが、いまも続く「非モテ論」の先駆けとなっ…

若者はなぜネオリベ化するのか?

社会はなぜ左と右にわかれるのか――対立を超えるための道徳心理学 作者: ジョナサン・ハイト,高橋洋 出版社/メーカー: 紀伊國屋書店 発売日: 2014/04/24 メディア: 単行本 この商品を含むブログ (27件) を見る 突然だが、現代の若者はネオリベ化している。 こ…

グレタさん問題についての雑感

www3.nhk.or.jp この一週間、グレタ・トゥーンベリさんの演説に関しては、グレタさん擁護派〜中立派の立場の人たちの幾人かが「批判派も擁護派も、彼女の"16歳の女子高生"という属性にばかりこだわり、彼女の発言の中身を見ていない」という旨のコメントを…

読書メモ:『モンテーニュ私記 - よく生き、よく死ぬために』

モンテーニュ私記―よく生き、よく死ぬために 作者: 保苅瑞穂 出版社/メーカー: 筑摩書房 発売日: 2003/10 メディア: 単行本 購入: 3人 クリック: 3回 この商品を含むブログを見る この本からではなく、この本で引用されているモンテーニュの『エセー』文章で…

「研究」ってそんなに魅力的か?(読書メモ:『在野研究ビギナーズ』)

在野研究ビギナーズ――勝手にはじめる研究生活 作者: 荒木優太 出版社/メーカー: 明石書店 発売日: 2019/09/06 メディア: 単行本 この商品を含むブログを見る 私自身、「在野」にありながら学術書や洋書を読んだりその内容をまとめてブログにして発信したり、…

人はなぜ過去の選択にこだわるのか

幸福はなぜ哲学の問題になるのか (homo viator) 作者: 青山拓央 出版社/メーカー: 太田出版 発売日: 2016/09/14 メディア: 単行本 この商品を含むブログ (6件) を見る 昨日にも『幸福はなぜ哲学の問題になるのか』の感想を書いたが、本書の中でも特に印象に…