道徳的動物日記

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『世界一賢い鳥、カラスの科学』

 

 

世界一賢い鳥、カラスの科学

世界一賢い鳥、カラスの科学

 

 

 

『世界一賢い鳥、カラスの科学』 2013年 河出書房新社

 

 著:ジョン・マーズラフ、トニー・エンジェル 訳:東郷えりか

 

 (図書館で借りたものであり、返却期限が迫っていたために流し読みで済ませた)

 

 

 カラスを愛する鳥類学者たちによる、カラスの行動や認知能力についての本。

 

 とにかく「カラスは賢い」ということを延々と伝えてくれる。

 

  「これらの鳥たちは並外れて賢い。道具をつくるだけでなく、因果関係も理解する。彼らは知恵を使って推論、区別、思考、学習、記憶、予測、哀悼するだけでなく、命の危険を警告し、人を見分け、復讐を試み、ほかの鳥をおびき寄せる、あるいは殺到させて死にいたらしめ、コーヒーやビールをがぶ飲みし、灯りをつけて温まったり危険なものを照らしたりし、しゃべり、盗み、欺き、贈り物をし、ウィンドサーフィンをし、猫と遊び、仲間とともに缶入りソフトチーズから死んだアザラシの肉まで、さまざまな食べ物で食欲を満たす。これらの鳥は、われわれの最も近縁種である類人猿や尾のあるサルと同等の精神的機能一式(ツールキット)を備えている。ヒトと同様に、彼らは複雑な認知能力をもっているのだ。それどころか、彼らは「羽毛のある類人猿」と呼ばれているのである。」(p.14

 

  私がカラス、というか鳥の認知能力に興味を抱いたきっかけは、功利主義倫理学Gary  Varnerの著書『Personhood, Ethics, and Animal Cognition』を読んだこと。

 

(説明するのが難しいのだが)Varnerは、道徳的に動物に配慮しようとする際や、人間や動物たちとの利害を計算しようとする場合、利害や道徳的は配慮に関わる認知能力は動物の種によってかなり違う、ということに留意すべきだ、とする。そして、「自伝的な生」の感覚を持つ人間ほどではないが、高度な認知能力(「心の理論」・未来の概念・計画的な思考など)を持つため、ある程度は人間に近い、「Near-Personhood」と呼ぶことのできる動物たちがいて、Near-Personhoodである動物たちは認知能力が低い動物たち比べてより多くの道徳的配慮の対象となる、と論じる。どのような動物がNear-Personhoodであるかについて、Varnerは、現時点での限定された科学知識に基づいて判断するしか無いので確実ではないと留意しつつ、有力な候補として、霊長類・鯨やイルカ・ゾウという、その認知能力の高さが広く知られていて動物倫理や動物愛護の議論でもよく登場する「Usual Suspects(常連たち)」に並んで、アメリカカケスなどの鳥類を挙げている。 

 

Personhood, Ethics, and Animal Cognition: Situating Animals in Hare's Two-Level Utilitarianism

Personhood, Ethics, and Animal Cognition: Situating Animals in Hare's Two-Level Utilitarianism

 

 

 

 

 要するに、一部の鳥類の認知能力はチンパンジーやイルカにもひけをとらないこと、そして鳥類の認知能力について知ることは鳥類に対して適切な道徳的配慮を考えるために欠かせないので、まずは賢い鳥類のなかでも馴染みがあるカラスについての本を読もう、と思ったのである。

 

 しかし、修論に気をとられるうちに返却期限が迫ってしまい、ろくに精読できなかった。以下は気になったところ、面白いなと思ったところやすごいなと思ったところを抜粋する。

 

 

 

   ・カラスは記憶と情動に基づいた行動を行う。以前に自分を脅したりいじめたいりした人間の顔を覚え続け、機会を狙って復讐する

 

   ワタリガラスやカラスは、人間の身振りや表情や視線などから人間の意図を察知することができるらしい。「カラスは明らかに問題を巧みに解決し、習慣的に連想し、人間によってつねに改造される世界のなかで、計画も立てれば、洞察もして成功している。彼らはわれわれが何をしているのかを考え、自分たちの需要に見合えば利用する。」(p.154

 

・カラスは、世話をしてくれる人間や餌をくれる人間に対して、小動物の死体や小枝などの贈り物をすることがある。これは、贈り物をすることでまた餌をくれるだろう、という将来の報酬に対する期待があると考えられる。餌という刺激に単純に反応するのではなく、将来に向けた計画という目的意識を持った行動である。(p.152

 

  言語もけっこう理解する。人間の口の動きや表情ではなく、音によって単語を聞き分け、言葉を模倣する。文法を駆使したり、単語を自由に組み合わせることは無理だが、代名詞を適切に使用するカラスも存在する。カラス同士でも、お互いの鳴き方を学ぶ。群れごとに合い言葉のような鳴き方が存在し、合い言葉を学んでいない余所者や新入りのカラスは攻撃されるが、合い言葉を学んでいくにつれて群れに馴染み、集団生活の恩恵を甘受する。このような言語能力は、カラスの認知力の一端を明らかにする。カラスは記憶を形成し、再現して、過去の記憶と直近のことを対比させて考えることができるのである。(3章)

 

   カラスは、仲間たちと情報を共有し、危険について学ぶ。自分の経験を通じて学習するのみならず、他他のカラスが行う威嚇行為を通じて「あいつは危険だな」と学ぶ。他者を介した社会学習は、動物のなかでも特殊で高度な能力である。(P.248

 

・針金を曲げるなど道具を改造して使用することができる。(p.60

 

   カササギワタリガラスは、鏡に映った自分の姿について(最初に見たときは理解しなくても、数度見せれば)それが自分だと理解できる。(P.253

 

   ヒナが地面に落ちてしまい飛翔すると、カラスの群れが周囲に集まり、近付いた人や犬を威嚇して、ヒナを守ろうとした。だが、数分後にはカラスたちは態度を変え、ヒナを殺してしまった。安楽死のようなものだとも判断できる行為であった。(P.194

 

   「犬、サル、ヒツジ、ミツバチ、タコ、ハトなどの多くの動物は個々の人間を見分ける」(P.240)が、カラスも個々の人間を見分ける。人間を含む霊長類は、顔の個々のパーツよりも全体の配置によって顔を認識するが、カラスなどの鳥類は個々のパーツに注目する。いちど仮面をつけてカラスをいじめれば、その仮面を逆さにしたり、福笑いのようにバラバラにしたりしても、カラスは「騙されないぞ!」とばかりに威嚇してくる。(P.241

 

・猫とカラスは緊張関係にいるはずだが、死にかけの仔猫を保護し、餌を与え、一緒に遊ぶカラスも存在する。犬も、猫ほどではなくてもカラスにとっては脅威なのだが、犬とカラスが一緒に遊ぶこともよくある。犬がお辞儀をして「一緒に遊ぼう」と誘い、それに応じたカラスが犬を挑発して飛びかからせたり、犬の尾を引っ張るなどの遊びを行う。(P.217) このような遊びを行うカラスの多くははぐれガラスであり、仲間や親が近くに居ないことによる社会的絆の代替を犬や猫から得ようとしていると考えられる。遊びは、絆のみならず、食糧や経験などをカラスに与えて、ストレス解消にもなる。遊び行動はカラスの脳にオピオイドという報酬物質を放出させ、カラスに快感を与える。(P.219)  

 

    遊びを通じて、怒らせてはいけない相手や距離を保つべき相手を学ぶ。(P.170

 

   犬や猫がいなくとも、風が吹けばウィンドサーフィンをし、雪が積もれば雪を滑って遊ぶ。「楽しみ」という感覚は人間のみならず他の動物たちにも存在し、カラスは遊びを楽しむ。ボール遊びも行う。遊びは、捕獲や戦闘などの本番のための練習ともなるほか、変化する状況下で独創的に対応するための柔軟性も養う。(P.181) 

 

・カラスは、肉食動物や人間などに依存しながら、共進化してきた。「進化によってカラス類は大きな脳に恵まれ、人間が彼らに何を投じても、すぐさまそれを利用し、適応するようになった」。(P.272

 

 

 ……難しい話を要約できるほど精読していないので、この記事ではエピソードの羅列で済ませてしまったが、ニューロンや脳や神経などの仕組みを説明しながらの、“なぜ”“どのように”カラスは賢いのか、という説明も豊富だった。