道徳的動物日記

動物や倫理学やアメリカについて勉強したことのある人の日記です。

ピーター・シンガー Practical Ethics 第2版と第3版の異同 (まえがき〜第三章)

 

Practical Ethics

Practical Ethics

 

 

 

 Peter SingerのPractical Ethicsについて、1993年に出版された第2版と2011年に出版された第3版の異同をチェックして、メモした。なお、第二版の邦訳も参照した(1999年出版、山内友三郎・塚崎智監訳、昭和堂)。

 

 適当なチェックであり、自分が気になるところは重点的に・興味のないところは雑に行っているので、学術的な信頼性とかは無い。個人的なメモである。

 

 チェック箇所の後ろに、原著3版での該当ページを記入。また、コメントがある場合にはイタリック体で記している。 

 

 

「まえがき」 Preface

 

・ドイツで抗議されたエピソードの後に、プリンストン大学生命倫理学の主任教授に就任した時にも揉め事があった、というエピソードが追加(vii)

 ドイツで抗議されたことについて詳しく記述した、2版に付録として収録されていた「ドイツで沈黙させられたこと」という文章が、3版からは削除されている

 

 ・「人間や動物を殺すことによる死の危害は、同程度以上に幸福な新しい存在を生まれさせることで補償できる」という「置き換え可能性の議論(Replaceability Argument)」について、選好功利主義だけで答えようと満足のいく答えは出ないと認めて、この問題についての立場を2版から変える。

 また、この立場の変更が、哲学面では、2版から3版への最大の変更点(x)

 

・「内部の者と外部の者」の章を削除し、「気候変化」の章が追加。「気候変化は現代において道徳的にも深刻な問題だが、これが倫理学の問題として見なされることがあまりにも少な過ぎる」(x) 2版での「内部の者と外部の者」、3版での「気候変化」はどちらも第九章

 

・「誰からの欲求とも独立した客観的な倫理的事実がある、という考え方を認めるようになってきた(まだ完全には賛同していない)。この変化は、デレク・パーフィットの On What Mattersの草稿を読んだことに由来している。

 ただし、この考え方についてはこの本では充分には説明できないので、またの機会に説明したい」という文章が追加(xii)

 

第一章 「倫理学について」 About Ethics

 

進化心理学についての記述が追加。

 倫理には宗教や神が不可欠であるという見解を不可欠だとした後、「道徳性が神によって与えられたのでなければ、どこから来たのか?」という質問について、フランス・ドゥ・ヴァールによる霊長類の研究を取り上げて、道徳的な直観や感情は進化に由来しているだろうと示す。

 「ただし、進化に由来する直感が道徳問題に適切な答えを示すとは限らない。過去の人類にとっては良かったことであっても現在の人類やその他の生物にとって良いことだとは限らない。「産めよ殖えよ地に満てよ」と子孫の数を増やす大家族を讃えて、同性愛を非難することは、過去の人類のコミュニティが生き延びていくのには必要であっただろうが、現代の人類は大家族や同性愛についての直感を批判的に検討すべきである」というような文章が追加(4)

 

・「多くの人は「自然なことは善」だと思っているが、「病気を治すこと」が不自然ではあるが善いことであるように、自然さとは善は必ずしもつながらない。過去の人類から受け継いだ直感のうち、どれが必要なものであり、どれが必要なものでないかについて考えよう」という文章が追加(5)

 

マルクス主義がぼんやりとした相対主義の観念にとって刺激になっている、という文章の後に「“ポストモダニズム”という名称で飾られていることが多い」という文章が追加(6)

 

・R.M.ヘアの見解について紹介した後「ヘアはこれを普遍的指令主義と呼ぶ。これについては、この章の後ほどで詳しく扱う」という文章が追加(7)

 

・J.C.スマートの名前が削除(10)

 

・行為の正当化について、マクベスがダンカンを殺す例についての文章が増える(10) 

 

・“wants, needs, and desires"を"preferences"(選好)と呼ぶ(12)

 以後、一章では、以前の版での"interests"(利益)という単語の多くが"preferences"に入れ替わっている。

 

・果物集めの比喩について、パラグラフが2つに分かれて、詳しくなった(12)

 

功利主義以外の倫理思想が存在する、という文章の後に果物集めの比喩が追加(13)

 

・「道徳的直感は進化の産物であり、多くの人に共有されているとはいえ、倫理において頼れるものではない」という文章が追加(14)

 

第二章 「平等とその意味するもの」 "Equality and Its Implication"

 

・婚外性交渉、妊娠中絶、同性愛、ポルノグラフィー、安楽死、自殺について、「どちらかの側を弁護したからといって、その人の知的あるいは社会的地位が脅かされるとは限らない」 という文章が削除(16) シンガーが実際に地位を脅かされてしまったことが反映されているのだろう

 

・人種による知能差の研究について、ジャンセンとアイゼンクについての説明の後に「この問題は1994年にハーンスタインとマレーのBell Curveが出版された時にも再燃した」という文章が追加。また、2005年のハーヴァード大学の学長ローレンス・サマーズの男女の生物学的差異が数学と自然科学の女性率の低さに繋がっている、という発言が追加(17)

 

・章全体を通じて、「第二波フェミニスト」→「現代のフェミニスト」、「第一派フェミニスト→1970年代のフェミニスト」に変更されている。

 

・男女の成績差について、女児に比べて男児は中間層が少なく出来る子と出来ない子との差が激しい、という情報についてのパラグラフが追加(29)

 

・子どもが触れるメディアのジェンダーバイアスについて「フェミニストによる抵抗が功を奏し、昔のようにバイアスのかかったものばかり紹介されることは無くなった」という文章が追加(30)

 

・ローレンス・サマーズの発言を批判するパラグラフが追加(32)

 

アファーマティブ・アクションについての情報がところどころで追加されている(41〜46) 

 

・「原理的には、正しい回答が得られるはずである」という文章が削除(46)

 

 アファーマティブ・アクションや男女の知能差といった話題には個人的にあまり興味が無いので、この章はチェックがずさんになっている…

 

第三章 「動物に平等を?」 Equality for Animals?

 

・「1版(1979年)では動物の境遇は道徳的な問題となる、という考え方は浸透しておらず、工場畜産や動物実験などはほとんど問題と見なされていなかった。

 3版の時点では、依然として少数派であり誤解されがちであるとはいえ、PETAなどの組織活動家のおかげで、動物もある点では人間と平等である、という考え方が多くの人に知られるようになってきた。

 そのため、1版で2版では章のはじめに「この提言が一見とっぴに思えるかもしれない」という警告を行っていたが、警告を行う必要がなくなった」という文書が追加(48〜49)

 

・「それは、世界の苦しみの総量をこれほど大量に減少させるような道徳的な態度の変化を、何かこれ以外には想像できないほどの量である」という文章が削除(53)

 

・「エスキモー」が「イヌイット」に表記変更。続く文章も文意は変わらずに微妙に変更(54)

 

・肉食の正当化が難しいと示す部分で、栄養面の情報・食糧供給・地球温暖化による議論が追加(54)

 

・2000年代にカリフォルニア、ミシガンなどでバタリーケージ撤廃などの動物福祉と関連する州法が可決されたことについての情報が追加(55)

 

・ニワトリの福祉の情報が更新、乳牛についての情報が追加(55)

 

・「ベジタリアン」→「ビーガン」に表記変更(55)

 

・動物福祉について、「“人道的に飼育された肉”という規準の定義はあまりに広く、実際には非人道的な飼育にされたものにまで“人道的に飼育された肉”というラベルが貼られることがある」「食事を選択する時には、人間の些細な利益のために動物の重大な利益を侵害していないかどうかに配慮しながら選択するべきだ」という文意のパラグラフが追加(56)

 The Ethics of What We Eat: Why Our Food Choices Matter(2007)で“人道的な飼育”をウリにしている牧場を訪ねた時の経験や、様々なタイプの食生活をしている家族を訪ねた経験が反映されている

 

動物実験について情報が新しいものに更新(57)

 

・軍隊での動物実験の事例が削除(57)

 

・ハーロウ実験の記述が過去形に(57)

 

・「功利主義者ならみんなこう考えるだろう」という文章が削除。(57)

 

動物実験の規制が強化されたことを確認しながら、依然としてほとんどの動物実験は非倫理的である、というパラグラフが追加(58)

 

・「いくつかの反対意見」の見出し直後の2つのパラグラフが合体。ここで言及されていた各国の動物福祉の進歩についての記述は削除(情報を更新した上で、55ページに移動)(59)

 

・他人の行動を見れば言葉が通じなくても痛みを感じているかはどうかはわかる、という文章の「自分の娘」が「子供たち」に(59)

 

無脊椎動物の苦痛について、パラグラフを設けて情報が追加(60)

 

・「倫理と互恵性」の節と「人間と動物の違い」の節が入れ替わる。

 

・「サメ撃ち」の例が「サメ釣り」の例に(62)

 

・契約倫理への反論で、豊かな国と貧しい国の例が無くなった(63)

 

・イルカとクジラが複雑な言語を持っているかもしれない、という例を削除。代わりに、オウムの言語能力についての例を追加(64)

 

・「利益は利益である」という文章が削除(66)

 

・パラグラフが分離(66)

 

・「種差別の擁護」という見出しが追加(66)

 

・各種の反論に対するそれぞれの再反論の順番が変更

 

・「滑り坂の議論」についてのパラグラフが微妙に変更(67)

 

・「知的障碍者の地位を動物の地位にまで引き下げろと主張してるのではなく、動物の地位を現在我々が知的障碍者に与えられている地位にまで引き上げろ、と主張している」という反論が強調(67)

 

・「滑り坂の議論」に対する、「動物の扱いを良くすることで人間の扱いも良くなる」という再反論が延びる。「たしかに可能性の話に過ぎないが、滑り坂の議論だって可能性の話だ」という主張(67〜68)

 

・“人間同士の特別な関係”を持ち出した反論の記述を変更(68)

 

・バーナード・ウィリアムズの"The Human Prejudice"の紹介とそれに対する反論、というパラグラフを追加(69−70) Peters Singer Under The Fire(2009)にウィリアムズの論文とシンガーによる数ページの反論が載っている。

 

(3章で比喩として持ち出されるWhite Southernerについて、2版の翻訳では「南アフリカの白人」となっているが、これは「アメリカ南部の白人」が正解だと思う)

 

 

Peter Singer Under Fire: The Moral Iconoclast Faces His Critics

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The Ethics of What We Eat: Why Our Food Choices Matter

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