道徳的動物日記

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「ピンクウォッシュ」と反ユダヤ主義

 今回紹介する記事は二つ。

 

www.gatestoneinstitute.org

 

 

www.slate.com

 

 前者の記事の著者はアラン・ダーショウィッツ。親イスラエルとして有名な弁護士兼コメンテーターであるらしい。著作もいくつか邦訳されているが、私はいずれも未読。

 

 

ケース・フォー・イスラエル―中東紛争の誤解と真実

ケース・フォー・イスラエル―中東紛争の誤解と真実

 

 

 

 後者の記事のマーク・ジョセフ・スターンは、Slateというwebページで法律とLGBTQに関する記事を書いている人のようだ。

 

 ダーショウィッツの記事は翻訳して、スターンの記事については私がTwitterでつぶやいたことをそのまま貼り付けた。どちらも、イスラエルに対する「ピンクウォッシュ」という批判は反ユダヤ主義的である、と主張する記事だが、著者の立場や記事のニュアンスは異なる。

 ダーショウィッツの記事については、訳している私にもかなり偏向や党派性が感じられたので、そのまま鵜呑みにしていい内容ではないと思う(翻訳するのに苦労して、微妙な訳になっている箇所もいくつかある)。一方で、スターンの記事は問題が無くおおむね同意できる内容であると思う。

 

ピンクの反ユダヤ主義は茶色い反ユダヤ主義と変わらない by アラン・ダーショウィッツ

 

 反ユダヤ主義の核心となる主張は、ユダヤ人のやることは全て悪いのであり、悪いことは全てユダヤ人によって行われる、というものだ。反ユダヤ主義者によると、全ての裕福なユダヤ人は搾取を行なっており、全ての貧乏なユダヤ人は社会の重荷である。反ユダヤ主義者によると、資本主義と共産主義のどちらもユダヤ人の陰謀である。反ユダヤ主義者によると、ユダヤ人はあまりにも従順なので羊のように自ら屠殺されにいくが、アラブ人との戦争に勝ち過ぎるくらい闘争的でもある。反ユダヤ主義者によると、ユダヤ人はあまりにもリベラルであまりにも保守的であり、芸術家気取りでもあればブルジョワ根性丸出しでもあり、けちくさ過ぎるし寛大過ぎるし、島国根性であるし世界主義的過ぎるし、道徳的なことにうるさく口を出し過ぎるが黙認し過ぎる。

 反ユダヤ主義者によると、不況・戦争・社会問題といったことの全てはユダヤ人のせいで起こっているはずなのだ。ユダヤ人が何かいいことをしているように見えるたびに…寄付をしたり、恵まれていない人を助けたり、病気を治したり…慈善的な行動の裏には邪悪な動機や隠れた計画があるはずなのだ、と説明される。

 現在でも、古典的な反ユダヤ主義の特徴である捻じ曲がった論理がユダヤ人国家に向けられている。イスラエル津波やハリケーンの被害者に救援を送ったら、イスラエルは他の国から良いイメージを獲得することでパレスチナ人に対する酷い扱いを相殺しようと計算しているのだ、と批判される。イスラエルの医療チームがパレスチナ人の子供たちの命を救っても、何か悪さをしているはずだと言われる。イスラエルの軍隊は敵国の市民に対してレイプを犯す割合が最も低い軍隊であることが明らかにされると、イスラエルの軍人はあまりにレイシストだからパレスチナ人の女性にレイプするほどの魅力を感じなかったのだ、と過激な反シオニストが主張した。ユダヤ人やユダヤ民族の行うことが賞賛されることはない。なぜなら、ユダヤ人の行う良い行為は、常に、ユダヤ人が行為したことや行為をしなかったこと全てに存在する邪悪さを"ごまかす"、"隠す”、"注意を他に惹きつける"、"事実を歪める"ことを意図しているものであるからだ。

 イスラエルは「ピンクウォッシュ」を行っている、という馬鹿げた主張をしている一部の過激なゲイ活動家による新しい反イスラエル・キャンペーンも、上述したような偏見に基づいている。この滑稽な議論が初めて登場したのは、ニューヨークタイムス紙の署名入り記事だ。イスラエルがゲイの権利について肯定的に取り組んでいることは「イスラエルにおけるゲイの生活で表現されるような現代性のイメージを示すことで、パレスチナ人に対する人権侵害が続いていることを隠すための、意図された戦略である」と、記事は書いている。つまり、パレスチナ人の人々への配慮が欠けていることをホワイトウォッシュ(訳注:体裁よくごまかす、という意味)するために…この場合はピンクウオッシュと呼ばれる訳だが…ゲイの人々に対して配慮している振りを装っているのだ、とユダヤ人は批判されているのである。

 このピンクウォッシュがどのように機能すると想定されているのか、私たちは知らされていない。メディアがイスラエルのゲイについて肯定的な政策を取り上げるのに夢中になってしまい、パレスチナ問題はもはや取り上げられなくなってしまう、と想定しているのだろうか?そうだとしたら、ピンクウォッシュは確実に機能していないことになる。世界中のゲイがイスラエルに恩義を感じるので、もはやゲイはイスラエルを批判しなくなる、と想定しているのだろうか?それも、実際には機能していないだろう。複数のゲイ団体において、反イスラエルの主張に対する支持が急速に増えていることが示されているからだ。 

 しかし、軽率な反ユダヤ主義者にとっては、ユダヤ人による小細工がどのように機能するかということは問題ではない。ユダヤ人が行っているポジティブなこと全ての背後には邪悪ななにかがあるはずだということを、反ユダヤ主義はただただ知っているのだ。軽率で反イスラエル的な偏見を持った人についても、同じことが当てはまる。

 イスラエルでは、ゲイであることを明らかにしている兵士も軍隊に服し、政府でも民間でも高い役職に務められる。ゲイ・プライドのパレードは頻繁に行われる。中東で最もゲイ・フレンドリーな国がイスラエルであることは疑い無いし、世界中においても最もゲイの権利を支持している国の一つだ。ゲイ・プライド・パレードやゲイに法的平等を与えることを禁止しようとしたがる、原理主義的なユダヤ教徒イスラム教徒・キリスト教徒による反対運動にも関わらずに。イスラエルと比較して、西岸地区やガザでは、ゲイは殺されて拷問を受けて、避難を強制される…多くの場合は、イスラエルへ避難するわけだが。全てのアラブ・イスラム系諸国では、成人同士による同意に基づいた同性愛行為は犯罪であり、しばしば死刑によって処罰される。しかし、イスラエルに対する運動、ニューヨークタイムス誌の記事が「発展中のグローバルなゲイ運動」と呼ぶ運動は、これらの事実を気にしない。これらの前向きな物事も、イスラエルの邪悪な行為を隠すためのものにしか過ぎないと見なしているからだ。

 ピンクウォッシュを信じている人は、イスラエルの敵がゲイを取り扱っているのと同じことをイスラエルがすることを望んでいるように見える。彼らは、ゲイの権利に配慮している以上にイスラエルのことを憎悪しているからだ。多数派のゲイは、イスラエルの全ての政策に賛同している訳ではないとはいえ、ゲイの権利に関するイスラエルの前向きな施策を評価している。ピンクの反ユダヤ主義者たちは、彼らを代弁していない。自分たち自身もステレオタイプの被害者となってきた、分別のあるゲイの人々は、偏見を目にした時にそれを理解することができる。その偏見が、他のゲイの人が持っているものだとしてもだ(あるいは、他のゲイの人が持っている偏見であるからこそかもしれない)。だから、数多くの有名なゲイの指導者や官僚たちが「ピンクウォッシュ」という戯言を非難してきたのだ。

 現在では、ピンクウォッシュのキャンペーンはニューヨーク市立大学にまでやって来ている。ピンクウォッシュに関する会議が、ゲイ・アンド・レズビアン・スタディーズ・センター主催で、大学院センターにて開催される予定だ。イスラエルに対するヘイトがまたもや表明されるだけでなく、古典的な反ユダヤ主義への一線が越えられてしまうだろう。優しいピンクの色合いや、アカデミックな口実に騙されてはいけない。「ピンクウォッシュ」という新しい非難の核心は、ナチス突撃隊の茶色い制服を着た反ユダヤ主義たちによる昔ながらの非難とさほど変わらない。ユダヤ人とユダヤ人国家が悪い動機も無しに良いことをするはずがない、というものだ。そして、今回のヘイト会議はニューヨーク市立大学の哲学・心理学部と大学院センターがスポンサーとなっている。ニューヨーク大学ジェンダーセクシュアリティ研究センターもスポンサーだ。

 反ユダヤ主義の偏見のために自分の性的指向を利用する人は、恥を知るべきである。そして、ピンクの反ユダヤ主義を実践する人を支持する人も、恥を知るべきだ。