道徳的動物日記

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肉食が引き起こす5つの倫理的問題

 

 今回紹介するのは、オーストラリアの Conversation誌に掲載された、公衆衛生学者の フランシス・ヴァーガンスト(Francis Vergunst)と倫理学者のジュリアン・サバレスキュ(Julian Savulescu)による記事。

 

theconversation.com

「あなたの皿に載った肉が地球を傷付ける5つの方法」 by フランシス・ヴァーガンスト、ジュリアン・サバレスキュ

 

 工場畜産に潜む恐怖…環境汚染、資源の無駄遣い、何十億もの動物たちが経験する悲惨な運命…について聞かされた時に、良心の呵責を少しも感じなかったり「私たちは肉を食べる量を減らすべきだ」と結論せずにいられるのは難しい。

 しかし、実際には大半の人は肉を食べる量を減らしたりはしないだろう。その代わりに、お肉は美味しいということ、「みんな」が肉を食べているということ、あるいは自分は工場畜産ではなく牧場で育てられた肉しか買わないこと、などなどの言い訳をもごもごと口にするのだ。

 来年には世界中で500億頭以上の陸上動物が飼育されて、食品とするために屠殺される見込みだ。その動物たちの大半は、不要な苦痛を彼らに引き起こして人間や環境にも重大な危害を引き起こすような方法で飼育されることになる。

 このことは深刻な倫理的問題を生じさせる。あなたが自分の皿の上にどんな食べ物を載せるかを決める手助けをするため、私たちは肉を食べることに反対する議論を集めてみた。以下はその議論のリストだ。

1:肉食は環境に重大な影響を与える

  家畜飼育は環境に莫大な負荷を与える。土地と水質の劣化、生物多様性の消失、酸性雨サンゴ礁の破壊、そして森林破壊を、家畜飼育は引き起こしているのだ。

 気候変動ほど、家畜飼育の影響が明白な問題はない。…世界全体で人間によって排出されている温室効果ガスのうちの18%は家畜飼育によって排出されているものなのだ。これは、船、飛行機、トラック、自動車及び他の全ての乗り物の温室効果ガス排出量を合わせたよりも多いのである。

 気候変動だけをとっても、異常気象…洪水、干ばつ、熱波など…が起こるリスクを上昇させることで、人間の健康と福祉に対して様々なリスクがもたらされている。気候変動は21世紀の人間の健康に対する最大の脅威であると言われているのだ。

 温室効果ガス排出量の削減目標を達成するためには、動物性製品の消費を減らすことが不可欠である。…そして、温室効果ガスの削減は気候変動がもたらす最悪の影響を軽減するためには必須であるのだ。

 

2:肉食は大量の穀物、水、土地を必要とする

  肉を生産することはかなり非効率的な行為である。…この事実は、[牛肉や羊肉などの]赤肉の生産に対して特に当てはまる。1キログラムの牛肉を生産するためには、牛に食べさせるための25キログラムの穀物が必要とされ、そして約15,000リットルの水が求められる。同量の豚肉が必要とする穀物と水の割合は牛肉に比べれば少しだけ低いし、鶏肉は豚肉よりも更に無駄が少ない。

 問題の規模は土地利用にもあらわれている。現在、地球の地表の約30%が家畜飼育のために使われているのだ。世界における多くの地域では食糧・水・土地は貴重であることをふまえると、家畜飼育は資源の非効率的な利用であると見なせるだろう。

 

3:肉食は世界の貧困層に危害を与える

 家畜に穀物を給餌することは穀物に対する世界的な需要を増加させて穀物の値段を上げることになり、世界における貧困層が自分たちの分の食糧を手に入れることを難しくさせる。その代わりに穀物を家畜ではなく人間に与えることができるし、水は作物に与えることができる。

 もし全ての穀物が家畜にではなく人間に与えられたとすれば、35億人分の食糧が追加されることになる。手短に言うと、工場畜産は非効率的であるだけでなく、[貧困層の食糧を奪うために]不公平であるのだ。

 

4:肉食は動物に対して不必要な苦痛を引き起こす

 動物は感覚を持つ生き物であり彼らのニーズと利益は考慮すべき問題である、ということを(多くの人が認めているように)私たちも認めるとすれば、私たちは彼らのニーズと利益が少なくとも最低限には満たされることを保証するべきであるし、そして彼らに対して不必要な苦痛を引き起こすべきではない。

 工場畜産は、この最低限の基準を遥かに下回る。大半の肉、乳製品、卵は動物福祉をほとんど無視しているか完全に無視している環境で生産されている。…つまり、家畜たちが動き回れるだけの空間を用意しておらず、家畜たちが互いに触れ合うことや家畜たちが屋外へ出る機会も存在しないような環境だ。

 要するに、工場畜産は動物たちに苦痛を引き起こしているし、そのことを正当化できるような理由もないのだ。

 

5:肉食は私たちを病気にしている

 肉製品の生産過程からして、家畜の体重増加を加速させて感染症を予防するために、工場畜産は抗生物質の利用に重度に依存している。…アメリカでは、全ての抗生物質のうち80パーセントが畜産業界によって利用されているのだ。

 このことは、抗生物質耐性という昨今に深刻になっている公衆衛生問題をもたらしている。現在でも、アメリカだけでも毎年23,000人以上の人々が抵抗性細菌のために死んでいると推定されている。この死者数の統計が伸び続けるにつれて、この問題に含まれる脅威を過大評価することは難しくなっていくのだ。

 一般的には、豊かな先進国では食肉摂取量…特に、赤肉や加工肉の摂取量が多いが、このことは健康に問題のある状態に結び付いており、心臓病、脳卒中、糖尿病、そして様々な種類の癌を引き起こしている。

 これらの病気は、世界における疾病負荷の大部分を占めている。だから、食肉摂取量を削減することは公衆衛生上の大きな利益をもたらすのだ。

 現在、一部の高所得国に暮らす人々の1日の平均的な食肉摂取量は200グラムから250グラムであり、国連が推奨する摂取量である80~90グラムを遥かに上回っている。より植物を中心とした食生活に移行することは、2050年までには世界で年間800万人の生命を救い、また医療に必要とされる費用を貯蓄できて、そして気候変動によってもたらされる最大で1兆5000億ドルの被害を回避することも可能にする。

 

結局のところ、肉食は非倫理的である

 大半の人は、基本的なルールとして、他の存在の幸福全体を上昇させる行為は道徳的に善い行為であり、正当な理由もなく他者に対して気概や苦痛を引き起こす行為は道徳的に不正な行為である、ということを認める。

 肉食が不正であるのは、豚や鶏やには何か特別なところがあるからではなく、それが危害を引き起こすからだ…危害が引き起こされる対象は動物か人間か、あるいはより広い環境であるかには関わらず。

 先進国に暮らす人々の人々のほとんどには、食生活の選択肢が歴史的に類を見ないほど豊富に存在している。そして、今日では必要な栄養素をより危害が少ない食品を摂取することで満たすことができるとすれば、より多くの危害を引き起こすと知れている食品ではなくより危害の少ない食品を私たちは選ぶべきである。

 肉や畜産品を食べる量を減らすことは、より倫理的に生きる方法の中でも最も実行するのが簡単な方法の一つであるのだ。

 

 

人類はなぜ肉食をやめられないのか: 250万年の愛と妄想のはてに

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