道徳的動物日記

人々の議論を眺めながら考えたことや読んだ本の感想など。このブログは利益や金銭目的ではなく人々に対する啓蒙のために書かれています。ありがたがれ。

配偶者選択が政治的分断を悪化させる?

 

 今回はThe Atlanticに掲載されたアメリカの進化心理学者のAvi Tucshmanの記事を訳して紹介。数年前に読んだTucshmanの著書の『Our Political Nature(私たちの政治的な本性)』でもこの記事と同様の話題が含まれていた。なお記事が公開されたのは2014年2月なので、トランプ大統領ではなくオバマ大統領の時代である。

 

www.theatlantic.com

 

「アメリカはなぜこれほどまでに政治的分極化しているか:教育と進化」 by Avi Tucshman

 

 一般教書演説にて、オバマ大統領は国会がいかに「敵意に満ちた議論に費やされてしまっか」ということを嘆いた。そのような議論は、この数年において「民主主義の最も基礎的な機能を実行すること」すらも妨げているのだ。左派の政治家たちと右派の政治家を分断する巨大な政治的亀裂は狭まる様子がなく、今秋の中間選挙も過剰な論争に満ちたものとなるだろう。このような状況であるから、いまから11月までの間で議会は何も決めることができないだろう、とほとんどの有識者が予測している。アメリカにおける政治的分断は、なぜかくも危険なレベルにまで達したのか?

 政治的分断についての有名な理論が、ビル・ビショップの大分割(Big Sort)仮説だ。過去40年間のアメリカ人たちは、自分と同じように生きて、自分と同じように考えて、そして自分と同じ政党に投票する人たちが暮らすコミュニティへと分割され続けている、とビショップは主張する。たとえば、1976年の時点では、大統領候補が対立候補に20%以上の差をつけて勝利した群は全国の群のうち25%を少し上回るほどだった。しかし、2004年の時点で、その数は50%近くにまで上昇したのだ。

 ビショップの主張は、どのような事態が起こっているかということについての納得いく解説ではある。しかし、なぜそのような事態が起こっているのか?その根本にある理由は、人口統計学と人類学の研究結果によって明確に理解することができるようになった。教育と進化こそが、政治的分断の原因であるのだ。

 20世紀後半における大分割現象の加速は、アメリカにおいて教育の機会が大規模に増加したことと同時に起こっている。たとえば、1960年から2008年にかけて、学士号を取得した女性の割合は約5倍にまで増加した。人々の学歴が劇的に高くなったことは、予期せぬ二つの副作用を引き起こした。第一に、人々はより教育を受けるほどより政治的に分断されるということが研究によって示されている。より教育を受けたリベラルはよりリベラル的になる一方で、より教育を受けた保守はより保守的になるのだ。第二に、大学の学位を持つ人々はそうではない人々よりも多くの自由を味わえるが、その自由には社会階層の移動及び地理的な移動の自由も含まれている。1980年代から1990年代にかけて、大学で教育を受けたアメリカ人たちの45%が卒業後5年以内に新しい州へと引っ越している。一方で、高校までしか教育を受けていないアメリカ人は19%しか引っ越していない。

 同時に、進化の力が移動の自由を得た人々を同質的な集団へと引き寄せている。配偶者選択において、政治的志向は重要な役割を果たすからだ。社会全体を見ると、ほとんどの生物学的特徴及び社会的特徴について、配偶者同士は互いに似通う傾向がある…少なくとも、ランダムに選ばれた二人よりかは僅かに似ている。これらの特徴には、肌の色から耳たぶの大きさまで、年収から外向性などの主要な性格的側面までの、全てが含まれている。とはいえ、ほとんどの事柄において、配偶者同士の統計的関連性はきわめて弱い。しかし、配偶者同士の間で最も強く相関関係がある事柄は、政治的志向なのだ(相関係数は0.65である)。学校でのお祈りや中絶の是非などの道徳的問題に関して、配偶者同士は似た意見を持っていることが多いが、それは結婚して一緒に暮らしている間に互いに似通うからではない。 “同じ羽色の鳥は群をなす(類は友を呼ぶ)”からなのだ。生物学者たちが同類交配と呼ぶ現象である。

 政治科学者のPeter Hatemi,、Rose McDermott、Casey Klofstadたちはアメリカ社会のコンピューターシミュレーションを行い、1980年代以降の人々の同質性に具体的な数字を割り出そうとした。彼らのシミュレーションは、政治的志向はやや遺伝性がある特徴である、という事実を考慮に入れている。プログラムを起動してみると、人々の間の右派―左派の差は、最初の5世代の間で大幅に広がった。次の10世代では差は僅かにしか広がらず、その後で均衡状態に達した。この時点で、極端な政治的志向を持つ人々の割合は4.5%から11.2%に増加する一方、中道的な政治的志向を持つ人々の割合は17%も低下した。つまり、同じ羽色の鳥たちが番うことで、アメリカの政治的分断は更に拡大したのだ。

 政治的イデオロギーの同質性と生殖との緩やかな相互作用は既に発生しており、アメリカにおける予期せぬ政治的分断の一因となっている可能性が高い。政治的分断が発生し始めた1980年代の時点で、それぞれ別政党の大統領候補と国会議員の組み合わせに投票した有権者の割合は25%だった。2012年では、その割合は11%にまで急落した。そして、衆議院議員たちの投票の分極化は過去最高になっており、南北戦争直後の19世紀の最高値すらも上回っている。

 この陰鬱な研究結果における希望の光は、私たちの政治的立場は不変に固定されたものではないということだ。私たちの政治的志向の分散のうち、個人間の遺伝的差異に由来しているものは半数だけだ。残りの半分は環境に由来する。だから、私たちを分断させる危険がある政治的態度を乗り越えることは確かに可能なのだ。そのためには、まず、私たち人間の政治的な本性を理解しなければならない。人々の間のイデオロギーの多様性を事実に基づいて理解し、イデオロギーではなくプラグマティズムに対するコミットメントを改めて確立しなければならないのである。

 

 

Our Political Nature: The Evolutionary Origins of What Divides Us

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