道徳的動物日記

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読書メモ:『民主主義は終わるのか:瀬戸際に立つ日本』

 

 

 民主党のブレーンでもあった左派的な政治学者が書いた本で、1990年代以降の日本の政治とか民主主義とかの問題点をまとめつつ、安倍政権を痛烈に批判して現状を浮いつつ日本社会改善のための提案をする、的な本。

 安倍晋三に対する個人攻撃は辛辣であり、トランプと一緒くたにして「自己愛過剰」と罵る箇所(p.46~48)は批判というより悪口のレベルである。その一方で、近年の自民党政治や日本社会全般の問題点の整理の仕方はすっきりしていて優れている。わたしは普段はニュースとかSNSとかで細切れの情報を見ながら「安倍政権のこういうところって問題だよな」とか「日本の政治のこういう状況って異常だよな」と散発的に思いうことはあっても「安倍政権(や小泉政権以降の自民党)の何がどのように問題か」と具体的に説明しろと言われたらできないのだが、この本では政治や行政や経済などの様々な面での問題が区分けしながらまとめられているという感じである。それぞれの論点や批判はどれもどこかで聞いたようなものではあるが、新書サイズに整理されているという点に価値がある。

 …と、自民党政治への批判について書かれている点はまともであるぶん、安倍晋三への個人攻撃の多さが浮いていて気になる。また、トランプやアメリカ政治について書かれている箇所はわたしの素人目からみても色々と一面的であったり浅薄であったりすることがわかる。著者の政治的出自からくるバイアスを差し引いても、あまり鵜呑みにしてはいけない本であるかもしれない。

 その一方で、「安倍さんを相手に議論をするのが本当に嫌になった」という岡田克也民進党の代表退陣時の述懐(p.52)は印象的であるし、たまに国会中継の抜粋などを視聴してと安倍とか麻生とかの答弁を聞いてみるとゾッとさせられることが多いのもたしかだ。「もしかしたら本当に安倍には首相としての人間性に致命的な問題があって、日本社会の腐敗も自民党全体だけでなく安倍個人の資質に依るものかもしれない」と思わされるところはある。「アベ政治を許さない」というスローガンは多くの人に違和感を抱かれているものであるし、わたしも「個人攻撃っぽくて品がないなあ」と思ったりはするのだが、もしかしたらそれは的を得たスローガンであるかもしれないし、そのスローガンを賢しらに批判しているわたしたちの方が問題の本質を見誤っているのかもしれない。