道徳的動物日記

倫理学、社会科学、時事問題、世相などについて論じます。

ひとこと感想:『ルポ:技能実習生』

 

●『ルポ:技能実習生』

 

 

ルポ 技能実習生 (ちくま新書)

ルポ 技能実習生 (ちくま新書)

 

 

 

 世間では「奴隷労働」とか「騙されて日本に連れてこられた」というイメージの多い技能実習生制度だが、主にベトナム技能実習生制度を扱ったこの本では、「大半のベトナム人技能実習生たちは日本で金を稼いで貯金を貯めることを目的にやってきて、そして実際に目的が果たされて満足して帰っていく。日本の報道で話題になった奴隷労働的な環境はたしかに存在するが、それは一部であり、ベトナム人の側も"運が悪ければひどい環境に当たるが、そうでなければ金を貯めるという目的が果たせるものだ"という意識である」ということが書かれている。

 もちろん技能実習生制度を全面肯定する本ではなく、第3章の「なぜ、失踪せざるを得ない状況が生まれるのか」では、劣悪な労働環境の事例もきちんと書かれている。それに、著者が指摘するように、技能実習生制度がほんとうに奴隷売買のように日本人から外国人たちへの一方的な搾取を行う制度であったとしたら、そんな制度が持続するわけないことはたしかであるだろう。ベトナム人(や他の送り出し国の人たち)も納得や了解済みであり、なにかしらのwin-winの関係があるからこそ、制度が持続するわけだ。

 

 ……しかし、劣悪で異常な労働環境について詳細に記述しておきながらも技能実習生の側の「正月にどんちゃん騒ぎしていた」という(些細な)瑕疵を取り上げたり、国会で技能実習生の失踪問題を取り上げた長妻昭議員を「ヒステリック」呼ばわりしたりと、全体的に著者の"冷静で中立的・客観的に物事を見渡せるオレ"というマインドが気になってくる本ではある。……たとえばベトナム人技能実習生たちの9割が満足しているとして、1割は人権や尊厳が無視された劣悪な状況で苦しめられているとしたら、全体的な帳尻とかwin-winとかを度外視して人権侵害の問題に対して"ヒステリック"に怒ることは近代人としてごくまともな反応ではあるだろう(人権という概念はこういう時に怒るためにあるものなのだから)。

「あとがき」にて、著者は「できる限り低い位置から物事を眺めてきた」ことを「物書きとしての自分の使命だと思っている」(p.264)としている。そのこと自体はいいのだが、直後に"外国人との共生という言葉を用いるリベラル寄りの識者"に対して「日本語を話せない外国人留学生とともに、深夜のコンビニの弁当工場で働くことをお勧めしたい。」(p.266)と言い放つのは。"現場を知って現実を見つめているオレ/綺麗事だけを唱えて現場を見ないエリート"という二項対立的な自意識が感じられて「なんだかなあ」というところだった。特に日本のルポライターとかジャーナリストとか出版業界人ってこういうマインドを持っている人がやたらと多い気がするのだが、あまり建設的であるとは思えない。