道徳的動物日記

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2019-01-01から1年間の記事一覧

フランシス・フクヤマのアイデンティティ論(1)

Identity: The Demand for Dignity and the Politics of Resentment 作者: Francis Fukuyama 出版社/メーカー: Farrar Straus & Giroux 発売日: 2018/09/11 メディア: ハードカバー この商品を含むブログを見る 『歴史の終わり』を書いたことで有名なフクヤ…

読書メモ:「ペットとの関係の、二層功利主義における分析」

Pets and People: The Ethics of Our Relationships with Companion Animals (English Edition) 出版社/メーカー: Oxford University Press 発売日: 2017/02/01 メディア: Kindle版 この商品を含むブログを見る www.oxfordscholarship.com このブログでも何…

ストア哲学の知恵を現代の生活に活かす(読書メモ:『迷いを断つためのストア哲学』)

迷いを断つためのストア哲学 作者: マッシモピリウーチ,為末大,月沢李歌子 出版社/メーカー: 早川書房 発売日: 2019/04/03 メディア: 単行本 この商品を含むブログを見る 邦題はちょっと安っぽくてビジネス書感があるが、原題は「ストイック(ストア派)にな…

アダム・スミスは現代社会を嫌がりそう(読書メモ:『スミス先生の道徳の授業』)

スミス先生の道徳の授業 ―アダム・スミスが経済学よりも伝えたかったこと 作者: ラス・ロバーツ,村井章子 出版社/メーカー: 日本経済新聞出版社 発売日: 2016/02/25 メディア: 単行本(ソフトカバー) この商品を含むブログ (2件) を見る 経済学の祖であるア…

読書メモ:『もてない男 - 恋愛婚を超えて』

もてない男―恋愛論を超えて (ちくま新書) 作者: 小谷野敦 出版社/メーカー: 筑摩書房 発売日: 1999/01/01 メディア: 新書 購入: 4人 クリック: 121回 この商品を含むブログ (174件) を見る ちょうど20年も前の本だが、いまも続く「非モテ論」の先駆けとなっ…

読書メモ:『日本恋愛思想史 - 記紀万葉から現代まで』

日本恋愛思想史 - 記紀万葉から現代まで (中公新書) 作者: 小谷野敦 出版社/メーカー: 中央公論新社 発売日: 2012/11/22 メディア: 新書 クリック: 21回 この商品を含むブログ (17件) を見る 第一章の章名が「恋愛輸入品説と十二世紀西欧の発明説」など、全…

若者はなぜネオリベ化するのか?

社会はなぜ左と右にわかれるのか――対立を超えるための道徳心理学 作者: ジョナサン・ハイト,高橋洋 出版社/メーカー: 紀伊國屋書店 発売日: 2014/04/24 メディア: 単行本 この商品を含むブログ (27件) を見る 突然だが、現代の若者はネオリベ化している。 こ…

大学受験の正義論(読書メモ:『これからの「正義」の話をしよう』)

これからの「正義」の話をしよう (ハヤカワ・ノンフィクション文庫) 作者: マイケルサンデル,Michael J. Sandel,鬼澤忍 出版社/メーカー: 早川書房 発売日: 2011/11/25 メディア: 文庫 購入: 4人 クリック: 204回 この商品を含むブログ (81件) を見る 功利主…

グレタさん問題についての雑感

www3.nhk.or.jp この一週間、グレタ・トゥーンベリさんの演説に関しては、グレタさん擁護派〜中立派の立場の人たちの幾人かが「批判派も擁護派も、彼女の"16歳の女子高生"という属性にばかりこだわり、彼女の発言の中身を見ていない」という旨のコメントを…

護心術としてのレトリック(読書メモ:『論証のレトリック - 古代ギリシアの言論の技術』)

論証のレトリック―古代ギリシアの言論の技術 (講談社現代新書) 作者: 浅野楢英 出版社/メーカー: 講談社 発売日: 1996/04 メディア: 新書 購入: 6人 クリック: 69回 この商品を含むブログ (2件) を見る 古代ギリシャのレトリックを概説した本。論理学的な内…

「表現の自由」の意義はどこにある?(読書メモ:『自由論』)

自由論 (光文社古典新訳文庫) 作者: ミル 出版社/メーカー: 光文社 発売日: 2013/12/20 メディア: Kindle版 この商品を含むブログを見る 近頃は「議論」というものに関する興味が増してきているでので、第2章の「思想と言論の自由」を中心に再読してみた。 …

生物学的インセンティブ・システムに抗う(読書メモ:『欲望について』)

欲望について 作者: ウィリアム・B.アーヴァイン,William B. Irvine,竹内和世 出版社/メーカー: 白揚社 発売日: 2007/12/01 メディア: 単行本 クリック: 3回 この商品を含むブログ (5件) を見る タイトル通り、欲望という事象についての本。 第一部では「欲…

"文学的" な哲学のリスク(読書メモ:『若者のための<死>の倫理学』)

若者のための死の倫理学 作者: 三谷尚澄 出版社/メーカー: ナカニシヤ出版 発売日: 2013/01/01 メディア: 単行本 クリック: 2回 この商品を含むブログ (1件) を見る なかなか感想を書くのが難しい本である。 テーマは「死」となっており、身近な人が亡くなる…

読書メモ:『自分で考える勇気:カント哲学入門』

自分で考える勇気――カント哲学入門 (岩波ジュニア新書) 作者: 御子柴善之 出版社/メーカー: 岩波書店 発売日: 2015/03/21 メディア: 新書 この商品を含むブログ (7件) を見る 石川文廉の『カント入門』もわかりやすかったが、こちらはさらに輪をかけてわかり…

読書メモ:『ストア派の哲人たち』

ギリシア・ローマ-ストア派の哲人たち-セネカ、エピクテトス、マルクス・アウレリウス 作者: 國方栄二 出版社/メーカー: 中央公論新社 発売日: 2019/01/09 メディア: 単行本 この商品を含むブログを見る 自然は動物が自分自身と親密であるように創ったから、…

読書メモ:『進化倫理学入門』

進化倫理学入門 作者: スコット・ジェイムズ,児玉聡 出版社/メーカー: 名古屋大学出版会 発売日: 2018/01/29 メディア: 単行本 この商品を含むブログ (4件) を見る 前半は進化心理学や人類学などが道徳に関してもたらす客観的知見の概説やおさらい、後半はそ…

読書メモ:『モンテーニュ私記 - よく生き、よく死ぬために』

モンテーニュ私記―よく生き、よく死ぬために 作者: 保苅瑞穂 出版社/メーカー: 筑摩書房 発売日: 2003/10 メディア: 単行本 購入: 3人 クリック: 3回 この商品を含むブログを見る この本からではなく、この本で引用されているモンテーニュの『エセー』文章で…

スポーツチームへの支持と政治的党派性の共通点、ほか(読書メモ:『反共感論:社会はいかに判断を誤るか』)

反共感論―社会はいかに判断を誤るか 作者: ポール・ブルーム,高橋洋 出版社/メーカー: 白揚社 発売日: 2018/02/02 メディア: 単行本 この商品を含むブログ (2件) を見る この本のメインとなる論旨については、以前に別の記事で紹介しているので、今回は細か…

「お前の意見は感情的だ」という批判がダメな理由

反共感論―社会はいかに判断を誤るか 作者: ポール・ブルーム,高橋洋 出版社/メーカー: 白揚社 発売日: 2018/02/02 メディア: 単行本 この商品を含むブログ (2件) を見る 心理学者のポール・ブルームによる『反共感論』については、原著が出版される前にブル…

「自己責任論」を批判するのはいいけれど…(読書メモ:『高学歴女子の貧困』)

高学歴女子の貧困 女子は学歴で「幸せ」になれるか? (光文社新書) 作者: 大理奈穂子,栗田隆子,大野左紀子,水月昭道 出版社/メーカー: 光文社 発売日: 2014/02/18 メディア: 新書 この商品を含むブログ (14件) を見る 貧困状態にある高学歴女性が現状を綴る私…

「研究」ってそんなに魅力的か?(読書メモ:『在野研究ビギナーズ』)

在野研究ビギナーズ――勝手にはじめる研究生活 作者: 荒木優太 出版社/メーカー: 明石書店 発売日: 2019/09/06 メディア: 単行本 この商品を含むブログを見る 私自身、「在野」にありながら学術書や洋書を読んだりその内容をまとめてブログにして発信したり、…

再読メモ:『結婚の条件』

結婚の条件 (朝日文庫 お 26-3) 作者: 小倉千加子 出版社/メーカー: 朝日新聞出版 発売日: 2007/01/01 メディア: 文庫 購入: 13人 クリック: 214回 この商品を含むブログ (53件) を見る フェミニストの学者が、当時(2002年〜2003年)の日本の女性の結婚にま…

「道徳の秩序」と「政治の秩序」(読書メモ:『資本主義に徳はあるか』)

資本主義に徳はあるか 作者: アンドレコント=スポンヴィル,Andr´e Comte‐Sponville,小須田健,コリーヌカンタン 出版社/メーカー: 紀伊國屋書店 発売日: 2006/08 メディア: 単行本 クリック: 6回 この商品を含むブログ (10件) を見る フランス人の哲学者であ…

人はなぜ過去の選択にこだわるのか

幸福はなぜ哲学の問題になるのか (homo viator) 作者: 青山拓央 出版社/メーカー: 太田出版 発売日: 2016/09/14 メディア: 単行本 この商品を含むブログ (6件) を見る 昨日にも『幸福はなぜ哲学の問題になるのか』の感想を書いたが、本書の中でも特に印象に…

読書メモ:『幸福はなぜ哲学の問題になるのか』

幸福はなぜ哲学の問題になるのか (homo viator) 作者: 青山拓央 出版社/メーカー: 太田出版 発売日: 2016/09/14 メディア: 単行本 この商品を含むブログ (6件) を見る 幸福論系の哲学をまとめて読んでいた時期があったのだが、その中でもこの本はかなり良か…

読書メモ:『ポジティブ心理学の挑戦 - "幸福"から"持続的幸福"へ』

ポジティブ心理学の挑戦 “幸福"から“持続的幸福"へ 作者: マーティン・セリグマン,宇野カオリ 出版社/メーカー: ディスカヴァー・トゥエンティワン 発売日: 2014/10/29 メディア: 単行本 この商品を含むブログ (1件) を見る 著者のセリグマンはポジティブ心…

読書メモ:『不道徳的倫理学講義-人生にとって運とは何か』

不道徳的倫理学講義: 人生にとって運とは何か (ちくま新書) 作者: 古田徹也 出版社/メーカー: 筑摩書房 発売日: 2019/05/07 メディア: 新書 この商品を含むブログを見る 西洋の倫理思想史の中でも「運」について言及している哲学者たちの思想を取り上げて、…

進化心理学はなぜ批判されるのか?

quillette.com 上記のQuilletteの記事を要約紹介しつつ、雑感を書く。…というか、ダラダラと長ったらしい記事なので、思い切って要点や特徴的な点だけ紹介する。 上記の記事では、デビッド・バスとウィリアム・フォンヒッペルという二人の進化心理学者が行っ…

「動物に苦痛を与えてはいけない」という主張は功利主義?/功利主義は「苦痛」にしか注目しない?

功利主義及び動物倫理に関するよくある誤解について、さくっと書く。 「動物に苦痛を与えてはいけない」という主張は様々な倫理学者が提唱してきたものではあるが、過去の人であればジェレミー・ベンサム、現代の人であればピーター・シンガーが有名であろう…

「攻めの倫理」と「守りの倫理」(『ふだんづかいの倫理学』読書メモ)

ふだんづかいの倫理学 (犀の教室Liberal Arts Lab) 作者: 平尾昌宏 出版社/メーカー: 晶文社 発売日: 2019/03/12 メディア: 単行本 この商品を含むブログを見る 前回の記事でも言及した内容とはまた別口で、『ふだんづかいの倫理学』を読んで考えたことにつ…