道徳的動物日記

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2021-10-01から1ヶ月間の記事一覧

反合理主義としてのフェミニズム(『啓蒙思想2.0』読書メモ③)

啓蒙思想2.0―政治・経済・生活を正気に戻すために 作者:ジョセフ・ヒース NTT出版 Amazon ジョセフ・ヒースはカナダ人であるけれど、『啓蒙思想2.0』における彼の問題意識は、ティーパーティーに代表されるように近年のアメリカで不合理で反動的な右派の運動…

対等願望、優越願望、承認欲求、民主主義

IDENTITY (アイデンティティ) 尊厳の欲求と憤りの政治 作者:フランシス・フクヤマ 朝日新聞出版 Amazon フランシス・フクヤマの『IDENTITY:尊厳の欲求と憤りの政治』はこのブログでも何度か扱ったが、あまり高く評価してきたわけではなかった*1。しかし、ポ…

伝統を守ればいいというものではない(『啓蒙思想2.0』読書メモ②)

啓蒙思想2.0―政治・経済・生活を正気に戻すために 作者:ジョセフ・ヒース NTT出版 Amazon 前回の記事で書いた通り、理性とは不自然なものであり、せいぜいが適応の副産物に過ぎず、その力は限られている。 たとえば、野球でボールがフライとなったとき、外野…

理性は自然に反している(『啓蒙思想2.0』読書メモ①)

啓蒙思想2.0―政治・経済・生活を正気に戻すために 作者:ジョセフ・ヒース NTT出版 Amazon 「ポリティカル・コレクトネス」をテーマとした本の執筆をそろそろ本格化したいので、参考文献のひとつとしてジョセフ・ヒースの『啓蒙思想2.0』を数年ぶりに読み返し…

読書メモ:『きみの脳はなぜ「愚かな選択」をしてしまうのか:意思決定の進化論』

きみの脳はなぜ「愚かな選択」をしてしまうのか 意思決定の進化論 (KS一般書) 作者:ダグラス・ T・ケンリック,ヴラダス・グリスケヴィシウス 講談社 Amazon 同じ著者のダグラス・ケンリックが書いている『野蛮な進化心理学』は名著なんだけれど*1、こちらは…

読書メモ:『生きづらさはどこから来るかー進化心理学で考える』&『進化心理学入門』

生きづらさはどこから来るか―進化心理学で考える (ちくまプリマー新書) 作者:石川 幹人 筑摩書房 Amazon 進化心理学入門 (心理学エレメンタルズ) 作者:ジョン・H. カートライト 新曜社 Amazon 図書館の返却期限が迫っていたので、あわてて読んで返した(とは…

『ニコマコス倫理学』読書メモ

他の箇所で細々と書いていたメモを、こちらにまとめる。上巻はしっかり読んだけど、下巻ではかなり力尽きています。たぶん誤字脱字もかなり含んでいるけどとりあえず無視。 (まずは上巻) ニコマコス倫理学(上) (光文社古典新訳文庫) 作者:アリストテレス…

「特権」概念の不毛さ

somethingorange.biz 上記は海燕氏によるブログ記事。 二週間前の記事だけど、下記について、思うところを書いてみよう。 つまり、「ホワイト・フラジリティ」とか「マイクロ・アグレッション」とは、ある体制において特権を持つマジョリティ(この場合は白…

読書メモ:『「生きにくさ」はどこからくるのか:進化が生んだ二種類の精神システムとグローバル化』

「生きにくさ」はどこからくるのか—進化が生んだ二種類の精神システムとグローバル化 作者:山祐嗣 新曜社 Amazon 著者は心理学者で、ほかにも『日本人は論理的に考えることが本当に苦手なのか』などの著作がある。 『「生きにくさ」はどこからくるのか』につ…

読書メモ:『事実はなぜ人の意見を変えられないのか』

事実はなぜ人の意見を変えられないのか 作者:ターリ・シャーロット,上原直子 白揚社 Amazon 翻訳の出版当時から気になっていたのだが(著者の前著の『脳は楽観的に考える』もそれなりに印象深かった)、図書館での予約数がハンパなく、一年半経ってようやく…

読書メモ:『真実の終わり』

真実の終わり 作者:ミチコ・カクタニ 集英社 Amazon davitrice.hatenadiary.jp 以前にも紹介したんだけれど、改めて再読。しかしまあやっぱりあんまり中身がある本ではないような気がする。著者は文芸批評家であるんだけれど、文芸批評らしく皮肉や比喩や気…

近況報告(ネットに文章を書くことについての雑感)

・単著の準備をすすめており、11月か12月には出版できそうだ。 昨年の夏に現代ビジネスに初めて署名記事を発表した時点から「批評家」を肩書きにしており、すでに「自分は作家だ」という意識はあるんだけれど、単著があるとないとでは気の持ちようがだいぶ変…

「男性のセルフケア」論についての雑感

gendai.ismedia.jp なんとなく上記の記事を眺めていたら色々とひっかかるところがあり、以前からのわたしの問題意識や関心とも関連している内容でもあるので、思うところをメモしていく*1。 現代社会における「男らしさ」は多様化していますが、それでも「男…

ネットリンチと「非難」の問題

ルポ ネットリンチで人生を壊された人たち (光文社新書) 作者:ジョン・ロンソン 光文社 Amazon 『ルポ ネットリンチで人生を壊された人たち』から引用する*1。 最初に何人かが「ジャスティン・サッコは悪人だ」と意見を述べた。その何人かに対して即座に称賛…