道徳的動物日記

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ポリコレ

人文書とTwitter

Twitterは辞めたけれど、気になる話題があったら、いまだに外部サイトを経由して検索などはしてしまったりしている。 すこし前になるが、いろいろと気になったのはKADOKAWAによる『あの子もトランスジェンダーになった SNSで伝染する性転換ブームの悲劇』の…

内在的公正世界信念と究極的公正世界信念(読書メモ:『「心のクセ」に気づくには 社会心理学から考える』)

「心のクセ」に気づくには ――社会心理学から考える (ちくまプリマー新書) 作者:村山綾 筑摩書房 Amazon 「公正世界仮説」についてはいまや多くの人が知っていることだろう(小賢しいネット民好みの理論でもあるし)。しかし公正世界仮説(本書では公正世界信…

読書メモ:『なぜ美を気にかけるのか :感性的生活からの哲学入門』&『近代美学入門』

なぜ美を気にかけるのか: 感性的生活からの哲学入門 作者:ドミニク・マカイヴァー・ロペス,ベンス・ナナイ,ニック・リグル 勁草書房 Amazon 『なぜ美を気にかけるのか』は美学の入門書でもあるが、そのなかでも「美的価値」や「美的感性」「美的生活」の問題…

最近読んだ本シリーズ:『悪口ってなんだろう』『「美味しい」とは何か』『ケアしケアされ、生きていく』

図書館で借り、出退勤の電車で流し読みした新書本たち。どの本もdisることにはなるけれど、ちゃんと読めてはいないです。 悪口ってなんだろう (ちくまプリマー新書) 作者:和泉悠 筑摩書房 Amazon 「「からかい」の政治学」や『笑いと嘲り』を読んだ流れで、…

ユーモアのダークサイド(読書メモ:『笑いと嘲り』)

笑いと嘲り―ユーモアのダークサイド 作者:マイケル ビリッグ 新曜社 Amazon 先日に江原由美子の「からかいの政治学」を読んだ流れで、前々から図書館で見かけてタイトルだけは知っていたこの本も中古で購入して読了*1。 著者のマイケル・ビリッグは心理学者…

「からかいの政治学」(読書メモ:『増補 女性解放という思想』)

増補 女性解放という思想 (ちくま学芸文庫) 作者:江原 由美子 筑摩書房 Amazon 『増補 女性解放という思想』は昨年の12月にネット上の「からかい」に関する記事を書いた後にAmazonのほしいものリストから買ってもらったのだが、最近は「からかい」に関する…

読書メモ:『14歳から考えたい レイシズム』&『14歳から考えたい セクシュアリティ』&『14歳から考えたい 優生学』

『福祉国家』、『ポピュリズム』、『移民』、『法哲学』、『マルクス』などに続いてVery Short Introduction シリーズの邦訳書を紹介するシリーズ。 今回はすばる舎から出ている『14歳から考えたい』シリーズのうち3冊を一気に流し読みしたので、ごく短い感…

ポピュリズムとリベラル・デモクラシー(読書メモ:『ポピュリズム デモクラシーの友と敵』

ポピュリズム:デモクラシーの友と敵 作者:カス・ミュデ,クリストバル・ロビラ・カルトワッセル 白水社 Amazon 昨日の『福祉国家』に引き続き、オックスフォードのVery Short Introduction シリーズの邦訳書を紹介するシリーズ第二弾*1。 ポピュリズムとはそ…

読書メモ:『多文化時代の市民権:マイノリティの権利と自由主義』

多文化時代の市民権―マイノリティの権利と自由主義 作者:ウィル キムリッカ 晃洋書房 Amazon 読んだのは一ヶ月前なので、多少記憶から抜け落ちているところもある。 また、原初が出版されたのは1995年と約三十年前であり、本書のテーマとなる民族的マイノリ…

読書メモ:『原理の問題』

原理の問題 作者:ロナルド・ドゥオーキン 岩波書店 Amazon 政治哲学っぽい『平等とは何か』や議論がシンプルな『自由と法』はまだ読めたのだけれど、この本は法哲学という個人的に馴染みのない分野であるうえに議論もやたらとくどくどとしており、3章ぶん(…

学問の自由と倫理的個人主義(読書メモ:『自由の法』①)

自由の法―米国憲法の道徳的解釈 作者:ロナルド・ドゥウォーキン,文彦, 石山 木鐸社 Amazon 家庭の事情(飼い始めた猫の夜泣きがひどくて睡眠に支障が出ているなど)のために執筆時間はもちろんのこと読書に割ける時間もかなり目減りしている状況なのだが、今…

理性と論理に基づくリベラリズム(読書メモ『Liberalism : the basics』)

Liberalism: The Basics (English Edition) 作者:Charvet, John Routledge Amazon 次の本の執筆に向けて昨年からリベラリズムのことを勉強し続けているうちに気が尽かされたのだが、哲学や理論としてのリベラリズムの入門書は意外なほどに少ない。 中公新書…

【2023年版】キャンセル・カルチャーのなにが問題か

(6/14追記:トークイベントをやりましたのでよかったら視聴(※チケット購入)してください) #左からのキャンセル・カルチャー論無事終了!!あいちトリエンナーレの件から小山田圭吾事件、あらゆる差別問題…様々な角度から“キャンセル・カルチャー”につ…

読書メモ:『ヘイト・スピーチという危害』ほか

davitrice.hatenadiary.jp 前回に引き続き、来たる6月13日の「左からのキャンセル・カルチャー論」トークイベントに向けて、表現の自由というトピックに関して復習中*1。 最近に読んだり再読したりした本は以下の通り。 ヘイト・スピーチという危害 作者:…

ピーター・シンガーによる「言論の自由」論

出勤前の短い時間なのでメモ的な記事。 www.project-syndicate.org 昨年の11月に倫理学者のピーター・シンガーが書いたコラム。イ ーロン・マスクがTwitterを買収したことに言及しながら、自身が編集委員をやっている雑誌 Journal of Controversial Ideas …

トークイベント「左からのキャンセル・カルチャー論」をやります(6月13日(火):阿佐ヶ谷ロフトA)

6月13日(火)の19:30から、東京の阿佐ヶ谷ロフトAにて、「左からのキャンセル・カルチャー論」と題したトークイベントをやります。 トークの相手は文芸批評家在野研究者の荒木優太さん、『情況』編集長で2022年のキャンセル・カルチャー特集号も担…

正義論と自己責任論(読書メモ:『平等とは何か』①)

平等とは何か 作者:ロナルド・ドゥウォーキン 木鐸社 Amazon 11月から読み始めたのだが、オンライン記事や書評の依頼が重なったり年末年始に遊び過ぎたりしていて、読み終えるのに二ヶ月かかってしまった ちなみに、ここで紹介する責任論や「運の平等主義」…

「からかい」を批判する

御田寺圭(白饅頭)の本については、批判的な書評をしたり、「ネット論客」としての彼の議論やビジネスのスタイルを批判したりした*1。 最近になって、わたしに対する御田寺からの人格批判じみた揶揄がいくつか投稿されている(「学術コンプ」と言われたり「…

『「社会正義」はいつも正しい』についての、いくつかの雑感

「社会正義」はいつも正しい 人種、ジェンダー、アイデンティティにまつわる捏造のすべて 作者:ヘレン プラックローズ,ジェームズ リンゼイ 早川書房 Amazon 早川書房から翻訳が出版された作家のヘレン・プラックローズと数学者のジェームズ・リンゼイの共著…

「不平等」はそんなに悪いことなのか?(読書メモ:『政治哲学への招待』②)

政治哲学への招待―自由や平等のいったい何が問題なのか? 作者:アダム・スウィフト 風行社 Amazon [前段で平等を拒絶する世俗的な主張を並べた後に]これはすべて、大衆政治のレトリックのレベルでのことである。しかし平等は、政治哲学者からも、厳しい取り扱…

フェミニズムの「むずかしさ」に向き合う(読書メモ:『むずかしい女性が変えてきた:あたらしいフェミニズム史』)

むずかしい女性が変えてきた――あたらしいフェミニズム史 作者:ヘレン・ルイス みすず書房 Amazon 出版社による紹介は下記の通り。 女性が劣位に置かれている状況を変えてきた女性のなかには、品行方正ではない者がいた。危険な思想に傾く者も、暴力に訴える…

ネット論客がインテリから相手にされない理由

davitrice.hatenadiary.jp (6月23日 21:45追記) 最初のタイトルには個人名を入れていましたが、記事のタイトルを「(個人名)が〜から相手にされない理由」にすることはあまりに個人攻撃的に過ぎるという指摘を受けて、同意しましたので、タイトル…

「世の中の理不尽さ」や「不都合な真実」を強調して、それでどうするの?(読書メモ:『ただしさに殺されないために』)

ただしさに殺されないために~声なき者への社会論 作者:御田寺圭 大和書房 Amazon いま執筆を進めている「反ポリコレ本」の参考になるかと思って『ただしさに殺されないために〜声なき者への社会論』を読んでいるけれど、案の定、まったく面白くない。 Amazo…

レトリックに基づいて物事を考えてはいけない理由

ローマ皇帝のメンタルトレーニング 作者:ドナルド・ロバートソン CCCメディアハウス Amazon 英語圏で定期的に出版されている、ストア哲学をライフハックや自己啓発に活かす方法を説くタイプの本だ*1。 本書の特徴のひとつは、数多くいるストア哲学者のな…

読書メモ:『愛はすべてか 認知療法によって夫婦はどのように誤解を克服し、葛藤を解消し、夫婦間の問題を解決できるのか』

愛はすべてかー認知療法によって夫婦はどのように誤解を克服し, 葛藤を解消し,夫婦間の問題を解決できるのか 作者:アーロン・T・ベック 金剛出版 Amazon わたしはまだ独身なので、「夫婦間の関係をどう解決するか」というよりも「認知(行動)療法」の考え方…

ハーバーマス(読書メモ:『いまこそロールズに学べ:「正義」とはなにか?』)

いまこそロールズに学べ 「正義」とはなにか? 作者:仲正 昌樹 春秋社 Amazon あとがきで著者が「ロールズ研究者はミイラ取りがミイラになりがちだ」と述べたうえで、著者自身はミイラにならずにロールズとの間に一定の距離を保ちながらも、彼の理論をあっさ…

現実逃避としてのケア論(読書メモ:『「格差の時代」の労働論』)

「格差の時代」の労働論―ジョン・ロールズ『正義論』を読み直す (いま読む!名著) 作者:福間 聡 現代書館 Amazon …労働や生産性を人間にとって最も重要な価値であると規定し、そうした価値を促進すように社会の諸制度は編成されることを唱導する「労働中心主…

なぜ人類学者は人間の「共通点」ではなく「差異」を強調するか?(『ヒューマン・ユニヴァーサルズ:文化相対主義から普遍性の認識へ』)

ヒューマン・ユニヴァーサルズ―文化相対主義から普遍性の認識へ 作者:ドナルド・E. ブラウン 新曜社 Amazon 原著は1991年であり、スティーブン・ピンカーの『心は空白の石板か』の11年前に出版されたもの。当時における文化人類学が人間の「普遍特性」の存在…

公正価格の誤謬、「ホモ・エコノミクス」批判批判(読書メモ:『資本主義が嫌いな人のための経済学』③)

資本主義が嫌いな人のための経済学 作者:ジョセフ・ヒース NTT出版社 Amazon ● 第7章「公正価格の誤謬」から。 あえて私の考えを言えば、左派または人類の味方とすら辞任する御仁にとって、豊かな工業化社会で食住をあがえない人がいるのはいるのは許し…

賃金と「社会の認識」は関係あるのか?(読書メモ:『資本主義が嫌いな人のための経済学』②)

資本主義が嫌いな人のための経済学 作者:ジョセフ・ヒース NTT出版社 Amazon 『資本主義が嫌いな人のための経済学』の第10章のテーマは「同一賃金」であり、「貧困に対策するためには最低賃金を上げなければいけない」や「男女の賃金格差を是正するために…