道徳的動物日記

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功利主義

社会性の収斂進化、「社会性」は「善」であるのか?(読書メモ:『ブループリント:「よい未来」を築くための進化論と人類史』)

ブループリント:「よい未来」を築くための進化論と人類史(下) 作者:ニコラス・クリスタキス ニューズピックス Amazon この本のメインの主張である「青写真(社会性一式)」に関する議論などは先日の記事で紹介したので、今回は、感想とか気に入った部分の引…

なぜ人間は進化のメカニズムに逆らって、道徳的に行為することができるのか

The Expanding Circle: Ethics, Evolution, and Moral Progress 作者:Singer, Peter 発売日: 2011/04/18 メディア: ペーパーバック 道徳と理性の関係についての議論はこのブログでは何度もやっており、「またかよ」と思われるかもしれない。とはいえ、原稿の…

覚え書き:なぜ功利主義者がいないと動物の権利は発見されなかったか

動物の解放 改訂版 作者:ピーター シンガー 発売日: 2011/05/20 メディア: 単行本 某所の連載で動物倫理についても何回か書くことになりそうなので、ピーター・シンガーの『動物の解放』を久しぶりに読み直している。 『動物の解放』では『実践の倫理』ほど…

「人生の意味」の進化心理学

野蛮な進化心理学―殺人とセックスが解き明かす人間行動の謎 作者:ダグラス・ケンリック 発売日: 2014/07/18 メディア: 単行本 ダグラス・ケンリックの『野蛮な進化心理学:殺人とセックスが解き明かす人間行動の謎』の白眉は、やはり、第七章の「マズローと…

ケアの倫理と二層理論/「アイデンティティ哲学」がつまらない理由

link.springer.com ヘルガ・クーゼ、ピーター・シンガー、モーリス・リカードによる共著論文 "Reconciling Impartial Morality and a Feminist Ethic of Care" (「公平な道徳と、フェミニストによるケアの倫理を調和させる」)を読んだのでメモ的に内容を記…

読書メモ:『<効果的な利他主義>宣言!:慈善活動への科学的アプローチ』

〈効果的な利他主義〉宣言! ――慈善活動への科学的アプローチ 作者:ウィリアム・マッカスキル 発売日: 2018/11/02 メディア: 単行本 この本についてはこちらの記事でも紹介した。 davitrice.hatenadiary.jp また、「効果的な利他主義」の考え方そのものについ…

道徳の問題は科学的に、定量的に考えなければいけない理由

〈効果的な利他主義〉宣言! ――慈善活動への科学的アプローチ 作者:ウィリアム・マッカスキル 発売日: 2018/11/02 メディア: 単行本 ビル・ゲイツやウォーレン・バフェットが実践していることでも有名な「効果的な利他主義」について書かれた本。パート1では…

読書メモ:『モラル・トライブズ:共存の道徳哲学へ』

きのうからはじまった某所での連載の次々回くらいの原稿の元ネタとして『モラル・トライブズ:共存の道徳哲学へ』を借りて読み直しているうちに、図書館からお怒りの電話が来てしまった。 しかし『モラル・トライブズ』は細部まで刺激と啓発に満ちたおもしろ…

覚え書き:ポストモダンの「ごにょごにょ規範主義」、サンドバッグとしてのネオリベラリズム(と優生思想)

davitrice.hatenadiary.jp econ101.jp 先ほどの記事でジョセフ・ヒースの「『批判的』研究の問題」を取り上げたことなので、この記事から面白いところをいくつか引用しよう。 さっき言ったように,「批判的社会科学」の志は,たんに規範的な決意に導かれた社…

使える倫理は、つまらない(読書メモ:『動物倫理の新しい基礎』)

動物倫理の新しい基礎 作者:ローリン,バーナード 発売日: 2019/12/01 メディア: 単行本 この本のスタンスは、序章となる「新しい動物倫理の必要性」の最後の段落に、おおむねまとまっているだろう。 たとえば、功利主義的理由のためにシンガー自身が、産業的…

「安楽死」をめぐる議論のおかしな構造

7月23日に京都のALS嘱託殺人が発覚して医師二人が逮捕された事件を受けて、メディアやネット上でも安楽死に関する議論が盛んにおこなわれた。当初は、事件の特異性から「この事件をきっかけに安楽死についての議論を行うこと自体を、避けるべきである」とい…

利益に基づいた動物の権利:ペットの避妊、娯楽における動物の利用、環境保護との関係

Animal Rights Without Liberation: Applied Ethics and Human Obligations (Critical Perspectives on Animals: Theory, Culture, Science, and Law) (English Edition) 作者:Alasdair Cochrane 出版社/メーカー: Columbia University Press 発売日: 2012/0…

「利益に基づいた権利」による動物の権利論(読書メモ:Animal Rights without Liberation)

Animal Rights Without Liberation: Applied Ethics and Human Obligations (Critical Perspectives on Animals: Theory, Culture, Science, and Law) (English Edition) 作者:Alasdair Cochrane 出版社/メーカー: Columbia University Press 発売日: 2012/0…

二層功利主義と権利(引用メモ:『相手の立場に立つ ヘアの道徳哲学』)

相手の立場に立つ 作者:山内 友三郎 出版社/メーカー: 勁草書房 発売日: 1991/05/20 メディア: オンデマンド (ペーパーバック) ヘアの二層理論によれば権利は直観のレヴェルに位置を占めていて、特別ことがない限り、私たちを律すべき一般的原則であると考え…

限界事例からの議論、種差別の正当化(読書メモ:『 Beyond Prejudice 』)

Beyond Prejudice: The Moral Significance of Human and Nonhuman Animals (English Edition) 作者:Evelyn B. Pluhar 出版社/メーカー: Duke University Press Books 発売日: 1995/07/21 メディア: Kindle版 1995年に出版された動物倫理の本で、「限界…

「ケアの倫理」の構造的問題点(読書メモ:『Entangled Empathy』)

Entangled Empathy: An Alternative Ethic for Our Relationships with Animals by Lori Gruen(2014-01-01) 作者:Lori Gruen 出版社/メーカー: Lantern Books 発売日: 1739 メディア: ペーパーバック 離職して、しばらくの間は本を読む時間もたっぷりとある…

読書メモ:『哲学者が走る 人生の意味についてランニングが教えてくれたこと』

哲学者が走る: 人生の意味についてランニングが教えてくれたこと 作者:マーク ローランズ 出版社/メーカー: 白水社 発売日: 2013/09/14 メディア: 単行本 私は子供の頃から喘息を患っており、すこしでも走るだけですぐに息が切れてしまいしんどいことになる…

『功利主義とは何か』

功利主義とは何か 作者:ピーター・シンガー,カタジナ・デ・ラザリ=ラデク 出版社/メーカー: 岩波書店 発売日: 2018/11/16 メディア: 単行本(ソフトカバー) おそらく現代の世界に現存する哲学者としていちばん有名で影響力のあるピーター・シンガーと、ポ…

倫理学の理論や知識と、実際の生活との齟齬や乖離について(読書メモ:『哲学者とオオカミ』)

哲学者とオオカミ―愛・死・幸福についてのレッスン 作者:マーク ローランズ 出版社/メーカー: 白水社 発売日: 2010/04/01 メディア: 単行本 哲学者である著者がオオカミの子どもを引き取って「ブレニン」と名付けて、アメリカやアイルランド、イギリスにフラ…

引用メモ:R・M・ヘア「倫理学理論と功利主義」

功利主義をのりこえて:経済学と哲学の倫理 作者: 出版社/メーカー: ミネルヴァ書房 発売日: 2019/11/12 メディア: 単行本 レベル1の諸原則は、実践的な道徳的思考、特にストレスのかかる状況下での道徳的思考で用いられるものである。これらの諸原則は教育…

読書メモ:エルスターの「酸っぱい葡萄」

功利主義をのりこえて:経済学と哲学の倫理 作者: 出版社/メーカー: ミネルヴァ書房 発売日: 2019/11/12 メディア: 単行本 ↑ 上記の本に収録されているヤン・エルスターの「酸っぱい葡萄:功利主義と、欲求の源泉」を読んだのでメモを残す。実は以前にもエル…

「動物に苦痛を与えてはいけない」という主張は功利主義?/功利主義は「苦痛」にしか注目しない?

功利主義及び動物倫理に関するよくある誤解について、さくっと書く。 「動物に苦痛を与えてはいけない」という主張は様々な倫理学者が提唱してきたものではあるが、過去の人であればジェレミー・ベンサム、現代の人であればピーター・シンガーが有名であろう…