前回の記事の付け足し、補足的な内容。書き終わってから気付いたが、前回では「人格」「準-人格」と訳していたところを「パーソン」「準-パーソン」と訳してしまった。直すのめんどくさいのでそのままにしておく。意味は一緒。
パーソン、準-パーソン、感覚だけの存在はいずれも"道徳的地位(Moral Standing)"を持つ。「ある個体(やその他の存在)は"道徳的地位"を持つとか"道徳的な配慮対象である(Morally Considerable)"と主張することは、その個体は道徳行為者(Moral agents, 道徳的主体)の熟慮において配慮されるべき請求(claim)を持つということである」(P.23)。私なりに説明すると、例えば動物は道徳的地位を持つが木は道徳的地位を持たないと仮定した場合には、ある人間がある事例において「この事例では倫理的にはどうするべきだろうか」と考える際には、その事例の関係者として動物が含まれている場合にはその動物の利益なり権利なりを人間にとっての都合ではなくその動物自身の立場から考慮しなければならないが、木が関係者として含まれていても木の利益なり権利なりは考慮しなくてよい、ということだ。ただし、道徳的地位を持つ時点でその存在は道徳的配慮の対象となるが、"どれくらいの"道徳的配慮の対象となるかはまた別の話である。
パーソン、準-パーソン、感覚だけの存在はそれぞれに異なる"道徳的重要性(Moral Significance)"も持つ。「"道徳的重要性"は、(道徳的地位とは)対照的に、程度の問題だ」(P.23)。パーソンの生は準-パーソンの生よりも道徳的重要性が高く、は準-パーソンの生は感覚だけの存在の生よりも道徳的重要性が高い、とヴァーナーは説く。ただし、パーソンの生が感覚だけの存在の生よりも"常に"優先して配慮される訳ではない。「"正しい行為とは、幸福を最大化する行為である"という功利主義の黄金律」(p.3)からすれば、感覚だけの存在の生をパーソンの生よりも優先して配慮した方が幸福が最大化する場合があるとすれば、批判的なレベルで考える場合には感覚だけの存在の生の方を優先するべきである。ただし、多くの場合にはパーソンの生を優先した方が幸福が最大化される可能性が高い。だから、「ヘア的な功利主義においては、日常的なルールや法律ルールなどの直感的なレベルでのルールに、パーソンや準-パーソンに対する特別な尊重を設定しておくことを認めるのに充分な理由があるのだ」(P.23)*1。
また、パーソン論に対するありがちな誤解への返答は以下の通り。
また、根本的な誤解を防ぐために、パーソンと準-パーソンの生は「より価値が高い(more valuable)」のではなく 「特別な道徳的重要性を持つ」と、私は表現している。ある存在の生は他の存在の生よりも"価値が高い"と言ってしまうと、その存在の生は道徳的な観点からして他の生よりも望ましくて善いものである、という意味に受け取られてしまう可能性が高い。功利主義の言葉を使えば、前者の生は後者の生に比べてより多くのポジティブな価値を世界に付け足す、と言っていることになってしまう。しかし、パーソンの生はパーソンでない生よりも「多くの特別な道徳的重要性を持つ」と言う時、パーソンの生がパーソンでない生よりも善であるとか望ましいなどと私は主張しているのではない。そうではなく、パーソンの持つ特別な認識能力はある種類の利益や危害をパーソンが受けることを可能にするのであり、その利益や危害をパーソンでない生が受けることは不可能なのである、ということを意味しているのだ。このことはパーソンの生をパーソンでない生よりも望ましいものにする可能性もあるが、パーソンの生をパーソンでない生よりも遥かに酷いものにする可能性もある。「満足した豚よりも不満足な人間である方がよい」と言った点についてはミルも正しかったとしても、ある種類の惨めで不幸な状態の人間に比べれば満足した豚の生の方が望ましいことも確かなのだ。パーソンと準-パーソンの生は「特別な道徳的重要性を持つ」と私が言う時、彼らの持つ特別な認識能力が彼らの生を感覚だけの存在の生よりも言わば道徳的な請求性の高い(more morally charged)ものにしている、ということを私は意味しているのだ。これは、パーソンや準-パーソンに対処するときには私たちは特別なケアをするべきである、ということを意味する…
(P.23-24)

Personhood, Ethics, and Animal Cognition: Situating Animals in Hare's Two-Level Utilitarianism
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