・『リベラルとは何か』
この本はなかなか面白かった。もう図書館に返却してしまったけれど、ブログ記事にしてもよかったくらい。アメリカとヨーロッパとのリベラルの違い(や、その違いをあまり強調するのも間違っているということ)や「ネオリベラリズム」についてもきちんと解説されている。
「リベラリズム」というとつい価値観の多元性を前提にした思想であるとイメージしてしまいがちだが、最初のほうのリベラルとは「人々が善い人生を送るためには事由が必要であり、だから社会や国家はこれこれこうして自由を保証しなければならない」という考え方をしていたようであり、道徳的に優れた生のためには事由が必要だという理論建てをしていたらしく、つまり一定の価値観の範囲内での自由や「積極的自由」が必要であるという主張をしていたようだ。わたしとしても最近はそういう考え方のほうに共感する。そのうち「徳倫理学的リベラリズム」でも提唱してみようかな。
・『感情の哲学入門講義』
タイトル通り、大学での哲学入門講義に使用することを前提として書かれた、教科書みたいな感じの本。「哲学」についても「感情」についても「感情の哲学」についても、いい感じに入門になっている。内容はかなり丁寧かつ客観的であるのだが、そのせいで読んでいて物足りなくもあった。
・『言葉はいかに人を欺くか』
扱われている題材は面白いのに、分析哲学にしてもいくらなんでも議論が細か過ぎてねちっこ過ぎるので読んでてぜんぜん面白くない。また、終盤の「犬笛」に関する議論は結論ありきというか概念工学的というか、左傾化したイデオロギーのための理屈をひねり出している感じがあった。
・『制と懲罰の歴史』
面白そうな題材ではあるのに、各時代におけるエピソードを延々と羅列しているだけであり理論とか分析とかはほとんどなくて、知的好奇心がぜんぜんそそられない。まあエピソード羅列的な歴史の本っていっぱいあるけれど、よくみんな読んでいられるものだなと思う。うさん臭くても適当でもいいから、理論をぶちあげてくれたほうが断然おもしろいはずだ。また、著者の問題意識はたぶんフーコー的なあれなんだろうけど、そのせいで内容が凡庸になってしまった気もする。
・『飼いならす』
それなりに興味深いのだが、10種類の動植物について章ごとに取り上げている構成のせいか、なんだか内容が散漫になっている。これなら、各動植物についてそれぞれ取り上げた新書を一冊ずつ読んだ方がよい読書体験ができると思った。「家畜化(栽培)」というトピックそのものについてもっとストレートに取り上げた方が面白くなっていただろう。遺伝子組み換え食品に関する議論も内容がかなり初歩の初歩という感じでいらねーと思った。
・『疫病と人類知』
疫病の歴史、コロナウィルスや社会情勢に関する諸々の情報、『ブループリント』でも展開されていた著者独自の楽観論にもとづいた未来予測のごた混ぜという感じ。
・『マーサ・ヌスバウム』
ヌスバウムの来歴や思想について程よくまとめられていて、なかなか参考になる。とはいえヌスバウムの本って難しくないのでわざわざ入門書を読む必要はないとも思うのだが。性的モノ化論などに関する紹介があまりなされていないのは物足りなかった。
・『生と死を分ける数学』
BLMの批判者たちがよくいう「白人警官に殺された黒人より、黒人に殺された黒人の数のほうが多い」といったレトリックを論破している箇所は必読。しかし、社会問題に絡められても、数学に関する議論ってどうにも眠くなって苦手である。
・『オン・ビーイング・ミー』
内容が薄い。つまらない。