図書館の返却期限が迫っていたので、あわてて読んで返した(とはいえ『進化心理学入門』のほうは再読)。
『生きづらさはどこから来るか』は「男性は論理コミュニケーション、女性は共感コミュニケーション」といったかなり素朴な男女論が展開されており、やや危ういところもあるが、中高生向けの「ちくまプリマー新書」ということを考えるとこれくらい単純かしてもまあいいかなと思う。
わたしは以前に晶文社の連載でサイモン・バロン=コーエンの『共感する女脳、システム化する男脳』を持ち出した記事を書いたら炎上しちゃったけれど*1、『生きづらさはどこから来るか』でもバロン=コーエンの議論が出てきた。
『科学の女性差別とたたかう』など*2、バロン=コーエンの議論は「脳科学的」には批判されているようであり、男脳・女脳が発生するメカニズムの説明には危ういところもあるようだが(『科学の女性差別とたたかう』もアンフェアな内容ではあったと思うけれど)、進化心理的な考え方を前提とした人の多くはバロン=コーエンに好意的だ。
実のところ、男女の違いが脳に由来するかどうかはさして重要でなくて、原因となる具体的な生理的メカニズムがなんであろうと、男女には平均的な傾向の違いが生得的に存在するという結果があることと、それぞれの違いには進化的に説明がつけられること(繁殖戦略の違い)、のほうが重要であるのだ。だから、議論を「脳科学」に狭めて証拠が出ている出ていないなどとやるのもけっこう筋違いなのである。じゃあ脳のせいじゃなかったらどんなメカニズムやねんと言われると、わたしは科学者じゃないからわかんない。
『生きづらさはどこから来るか』では一卵性双生児研究を用いた諸々の性格・能力特性の遺伝率が示されている図がいちばん面白かった(パーソナリティ特性のビッグ・ファイヴでは「経験への解放性」がいちばん遺伝率が低い、というのもなんだか示唆的)。また、「男性性」と「女性性」はもとから男女それぞれに存在すること、女性性が高い男性になることや男性性が高い女性になることにも遺伝が関わっていること、なども示されている点が特徴的だ。
幸福感や「自分さがし」に関する議論など、タイトル通りに「生きづらさ」というとピックにも触れられている。しかしこの点に関しては『「生きにくさ」はどこからくるのか』のほうがずっと内容が深いかな(しかしややこしいタイトルだな)*3。
『進化心理学入門』のほうは、タイトル通りのかちっとした入門書という感じ。デビッド・バスの研究を引用しながら「女性の上方婚志向」や「男性の若い女フェチ」なども示されているので、そういう話題が好きな人も読んでみるとよいだろう。