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道徳的動物日記

動物や倫理学やアメリカについて勉強したことのある人の日記です。

「警官による黒人の殺害(の大半)は偏見が原因ではない」 by リー・ジュシム

時事問題 心理学

 

heterodoxacademy.org

 

 リー・ジュシムがHeterodox Academyに掲載した短めの記事を私訳して紹介(一文が長くて日本語にしづらい箇所は、文章の順番を変えたり意訳したりしている)。

 ジュシムはステレオタイプについて研究している社会心理学者だが、ステレオタイプの不正確さではなくステレオタイプの正確さをテーマにしているのが特徴。自身のブログでは、社会心理学や社会科学全般が左派に偏っていることについて、よく苦言を呈している*1

 

「警官による黒人の殺害(の大半)は偏見が原因ではない」 by リー・ジュシム

 

 なんらかの不利益を被ることについて被害者の属性による差異(gap)が統計的に存在する時には、偏見を抱いた人々による現在進行形の差別が原因である、という反射的で型にはまった説明がされることが多い(偏見とは無意識に抱かれているものであると仮定されていることが多いが、そのような無意識が存在しているという証拠が示されることはほとんど無い)。少なくとも、私と同じように社会心理学を研究している人たちの大半はそう説明するし、おそらく他の学問分野の多くでも偏見による差別だと説明されているだろう。

 例えば、社会心理学では「射撃者バイアス(shooter bias)」として説明される。リアリティのあるテレビゲームを用いた多くの研究によって、人々は武装していない白人よりも武装していない黒人を撃ちやすい、ということが示されている。STEM(理系分野)におけるジェンダー・ギャップも、偏見によって説明される(他の要素もジェンダー・ギャップに影響していること、それもおそらく偏見よりも強い影響を与えていることを示す豊富な証拠が存在しているのにも関わらずだ)。

 そして、つい最近のニューヨークタイムス日曜版のビジネス欄でも、私は物事が偏見によって説明されている事例を発見した*2

 記事では、警官個人の偏見に基づいた殺害の証拠(evidence)について書かれている。そして、警官がある人を呼び止めた時にその人を殺害する割合は、その人が他の人々(白人など)であった場合に比べてその人が黒人であった場合に偏って高くなる、ということを証拠が予測していると論じられている。

 たしかに、その現象は起こっている…だが、警官による殺害の黒人/白人の比率のうち5分の1しか説明していない。つまり、上記の証拠は、残りの5分の4の事例について説明することができていないのだ。残りの事例の大半は、警官が黒人を呼び止める(stop)割合は白人を呼び止める割合よりもずっと高い、ということが理由で起きているらしい。

 「しかし」とあなたは考えているかもしれない。「警官が白人よりも黒人を多く呼び止めること自体が、偏見に基づいているのではないか?」。多少は、偏見に基づいている可能性もある。しかし、警官が人を呼び止めることは、大半は以下の事柄に基づいているのだ。

 

 1・警官が駐在している場所。アメリカは、現在でも人々の集団がかなり分離しながら暮らしている国である。だから、人種的な均質性が高い地域に警官が駐在している場合、警官が抱いている偏見は、彼が誰を呼び止めるかということの説明にならない。

 2・犯罪容疑者についての記述(description)。容疑者についての記述は、犯罪の被害者が報告したものに基づいている。そして、被害者の報告における黒人加害者の割合は、警官に呼び止められることについての黒人/白人との差に近似している。

 

  例によって、偏見は無関係だという訳ではない。しかし、例によって、左派の社会科学による偏見と解放の物語(liberation narratives)への執着が、明らかに重要で深刻な社会問題について典型的だが極めて視野の狭い方法で理解しようとすることに導いてしまったようだ。(訳注:警官による黒人の殺害を偏見によって説明することに)異様なまでの時間・注目・労力・資源を注ぎ込んで、大量の機会費用を払ってしまったために、警官による黒人の殺害のより大きく重要な原因を理解することに失敗してしまったのだ。

 例によって、問題に対処するには観点の多様性が必要となる。黒人と白人との「殺害ギャップ」の原因を特定するためには、偏見だけで説明しようとしない非・左派的なアプローチも含まれるべきなのだ。

 

 

Social Perception and Social Reality: Why Accuracy Dominates Bias and Self-Fulfilling Prophecy

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