道徳的動物日記

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2020-01-01から1年間の記事一覧

左派の思想と自己啓発が相反する理由(読書メモ:『生き抜くための12のルール:人生というカオスの解毒剤』)

人生というカオスのための解毒剤 生き抜くための12のルール 作者:ジョーダン・ピーターソン 発売日: 2020/07/07 メディア: Kindle版 海外では大ベストセラーになった本であり、日本でも熱心に薦める人が何人かいたので、ほしいものリストから送ってもらった…

ケアの倫理と二層理論/「アイデンティティ哲学」がつまらない理由

link.springer.com ヘルガ・クーゼ、ピーター・シンガー、モーリス・リカードによる共著論文 "Reconciling Impartial Morality and a Feminist Ethic of Care" (「公平な道徳と、フェミニストによるケアの倫理を調和させる」)を読んだのでメモ的に内容を記…

女性のための進化心理学?:『ジェンダーの終わり』読書メモ(2)

The End of Gender: Debunking the Myths about Sex and Identity in Our Society (English Edition) 作者:Soh, Debra 発売日: 2020/08/04 メディア: Kindle版 先日の記事で書いたように、『ジェンダーの終わり:性とアイデンティティに関する迷信を暴く』で…

読書メモ:『ジェンダーの終わり:性とアイデンティティに関する迷信を暴く』(1)

The End of Gender: Debunking the Myths about Sex and Identity in Our Society (English Edition) 作者:Soh, Debra 発売日: 2020/08/04 メディア: Kindle版 裏表紙の賞賛コメントには『人間の本性を考える: 心は「空白の石版」か』の著者でもあるスティー…

読書メモ:『恋人選びの心:性淘汰と人間性の進化』

恋人選びの心―性淘汰と人間性の進化 (1) 作者:ジェフリー・F.ミラー 発売日: 2002/07/15 メディア: 単行本 davitrice.hatenadiary.jp 『Virtue Signaling』の書評で書いたようにわたしはジェフリー・ミラーは文筆家としてはあまり好ましく思っていないところ…

スピーチ・コードはニューロダイバーシティに反しているのか?

davitrice.hatenadiary.jp 先ほど書いた記事ではジェフリー・ミラーの『Virtue Signaling:Essays on Darwinian Politics & Free Speech』の辛口な感想を書いたが、この本のなかでも「The Neurodiversity Case for Free Speech(ニューロダイバーシティの観点…

ひとこと感想:『Vitrtue Signaling: Essays on Darwinian Politics & Free Speech』

Virtue Signaling: Essays on Darwinian Politics & Free Speech (English Edition) 作者:Miller, Geoffrey 発売日: 2019/09/18 メディア: Kindle版 以前からすこし気になっていた本であり、ほしいものリストから頂いたので、読んだ。しかし、贈ってくれた方…

読書メモ:『<効果的な利他主義>宣言!:慈善活動への科学的アプローチ』

〈効果的な利他主義〉宣言! ――慈善活動への科学的アプローチ 作者:ウィリアム・マッカスキル 発売日: 2018/11/02 メディア: 単行本 この本についてはこちらの記事でも紹介した。 davitrice.hatenadiary.jp また、「効果的な利他主義」の考え方そのものについ…

読書メモ:『孤独の科学:人はなぜ寂しくなるのか』

孤独の科学---人はなぜ寂しくなるのか 作者:ウィリアム・パトリック,ジョン・T・カシオポ 発売日: 2010/01/20 メディア: 単行本 トマス・ジョイナーの『Lonley at the Top』と同じく「孤独」が人の心身に与える悪影響について書かれた本であるが、ジョイナー…

「ナオミ・クライン的なるもの」に対するジョセフ・ヒースの解毒剤

「経済学101」では、政治や経済について論じるカナダの哲学者、ジョセフ・ヒースのブログも訳されている。 econ101.jp econ101.jp 上記の記事ではどちらもかなり重要なことが書かれていると思うが、その一方で(特に日本の読者にとっては)さして重要でな…

道徳の問題は科学的に、定量的に考えなければいけない理由

〈効果的な利他主義〉宣言! ――慈善活動への科学的アプローチ 作者:ウィリアム・マッカスキル 発売日: 2018/11/02 メディア: 単行本 ビル・ゲイツやウォーレン・バフェットが実践していることでも有名な「効果的な利他主義」について書かれた本。パート1では…

読書メモ:『自殺の対人関係理論:予防・治療の実践マニュアル』

※自殺について扱っている記事なので要注意 この本の代表著者のトマス・ジョイナーは Why People Die by Suicide や Lonley at the Top の著者でもあり、このブログでもこれまでに何度か取り上げてきた*1。ジョイナーの本で邦訳が出ているのはいまのところこ…

「ラディカル」な議論が左翼やフェミにウケる理由(読書メモ:『荷を引く獣たち:動物の解放と障害者の解放』)

荷を引く獣たち: 動物の解放と障害者の解放 作者:テイラー,スナウラ 発売日: 2020/09/10 メディア: 単行本 版元による紹介はこんな感じ。 スナウラ・テイラーは、一人の障害当事者として、障害者運動と動物の権利運動の担い手として、そして一人の芸術家とし…

読書メモ:『モラル・トライブズ:共存の道徳哲学へ』

きのうからはじまった某所での連載の次々回くらいの原稿の元ネタとして『モラル・トライブズ:共存の道徳哲学へ』を借りて読み直しているうちに、図書館からお怒りの電話が来てしまった。 しかし『モラル・トライブズ』は細部まで刺激と啓発に満ちたおもしろ…

「男性同士のケア」が難しい理由

男同士の絆―イギリス文学とホモソーシャルな欲望― 作者:イヴ・K・セジウィック 発売日: 2001/02/20 メディア: 単行本 近頃では、「これからは男性同士でもケアし合わなければならない」と言った主張がちらほらとされるようになっている。 この主張がされる文…

ジェンダー論が男性を救わない理由

Lonely at the Top: The High Cost of Men's Success 作者: Thomas Joiner Ph.D. 出版社/メーカー: St. Martin's Press 発売日: 2011/10/25 メディア: Kindle版 この商品を含むブログを見る 思うところあって、トマス・ジョイナーの『Lonely at the Top: The…

アファーマティブ・アクションとクオータ制が支持されない理由

The Coddling of the American Mind: How Good Intentions and Bad Ideas Are Setting Up a Generation for Failure (English Edition) 作者:Lukianoff, Greg,Haidt, Jonathan 発売日: 2018/09/04 メディア: Kindle版 前回に引き続き、先日から、社会心理学…

「インターセクショナリティ」が対立を招く理由

The Coddling of the American Mind: How Good Intentions and Bad Ideas Are Setting Up a Generation for Failure (English Edition) 作者:Lukianoff, Greg,Haidt, Jonathan 発売日: 2018/09/04 メディア: Kindle版 先日から、社会心理学者ジョナサン・ハ…

人種は存在しない…のか?

gendai.ismedia.jp 上記の記事は3ヶ月前のものだ。ブコメは現時点で30ほどしか付いていないが、わたしを含めて、違和感を表明しているコメントが多い。 特に違和感があるのは、やはり、「人種は存在しない、あるのはレイシズムだ」というタイトルだろう。こ…

読書メモ:『ブルシット・ジョブ:クソどうでもいい仕事の理論』

ブルシット・ジョブ――クソどうでもいい仕事の理論 作者:デヴィッド・グレーバー 発売日: 2020/07/30 メディア: 単行本 はじめに断っておくと、わたしはこの本をフラットな状態で読みはじめたわけではない。『隠された奴隷制』でデヴィッド・グレーバー(やジ…

読書メモ:『階級「断絶」社会アメリカ』

階級「断絶」社会アメリカ: 新上流と新下流の出現 作者:チャールズ・マレー 発売日: 2013/02/21 メディア: 単行本 数年ぶりの再読。アメリカの「階級」に関する話題はトランプ当選以降に注目されるようになって、わたしもいくつかそれらの本の感想を書いてき…

現実の問題を解決することから遠ざかるラディカリズム(『反逆の神話』読書メモ:後半)

反逆の神話:カウンターカルチャーはいかにして消費文化になったか 作者:ジョセフ・ヒース,アンドルー・ポター 発売日: 2014/09/24 メディア: 単行本(ソフトカバー) カウンターカルチャー的な分析からは、決まったパターンが浮かびあがってくる。社会問題は…

覚え書き:ポストモダンの「ごにょごにょ規範主義」、サンドバッグとしてのネオリベラリズム(と優生思想)

davitrice.hatenadiary.jp econ101.jp 先ほどの記事でジョセフ・ヒースの「『批判的』研究の問題」を取り上げたことなので、この記事から面白いところをいくつか引用しよう。 さっき言ったように,「批判的社会科学」の志は,たんに規範的な決意に導かれた社…

ポストモダンの右と左

真実の終わり 作者:ミチコ・カクタニ 発売日: 2019/06/05 メディア: 単行本 ようやく『真実の終わり』が図書館で借りれるようになったので、パラパラと読んでみた。内容としては大したことがなくて、HONZの書評にまとめられている以上のものはほとんど得られ…

読書メモ:『反逆の神話:カウンターカルチャーはいかにして消費文化になったか』(前半)

反逆の神話:カウンターカルチャーはいかにして消費文化になったか 作者:ジョセフ・ヒース,アンドルー・ポター 発売日: 2014/09/24 メディア: 単行本(ソフトカバー) 数年ぶりに読み返しているが、やはり面白い。著者であるヒースの嫌味さや性格の悪さが存分…

使える倫理は、つまらない(読書メモ:『動物倫理の新しい基礎』)

動物倫理の新しい基礎 作者:ローリン,バーナード 発売日: 2019/12/01 メディア: 単行本 この本のスタンスは、序章となる「新しい動物倫理の必要性」の最後の段落に、おおむねまとまっているだろう。 たとえば、功利主義的理由のためにシンガー自身が、産業的…

「安楽死」をめぐる議論のおかしな構造

7月23日に京都のALS嘱託殺人が発覚して医師二人が逮捕された事件を受けて、メディアやネット上でも安楽死に関する議論が盛んにおこなわれた。当初は、事件の特異性から「この事件をきっかけに安楽死についての議論を行うこと自体を、避けるべきである」とい…

覚え書き:「被害者性の文化」と「美徳シグナリング」

(深夜に突貫で書いた記事なので、かなりグダグタな内容になっている) ポリティカル・コレクトネスとそれが引き起こす問題は様々な場面に存在している。このブログでは主にアカデミアにおけるポリコレの問題を扱ってきたし、今年からはじめた映画日記の方で…

「反ポリコレ」とKKKや反ユダヤ主義は結び付いている…… かもしれない(読書メモ:『白人ナショナリズム:アメリカを揺るがす「文化的反動」』)

白人ナショナリズム アメリカを揺るがす「文化的反動」 (中公新書) 作者:渡辺靖 発売日: 2020/05/29 メディア: Kindle版 同じ著者の前著『リバタリアニズム:アメリカを揺るがす自由市場主義』では、表面上では客観的・中立に扱っている風でありながらも政治…

読書メモ:『「勤労青年」の教養文化史』

「勤労青年」の教養文化史 (岩波新書) 作者:福間 良明 発売日: 2020/04/18 メディア: 新書 タイトル通り歴史(文化史)に関する本であり、歴史に関する本ってひとくちにまとめたり感想を書いたりするのが難しいものだが、この本は「プロローグ」に書かれてい…