道徳的動物日記

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フェミニズム

「思いやり」があれば正しいってもんか?(読書メモ:『ケアの倫理と共感』)

ケアの倫理と共感 作者:マイケル・スロート 勁草書房 Amazon この本は邦訳の発売直後、2021年の年末に当時もらった図書カードで購入済だったのだが積んでいたところ、先日の日本哲学会のワークショップに向けて、『もうひとつの声で』に続いて読んだ、という…

日本哲学会ワークショップ「動物倫理とフェミニズム・ジェンダー」で発表してきました

時間なくて原稿の60%くらい読み上げられなくて超飛ばし飛ばしになったり、プリント代をケチって5部しかレジュメ用意しなかったら全く足りなかったりと、わたしの発表はちょっと(かなり)グダグダになってしまいましたが(質疑応答は充実していたと思いま…

読書メモ:『もうひとつの声で 心理学の理論とケアの倫理』

もうひとつの声で──心理学の理論とケアの倫理 作者:キャロル・ギリガン 風行社 Amazon 言わずとしれた、「ケアの倫理」を最初に提唱した元祖的な本。このブログの以前の記事でねだったら購入してもらえましたので読みました*1。また、この本を読むために、批…

ローリー・グルーエンの「からまりあう共感」論(読書メモ:『アニマル・スタディーズ 29の基本概念』②)

アニマル・スタディーズ29の基本概念 平凡社 Amazon 本書の編者でもある倫理学者のローリー・グルーエンは、第9章「共感」を執筆している。 この章の議論はグルーエンの単著 Entangled Empathy: An Alternative Ethic for Our Relationships with Animals …

読書メモ:『フェミニストの理論』

フェミニストの理論 作者:ジョゼフィン ドノヴァン 勁草書房 Amazon davitrice.hatenadiary.jp 先日に英語論文を読んだジョゼフィン・ドノヴァンが1985年に書いた単著の『フェミニストの理論』がAmazonで安く売っていたので、せっかく論文を読んだのというの…

フェミニズムと動物:まとめと批判

An Introduction to Animals and Political Theory (The Palgrave Macmillan Animal Ethics Series) (English Edition) 作者:Cochrane, Alasdair Palgrave Macmillan Amazon 先日に引き続き、「フェミニズムと動物倫理」というテーマでお勉強。 今回は政治哲…

読書メモ:「動物の権利とフェミニズム理論」

The Feminist Care Tradition in Animal Ethics: A Reader Columbia University Press Amazon Animal Rights and Feminist Theory - JSTOR 唐突に思われそうだが、本日から一時的に動物倫理に関する文献を読んで読書メモをここに書くターンに突入する。……と…

ミソジニー論客たちのエコーチェンバー

お嬢さんと嘘と男たちのデス・ロード ジェンダー・フェミニズム批評入門 作者:北村 紗衣 文藝春秋 Amazon 大して話題になっている問題でもないが、つい気になってしまってTwitterで言及してしまったので、ブログのほうでも考えを残しておく。 togetter.com …

フェミニズムの「むずかしさ」に向き合う(読書メモ:『むずかしい女性が変えてきた:あたらしいフェミニズム史』)

むずかしい女性が変えてきた――あたらしいフェミニズム史 作者:ヘレン・ルイス みすず書房 Amazon 出版社による紹介は下記の通り。 女性が劣位に置かれている状況を変えてきた女性のなかには、品行方正ではない者がいた。危険な思想に傾く者も、暴力に訴える…

賃金と「社会の認識」は関係あるのか?(読書メモ:『資本主義が嫌いな人のための経済学』②)

資本主義が嫌いな人のための経済学 作者:ジョセフ・ヒース NTT出版社 Amazon 『資本主義が嫌いな人のための経済学』の第10章のテーマは「同一賃金」であり、「貧困に対策するためには最低賃金を上げなければいけない」や「男女の賃金格差を是正するために…

ケイパビリティとしての恋愛・結婚(読書メモ:『女性と人間開発 潜在能力アプローチ』)

女性と人間開発 潜在能力アプローチ (岩波オンデマンドブックス) 作者:マーサ・C. ヌスバウム 岩波書店 Amazon ヌスバウムによるケイパビリティ(潜在能力)アプローチの説明は、下記の通り。 ケイパビリティ・アプローチが問う中心的課題は、「バサンティ(…

社会は「男性の幸福度の低さ」について配慮するべきか?

新版 現代政治理論 作者:W. キムリッカ 日本経済評論社 Amazon 最近はキムリッカの『現代政治理論』をじっくりと読んでいたのだが、最終章の「フェミニズム」の章で、近頃の日本(のネット上)における議論にとっていろいろと示唆に富む箇所があったので、か…

「非モテ」は「モテないからつらい」、ではない?(読書メモ:『「非モテ」からはじめる男性学』)

「非モテ」からはじめる男性学 (集英社新書) 作者:西井開 集英社 Amazon 第一章で提示される、本書のねらいは以下の通り。 ……登場してから二〇年以上もの間、「非モテ」論は主にネットを中心として議論と考察が繰り返されてきた。その蓄積に敬意を払うと同時…

著書『21世紀の道徳』が出版されます

Amazonの予約ページはこちら。 初の著書が出版されます。帯文は東浩紀さんからいただきました(現代哲学を「政治的正しさ」の呪縛から解放する快著、とのことです)。 このブログにいままで書いてきたことをブラッシュアップして、本格的な論考にして、本と…

「女性差別的な文化を脱するために」オープンレターについての雑感

sites.google.com davitrice.hatenadiary.jp 先ほどの記事の続き的な内容。先ほどの記事ではオープンレターが持つ「効果」や「意図」について論じたが、こちらでは、オープンレターに書かれている内容自体について思うところを書いてみる。 このような呼びか…

反合理主義としてのフェミニズム(『啓蒙思想2.0』読書メモ③)

啓蒙思想2.0―政治・経済・生活を正気に戻すために 作者:ジョセフ・ヒース NTT出版 Amazon ジョセフ・ヒースはカナダ人であるけれど、『啓蒙思想2.0』における彼の問題意識は、ティーパーティーに代表されるように近年のアメリカで不合理で反動的な右派の運動…

読書メモ:『生きづらさはどこから来るかー進化心理学で考える』&『進化心理学入門』

生きづらさはどこから来るか―進化心理学で考える (ちくまプリマー新書) 作者:石川 幹人 筑摩書房 Amazon 進化心理学入門 (心理学エレメンタルズ) 作者:ジョン・H. カートライト 新曜社 Amazon 図書館の返却期限が迫っていたので、あわてて読んで返した(とは…

「男性のセルフケア」論についての雑感

gendai.ismedia.jp なんとなく上記の記事を眺めていたら色々とひっかかるところがあり、以前からのわたしの問題意識や関心とも関連している内容でもあるので、思うところをメモしていく*1。 現代社会における「男らしさ」は多様化していますが、それでも「男…

文芸時評って意味あるの?

わざわざブログ記事にするほどの内容でもないんだけれど、しばらくTwitterに書き込むことはお休みすることにしたので、こっちに書く。 togetter.com この件が話題なので、朝日新聞にログインして、問題の文芸時評を読んでみた。 www.asahi.com 読んでみて思…

さいきん読んだ本シリーズ:『手の倫理』とか

●『手の倫理』 手の倫理 (講談社選書メチエ) 作者:伊藤亜紗 講談社 Amazon 著者はたぶん自分の主張をなんらかの「主義」や「理論」に還元して解釈されること自体を嫌がるだろうけれど、あえてそうしてしまうと、「ケアの倫理」や「状況主義」に近いものだろ…

「正しい怒り」は存在するか?(読書メモ:『怒りの人類史:ブッダからツイッターまで』)

怒りの人類史 作者:バーバラ H ローゼンウェイン 青土社 Amazon 「人類史」とは書いてあるが、内容は思想史のそれ。主に西洋で「怒り」という情動とはどのようにみなされてどのように扱われてきたか、ということが論じられている。 第一部では怒りを否定する…

「恋愛」とは自然なものなのか(読書メモ:『女と男のだましあい:ヒトの性行動の進化』)

女と男のだましあい―ヒトの性行動の進化 作者:デヴィッド・M. バス メディア: 単行本 原著は1994年、邦訳も2000年とかなり古く、進化心理学の本のなかでは「古典」の部類に入るものだ。そして、古典なだけあって、進化心理学の考え方のなかでももっとも基本…

読書メモ:マーサ・ヌスバウムによる「性的モノ化」論

davitrice.hatenadiary.jp ↑ ひと月ほど前にこのブログに掲載した記事でも間接的に取り上げた、マーサ・ヌスバウムによる「性的モノ化」論文について、以下の書籍に収録されているバージョンを読んでみたので、感想や考えたことを書いておこう。 Sex and Soc…

「弱者男性」でありたがることのなにが問題か

gendai.ismedia.jp ↑ 「弱者男性論」に関するわたしの記事が講談社現代ビジネスに掲載されてからちょうど一ヶ月になるが、この記事をきっかけに「弱者男性論」が盛り上がったようで、SNSや個人ブログに匿名ダイアリーなどで、弱者男性について書かれた文章が…

能力主義は魅力的である(読書メモ:『実力も運のうち』②)

実力も運のうち 能力主義は正義か? 作者:マイケル サンデル 発売日: 2021/04/14 メディア: Kindle版 前回の記事で論じたように、サンデルによる能力主義批判の核心は、能力主義が人々の「心情」に与える影響についての議論にある。 生まれ落ちた環境のちが…

やっぱり恋愛には"能力"が必要だよね(読書メモ:『性の倫理学』)

現代社会の倫理を考える〈12〉性の倫理学 (現代社会の倫理を考える (12)) 作者:田村 公江 発売日: 2004/12/01 メディア: 単行本 基本的にはあまり面白くもなく、参考にもならない本だ。 日本の応用倫理というものは古びるのが異様に早くて、90年代やゼロ年代…

「愛のあるセックス」はなぜ必要か(読書メモ:『性と愛の脳科学』)

性と愛の脳科学 新たな愛の物語 作者:ラリー・ヤング,ブライアン・アレグザンダー 発売日: 2015/12/09 メディア: 単行本 この本の概要については先日の記事でさくっと触れているので、いきなり本題から*1。 この本でまず面白かったのが、第4章から第6章に…

「そんな動物みたいなことするなよ」

性と愛の脳科学 新たな愛の物語 作者:ラリー・ヤング,ブライアン・アレグザンダー 発売日: 2015/12/09 メディア: 単行本 『性と愛の脳科学』はたしか2015年の前半に英語版の原著(The Chemistry Between Us: Love, Sex, and the Science of Attraction)を半…

恋人と友人はどうちがうのか

32歳にもなってこんなタイトルの文章をいちいち書きたくもないんだけれど。 davitrice.hatenadiary.jp 前回の記事では「男性からの女性に対する恋愛的なコミュニケーションには、積極的に関わろうとすればその行為が加害になってしまうリスクがあるが、消…

道徳と恋愛は相性が悪い

道徳形而上学の基礎づけ (光文社古典新訳文庫) 作者:カント 発売日: 2013/12/20 メディア: Kindle版 先日に「性的モノ化」についてあーだこーだ書いたが、それと関連しているかもしれない内容。 フェミニズムとかジェンダー論とかが市井に浸透して、男性たち…