道徳的動物日記

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時事問題

フェミニズムの「むずかしさ」に向き合う(読書メモ:『むずかしい女性が変えてきた:あたらしいフェミニズム史』)

むずかしい女性が変えてきた――あたらしいフェミニズム史 作者:ヘレン・ルイス みすず書房 Amazon 出版社による紹介は下記の通り。 女性が劣位に置かれている状況を変えてきた女性のなかには、品行方正ではない者がいた。危険な思想に傾く者も、暴力に訴える…

ネット論客がインテリから相手にされない理由

davitrice.hatenadiary.jp (6月23日 21:45追記) 最初のタイトルには個人名を入れていましたが、記事のタイトルを「(個人名)が〜から相手にされない理由」にすることはあまりに個人攻撃的に過ぎるという指摘を受けて、同意しましたので、タイトル…

「世の中の理不尽さ」や「不都合な真実」を強調して、それでどうするの?(読書メモ:『ただしさに殺されないために』)

ただしさに殺されないために~声なき者への社会論 作者:御田寺圭 大和書房 Amazon いま執筆を進めている「反ポリコレ本」の参考になるかと思って『ただしさに殺されないために〜声なき者への社会論』を読んでいるけれど、案の定、まったく面白くない。 Amazo…

公正価格の誤謬、「ホモ・エコノミクス」批判批判(読書メモ:『資本主義が嫌いな人のための経済学』③)

資本主義が嫌いな人のための経済学 作者:ジョセフ・ヒース NTT出版社 Amazon ● 第7章「公正価格の誤謬」から。 あえて私の考えを言えば、左派または人類の味方とすら辞任する御仁にとって、豊かな工業化社会で食住をあがえない人がいるのはいるのは許し…

ケイパビリティとしての恋愛・結婚(読書メモ:『女性と人間開発 潜在能力アプローチ』)

女性と人間開発 潜在能力アプローチ (岩波オンデマンドブックス) 作者:マーサ・C. ヌスバウム 岩波書店 Amazon ヌスバウムによるケイパビリティ(潜在能力)アプローチの説明は、下記の通り。 ケイパビリティ・アプローチが問う中心的課題は、「バサンティ(…

社会は「男性の幸福度の低さ」について配慮するべきか?

新版 現代政治理論 作者:W. キムリッカ 日本経済評論社 Amazon 最近はキムリッカの『現代政治理論』をじっくりと読んでいたのだが、最終章の「フェミニズム」の章で、近頃の日本(のネット上)における議論にとっていろいろと示唆に富む箇所があったので、か…

「弱いものいじめ」としてのキャンセル・カルチャー

s-scrap.com 晶文社の連載で先日に書いた内容の続編的なものを書くために、キャンセル・カルチャーに関する洋書をいくつか取り寄せてもらって読んでいる。 そのうちの一冊が『Cancel This Book: The Progressive Case Against Cancel Culture(本書をキャン…

「非モテ」は「モテないからつらい」、ではない?(読書メモ:『「非モテ」からはじめる男性学』)

「非モテ」からはじめる男性学 (集英社新書) 作者:西井開 集英社 Amazon 第一章で提示される、本書のねらいは以下の通り。 ……登場してから二〇年以上もの間、「非モテ」論は主にネットを中心として議論と考察が繰り返されてきた。その蓄積に敬意を払うと同時…

リベラルが「分裂」する理由(読書メモ:『リベラル再生宣言』)

リベラル再生宣言 (早川書房) 作者:マーク リラ 早川書房 Amazon マーク・リラの「アイデンティティ・リベラリズム」論についてはトランプ当選直後の記事を自分で訳した*1。『リベラル再生宣言』も以前に図書館で借りて読んだことはあるが、メモを取るために…

「徳」とアイデンティティ(再読メモ:『IDENTITY:尊厳の欲求と憤りの政治』)

IDENTITY (アイデンティティ) 尊厳の欲求と憤りの政治 作者:フランシス・フクヤマ 朝日新聞出版 Amazon 以前にもこのブログで何度か扱ってきた本なので、簡潔にメモ。 ・女性が同一賃金を求める理由について「メガロサミア(優越願望)」の観点から説明して…

保守の道徳はリベラルより「広い」のか?(『社会はなぜ左と右にわかれるのか』読書メモ①)

社会はなぜ左と右にわかれるのか――対立を超えるための道徳心理学 作者:ジョナサン・ハイト 紀伊國屋書店 Amazon ジョナサン・ハイトの『社会はなぜ左と右にわかれるのか:対立を越えるための道徳心理学』は、大学院生のころに原著の The Righteous Mind のほ…

インターネットで「言論」は成立するか?(『啓蒙思想2.0』読書メモ⑦)

啓蒙思想2.0―政治・経済・生活を正気に戻すために 作者:ジョセフ・ヒース NTT出版 Amazon 政治的言説の質にインターネットが与える長期的な影響はまだはっきりとわからない。これはテクノロジーが急速に変化しているからでもあり、伝統的なメディアーー特に…

ファストフードとゲームは依存を悪化させて健康と時間を奪う(『啓蒙思想2.0』読書メモ⑥)

啓蒙思想2.0―政治・経済・生活を正気に戻すために 作者:ジョセフ・ヒース NTT出版 Amazon 『啓蒙思想2.0』の主なテーマは「非合理化する政治」であるが、現代社会では、政治に限らずわたしたちの「生活」全般が、非合理なものとなっている。 これまでの記事…

左派が「共感」に訴えられない理由(『啓蒙思想2.0』読書メモ⑤)

啓蒙思想2.0―政治・経済・生活を正気に戻すために 作者:ジョセフ・ヒース NTT出版 Amazon 『啓蒙思想2.0』では、政治や言論をめぐるアメリカの状況がとにかく「不合理」なものとなっていることが、繰り返し指摘されている。ヒースは、現在における「不合理」…

「女性差別的な文化を脱するために」オープンレターについての雑感

sites.google.com davitrice.hatenadiary.jp 先ほどの記事の続き的な内容。先ほどの記事ではオープンレターが持つ「効果」や「意図」について論じたが、こちらでは、オープンレターに書かれている内容自体について思うところを書いてみる。 このような呼びか…

「犬笛」としてのオープンレター

sites.google.com 「女性差別的な文化を脱するため」のオープンレターはもう半年以上前に発表されたものだけれど、このオープンレターで取り上げられている呉座勇一氏が日文研から「停職一か月」や「準教授取り消し」の処分を受けたこと、そしてその処置が不…

「特権」概念の不毛さ

somethingorange.biz 上記は海燕氏によるブログ記事。 二週間前の記事だけど、下記について、思うところを書いてみよう。 つまり、「ホワイト・フラジリティ」とか「マイクロ・アグレッション」とは、ある体制において特権を持つマジョリティ(この場合は白…

「男性のセルフケア」論についての雑感

gendai.ismedia.jp なんとなく上記の記事を眺めていたら色々とひっかかるところがあり、以前からのわたしの問題意識や関心とも関連している内容でもあるので、思うところをメモしていく*1。 現代社会における「男らしさ」は多様化していますが、それでも「男…

ネットリンチと「非難」の問題

ルポ ネットリンチで人生を壊された人たち (光文社新書) 作者:ジョン・ロンソン 光文社 Amazon 『ルポ ネットリンチで人生を壊された人たち』から引用する*1。 最初に何人かが「ジャスティン・サッコは悪人だ」と意見を述べた。その何人かに対して即座に称賛…

文芸時評って意味あるの?

わざわざブログ記事にするほどの内容でもないんだけれど、しばらくTwitterに書き込むことはお休みすることにしたので、こっちに書く。 togetter.com この件が話題なので、朝日新聞にログインして、問題の文芸時評を読んでみた。 www.asahi.com 読んでみて思…

「進化政治学」はそんなにおかしいのか?

www.asahi.com note.com 広島大学の伊藤隆太氏の発言が差別的であるとして問題視されており、それにあわせて、彼の研究分野である「進化政治学」も批判の対象となっている。 わたしの目から見ても伊藤氏の発言のうちのいくつかは差別的であり、解雇まで求め…

社会的制裁のなにがよくないのか

anond.hatelabo.jp 普段ははてな匿名ダイアリーの投稿にはあまり反応しないのだけれど、最近の事例についてはいろいろと思うところがあるので、昨日にTwitterに下記のような投稿をした。 社会的制裁を生み出すような道徳感情は集団や社会の秩序を維持したり…

経済的不平等のなにが悪いのか?(読書メモ:『21世紀の啓蒙:理性、科学、ヒューマニズム』)

21世紀の啓蒙 上:理性、科学、ヒューマニズム、進歩 作者:スティーブン・ピンカー 草思社 Amazon 原著が出たあとに寄せられた反論に対してピンカーが行なった再反論を紹介したり*1、現代ビジネスの記事でピンカーについて書いたりしたけれど*2、『21世紀の…

「弱者男性」でありたがることのなにが問題か

gendai.ismedia.jp ↑ 「弱者男性論」に関するわたしの記事が講談社現代ビジネスに掲載されてからちょうど一ヶ月になるが、この記事をきっかけに「弱者男性論」が盛り上がったようで、SNSや個人ブログに匿名ダイアリーなどで、弱者男性について書かれた文章が…

サンデル教授の「大学入試くじ引き論」

実力も運のうち 能力主義は正義か? 作者:マイケル サンデル 発売日: 2021/04/14 メディア: Kindle版 『実力も運のうち』の第六章「選別装置」で、サンデルは以下のような提案をしている(太字部分は強調のためにわたしがつけたもの)。 四万人超の出願者の…

能力主義は魅力的である(読書メモ:『実力も運のうち』②)

実力も運のうち 能力主義は正義か? 作者:マイケル サンデル 発売日: 2021/04/14 メディア: Kindle版 前回の記事で論じたように、サンデルによる能力主義批判の核心は、能力主義が人々の「心情」に与える影響についての議論にある。 生まれ落ちた環境のちが…

「共通善」で問題が解決できるなら苦労はしないよ(読書メモ:『実力も運のうち』①)

実力も運のうち 能力主義は正義か? 作者:マイケル サンデル 発売日: 2021/04/14 メディア: Kindle版 「能力主義」に対する批判には、二つのパターンが考えられる。「不徹底な能力主義」に対する批判と、「能力主義」そのものに対する批判だ。 学問的なもの…

「マイノリティの被害者意識」に関する議論のジレンマ

良き人生について―ローマの哲人に学ぶ生き方の知恵 作者:ウィリアム・B・アーヴァイン 発売日: 2013/09/11 メディア: 単行本 『良き人生について:ローマの哲人に学ぶ生き方の知恵』については以前にも紹介したが、あらためて、この本の第11章「侮辱」からち…

左派の思想と自己啓発が相反する理由(読書メモ:『生き抜くための12のルール:人生というカオスの解毒剤』)

人生というカオスのための解毒剤 生き抜くための12のルール 作者:ジョーダン・ピーターソン 発売日: 2020/07/07 メディア: Kindle版 海外では大ベストセラーになった本であり、日本でも熱心に薦める人が何人かいたので、ほしいものリストから送ってもらった…

女性のための進化心理学?:『ジェンダーの終わり』読書メモ(2)

The End of Gender: Debunking the Myths about Sex and Identity in Our Society (English Edition) 作者:Soh, Debra 発売日: 2020/08/04 メディア: Kindle版 先日の記事で書いたように、『ジェンダーの終わり:性とアイデンティティに関する迷信を暴く』で…