道徳的動物日記

倫理学、社会科学、時事問題、世相などについて論じます。

時事問題

「男性同士のケア」が難しい理由

男同士の絆―イギリス文学とホモソーシャルな欲望― 作者:イヴ・K・セジウィック 発売日: 2001/02/20 メディア: 単行本 近頃では、「これからは男性同士でもケアし合わなければならない」と言った主張がちらほらとされるようになっている。 この主張がされる文…

アファーマティブ・アクションとクオータ制が支持されない理由

The Coddling of the American Mind: How Good Intentions and Bad Ideas Are Setting Up a Generation for Failure (English Edition) 作者:Lukianoff, Greg,Haidt, Jonathan 発売日: 2018/09/04 メディア: Kindle版 前回に引き続き、先日から、社会心理学…

「インターセクショナリティ」が対立を招く理由

The Coddling of the American Mind: How Good Intentions and Bad Ideas Are Setting Up a Generation for Failure (English Edition) 作者:Lukianoff, Greg,Haidt, Jonathan 発売日: 2018/09/04 メディア: Kindle版 先日から、社会心理学者ジョナサン・ハ…

人種は存在しない…のか?

gendai.ismedia.jp 上記の記事は3ヶ月前のものだ。ブコメは現時点で30ほどしか付いていないが、わたしを含めて、違和感を表明しているコメントが多い。 特に違和感があるのは、やはり、「人種は存在しない、あるのはレイシズムだ」というタイトルだろう。こ…

読書メモ:『ブルシット・ジョブ:クソどうでもいい仕事の理論』

ブルシット・ジョブ――クソどうでもいい仕事の理論 作者:デヴィッド・グレーバー 発売日: 2020/07/30 メディア: 単行本 はじめに断っておくと、わたしはこの本をフラットな状態で読みはじめたわけではない。『隠された奴隷制』でデヴィッド・グレーバー(やジ…

読書メモ:『階級「断絶」社会アメリカ』

階級「断絶」社会アメリカ: 新上流と新下流の出現 作者:チャールズ・マレー 発売日: 2013/02/21 メディア: 単行本 数年ぶりの再読。アメリカの「階級」に関する話題はトランプ当選以降に注目されるようになって、わたしもいくつかそれらの本の感想を書いてき…

現実の問題を解決することから遠ざかるラディカリズム(『反逆の神話』読書メモ:後半)

反逆の神話:カウンターカルチャーはいかにして消費文化になったか 作者:ジョセフ・ヒース,アンドルー・ポター 発売日: 2014/09/24 メディア: 単行本(ソフトカバー) カウンターカルチャー的な分析からは、決まったパターンが浮かびあがってくる。社会問題は…

ポストモダンの右と左

真実の終わり 作者:ミチコ・カクタニ 発売日: 2019/06/05 メディア: 単行本 ようやく『真実の終わり』が図書館で借りれるようになったので、パラパラと読んでみた。内容としては大したことがなくて、HONZの書評にまとめられている以上のものはほとんど得られ…

読書メモ:『反逆の神話:カウンターカルチャーはいかにして消費文化になったか』(前半)

反逆の神話:カウンターカルチャーはいかにして消費文化になったか 作者:ジョセフ・ヒース,アンドルー・ポター 発売日: 2014/09/24 メディア: 単行本(ソフトカバー) 数年ぶりに読み返しているが、やはり面白い。著者であるヒースの嫌味さや性格の悪さが存分…

「安楽死」をめぐる議論のおかしな構造

7月23日に京都のALS嘱託殺人が発覚して医師二人が逮捕された事件を受けて、メディアやネット上でも安楽死に関する議論が盛んにおこなわれた。当初は、事件の特異性から「この事件をきっかけに安楽死についての議論を行うこと自体を、避けるべきである」とい…

「反ポリコレ」とKKKや反ユダヤ主義は結び付いている…… かもしれない(読書メモ:『白人ナショナリズム:アメリカを揺るがす「文化的反動」』)

白人ナショナリズム アメリカを揺るがす「文化的反動」 (中公新書) 作者:渡辺靖 発売日: 2020/05/29 メディア: Kindle版 同じ著者の前著『リバタリアニズム:アメリカを揺るがす自由市場主義』では、表面上では客観的・中立に扱っている風でありながらも政治…

ひとこと感想:『格差は心を壊す:比較という呪縛』

格差は心を壊す 比較という呪縛 作者:リチャード ウィルキンソン,ケイト ピケット 発売日: 2020/04/03 メディア: Kindle版 タイトル通り、経済の格差がわたしたちの心や健康にもたらす悪影響について論じて、経済格差が広がると社会的分断も広まって政治にも…

スティーブン・ピンカーとブラック・ライヴズ・マター

togetter.com ↑ 自分でまとめたこの件について、思うところをちょっと書いておこう。 ●今回はスティーブン・ピンカーという大物がターゲットになったことで話題になったが、アメリカのアカデミアにおける「キャンセル・カルチャー」の問題はいまに始まったこ…

ひとこと感想:『日本人のためのイスラエル入門』

日本人のためのイスラエル入門 (ちくま新書) 作者:洋, 大隅 発売日: 2020/03/06 メディア: 新書 著者はアカデミックな人物ではなく、外務省に入って在イスラエル日本大使館公使を数年間務めた経験のある外交官。というわけでこの本の内容もアカデミックなも…

ひとこと感想:『家族と仕事:日本はなぜ働きづらく、産みにくいのか』

仕事と家族 - 日本はなぜ働きづらく、産みにくいのか (中公新書) 作者:筒井 淳也 発売日: 2015/05/22 メディア: 新書 日本社会の少子化の原因を、日本の労働・雇用の環境や福祉制度などの特殊性に注目しながら分析する本。少子化の解決には男女共働きと育児…

ひとこと感想:『ルポ:技能実習生』

●『ルポ:技能実習生』 ルポ 技能実習生 (ちくま新書) 作者:澤田晃宏 発売日: 2020/05/15 メディア: Kindle版 世間では「奴隷労働」とか「騙されて日本に連れてこられた」というイメージの多い技能実習生制度だが、主にベトナムの技能実習生制度を扱ったこの…

読書メモ:『民主主義は終わるのか:瀬戸際に立つ日本』

民主主義は終わるのか 瀬戸際に立つ日本 (岩波新書) 作者:山口 二郎 発売日: 2020/02/27 メディア: Kindle版 民主党のブレーンでもあった左派的な政治学者が書いた本で、1990年代以降の日本の政治とか民主主義とかの問題点をまとめつつ、安倍政権を痛烈…

ひとこと感想:『働く女子のキャリア格差』&『若者は社会を変えられるか?』

●『働く女子のキャリア格差』 働く女子のキャリア格差 (ちくま新書) 作者:祥子, 国保 発売日: 2018/01/10 メディア: 新書 タイトルからして様々な属性の職業選択や出世に関する格差(地方と東京ではこんなに違う、大卒と非大卒とではこんなに違う、みたいな…

「トランプ支持者の白人労働者」について書かれた本をまとめて読んでみて…

ヒルビリー・エレジー~アメリカの繁栄から取り残された白人たち~ 作者:J・D・ヴァンス 発売日: 2017/03/24 メディア: Kindle版 新たなマイノリティの誕生―声を奪われた白人労働者たち 作者:ジャスティン・ゲスト 発売日: 2019/05/31 メディア: 単行本 壁…

「再分配に関心はあるが、政党には無関心」(読書メモ:『アンダークラス:新たな下層階級』)

アンダークラス (ちくま新書) 作者:健二, 橋本 発売日: 2018/12/06 メディア: 新書 同じ著者の『新・日本の階級社会』は以前に読んだが、その本から内容はあまり変わっていない。社会科学らしく統計情報が大量に出てくる本ではあるのだが、大量に出てくる図…

読書メモ:『アメリカを動かす「ホワイト・ワーキング・クラス」という人々』②

アメリカを動かす『ホワイト・ワーキング・クラス』という人々 世界に吹き荒れるポピュリズムを支える“真・中間層”の実体 作者:ジョーン・C・ウィリアムズ 発売日: 2017/08/25 メディア: 単行本 ●ワーキング・クラスの人種差別 カナーシーのワーキング・クラ…

労働者のエートスとエリートのエートス(読書メモ:『アメリカを動かす「ホワイト・ワーキング・クラス」という人々①』)

アメリカを動かす「ホワイト・ワーキング・クラス」という人々 世界に吹き荒れるポピュリズムを支える“真・中間層”の実体 (集英社学芸単行本) 作者:ジョーン・C・ウィリアムズ 発売日: 2017/10/27 メディア: Kindle版 2016年の大統領選では多くの人がヒラリ…

読書メモ:『金持ち課税:税の公正をめぐる経済史』

金持ち課税 作者:ケネス・シーヴ,デイヴィッド・スタサヴェージ 発売日: 2018/06/09 メディア: 単行本 公正さには多くの異なる意味があるだろうが、課税における公正さには共通する特徴がひとつある。それは、人びとは平等に扱わなければならないという考え…

道徳や規範を認識できない人たちについての省察

note.com みんなが批判している通りの酷い内容の記事である。特に以下の箇所がヤバい。 フェミニストという言葉はネットのごく一部の界隈でしか聞いたことがないので一体どこのイベントなのかと純粋に興味がありました。僕が参加するイベントでは一度も聞い…

「ていねいな暮らし」のなにが悪い?

www.webchikuma.jp 大塚英志による上記の記事は、はてブでも先日から人気記事となっておりおおむね好意的に受け止められているようだが、わたしは読んでいてモヤモヤ……というよりも「うんざり」という感情を抱いてしまった。 なので、わたしが共感するブコメ…

ネオリベラリズムとしてのエロティック・キャピタル

エロティック・キャピタル すべてが手に入る自分磨き 作者:キャサリン・ハキム 発売日: 2012/03/03 メディア: 単行本(ソフトカバー) 数年前に読んだ本であるが、思うところあって改めて再読。 「すべてが手に入る自分磨き」という邦訳版オリジナルの副題は…

読書メモ:『経済政策で人は死ぬか?:公衆衛生学から見た不況対策』

経済政策で人は死ぬか?: 公衆衛生学から見た不況対策 作者:デヴィッド スタックラー,サンジェイ バス 発売日: 2014/10/15 メディア: 単行本 邦訳が出たのは6年前であるが、コロナ禍により再注目されている。わたしは数年前にこの本をいちど通読していたが、…

「叩いていい存在」を叩く行為と、ネット民の幼児性について

oriza.seinendan.org 平田オリザ騒動についての雑感。 ある有名人が人の癇にさわるようなことを言う。わたし自身としてもその発言を見聞して不愉快な気持ちになり、身内との会話でその話題を出して文句を言ったり愚痴ったりすることもあれば、SNSにネガティ…

自己責任論の風景

www.univ.gakushuin.ac.jp ↑ 先日、上記の謝辞が話題になった。特に以下の部分が批判されている。 支えてくれた人もいるが、残念ながら私のことを大学に対して批判的な態度であると揶揄する人もいた。しかし、私は素晴らしい学績を収めたので「おかしい」こ…

捕鯨・文化の価値・動物倫理

動物愛護や動物の権利という話題に関すると、日本では「捕鯨問題」がイメージされることが多いようだ。実際、私が学生であった頃に「動物倫理や動物の権利について勉強している」と言ったときにも、「捕鯨問題についてはどういう意見を持っているんだ」と聞…