道徳的動物日記

倫理学、社会科学、時事問題、世相などについて論じます。

学問論

リベラルが「分裂」する理由(読書メモ:『リベラル再生宣言』)

リベラル再生宣言 (早川書房) 作者:マーク リラ 早川書房 Amazon マーク・リラの「アイデンティティ・リベラリズム」論についてはトランプ当選直後の記事を自分で訳した*1。『リベラル再生宣言』も以前に図書館で借りて読んだことはあるが、メモを取るために…

「徳」とアイデンティティ(再読メモ:『IDENTITY:尊厳の欲求と憤りの政治』)

IDENTITY (アイデンティティ) 尊厳の欲求と憤りの政治 作者:フランシス・フクヤマ 朝日新聞出版 Amazon 以前にもこのブログで何度か扱ってきた本なので、簡潔にメモ。 ・女性が同一賃金を求める理由について「メガロサミア(優越願望)」の観点から説明して…

生物学者に「道徳」は語れるか?(『社会はなぜ左と右にわかれるのか』+『社会はどう進化するのか』読書メモ)

社会はなぜ左と右にわかれるのか――対立を超えるための道徳心理学 作者:ジョナサン・ハイト 紀伊國屋書店 Amazon 〔ジョシュア・グリーンによる「カントの魂の密かなジョーク」論文に関して〕 これは統合知の格好の例である。ウィルソンは一九七五年に、「倫…

デュルーケム流功利主義とダーウィン左翼(『社会はなぜ左と右にわかれるのか』読書メモ②)

社会はなぜ左と右にわかれるのか――対立を超えるための道徳心理学 作者:ジョナサン・ハイト 紀伊國屋書店 Amazon 前回の記事ではジョナサン・ハイトによる「道徳基盤理論」をかなりディスって、『社会はなぜ左と右にわかれるのか』という本自体についても辛め…

保守の道徳はリベラルより「広い」のか?(『社会はなぜ左と右にわかれるのか』読書メモ①)

社会はなぜ左と右にわかれるのか――対立を超えるための道徳心理学 作者:ジョナサン・ハイト 紀伊國屋書店 Amazon ジョナサン・ハイトの『社会はなぜ左と右にわかれるのか:対立を越えるための道徳心理学』は、大学院生のころに原著の The Righteous Mind のほ…

著書『21世紀の道徳』が出版されます

Amazonの予約ページはこちら。 初の著書が出版されます。帯文は東浩紀さんからいただきました(現代哲学を「政治的正しさ」の呪縛から解放する快著、とのことです)。 このブログにいままで書いてきたことをブラッシュアップして、本格的な論考にして、本と…

現代だからこそパターナリズムが正当化される理由(『啓蒙思想2.0』読書メモ⑨)

啓蒙思想2.0―政治・経済・生活を正気に戻すために 作者:ジョセフ・ヒース NTT出版 Amazon 先日の記事でも述べたように、現代社会は、わたしたちの報酬系や認知バイアスの欠陥をついて健康と時間(とお金)を奪うような商品やシステムで溢れており、そういう…

「独学」がダメな理由(『啓蒙思想2.0』読書メモ⑧)

啓蒙思想2.0―政治・経済・生活を正気に戻すために 作者:ジョセフ・ヒース NTT出版 Amazon どうやって正気を取り戻すかを考えるとき、合理的思考の根本的な特徴をおさらいしておくことは役に立つ。時間がかかる。注意力が求められる。言葉に基づいている。意…

インターネットで「言論」は成立するか?(『啓蒙思想2.0』読書メモ⑦)

啓蒙思想2.0―政治・経済・生活を正気に戻すために 作者:ジョセフ・ヒース NTT出版 Amazon 政治的言説の質にインターネットが与える長期的な影響はまだはっきりとわからない。これはテクノロジーが急速に変化しているからでもあり、伝統的なメディアーー特に…

ファストフードとゲームは依存を悪化させて健康と時間を奪う(『啓蒙思想2.0』読書メモ⑥)

啓蒙思想2.0―政治・経済・生活を正気に戻すために 作者:ジョセフ・ヒース NTT出版 Amazon 『啓蒙思想2.0』の主なテーマは「非合理化する政治」であるが、現代社会では、政治に限らずわたしたちの「生活」全般が、非合理なものとなっている。 これまでの記事…

左派が「共感」に訴えられない理由(『啓蒙思想2.0』読書メモ⑤)

啓蒙思想2.0―政治・経済・生活を正気に戻すために 作者:ジョセフ・ヒース NTT出版 Amazon 『啓蒙思想2.0』では、政治や言論をめぐるアメリカの状況がとにかく「不合理」なものとなっていることが、繰り返し指摘されている。ヒースは、現在における「不合理」…

人種差別は「本能」ではない(『啓蒙思想2.0』読書メモ④)

啓蒙思想2.0―政治・経済・生活を正気に戻すために 作者:ジョセフ・ヒース NTT出版 Amazon 心理学者のジョナサン・ハイトは、『社会はなぜ右と左にわかれるか』などの著作や諸々の記事などで、人間には「部族主義」の本能(バイアス)が備わっていることを何…

「女性差別的な文化を脱するために」オープンレターについての雑感

sites.google.com davitrice.hatenadiary.jp 先ほどの記事の続き的な内容。先ほどの記事ではオープンレターが持つ「効果」や「意図」について論じたが、こちらでは、オープンレターに書かれている内容自体について思うところを書いてみる。 このような呼びか…

反合理主義としてのフェミニズム(『啓蒙思想2.0』読書メモ③)

啓蒙思想2.0―政治・経済・生活を正気に戻すために 作者:ジョセフ・ヒース NTT出版 Amazon ジョセフ・ヒースはカナダ人であるけれど、『啓蒙思想2.0』における彼の問題意識は、ティーパーティーに代表されるように近年のアメリカで不合理で反動的な右派の運動…

伝統を守ればいいというものではない(『啓蒙思想2.0』読書メモ②)

啓蒙思想2.0―政治・経済・生活を正気に戻すために 作者:ジョセフ・ヒース NTT出版 Amazon 前回の記事で書いた通り、理性とは不自然なものであり、せいぜいが適応の副産物に過ぎず、その力は限られている。 たとえば、野球でボールがフライとなったとき、外野…

読書メモ:『生きづらさはどこから来るかー進化心理学で考える』&『進化心理学入門』

生きづらさはどこから来るか―進化心理学で考える (ちくまプリマー新書) 作者:石川 幹人 筑摩書房 Amazon 進化心理学入門 (心理学エレメンタルズ) 作者:ジョン・H. カートライト 新曜社 Amazon 図書館の返却期限が迫っていたので、あわてて読んで返した(とは…

『ニコマコス倫理学』読書メモ

他の箇所で細々と書いていたメモを、こちらにまとめる。上巻はしっかり読んだけど、下巻ではかなり力尽きています。たぶん誤字脱字もかなり含んでいるけどとりあえず無視。 (まずは上巻) ニコマコス倫理学(上) (光文社古典新訳文庫) 作者:アリストテレス…

「特権」概念の不毛さ

somethingorange.biz 上記は海燕氏によるブログ記事。 二週間前の記事だけど、下記について、思うところを書いてみよう。 つまり、「ホワイト・フラジリティ」とか「マイクロ・アグレッション」とは、ある体制において特権を持つマジョリティ(この場合は白…

読書メモ:『「生きにくさ」はどこからくるのか:進化が生んだ二種類の精神システムとグローバル化』

「生きにくさ」はどこからくるのか—進化が生んだ二種類の精神システムとグローバル化 作者:山祐嗣 新曜社 Amazon 著者は心理学者で、ほかにも『日本人は論理的に考えることが本当に苦手なのか』などの著作がある。 『「生きにくさ」はどこからくるのか』につ…

読書メモ:『真実の終わり』

真実の終わり 作者:ミチコ・カクタニ 集英社 Amazon davitrice.hatenadiary.jp 以前にも紹介したんだけれど、改めて再読。しかしまあやっぱりあんまり中身がある本ではないような気がする。著者は文芸批評家であるんだけれど、文芸批評らしく皮肉や比喩や気…

「進化政治学」はそんなにおかしいのか?

www.asahi.com note.com 広島大学の伊藤隆太氏の発言が差別的であるとして問題視されており、それにあわせて、彼の研究分野である「進化政治学」も批判の対象となっている。 わたしの目から見ても伊藤氏の発言のうちのいくつかは差別的であり、解雇まで求め…

さいきん読んだ本シリーズ:『手の倫理』とか

●『手の倫理』 手の倫理 (講談社選書メチエ) 作者:伊藤亜紗 講談社 Amazon 著者はたぶん自分の主張をなんらかの「主義」や「理論」に還元して解釈されること自体を嫌がるだろうけれど、あえてそうしてしまうと、「ケアの倫理」や「状況主義」に近いものだろ…

「傷つき」と表現の自由(読書メモ:『表現の自由を脅すもの』)

gendai.ismedia.jp 昨日に公開された現代ビジネスの記事ではジョン・スチュアート・ミルの『自由論』を紹介したが、ミルと同じようなタイプの主張を現代において行なっている本である、ジョナサン・ローチの『表現の自由を脅すもの』にも目を通してみた。現…

「自由」にケチをつけるな(読書メモ:『自由の命運 : 国家、社会、そして狭い回廊』)

[まとめ買い] 自由の命運 国家、社会、そして狭い回廊 作者:ダロン アセモグル,ジェイムズ A ロビンソン Amazon もう図書館に返却してしまって読み直せないので、浅い感想をメモ的に残しておく。 『自由の命運』は経済学の本(制度論の本)であり、様々な時…

社会性の収斂進化、「社会性」は「善」であるのか?(読書メモ:『ブループリント:「よい未来」を築くための進化論と人類史』)

ブループリント:「よい未来」を築くための進化論と人類史(下) 作者:ニコラス・クリスタキス ニューズピックス Amazon この本のメインの主張である「青写真(社会性一式)」に関する議論などは先日の記事で紹介したので、今回は、感想とか気に入った部分の引…

「正しい怒り」は存在するか?(読書メモ:『怒りの人類史:ブッダからツイッターまで』)

怒りの人類史 作者:バーバラ H ローゼンウェイン 青土社 Amazon 「人類史」とは書いてあるが、内容は思想史のそれ。主に西洋で「怒り」という情動とはどのようにみなされてどのように扱われてきたか、ということが論じられている。 第一部では怒りを否定する…

愛情と結婚の進化論と人類史

ブループリント:「よい未来」を築くための進化論と人類史(上) (NewsPicksパブリッシング) 作者:ニコラス・クリスタキス ニューズピックス Amazon 『ブループリント:「よい未来」を築くための進化論と人類史』では、基本的には進化心理学や文化進化論などの…

経済的不平等のなにが悪いのか?(読書メモ:『21世紀の啓蒙:理性、科学、ヒューマニズム』)

21世紀の啓蒙 上:理性、科学、ヒューマニズム、進歩 作者:スティーブン・ピンカー 草思社 Amazon 原著が出たあとに寄せられた反論に対してピンカーが行なった再反論を紹介したり*1、現代ビジネスの記事でピンカーについて書いたりしたけれど*2、『21世紀の…

芸術家やリベラルが不倫をしやすい理由(読書メモ:『もっと!愛と創造、支配と進歩をもたらすドーパミンの最新脳科学』)

もっと! : 愛と創造、支配と進歩をもたらすドーパミンの最新脳科学 作者:ダニエル・Z・リーバーマン,マイケル・E・ロング 発売日: 2020/10/02 メディア: 単行本 研究者らが発見したのは、ドーパミンの本質は快楽ではまったくないという事実だった。ドーパミ…

「恋愛」とは自然なものなのか(読書メモ:『女と男のだましあい:ヒトの性行動の進化』)

女と男のだましあい―ヒトの性行動の進化 作者:デヴィッド・M. バス メディア: 単行本 原著は1994年、邦訳も2000年とかなり古く、進化心理学の本のなかでは「古典」の部類に入るものだ。そして、古典なだけあって、進化心理学の考え方のなかでももっとも基本…