道徳的動物日記

『21世紀の道徳』発売中です。amzn.asia/d/1QVJJSj

動物倫理

読書メモ:『哲学がわかる 懐疑論:パラドクスから生き方へ』

『福祉国家』、『ポピュリズム』、『法哲学』、『マルクス』、『古代哲学』などに続いてVery Short Introduction シリーズの邦訳書を紹介するシリーズ。 哲学がわかる 懐疑論──パラドクスから生き方へ 作者:ダンカン・プリチャード 岩波書店 Amazon 本書の冒…

日本哲学会ワークショップ「動物倫理とフェミニズム・ジェンダー」で発表してきました

時間なくて原稿の60%くらい読み上げられなくて超飛ばし飛ばしになったり、プリント代をケチって5部しかレジュメ用意しなかったら全く足りなかったりと、わたしの発表はちょっと(かなり)グダグダになってしまいましたが(質疑応答は充実していたと思いま…

キムリッカとドナルドソンによる「動物の権利」論(読書メモ:『アニマル・スタディーズ 29の基本概念』⑥)

アニマル・スタディーズ29の基本概念 平凡社 Amazon 第22章「権利」の著者は政治哲学者のウィル・キムリッカと哲学者のスー・ドナルドソン。『人と動物の政治共同体:「動物の権利」の政治理論』を執筆した夫婦であり、このブログでは二人の著書や論文も何…

「アニマル・ウェルフェア」の多様な意味(読書メモ:『アニマル・スタディーズ 29の基本概念』⑤)

アニマル・スタディーズ29の基本概念 平凡社 Amazon 第29章「ウェルフェア」の執筆者はクレア・パルマーとぺテル・サンデュ。どちらも倫理学者であり、前者についてはこのブログでも過去に何度か取り上げている。また、両者はコンパニオン・アニマルの倫理…

クリスティン・コースガードの「理性」論(読書メモ:『アニマル・スタディーズ 29の基本概念』④)

アニマル・スタディーズ29の基本概念 平凡社 Amazon 第20章「理性」の執筆者は、カント主義の哲学者クリスティン・M・コースガード。なかなか難しい内容であった。 義務とアイデンティティの倫理学 規範性の源泉 作者:クリスティーン・コースガード 岩波…

効果的な利他主義と動物の権利運動(読書メモ:『アニマル・スタディーズ 29の基本概念』③)

アニマル・スタディーズ29の基本概念 平凡社 Amazon 第2章「アクティヴィズム」の著者はジェフ・スィーボウとピーター・シンガー。どちらも倫理学者であると同時に動物の権利運動に実践的に関わっている人だ。 この章で主に論じられるのは<効果的なアニマ…

ローリー・グルーエンの「からまりあう共感」論(読書メモ:『アニマル・スタディーズ 29の基本概念』②)

アニマル・スタディーズ29の基本概念 平凡社 Amazon 本書の編者でもある倫理学者のローリー・グルーエンは、第9章「共感」を執筆している。 この章の議論はグルーエンの単著 Entangled Empathy: An Alternative Ethic for Our Relationships with Animals …

動物倫理における「有感覚主義」(読書メモ:『アニマル・スタディーズ 29の基本概念』①)

アニマル・スタディーズ29の基本概念 平凡社 Amazon 先日に発売された『アニマル・スタディーズ 29の基本概念』を図書館で入手してきたので(とても個人で購入できるような値段ではない)、気になる章をいくつか読んで読書メモを取っていく。 まずは、倫理学…

フェミニズムと動物:まとめと批判

An Introduction to Animals and Political Theory (The Palgrave Macmillan Animal Ethics Series) (English Edition) 作者:Cochrane, Alasdair Palgrave Macmillan Amazon 先日に引き続き、「フェミニズムと動物倫理」というテーマでお勉強。 今回は政治哲…

読書メモ:「動物の権利とフェミニズム理論」

The Feminist Care Tradition in Animal Ethics: A Reader Columbia University Press Amazon Animal Rights and Feminist Theory - JSTOR 唐突に思われそうだが、本日から一時的に動物倫理に関する文献を読んで読書メモをここに書くターンに突入する。……と…

市民の議論に対して哲学者が提言できる範囲とは?(読書メモ:『「正しい政策」がないならどうすべきか 政策のための哲学入門』②)

「正しい政策」がないならどうすべきか: 政策のための哲学 作者:ウルフ,ジョナサン 勁草書房 Amazon ●「安全性」をめぐってわたしたちの内部で生じる、帰結主義と義務論の対立 たとえば、鉄道衝突事故が起きた後に、犠牲者の親族が訴えるであろうことを考え…

読書メモ:『ベジタリアン哲学者の動物倫理入門』&『はじめての動物倫理学』

ベジタリアン哲学者の動物倫理入門 作者:浅野 幸治 ナカニシヤ出版 Amazon はじめての動物倫理学 (集英社新書) 作者:田上 孝一 集英社 Amazon どちらも日本人の哲学者によって書かれた動物倫理学の入門書であり、同時期に出版された*1。基本的な構成はどちら…

社会性の収斂進化、「社会性」は「善」であるのか?(読書メモ:『ブループリント:「よい未来」を築くための進化論と人類史』)

ブループリント:「よい未来」を築くための進化論と人類史(下) 作者:ニコラス・クリスタキス ニューズピックス Amazon この本のメインの主張である「青写真(社会性一式)」に関する議論などは先日の記事で紹介したので、今回は、感想とか気に入った部分の引…

覚え書き:なぜ功利主義者がいないと動物の権利は発見されなかったか

動物の解放 改訂版 作者:ピーター シンガー 発売日: 2011/05/20 メディア: 単行本 某所の連載で動物倫理についても何回か書くことになりそうなので、ピーター・シンガーの『動物の解放』を久しぶりに読み直している。 『動物の解放』では『実践の倫理』ほど…

道徳の問題は科学的に、定量的に考えなければいけない理由

〈効果的な利他主義〉宣言! ――慈善活動への科学的アプローチ 作者:ウィリアム・マッカスキル 発売日: 2018/11/02 メディア: 単行本 ビル・ゲイツやウォーレン・バフェットが実践していることでも有名な「効果的な利他主義」について書かれた本。パート1では…

「ラディカル」な議論が左翼やフェミにウケる理由(読書メモ:『荷を引く獣たち:動物の解放と障害者の解放』)

荷を引く獣たち: 動物の解放と障害者の解放 作者:テイラー,スナウラ 発売日: 2020/09/10 メディア: 単行本 版元による紹介はこんな感じ。 スナウラ・テイラーは、一人の障害当事者として、障害者運動と動物の権利運動の担い手として、そして一人の芸術家とし…

覚え書き:ポストモダンの「ごにょごにょ規範主義」、サンドバッグとしてのネオリベラリズム(と優生思想)

davitrice.hatenadiary.jp econ101.jp 先ほどの記事でジョセフ・ヒースの「『批判的』研究の問題」を取り上げたことなので、この記事から面白いところをいくつか引用しよう。 さっき言ったように,「批判的社会科学」の志は,たんに規範的な決意に導かれた社…

使える倫理は、つまらない(読書メモ:『動物倫理の新しい基礎』)

動物倫理の新しい基礎 作者:ローリン,バーナード 発売日: 2019/12/01 メディア: 単行本 この本のスタンスは、序章となる「新しい動物倫理の必要性」の最後の段落に、おおむねまとまっているだろう。 たとえば、功利主義的理由のためにシンガー自身が、産業的…

捕鯨・文化の価値・動物倫理

動物愛護や動物の権利という話題に関すると、日本では「捕鯨問題」がイメージされることが多いようだ。実際、私が学生であった頃に「動物倫理や動物の権利について勉強している」と言ったときにも、「捕鯨問題についてはどういう意見を持っているんだ」と聞…

「肉食の自由」?

davitrice.hatenadiary.jp ↑ 昨年の5月に触れた話題について、改めてちゃんと書いてみた。 日本で動物の権利を主張する団体の最大手であるアニマルライツセンターは、2016年からほぼ毎年、渋谷で「動物はごはんじゃない」というプラカードを掲げたデモ行進を…

野生動物に対する倫理的責任とは?

natgeo.nikkeibp.co.jp ↑ 上記の記事は本日に掲載されたものだが、この中で取り上げられているクレア・パーマーという倫理学者が書いた『Animal Ethics in Context(文脈のなかの動物倫理)』をちょうど再読していたところだった。この本の内容についてはパ…

「広く共有された信念」と動物倫理(読書メモ:Ethics and the Beast)

Ethics and the Beast: A Speciesist Argument for Animal Liberation 作者:Tzachi Zamir 出版社/メーカー: Princeton University Press 発売日: 2014/11/23 メディア: ペーパーバック イスラエルの倫理学者、トサヒ・ザミール(Tzachi Zamir)の著書。とり…

動物の利益と人間の利益、文化的慣習

Animal Rights Without Liberation: Applied Ethics and Human Obligations (Critical Perspectives on Animals) 作者:Alasdair Cochrane 出版社/メーカー: Columbia Univ Pr 発売日: 2012/09/16 メディア: ハードカバー この本の8章、"Animal and Cultrual…

利益に基づいた動物の権利:ペットの避妊、娯楽における動物の利用、環境保護との関係

Animal Rights Without Liberation: Applied Ethics and Human Obligations (Critical Perspectives on Animals: Theory, Culture, Science, and Law) (English Edition) 作者:Alasdair Cochrane 出版社/メーカー: Columbia University Press 発売日: 2012/0…

「利益に基づいた権利」による動物の権利論(読書メモ:Animal Rights without Liberation)

Animal Rights Without Liberation: Applied Ethics and Human Obligations (Critical Perspectives on Animals: Theory, Culture, Science, and Law) (English Edition) 作者:Alasdair Cochrane 出版社/メーカー: Columbia University Press 発売日: 2012/0…

限界事例からの議論、種差別の正当化(読書メモ:『 Beyond Prejudice 』)

Beyond Prejudice: The Moral Significance of Human and Nonhuman Animals (English Edition) 作者:Evelyn B. Pluhar 出版社/メーカー: Duke University Press Books 発売日: 1995/07/21 メディア: Kindle版 1995年に出版された動物倫理の本で、「限界…

「ケアの倫理」の構造的問題点(読書メモ:『Entangled Empathy』)

Entangled Empathy: An Alternative Ethic for Our Relationships with Animals by Lori Gruen(2014-01-01) 作者:Lori Gruen 出版社/メーカー: Lantern Books 発売日: 1739 メディア: ペーパーバック 離職して、しばらくの間は本を読む時間もたっぷりとある…

読書メモ:『猫の精神生活がわかる本』

猫の精神生活がわかる本 作者:トーマス・マクナミー 出版社/メーカー: エクスナレッジ 発売日: 2017/12/24 メディア: 単行本(ソフトカバー) 作家である著者が、愛猫の「オーガスタ」との出会いから共同生活、オーガスタの死による別れを綴りながら、猫の心…

ペットの安楽死にまつわる倫理的問題(読書メモ:『ラストウォーク 愛犬オディー最後の一年』)

ラストウォーク ―愛犬オディー最後の一年 作者:ジェシカ・ピアス 出版社/メーカー: 新泉社 発売日: 2019/02/20 メディア: 単行本(ソフトカバー) 著者のジェシカ・ピアスは倫理学者で、この本以外にもペット飼育に関する倫理の本や生命倫理の本、動物の道徳…

タコ、魚、ロブスター、植物

さいきん、タコと魚類に関する本を続けて読んだ。 タコの心身問題――頭足類から考える意識の起源 作者:ピーター・ゴドフリー=スミス 出版社/メーカー: みすず書房 発売日: 2018/11/17 メディア: 単行本 魚たちの愛すべき知的生活―何を感じ、何を考え、どう行…