道徳的動物日記

倫理学、社会科学、時事問題、世相などについて論じます。

読書メモ:『猫の精神生活がわかる本』

 

猫の精神生活がわかる本

猫の精神生活がわかる本

 

 

 作家である著者が、愛猫の「オーガスタ」との出会いから共同生活、オーガスタの死による別れを綴りながら、猫の心理や行動や生態について、動物行動学や心理学・生理学などの様々な論文や専門家への取材を参考しつつ書いた本。また、飼っている猫を幸福にするための飼い主の心構えから具体的な飼育方法(餌の与え方や撫で方、しつけ方など)から、(アメリカにおける)猫のメディアでの扱いや社会問題としての野良猫問題と、猫に関する題材が広く扱われて書かれている本だ。

 オーガスタとの死別という経験もあって「猫を飼う時には後に後悔を抱かないような飼い方をすべきだ」ということや「飼い主のせいで猫の問題行動が起こる」ということについての意識がとりわけ鋭くなっていることがうかがえる。また、実際にロクでもない猫の飼い方をしている飼い主の事例も出てくる。

 このブログでも何度か書いているが、私の実家でもこれまでの25年間に8匹の猫を飼ってきた(そのうち前世代の4匹はすでに死去している)。この本を読んでいる限り、一部の点では至らない飼い方もしていたが(たとえば猫の世話を他の人に依頼して長期間家を留守にする時期があった、など)、じゅうぶん合格点と言えるような飼い方もしていたと思える。我が家の経済的な事情や立地的な事情、飼ってきた猫たちの生来的な問題点が比較的少なかったことなども影響しているだろうが、何ら落ち度のない飼い方をすることは現実的に不可能なので、ほどほど以上の幸福を猫たちに与える飼い方ができたのなら満足、という考え方もあるだろう(少なくとも、我が家で飼っていた猫の大半は野良猫や捨て猫を拾ってきたものであり、私たちに飼われていない場合にはあまり幸福ではない生き方をしていた可能性が高いからだ)。

 それはそれとして、本書を読んでいると、「猫が何を思っているか」「猫が何を望んでいるか」を理解するためには注意深さや辛抱強さに慎重さ、そしてコミュニケーション能力が必要となることが改めて認識される。特に、人間同士においても非言語コミュニケーションが苦手な人なら、猫と良好なコミュニケーションを築くことも難しくなるだろう。

 

 また、野良猫が野生動物を殺してしまうという生態系的な問題についても触れられている。この問題については最近でも『ネコ・かわいい殺し屋―生態系への影響を科学する』という本が出版されるなど、注目が増している*1。一方で、著者は家猫の放し飼いについては(適切に管理できるものなら、という前提付きで)肯定的だ。北米の人々の書いたペット論を読むと、犬に関してもリードなしでの散歩を肯定するなど、ペットを自由にさせることへの意識が強いことがわかる。ここら辺は文化的な違いを感じる(土地の広さや自然の多さも影響しているのだろう)。

 

 そして、YouTubeTwitterで話題になるような「おもしろ猫動画」への著者への意見は手厳しい。

 

サンタクロースに扮した猫。ベランダから落ちる猫。何かの音楽を指揮するかのように、人間につき添われて前脚を振る猫。よくやるように、猫が走ってきて箱に突っ込み、出られなくなっているが、誰も助けようとせずにそれを動画に収めている。鏡に映った自分の姿を見て「ほかの猫」をやっつけようとして飛びかかり、ガラスに頭をぶつける猫。混乱する猫。怒っている猫。死ぬほど怖がっている猫。これを観て人々は笑うのだろう。まったく他意のない、単純にユーモラスな動画もあるのは知っている。それでも申し訳ないが、何もかもがやり過ぎだと思うし、それに本書のテーマとは大きく反れている。ただ、読者の皆さんの中にはもしかしたらこうした動画の視聴者がいるかもしれない。だとしたら、著者である私自身はとにかく一言だけ、動画に出演している猫が体験していることについて考えてみてほしいと伝えたい。

どんな猫にも持って生まれた本質に合った生活を送る権利がある。動画を観て考えてみて欲しい。この猫は幸福に生きているだろうか?

(p.231 - 232)

 

 私自身もSNSで飼い猫の写真をアップしたりはするが、基本的は猫が寝ている姿やリラックス姿を映した(つまらない)写真であり、著者の批判を受けるようなものではないと思う。また、猫の「かわいい動画」や「おもしろ動画」などに、明らかに猫のストレスを与えているような不適切なものがあるのは事実だ。そして、ユーチューバーたちの間でスコティッシュフォールドの猫を飼うことが流行っていることなど、猫が動画やSNS投稿のネタにされることによって、ペットショップの利用への敷居が下がってしまったり純血種信仰に拍車がかかる側面があることは否めないだろう。

*1:過去に、この本の原著についての批判記事を訳している。

davitrice.hatenadiary.jp