道徳的動物日記

倫理学、社会科学、時事問題、世相などについて論じます。

読書メモ:『モラル・トライブズ:共存の道徳哲学へ』

きのうからはじまった某所での連載の次々回くらいの原稿の元ネタとして『モラル・トライブズ:共存の道徳哲学へ』を借りて読み直しているうちに、図書館からお怒りの電話が来てしまった。 しかし『モラル・トライブズ』は細部まで刺激と啓発に満ちたおもしろ…

「男性同士のケア」が難しい理由

男同士の絆―イギリス文学とホモソーシャルな欲望― 作者:イヴ・K・セジウィック 発売日: 2001/02/20 メディア: 単行本 近頃では、「これからは男性同士でもケアし合わなければならない」と言った主張がちらほらとされるようになっている。 この主張がされる文…

ジェンダー論が男性を救わない理由

Lonely at the Top: The High Cost of Men's Success 作者: Thomas Joiner Ph.D. 出版社/メーカー: St. Martin's Press 発売日: 2011/10/25 メディア: Kindle版 この商品を含むブログを見る 思うところあって、トマス・ジョイナーの『Lonely at the Top: The…

アファーマティブ・アクションとクオータ制が支持されない理由

The Coddling of the American Mind: How Good Intentions and Bad Ideas Are Setting Up a Generation for Failure (English Edition) 作者:Lukianoff, Greg,Haidt, Jonathan 発売日: 2018/09/04 メディア: Kindle版 前回に引き続き、先日から、社会心理学…

「インターセクショナリティ」が対立を招く理由

The Coddling of the American Mind: How Good Intentions and Bad Ideas Are Setting Up a Generation for Failure (English Edition) 作者:Lukianoff, Greg,Haidt, Jonathan 発売日: 2018/09/04 メディア: Kindle版 先日から、社会心理学者ジョナサン・ハ…

人種は存在しない…のか?

gendai.ismedia.jp 上記の記事は3ヶ月前のものだ。ブコメは現時点で30ほどしか付いていないが、わたしを含めて、違和感を表明しているコメントが多い。 特に違和感があるのは、やはり、「人種は存在しない、あるのはレイシズムだ」というタイトルだろう。こ…

読書メモ:『ブルシット・ジョブ:クソどうでもいい仕事の理論』

ブルシット・ジョブ――クソどうでもいい仕事の理論 作者:デヴィッド・グレーバー 発売日: 2020/07/30 メディア: 単行本 はじめに断っておくと、わたしはこの本をフラットな状態で読みはじめたわけではない。『隠された奴隷制』でデヴィッド・グレーバー(やジ…

読書メモ:『階級「断絶」社会アメリカ』

階級「断絶」社会アメリカ: 新上流と新下流の出現 作者:チャールズ・マレー 発売日: 2013/02/21 メディア: 単行本 数年ぶりの再読。アメリカの「階級」に関する話題はトランプ当選以降に注目されるようになって、わたしもいくつかそれらの本の感想を書いてき…

現実の問題を解決することから遠ざかるラディカリズム(『反逆の神話』読書メモ:後半)

反逆の神話:カウンターカルチャーはいかにして消費文化になったか 作者:ジョセフ・ヒース,アンドルー・ポター 発売日: 2014/09/24 メディア: 単行本(ソフトカバー) カウンターカルチャー的な分析からは、決まったパターンが浮かびあがってくる。社会問題は…

覚え書き:ポストモダンの「ごにょごにょ規範主義」、サンドバッグとしてのネオリベラリズム(と優生思想)

davitrice.hatenadiary.jp econ101.jp 先ほどの記事でジョセフ・ヒースの「『批判的』研究の問題」を取り上げたことなので、この記事から面白いところをいくつか引用しよう。 さっき言ったように,「批判的社会科学」の志は,たんに規範的な決意に導かれた社…

ポストモダンの右と左

真実の終わり 作者:ミチコ・カクタニ 発売日: 2019/06/05 メディア: 単行本 ようやく『真実の終わり』が図書館で借りれるようになったので、パラパラと読んでみた。内容としては大したことがなくて、HONZの書評にまとめられている以上のものはほとんど得られ…

読書メモ:『反逆の神話:カウンターカルチャーはいかにして消費文化になったか』(前半)

反逆の神話:カウンターカルチャーはいかにして消費文化になったか 作者:ジョセフ・ヒース,アンドルー・ポター 発売日: 2014/09/24 メディア: 単行本(ソフトカバー) 数年ぶりに読み返しているが、やはり面白い。著者であるヒースの嫌味さや性格の悪さが存分…

使える倫理は、つまらない(読書メモ:『動物倫理の新しい基礎』)

動物倫理の新しい基礎 作者:ローリン,バーナード 発売日: 2019/12/01 メディア: 単行本 この本のスタンスは、序章となる「新しい動物倫理の必要性」の最後の段落に、おおむねまとまっているだろう。 たとえば、功利主義的理由のためにシンガー自身が、産業的…

「安楽死」をめぐる議論のおかしな構造

7月23日に京都のALS嘱託殺人が発覚して医師二人が逮捕された事件を受けて、メディアやネット上でも安楽死に関する議論が盛んにおこなわれた。当初は、事件の特異性から「この事件をきっかけに安楽死についての議論を行うこと自体を、避けるべきである」とい…

覚え書き:「被害者性の文化」と「美徳シグナリング」

(深夜に突貫で書いた記事なので、かなりグダグタな内容になっている) ポリティカル・コレクトネスとそれが引き起こす問題は様々な場面に存在している。このブログでは主にアカデミアにおけるポリコレの問題を扱ってきたし、今年からはじめた映画日記の方で…

「反ポリコレ」とKKKや反ユダヤ主義は結び付いている…… かもしれない(読書メモ:『白人ナショナリズム:アメリカを揺るがす「文化的反動」』)

白人ナショナリズム アメリカを揺るがす「文化的反動」 (中公新書) 作者:渡辺靖 発売日: 2020/05/29 メディア: Kindle版 同じ著者の前著『リバタリアニズム:アメリカを揺るがす自由市場主義』では、表面上では客観的・中立に扱っている風でありながらも政治…

読書メモ:『「勤労青年」の教養文化史』

「勤労青年」の教養文化史 (岩波新書) 作者:福間 良明 発売日: 2020/04/18 メディア: 新書 タイトル通り歴史(文化史)に関する本であり、歴史に関する本ってひとくちにまとめたり感想を書いたりするのが難しいものだが、この本は「プロローグ」に書かれてい…

ひとこと感想:『ステレオタイプの科学:「社会の刷り込み」は成果にどう影響し、わたしたちは何ができるのか』

ステレオタイプの科学――「社会の刷り込み」は成果にどう影響し、わたしたちは何ができるのか 作者:クロード・スティール 発売日: 2020/04/06 メディア: Kindle版 本の題名だけ見ると、わたしたちが"他人"に対してどのようなステレオタイプを抱いているか、わ…

ひとこと感想:『格差は心を壊す:比較という呪縛』

格差は心を壊す 比較という呪縛 作者:リチャード ウィルキンソン,ケイト ピケット 発売日: 2020/04/03 メディア: Kindle版 タイトル通り、経済の格差がわたしたちの心や健康にもたらす悪影響について論じて、経済格差が広がると社会的分断も広まって政治にも…

スティーブン・ピンカーとブラック・ライヴズ・マター

togetter.com ↑ 自分でまとめたこの件について、思うところをちょっと書いておこう。 ●今回はスティーブン・ピンカーという大物がターゲットになったことで話題になったが、アメリカのアカデミアにおける「キャンセル・カルチャー」の問題はいまに始まったこ…

フェミニズムを素直に受け入れ過ぎ(ひとこと感想:『女性のいない民主主義』)

女性のいない民主主義 (岩波新書) 作者:前田 健太郎 発売日: 2020/01/30 メディア: Kindle版 日本の民主主義における「女性不在」の問題について、参政権や政策、投票行動や立候補などの問題に細かく分別しながら、「ジェンダー論」や「フェミニズム」という…

労働から逃避したところで幸せになれるの?(読書メモ:『隠された奴隷制』)

隠された奴隷制 (集英社新書) 作者:植村邦彦 発売日: 2019/08/23 メディア: Kindle版 本のタイトルはマルクスの『資本論』に出てくるキーワードであり、この本の内容もマルクス主義的なものだ。 第一章〜第三章では、ロックやモンテスキューからはじまってア…

ひとこと感想:『日本人のためのイスラエル入門』

日本人のためのイスラエル入門 (ちくま新書) 作者:洋, 大隅 発売日: 2020/03/06 メディア: 新書 著者はアカデミックな人物ではなく、外務省に入って在イスラエル日本大使館公使を数年間務めた経験のある外交官。というわけでこの本の内容もアカデミックなも…

ひとこと感想:『家族と仕事:日本はなぜ働きづらく、産みにくいのか』

仕事と家族 - 日本はなぜ働きづらく、産みにくいのか (中公新書) 作者:筒井 淳也 発売日: 2015/05/22 メディア: 新書 日本社会の少子化の原因を、日本の労働・雇用の環境や福祉制度などの特殊性に注目しながら分析する本。少子化の解決には男女共働きと育児…

ひとこと感想:『美学への招待:増補版』

美学への招待 増補版 (中公新書) 作者:佐々木 健一 発売日: 2019/07/19 メディア: 新書 旧版は学部生のころに読んだような気がするが、詳細は忘れた。 タイトル通り「美学」の入門書だが、美学について主張してきた思想家たちを通時的に解説するタイプの本で…

ひとこと感想:『ルポ:技能実習生』

●『ルポ:技能実習生』 ルポ 技能実習生 (ちくま新書) 作者:澤田晃宏 発売日: 2020/05/15 メディア: Kindle版 世間では「奴隷労働」とか「騙されて日本に連れてこられた」というイメージの多い技能実習生制度だが、主にベトナムの技能実習生制度を扱ったこの…

読書メモ:『民主主義は終わるのか:瀬戸際に立つ日本』

民主主義は終わるのか 瀬戸際に立つ日本 (岩波新書) 作者:山口 二郎 発売日: 2020/02/27 メディア: Kindle版 民主党のブレーンでもあった左派的な政治学者が書いた本で、1990年代以降の日本の政治とか民主主義とかの問題点をまとめつつ、安倍政権を痛烈…

読書メモ:『感性は感動しない』

感性は感動しないー美術の見方、批評の作法 (教養みらい選書) 作者:椹木 野衣 発売日: 2018/07/13 メディア: 単行本(ソフトカバー) 美術評論家のおじさんが書いたエッセイ集。第一部「絵の見方、味わい方」は著者なりの"批評"観や"美術"観が出ていてそれな…

ひとこと感想:『働く女子のキャリア格差』&『若者は社会を変えられるか?』

●『働く女子のキャリア格差』 働く女子のキャリア格差 (ちくま新書) 作者:祥子, 国保 発売日: 2018/01/10 メディア: 新書 タイトルからして様々な属性の職業選択や出世に関する格差(地方と東京ではこんなに違う、大卒と非大卒とではこんなに違う、みたいな…

リバタリアンはフレンドリーで温かい白人男性ばっかり?(読書メモ:『リバタリアニズム:アメリカを揺るがす自由至上主義』)

リバタリアニズム アメリカを揺るがす自由至上主義 (中公新書) 作者:渡辺靖 発売日: 2019/05/17 メディア: Kindle版 タイトル通りリバリアニズムについて書かれた本であるが、政治哲学や経済学などにおける理論としてのリバタリアニズムについて書いた本では…