道徳的動物日記

倫理学、社会科学、時事問題、世相などについて論じます。

「ハッピーエンド」を唱える議論には警戒せよ(『資本主義が嫌いな人のための経済学』読書メモ①)

資本主義が嫌いな人のための経済学 作者:ジョセフ・ヒース NTT出版社 Amazon まずは「エピローグ」から引用。 若かりしころの私は、社会正義の問題など簡単だと考えていた。世界には二種類の人間がーー根っから利己的な人間と、もっと寛大で思いやりのあ…

拙著『21世紀の道徳』が発売しました

21世紀の道徳 作者:ベンジャミン・クリッツァー 晶文社 Amazon 拙著『21世紀の道徳:学問、功利主義、ジェンダー、幸福を考える』都内の書店では昨日から購入できたみたいだけれど、正式な発売日は本日です。ぜひ書店などで購入してください。 また、講談社…

読書メモ:『道徳の自然誌』

道徳の自然誌 作者:トマセロ,マイケル 勁草書房 Amazon トマセロの本は7年ほど前に『コミュニケーションの起源を探る』を読んで以来だ*1。『道徳の自然誌』は進化論に基づく道徳心理学の本であるが、たとえばジョナサン・ハイトの『社会はなぜ右と左にわかれ…

自立の倫理、共同体の倫理、神聖の倫理(『社会はなぜ左と右にわかれるのか』読書メモ③)

社会はなぜ左と右にわかれるのか――対立を超えるための道徳心理学 作者:ジョナサン・ハイト 紀伊國屋書店 Amazon ハイトは、文化心理学者のリチャード・シュウィーダーによる「三つの倫理」の考え方を紹介している。 「自立の倫理」は、「人間は第一に、欲求…

リベラルが「分裂」する理由(読書メモ:『リベラル再生宣言』)

リベラル再生宣言 (早川書房) 作者:マーク リラ 早川書房 Amazon マーク・リラの「アイデンティティ・リベラリズム」論についてはトランプ当選直後の記事を自分で訳した*1。『リベラル再生宣言』も以前に図書館で借りて読んだことはあるが、メモを取るために…

「徳」とアイデンティティ(再読メモ:『IDENTITY:尊厳の欲求と憤りの政治』)

IDENTITY (アイデンティティ) 尊厳の欲求と憤りの政治 作者:フランシス・フクヤマ 朝日新聞出版 Amazon 以前にもこのブログで何度か扱ってきた本なので、簡潔にメモ。 ・女性が同一賃金を求める理由について「メガロサミア(優越願望)」の観点から説明して…

生物学者に「道徳」は語れるか?(『社会はなぜ左と右にわかれるのか』+『社会はどう進化するのか』読書メモ)

社会はなぜ左と右にわかれるのか――対立を超えるための道徳心理学 作者:ジョナサン・ハイト 紀伊國屋書店 Amazon 〔ジョシュア・グリーンによる「カントの魂の密かなジョーク」論文に関して〕 これは統合知の格好の例である。ウィルソンは一九七五年に、「倫…

デュルーケム流功利主義とダーウィン左翼(『社会はなぜ左と右にわかれるのか』読書メモ②)

社会はなぜ左と右にわかれるのか――対立を超えるための道徳心理学 作者:ジョナサン・ハイト 紀伊國屋書店 Amazon 前回の記事ではジョナサン・ハイトによる「道徳基盤理論」をかなりディスって、『社会はなぜ左と右にわかれるのか』という本自体についても辛め…

本日発売の『USO 3』にわたしのエッセイが掲載されています

rnpress.jp 11月11日発売の、文庫サイズの小さな文芸誌、「USO」3号にわたしのエッセイ『ウソと「めんどくささ」と道徳』が掲載されています。 4000字弱の短いエッセイであり、「執筆を引き受けたはいいもののちゃんとしたエッセイなんて書いたことがないか…

保守の道徳はリベラルより「広い」のか?(『社会はなぜ左と右にわかれるのか』読書メモ①)

社会はなぜ左と右にわかれるのか――対立を超えるための道徳心理学 作者:ジョナサン・ハイト 紀伊國屋書店 Amazon ジョナサン・ハイトの『社会はなぜ左と右にわかれるのか:対立を越えるための道徳心理学』は、大学院生のころに原著の The Righteous Mind のほ…

著書『21世紀の道徳』が出版されます

Amazonの予約ページはこちら。 初の著書が出版されます。帯文は東浩紀さんからいただきました(現代哲学を「政治的正しさ」の呪縛から解放する快著、とのことです)。 このブログにいままで書いてきたことをブラッシュアップして、本格的な論考にして、本と…

現代だからこそパターナリズムが正当化される理由(『啓蒙思想2.0』読書メモ⑨)

啓蒙思想2.0―政治・経済・生活を正気に戻すために 作者:ジョセフ・ヒース NTT出版 Amazon 先日の記事でも述べたように、現代社会は、わたしたちの報酬系や認知バイアスの欠陥をついて健康と時間(とお金)を奪うような商品やシステムで溢れており、そういう…

「独学」がダメな理由(『啓蒙思想2.0』読書メモ⑧)

啓蒙思想2.0―政治・経済・生活を正気に戻すために 作者:ジョセフ・ヒース NTT出版 Amazon どうやって正気を取り戻すかを考えるとき、合理的思考の根本的な特徴をおさらいしておくことは役に立つ。時間がかかる。注意力が求められる。言葉に基づいている。意…

インターネットで「言論」は成立するか?(『啓蒙思想2.0』読書メモ⑦)

啓蒙思想2.0―政治・経済・生活を正気に戻すために 作者:ジョセフ・ヒース NTT出版 Amazon 政治的言説の質にインターネットが与える長期的な影響はまだはっきりとわからない。これはテクノロジーが急速に変化しているからでもあり、伝統的なメディアーー特に…

ファストフードとゲームは依存を悪化させて健康と時間を奪う(『啓蒙思想2.0』読書メモ⑥)

啓蒙思想2.0―政治・経済・生活を正気に戻すために 作者:ジョセフ・ヒース NTT出版 Amazon 『啓蒙思想2.0』の主なテーマは「非合理化する政治」であるが、現代社会では、政治に限らずわたしたちの「生活」全般が、非合理なものとなっている。 これまでの記事…

左派が「共感」に訴えられない理由(『啓蒙思想2.0』読書メモ⑤)

啓蒙思想2.0―政治・経済・生活を正気に戻すために 作者:ジョセフ・ヒース NTT出版 Amazon 『啓蒙思想2.0』では、政治や言論をめぐるアメリカの状況がとにかく「不合理」なものとなっていることが、繰り返し指摘されている。ヒースは、現在における「不合理」…

人種差別は「本能」ではない(『啓蒙思想2.0』読書メモ④)

啓蒙思想2.0―政治・経済・生活を正気に戻すために 作者:ジョセフ・ヒース NTT出版 Amazon 心理学者のジョナサン・ハイトは、『社会はなぜ右と左にわかれるか』などの著作や諸々の記事などで、人間には「部族主義」の本能(バイアス)が備わっていることを何…

「女性差別的な文化を脱するために」オープンレターについての雑感

sites.google.com davitrice.hatenadiary.jp 先ほどの記事の続き的な内容。先ほどの記事ではオープンレターが持つ「効果」や「意図」について論じたが、こちらでは、オープンレターに書かれている内容自体について思うところを書いてみる。 このような呼びか…

「犬笛」としてのオープンレター

sites.google.com 「女性差別的な文化を脱するため」のオープンレターはもう半年以上前に発表されたものだけれど、このオープンレターで取り上げられている呉座勇一氏が日文研から「停職一か月」や「準教授取り消し」の処分を受けたこと、そしてその処置が不…

反合理主義としてのフェミニズム(『啓蒙思想2.0』読書メモ③)

啓蒙思想2.0―政治・経済・生活を正気に戻すために 作者:ジョセフ・ヒース NTT出版 Amazon ジョセフ・ヒースはカナダ人であるけれど、『啓蒙思想2.0』における彼の問題意識は、ティーパーティーに代表されるように近年のアメリカで不合理で反動的な右派の運動…

対等願望、優越願望、承認欲求、民主主義

IDENTITY (アイデンティティ) 尊厳の欲求と憤りの政治 作者:フランシス・フクヤマ 朝日新聞出版 Amazon フランシス・フクヤマの『IDENTITY:尊厳の欲求と憤りの政治』はこのブログでも何度か扱ったが、あまり高く評価してきたわけではなかった*1。しかし、ポ…

伝統を守ればいいというものではない(『啓蒙思想2.0』読書メモ②)

啓蒙思想2.0―政治・経済・生活を正気に戻すために 作者:ジョセフ・ヒース NTT出版 Amazon 前回の記事で書いた通り、理性とは不自然なものであり、せいぜいが適応の副産物に過ぎず、その力は限られている。 たとえば、野球でボールがフライとなったとき、外野…

理性は自然に反している(『啓蒙思想2.0』読書メモ①)

啓蒙思想2.0―政治・経済・生活を正気に戻すために 作者:ジョセフ・ヒース NTT出版 Amazon 「ポリティカル・コレクトネス」をテーマとした本の執筆をそろそろ本格化したいので、参考文献のひとつとしてジョセフ・ヒースの『啓蒙思想2.0』を数年ぶりに読み返し…

読書メモ:きみの脳はなぜ「愚かな選択」をしてしまうのか:意思決定の進化論』

きみの脳はなぜ「愚かな選択」をしてしまうのか 意思決定の進化論 (KS一般書) 作者:ダグラス・ T・ケンリック,ヴラダス・グリスケヴィシウス 講談社 Amazon 同じ著者のダグラス・ケンリックが書いている『野蛮な進化心理学』は名著なんだけれど*1、こちらは…

読書メモ:『生きづらさはどこから来るかー進化心理学で考える』&『進化心理学入門』

生きづらさはどこから来るか―進化心理学で考える (ちくまプリマー新書) 作者:石川 幹人 筑摩書房 Amazon 進化心理学入門 (心理学エレメンタルズ) 作者:ジョン・H. カートライト 新曜社 Amazon 図書館の返却期限が迫っていたので、あわてて読んで返した(とは…

『ニコマコス倫理学』読書メモ

他の箇所で細々と書いていたメモを、こちらにまとめる。上巻はしっかり読んだけど、下巻ではかなり力尽きています。たぶん誤字脱字もかなり含んでいるけどとりあえず無視。 (まずは上巻) ニコマコス倫理学(上) (光文社古典新訳文庫) 作者:アリストテレス…

「特権」概念の不毛さ

somethingorange.biz 上記は海燕氏によるブログ記事。 二週間前の記事だけど、下記について、思うところを書いてみよう。 つまり、「ホワイト・フラジリティ」とか「マイクロ・アグレッション」とは、ある体制において特権を持つマジョリティ(この場合は白…

読書メモ:『「生きにくさ」はどこからくるのか:進化が生んだ二種類の精神システムとグローバル化』

「生きにくさ」はどこからくるのか—進化が生んだ二種類の精神システムとグローバル化 作者:山祐嗣 新曜社 Amazon 著者は心理学者で、ほかにも『日本人は論理的に考えることが本当に苦手なのか』などの著作がある。 『「生きにくさ」はどこからくるのか』につ…

読書メモ:『事実はなぜ人の意見を変えられないのか』

事実はなぜ人の意見を変えられないのか 作者:ターリ・シャーロット,上原直子 白揚社 Amazon 翻訳の出版当時から気になっていたのだが(著者の前著の『脳は楽観的に考える』もそれなりに印象深かった)、図書館での予約数がハンパなく、一年半経ってようやく…

読書メモ:『真実の終わり』

真実の終わり 作者:ミチコ・カクタニ 集英社 Amazon davitrice.hatenadiary.jp 以前にも紹介したんだけれど、改めて再読。しかしまあやっぱりあんまり中身がある本ではないような気がする。著者は文芸批評家であるんだけれど、文芸批評らしく皮肉や比喩や気…