道徳的動物日記

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経済

読書メモ:『14歳から考えたい 貧困』

14歳から考えたい 貧困 (A Very Short Introduction) 作者:フィリップ・ジェファーソン すばる舎 Amazon 『福祉国家』、『ポピュリズム』、『移民』、『法哲学』、『マルクス』に引き続きオックスフォードのVery Short Introduction シリーズの邦訳書を紹介…

読書メモ:『移民をどう考えるか:グローバルに学ぶ入門書』

移民をどう考えるか: グローバルに学ぶ入門書 作者:カリド・コーザー 勁草書房 Amazon 一昨日の『福祉国家』、そして昨日の『ポピュリズム』に並んで、オックスフォードのVery Short Introduction シリーズの邦訳書を紹介するシリーズ第三弾。今回は『移民』…

なくてはならない福祉国家(読書メモ:『福祉国家 救貧法の時代からポスト工業社会へ』)

福祉国家:救貧法の時代からポスト工業社会へ 作者:デイヴィッド・ガーランド 白水社 Amazon 最近はプライベートがバタバタしていて本を読む時間をじっくり取ることも難しく、また文章を書けるタイミングもなかなかないのだが、ナントカ合間合間に時間を捻出…

読書メモ:『リベラルとは何か 17世紀の自由主義から現代日本まで』

リベラルとは何か 17世紀の自由主義から現代日本まで (中公新書) 作者:田中拓道 中央公論新社 Amazon ●ワークフェア競争国家 「ワシントン・コンセンサス」は、「底辺への競争」論とともに、新自由主義が世界を席巻しつつあることの象徴として語られてきた。…

自由市場が限定されるべき(意外な)理由(読書メモ:『「正しい政策」がないならどうすべきか 政策のための哲学入門』①)

「正しい政策」がないならどうすべきか: 政策のための哲学 作者:ウルフ,ジョナサン 勁草書房 Amazon 動物実験やギャンブルにドラッグなどの規制、公共交通機関の安全性や刑罰や健康など、様々なトピックに関する政策について、哲学・倫理学の視点から何が言…

「不平等」はそんなに悪いことなのか?(読書メモ:『政治哲学への招待』②)

政治哲学への招待―自由や平等のいったい何が問題なのか? 作者:アダム・スウィフト 風行社 Amazon [前段で平等を拒絶する世俗的な主張を並べた後に]これはすべて、大衆政治のレトリックのレベルでのことである。しかし平等は、政治哲学者からも、厳しい取り扱…

能力のある人は、他の人よりも恵まれた暮らしに「値する」のか?(読書メモ:『政治哲学への招待』①)

政治哲学への招待―自由や平等のいったい何が問題なのか? 作者:アダム・スウィフト 風行社 Amazon ●格差原理と、不平等の正当化 分配の正義に関する論争において、最大の注目を集めたのは、最後の原理ーーすなわち、格差原理ーーである。不平等は、どのように…

読書メモ:『ポジティブ心理学 科学的メンタル・ウェルネス入門』

ポジティブ心理学 科学的メンタル・ウェルネス入門 (講談社選書メチエ) 作者:小林正弥 講談社 Amazon 著者の小林はサンデルやアリストテレスについての著作もあるコミュニタリアン系の政治哲学者。とくにアリストテレスの「徳倫理」がポジティブ心理学に結び…

公正価格の誤謬、「ホモ・エコノミクス」批判批判(読書メモ:『資本主義が嫌いな人のための経済学』③)

資本主義が嫌いな人のための経済学 作者:ジョセフ・ヒース NTT出版社 Amazon ● 第7章「公正価格の誤謬」から。 あえて私の考えを言えば、左派または人類の味方とすら辞任する御仁にとって、豊かな工業化社会で食住をあがえない人がいるのはいるのは許し…

賃金と「社会の認識」は関係あるのか?(読書メモ:『資本主義が嫌いな人のための経済学』②)

資本主義が嫌いな人のための経済学 作者:ジョセフ・ヒース NTT出版社 Amazon 『資本主義が嫌いな人のための経済学』の第10章のテーマは「同一賃金」であり、「貧困に対策するためには最低賃金を上げなければいけない」や「男女の賃金格差を是正するために…

ファストフードとゲームは依存を悪化させて健康と時間を奪う(『啓蒙思想2.0』読書メモ⑥)

啓蒙思想2.0―政治・経済・生活を正気に戻すために 作者:ジョセフ・ヒース NTT出版 Amazon 『啓蒙思想2.0』の主なテーマは「非合理化する政治」であるが、現代社会では、政治に限らずわたしたちの「生活」全般が、非合理なものとなっている。 これまでの記事…

「男性のセルフケア」論についての雑感

gendai.ismedia.jp なんとなく上記の記事を眺めていたら色々とひっかかるところがあり、以前からのわたしの問題意識や関心とも関連している内容でもあるので、思うところをメモしていく*1。 現代社会における「男らしさ」は多様化していますが、それでも「男…

「自由」にケチをつけるな(読書メモ:『自由の命運 : 国家、社会、そして狭い回廊』)

[まとめ買い] 自由の命運 国家、社会、そして狭い回廊 作者:ダロン アセモグル,ジェイムズ A ロビンソン Amazon もう図書館に返却してしまって読み直せないので、浅い感想をメモ的に残しておく。 『自由の命運』は経済学の本(制度論の本)であり、様々な時…

幸福には「仕事」が欠かせない理由

しあわせ仮説 作者:ジョナサン・ハイト 発売日: 2011/07/06 メディア: 単行本 『しあわせ仮説:古代の知恵と現代科学の知恵』の第10章から、仕事(労働)に関する議論を紹介しよう。 カール・マルクスによる資本主義批判は、産業革命が、職人と生産物とのあ…

読書メモ:『<効果的な利他主義>宣言!:慈善活動への科学的アプローチ』

〈効果的な利他主義〉宣言! ――慈善活動への科学的アプローチ 作者:ウィリアム・マッカスキル 発売日: 2018/11/02 メディア: 単行本 この本についてはこちらの記事でも紹介した。 davitrice.hatenadiary.jp また、「効果的な利他主義」の考え方そのものについ…

読書メモ:『ブルシット・ジョブ:クソどうでもいい仕事の理論』

ブルシット・ジョブ――クソどうでもいい仕事の理論 作者:デヴィッド・グレーバー 発売日: 2020/07/30 メディア: 単行本 はじめに断っておくと、わたしはこの本をフラットな状態で読みはじめたわけではない。『隠された奴隷制』でデヴィッド・グレーバー(やジ…

ひとこと感想:『格差は心を壊す:比較という呪縛』

格差は心を壊す 比較という呪縛 作者:リチャード ウィルキンソン,ケイト ピケット 発売日: 2020/04/03 メディア: Kindle版 タイトル通り、経済の格差がわたしたちの心や健康にもたらす悪影響について論じて、経済格差が広がると社会的分断も広まって政治にも…

労働から逃避したところで幸せになれるの?(読書メモ:『隠された奴隷制』)

隠された奴隷制 (集英社新書) 作者:植村邦彦 発売日: 2019/08/23 メディア: Kindle版 本のタイトルはマルクスの『資本論』に出てくるキーワードであり、この本の内容もマルクス主義的なものだ。 第一章〜第三章では、ロックやモンテスキューからはじまってア…

ひとこと感想:『日本人のためのイスラエル入門』

日本人のためのイスラエル入門 (ちくま新書) 作者:洋, 大隅 発売日: 2020/03/06 メディア: 新書 著者はアカデミックな人物ではなく、外務省に入って在イスラエル日本大使館公使を数年間務めた経験のある外交官。というわけでこの本の内容もアカデミックなも…

ひとこと感想:『ルポ:技能実習生』

●『ルポ:技能実習生』 ルポ 技能実習生 (ちくま新書) 作者:澤田晃宏 発売日: 2020/05/15 メディア: Kindle版 世間では「奴隷労働」とか「騙されて日本に連れてこられた」というイメージの多い技能実習生制度だが、主にベトナムの技能実習生制度を扱ったこの…

ひとこと感想:『働く女子のキャリア格差』&『若者は社会を変えられるか?』

●『働く女子のキャリア格差』 働く女子のキャリア格差 (ちくま新書) 作者:祥子, 国保 発売日: 2018/01/10 メディア: 新書 タイトルからして様々な属性の職業選択や出世に関する格差(地方と東京ではこんなに違う、大卒と非大卒とではこんなに違う、みたいな…

「再分配に関心はあるが、政党には無関心」(読書メモ:『アンダークラス:新たな下層階級』)

アンダークラス (ちくま新書) 作者:健二, 橋本 発売日: 2018/12/06 メディア: 新書 同じ著者の『新・日本の階級社会』は以前に読んだが、その本から内容はあまり変わっていない。社会科学らしく統計情報が大量に出てくる本ではあるのだが、大量に出てくる図…

道徳や規範を認識できない人たちについての省察

note.com みんなが批判している通りの酷い内容の記事である。特に以下の箇所がヤバい。 フェミニストという言葉はネットのごく一部の界隈でしか聞いたことがないので一体どこのイベントなのかと純粋に興味がありました。僕が参加するイベントでは一度も聞い…

ネオリベラリズムとしてのエロティック・キャピタル

エロティック・キャピタル すべてが手に入る自分磨き 作者:キャサリン・ハキム 発売日: 2012/03/03 メディア: 単行本(ソフトカバー) 数年前に読んだ本であるが、思うところあって改めて再読。 「すべてが手に入る自分磨き」という邦訳版オリジナルの副題は…

パターナリズムとしての「勤労の権利」

www.orangeitems.com ↑ 上記の記事でなされている主張を引用しよう。 働かないというのは、社会から切り離されることに等しいと思います。社会で生きていたら誰かの役に立っていないときっと空虚な気持ちになります。住居も保証され何でも買っていい、旅行も…

労働・やりがい・疎外・ベーシックインカムなどについての雑感

働くことの哲学 作者: ラーススヴェンセン,Lars Svendsen,小須田健 出版社/メーカー: 紀伊國屋書店 発売日: 2016/04/07 メディア: 単行本 この商品を含むブログ (4件) を見る ここ最近、仕事や労働や賃金、および財産の分配に関する哲学や思想史の本を何冊か…

読書メモ:『 大学なんか行っても意味はない? 教育反対の経済学』

大学なんか行っても意味はない?――教育反対の経済学 作者: ブライアン・カプラン,月谷真紀 出版社/メーカー: みすず書房 発売日: 2019/07/17 メディア: 単行本 この商品を含むブログを見る 雇用主が大学を卒業した人そうでない人よりも高い給料を払うのは、そ…

悲観主義はなぜ賢そうに聞こえるのか?

経済コラムニストのモーガン・ハウゼル(Morgan Housel)が、英語版のモトリー・フール(投資に関するニュース・メディア)に2016年に投稿した記事を要約して簡単に紹介。 www.fool.com 経済史学者のディアドラ・マクロスキーは「何故だかわからないが、人々…

「ブルジョワ文化」が失われたことがアメリカの社会問題の原因?

www.philly.com 今回紹介するのは、Philly.comというサイトに掲載された、ペンシルヴァニア大学のロースクールの教授であるエイミー・ワックス(Amy Wax)とサンディエゴ大学法学部の特別教授であるラリー・アレクサンダー(Larry Alexander)による「ブルジ…

IQ・経済・民主主義

Hive Mind: How Your Nation's IQ Matters So Much More Than Your Own 作者: Garett Jones 出版社/メーカー: Stanford Economics and Finance 発売日: 2016/11 メディア: ペーパーバック この商品を含むブログを見る 以前に読んだ、経済学者ギャレット・ジ…