道徳的動物日記

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倫理学

真・公共的理性とはなんぞや(読書メモ:『政治的リベラリズム』①)

政治的リベラリズム 増補版 (単行本) 作者:ジョン・ロールズ 筑摩書房 Amazon 年明けからは分厚い本を読めるタイミングもしばらくなさそうなので、以前にほしいものリストからいただいた『政治的リベラリズム』を手に取り*1、とりあえず第二部第六章の「公共…

「恥辱」と法、ヌスバウムによるJ・S・ミル論(読書メモ:『感情と法』③)

感情と法―現代アメリカ社会の政治的リベラリズム 作者:マーサ ヌスバウム 慶應義塾大学出版会 Amazon davitrice.hatenadiary.jp davitrice.hatenadiary.jp 前回からだいぶ間が空いたが、「恥辱感」をテーマにした4〜6章とジョン・スチュアート・ミルの自由…

「怒り」はよくて「嫌悪感」はダメなのか?(読書メモ:『感情と法』②)

感情と法―現代アメリカ社会の政治的リベラリズム 作者:マーサ ヌスバウム 慶應義塾大学出版会 Amazon 前回の記事でも触れたように、『感情と法」の第2章と第3章では、おおむね「嫌悪感は不適切で理に適っていない感情だから法律に組み込んではいけないが、…

法律に「感情」が必要である理由(読書メモ:『感情と法』①)

感情と法―現代アメリカ社会の政治的リベラリズム 作者:マーサ ヌスバウム 慶應義塾大学出版会 Amazon 本書の序章や第1章などでまず強調されるのは、「感情はともかく非合理的であり、法的なルールを作るうえで感情に配慮することは常に間違いだ」(p.6)と…

読書メモ:『なぜ美を気にかけるのか :感性的生活からの哲学入門』&『近代美学入門』

なぜ美を気にかけるのか: 感性的生活からの哲学入門 作者:ドミニク・マカイヴァー・ロペス,ベンス・ナナイ,ニック・リグル 勁草書房 Amazon 『なぜ美を気にかけるのか』は美学の入門書でもあるが、そのなかでも「美的価値」や「美的感性」「美的生活」の問題…

読書メモ:『人生の意味とは何か』

人生の意味とは何か (フィギュール彩) 作者:テリー イーグルトン 彩流社 Amazon Very Short Introduction シリーズの邦訳書を紹介するシリーズ(カテゴリを新設しました)。 U -NEXTの余っていたポイントを使ってビル・ナイ主演の『生きる LIVING』を観たと…

最近読んだ本シリーズ:『悪口ってなんだろう』『「美味しい」とは何か』『ケアしケアされ、生きていく』

図書館で借り、出退勤の電車で流し読みした新書本たち。どの本もdisることにはなるけれど、ちゃんと読めてはいないです。 悪口ってなんだろう (ちくまプリマー新書) 作者:和泉悠 筑摩書房 Amazon 「「からかい」の政治学」や『笑いと嘲り』を読んだ流れで、…

ユーモアのダークサイド(読書メモ:『笑いと嘲り』)

笑いと嘲り―ユーモアのダークサイド 作者:マイケル ビリッグ 新曜社 Amazon 先日に江原由美子の「からかいの政治学」を読んだ流れで、前々から図書館で見かけてタイトルだけは知っていたこの本も中古で購入して読了*1。 著者のマイケル・ビリッグは心理学者…

読書メモ:『哲学がわかる 懐疑論:パラドクスから生き方へ』

『福祉国家』、『ポピュリズム』、『法哲学』、『マルクス』、『古代哲学』などに続いてVery Short Introduction シリーズの邦訳書を紹介するシリーズ。 哲学がわかる 懐疑論──パラドクスから生き方へ 作者:ダンカン・プリチャード 岩波書店 Amazon 本書の冒…

読書メモ:『一冊でわかる 古代哲学』&『哲学がわかる 中世哲学』

古代哲学 (〈1冊でわかる〉シリーズ) 作者:ジュリア アナス 岩波書店 Amazon 『福祉国家』、『ポピュリズム』、『移民』、『法哲学』、『マルクス』などに続いてVery Short Introduction シリーズの邦訳書を紹介するシリーズ。 『一冊でわかる 古代哲学』の…

「からかいの政治学」(読書メモ:『増補 女性解放という思想』)

増補 女性解放という思想 (ちくま学芸文庫) 作者:江原 由美子 筑摩書房 Amazon 『増補 女性解放という思想』は昨年の12月にネット上の「からかい」に関する記事を書いた後にAmazonのほしいものリストから買ってもらったのだが、最近は「からかい」に関する…

読書メモ:『市民的抵抗:非暴力が社会を変える』

市民的抵抗:非暴力が社会を変える 作者:エリカ・チェノウェス 白水社 Amazon 『福祉国家』、『ポピュリズム』、『移民』、『法哲学』、『マルクス』、『貧困』と、最近のこのブログではVery Short Introduction シリーズの邦訳書を紹介し続けているが、今回…

ピーター・シンガーによるマルクス論(読書メモ:『マルクス』)

マルクス ピーターシンガー/著 重田晃一/訳 ノーブランド品 Amazon 『福祉国家』、『ポピュリズム』、『移民』、『法哲学』に引き続きオックスフォードのVery Short Introduction シリーズの邦訳書を紹介するシリーズ第五弾。 1989年発行のこの本はAmazon…

解釈としての法(読書メモ:『一冊でわかる 法哲学』)

法哲学 (〈1冊でわかる〉シリーズ) 作者:レイモンド・ワックス 岩波書店 Amazon 『福祉国家』、『ポピュリズム』、『移民』に引き続きオックスフォードのVery Short Introduction シリーズの邦訳書を紹介するシリーズ第四弾。今回は『法哲学』である。 『一…

読書メモ:『原理の問題』

原理の問題 作者:ロナルド・ドゥオーキン 岩波書店 Amazon 政治哲学っぽい『平等とは何か』や議論がシンプルな『自由と法』はまだ読めたのだけれど、この本は法哲学という個人的に馴染みのない分野であるうえに議論もやたらとくどくどとしており、3章ぶん(…

リベラリズムにとって「手続き」と「平等」が大切な理由(読書メモ:『リベラリズム:リベラルな平等主義を擁護して』)

リベラリズム: リベラルな平等主義を擁護して 作者:ポール・ケリー 新評論 Amazon ジョン・ロールズなどの特定の思想家の解説本や思想史の本ではなくリベラリズムの「理論」への入門書が数少ないことには先日にも言及したが、今月の上旬にめでたく邦訳が出版…

理性と論理に基づくリベラリズム(読書メモ『Liberalism : the basics』)

Liberalism: The Basics (English Edition) 作者:Charvet, John Routledge Amazon 次の本の執筆に向けて昨年からリベラリズムのことを勉強し続けているうちに気が尽かされたのだが、哲学や理論としてのリベラリズムの入門書は意外なほどに少ない。 中公新書…

責任否定論に現実味がない理由(読書メモ:『考えるあなたのための倫理入門』)

考えるあなたのための倫理入門 作者:メアリー・ウォーノック 春秋社 Amazon この本は返却期限の問題から3章の「権利」と5章の「自由、責任、決定論」しか読めていない。前者の議論はいろいろと納得ができなかったが、後者にはピーター・ストローソンの講演…

「公共道徳」と「私的倫理」(読書メモ:『J・S・ミル:自由を探究した思想家』)

J・S・ミル 自由を探究した思想家 (中公新書) 作者:関口正司 中央公論新社 Amazon この新書に関しては先日に前夜祭的な記事を書いている。 davitrice.hatenadiary.jp また、『自由論』についてはこのブログやWebメディアに掲載した記事などでもたびたび登…

読書メモ:『J・S・ミルと現代』&『一冊でわかるJ・S・ミル』

来週に中公新書の『J・S・ミル』が出版されるし*1、表現の自由論を勉強したり『経済学の倫理学』を読んだりしたことで最近はまたミルに触れる機会が増えてきたので*2、中公新書の予習というか前夜祭的な感じで岩波新書とオックスフォードのVery Short Intr…

「思想の自由市場」の価値とはなんだろうか?

ヘイト・スピーチという危害 作者:ジェレミー・ウォルドロン みすず書房 Amazon 前回の記事でも紹介したジェレミー・ウォルドロンの『ヘイト・スピーチという危害』では、表現の自由を擁護する議論の古典であり現代でも頻繁に参照されているジョン・スチュア…

読書メモ:『ヘイト・スピーチという危害』ほか

davitrice.hatenadiary.jp 前回に引き続き、来たる6月13日の「左からのキャンセル・カルチャー論」トークイベントに向けて、表現の自由というトピックに関して復習中*1。 最近に読んだり再読したりした本は以下の通り。 ヘイト・スピーチという危害 作者:…

ピーター・シンガーによる「言論の自由」論

出勤前の短い時間なのでメモ的な記事。 www.project-syndicate.org 昨年の11月に倫理学者のピーター・シンガーが書いたコラム。イ ーロン・マスクがTwitterを買収したことに言及しながら、自身が編集委員をやっている雑誌 Journal of Controversial Ideas …

「思いやり」があれば正しいってもんか?(読書メモ:『ケアの倫理と共感』)

ケアの倫理と共感 作者:マイケル・スロート 勁草書房 Amazon この本は邦訳の発売直後、2021年の年末に当時もらった図書カードで購入済だったのだが積んでいたところ、先日の日本哲学会のワークショップに向けて、『もうひとつの声で』に続いて読んだ、という…

「片目の男」(読書メモ:『ノージック 所有・正義・最小国家』)

ノージック―所有・正義・最小国家 作者:ジョナサン ウルフ 勁草書房 Amazon 政治哲学者ロバート・ノージックの思想について、『アナーキー・国家・ユートピア』を中心に解説する本。 ノージックといえばリバタリアニズム(自由尊重主義)を正当化する思想を…

日本哲学会ワークショップ「動物倫理とフェミニズム・ジェンダー」で発表してきました

時間なくて原稿の60%くらい読み上げられなくて超飛ばし飛ばしになったり、プリント代をケチって5部しかレジュメ用意しなかったら全く足りなかったりと、わたしの発表はちょっと(かなり)グダグダになってしまいましたが(質疑応答は充実していたと思いま…

読書メモ:『もうひとつの声で 心理学の理論とケアの倫理』

もうひとつの声で──心理学の理論とケアの倫理 作者:キャロル・ギリガン 風行社 Amazon 言わずとしれた、「ケアの倫理」を最初に提唱した元祖的な本。このブログの以前の記事でねだったら購入してもらえましたので読みました*1。また、この本を読むために、批…

【翻訳希望!】『資本主義の倫理学』

The Ethics of Capitalism: An Introduction (English Edition) 作者:Halliday, Daniel,Thrasher, John Oxford University Press Amazon さきほどの記事で書いたように、この4月は引越しに伴う作業と会社の仕事とでなかなか読書・執筆の時間が取れなかった…

「普遍的な道徳」は存在するか?(読書メモ:『道徳性の発達と道徳教育』)

道徳性の発達と道徳教育 作者:ローレンス・コールバーグ,アン・ヒギンズ 麗澤大学出版会 Amazon 「ケアの倫理」を最初に提唱したキャロル・ギリガンの『もうひとつの声で』の批判対象として有名な……というか、哲学・倫理学界隈では「ギリガンに批判された人…

キムリッカとドナルドソンによる「動物の権利」論(読書メモ:『アニマル・スタディーズ 29の基本概念』⑥)

アニマル・スタディーズ29の基本概念 平凡社 Amazon 第22章「権利」の著者は政治哲学者のウィル・キムリッカと哲学者のスー・ドナルドソン。『人と動物の政治共同体:「動物の権利」の政治理論』を執筆した夫婦であり、このブログでは二人の著書や論文も何…