道徳的動物日記

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民主主義

「気概」とリベラルな民主主義(読書メモ:『歴史の終わり』)

歴史の終わり〈上〉 作者:フランシス フクヤマ 三笠書房 Amazon 歴史の終わり〈下〉「歴史の終わり」後の「新しい歴史」の始まり 三笠書房 Amazon フランシス・フクヤマの『歴史の終わり』は数年前にも読んで感想を書いているが、『IDENTITY 尊厳の欲求と憤…

キムリッカとドナルドソンによる「動物の権利」論(読書メモ:『アニマル・スタディーズ 29の基本概念』⑥)

アニマル・スタディーズ29の基本概念 平凡社 Amazon 第22章「権利」の著者は政治哲学者のウィル・キムリッカと哲学者のスー・ドナルドソン。『人と動物の政治共同体:「動物の権利」の政治理論』を執筆した夫婦であり、このブログでは二人の著書や論文も何…

効果的な利他主義と動物の権利運動(読書メモ:『アニマル・スタディーズ 29の基本概念』③)

アニマル・スタディーズ29の基本概念 平凡社 Amazon 第2章「アクティヴィズム」の著者はジェフ・スィーボウとピーター・シンガー。どちらも倫理学者であると同時に動物の権利運動に実践的に関わっている人だ。 この章で主に論じられるのは<効果的なアニマ…

インセンティブから目を逸らして社会を語るな(読書メモ:『自己責任の時代:その先に構想する、支えあう福祉国家』)

自己責任の時代――その先に構想する、支えあう福祉国家 作者:ヤシャ・モンク みすず書房 Amazon タイトルが想像できるように、近年に蔓延している(とされる)、いわゆる「自己責任論」を批判する本。 また、著者のヤシャ・モンクの教師のひとりがマイケル・…

「運の平等主義」とはなんぞや(読書メモ:『平等主義の哲学』)

平等主義の哲学: ロールズから健康の分配まで 作者:巌, 広瀬 勁草書房 Amazon 「運の平等主義」についてはロナルド・ドウォーキンの『平等とは何か』の読書メモ記事でも紹介しているが、広瀬巌の『平等主義の哲学』の第二章でもドゥウォーキンとそのフォロワ…

インセンティブ、不平等、トリクルダウン(読書メモ:『正義論』③)

平等主義の哲学: ロールズから健康の分配まで 作者:巌, 広瀬 勁草書房 Amazon 知っての通り、ジョン・ロールズは『正義論』で「社会的・経済的不平等は、それが最も恵まれない人たちにとって利益になる時にのみ正当化する」とする、「格差原理」を提案した。…

日本じゅうがわたしのレベルに落ちたら…(『布団の中から蜂起せよ』読書メモ:追記)

布団の中から蜂起せよ: アナーカ・フェミニズムのための断章 作者:高島 鈴 人文書院 Amazon 表題にもなっている、第4章の「布団の中から蜂起せよーー新自由主義と通俗道徳」から引用。著者(高島)が博士後期課程に進学した直後に鬱病になった、というくだ…

「選良政治」は実現するか?/「熟議」がダメな理由(読書メモ:『アゲインスト・デモクラシー』②)

アゲインスト・デモクラシー 下巻 作者:ジェイソン・ブレナン,井上彰,小林卓人,辻悠佑,福島弦,福原正人,福家佑亮 勁草書房 Amazon 一昨日の記事が長くなったので、残りは駆け足で紹介。 ●エピストクラシー(選良政治論)は「理想理論」か「悲理想理論」か? …

選挙権は「力」を与えて「自尊」と結びつくのか?(読書メモ:『アゲインスト・デモクラシー』①)

アゲインスト・デモクラシー 上巻 作者:ジェイソン・ブレナン 勁草書房 Amazon 著者であるジェイソン・ブレナンの議論については、過去に下記の翻訳記事で紹介している。 davitrice.hatenadiary.jp この記事ではやや変則的だが、本書の4章と5章の内容を先…

読書メモ:『リベラルとは何か 17世紀の自由主義から現代日本まで』

リベラルとは何か 17世紀の自由主義から現代日本まで (中公新書) 作者:田中拓道 中央公論新社 Amazon ●ワークフェア競争国家 「ワシントン・コンセンサス」は、「底辺への競争」論とともに、新自由主義が世界を席巻しつつあることの象徴として語られてきた。…

賭けと人生と平等(読書メモ:『平等とは何か』③)

平等とは何か 作者:ロナルド・ドゥウォーキン 木鐸社 Amazon もし保険というものが利用可能だとすれば、これは自然の運と選択の運を連結する役目を果すことになるだろう。というのも、災害保険に入ったり、これを拒否することは計算された賭けと言えるからで…

正義論と自己責任論(読書メモ:『平等とは何か』①)

平等とは何か 作者:ロナルド・ドゥウォーキン 木鐸社 Amazon 11月から読み始めたのだが、オンライン記事や書評の依頼が重なったり年末年始に遊び過ぎたりしていて、読み終えるのに二ヶ月かかってしまった ちなみに、ここで紹介する責任論や「運の平等主義」…

『「社会正義」はいつも正しい』についての、いくつかの雑感

「社会正義」はいつも正しい 人種、ジェンダー、アイデンティティにまつわる捏造のすべて 作者:ヘレン プラックローズ,ジェームズ リンゼイ 早川書房 Amazon 早川書房から翻訳が出版された作家のヘレン・プラックローズと数学者のジェームズ・リンゼイの共著…

「公共的正当化」とはなんぞや(読書メモ:『リベラルな徳』)

リベラルな徳―公共哲学としてのリベラリズムへ 作者:スティーヴン マシード 風行社 Amazon ジョン・ロールズの『正義論』のような、リベラリズムに関する議論への基本的な忠誠は、それ自体が広く認識され、需要されうる理性的議論であるという事実においては…

自由市場が限定されるべき(意外な)理由(読書メモ:『「正しい政策」がないならどうすべきか 政策のための哲学入門』①)

「正しい政策」がないならどうすべきか: 政策のための哲学 作者:ウルフ,ジョナサン 勁草書房 Amazon 動物実験やギャンブルにドラッグなどの規制、公共交通機関の安全性や刑罰や健康など、様々なトピックに関する政策について、哲学・倫理学の視点から何が言…

読書メモ:『政治哲学への招待』③

政治哲学への招待―自由や平等のいったい何が問題なのか? 作者:アダム・スウィフト 風行社 Amazon 写経。 ●自由について 自由は、三者からなる関係である。それは、必ず三つの事柄への言及を含んでいる。すなわち、自由の行為主体、あるいは主語であるx、制…

「不平等」はそんなに悪いことなのか?(読書メモ:『政治哲学への招待』②)

政治哲学への招待―自由や平等のいったい何が問題なのか? 作者:アダム・スウィフト 風行社 Amazon [前段で平等を拒絶する世俗的な主張を並べた後に]これはすべて、大衆政治のレトリックのレベルでのことである。しかし平等は、政治哲学者からも、厳しい取り扱…

能力のある人は、他の人よりも恵まれた暮らしに「値する」のか?(読書メモ:『政治哲学への招待』①)

政治哲学への招待―自由や平等のいったい何が問題なのか? 作者:アダム・スウィフト 風行社 Amazon ●格差原理と、不平等の正当化 分配の正義に関する論争において、最大の注目を集めたのは、最後の原理ーーすなわち、格差原理ーーである。不平等は、どのように…

「利他」は「理性」に由来する(読書メモ:『The Kindness of Strangers』)

The Kindness of Strangers: How a Selfish Ape Invented a New Moral Code (English Edition) 作者:McCullough, Michael E. Oneworld Publications Amazon ここではざっくりとしか紹介しないので、各章ごとのちゃんとした要約はShoreBirdさんのほうを参照し…

公共的理性とはなんぞや(読書メモ:『ロールズと自由な社会のジェンダー』)

ロールズと自由な社会のジェンダー: 共生への対話 作者:美奈子, 金野 勁草書房 Amazon リベラルな民主主義社会の理念では、私たちは自らの政治社会のあり方を対話によって定める。私たちが政治社会のあり方をめぐって対話する際に求められるのは、そこに「相…

読書メモ:『自己陶冶と公的討論:J.S.ミルが描いた市民社会』

自己陶冶と公的討論 -J.S.ミルの市民社会論の射程 作者:樫本直樹 大阪大学出版会 Amazon 先日に読んだ『醜い自由』と同じく、ミルの著作(『自由論』がメインだが『功利主義論』なども登場する)を扱った専門的な本。また、『醜い自由』と同じく、論理的な一…

ホッブズ、哲学的アナーキスト、ルソー、ミル(読書メモ:『政治哲学入門』)

政治哲学入門 作者:ジョナサン ウルフ 晃洋書房 Amazon 原書は1996年(最近に第4版が出版されているが)、邦訳も2000年。なんのフックもないタイトルに地味な装丁といかにも売れそうにないタイプの本だが、その中身はというと、わたしがいままで読んだ政治哲…

政治参加(熟議民主主義?)が個人の思考・感性にもたらすメリット(読書メモ:『正義論』その①)

正義論 改訂版 作者:ジョン・ロールズ 紀伊國屋書店 Amazon 散々いっぱい入門書を読んでから「いざ」と意気込んでジョン・ロールズの『正義論』を読んでみたはいいものの、これがおそろしくつまらない。なにしろいちいち長ったるしく、注意して読まなければ…

ハーバーマス(読書メモ:『いまこそロールズに学べ:「正義」とはなにか?』)

いまこそロールズに学べ 「正義」とはなにか? 作者:仲正 昌樹 春秋社 Amazon あとがきで著者が「ロールズ研究者はミイラ取りがミイラになりがちだ」と述べたうえで、著者自身はミイラにならずにロールズとの間に一定の距離を保ちながらも、彼の理論をあっさ…

「がんばっている人」のための正義論?(読書メモ:『ロールズ正義論入門』)

ロールズ正義論入門 作者:森田浩之 論創社 Amazon ここ最近はロールズの入門書をいくつか集中的に読んでいるが、そのなかでもこの本はいい意味でロールズの「信者」が書いたという趣があり、ロールズの議論について内在的に理解して読者に伝えようとしている…

現実逃避としてのケア論(読書メモ:『「格差の時代」の労働論』)

「格差の時代」の労働論―ジョン・ロールズ『正義論』を読み直す (いま読む!名著) 作者:福間 聡 現代書館 Amazon …労働や生産性を人間にとって最も重要な価値であると規定し、そうした価値を促進すように社会の諸制度は編成されることを唱導する「労働中心主…

公正価格の誤謬、「ホモ・エコノミクス」批判批判(読書メモ:『資本主義が嫌いな人のための経済学』③)

資本主義が嫌いな人のための経済学 作者:ジョセフ・ヒース NTT出版社 Amazon ● 第7章「公正価格の誤謬」から。 あえて私の考えを言えば、左派または人類の味方とすら辞任する御仁にとって、豊かな工業化社会で食住をあがえない人がいるのはいるのは許し…

ケイパビリティとしての恋愛・結婚(読書メモ:『女性と人間開発 潜在能力アプローチ』)

女性と人間開発 潜在能力アプローチ (岩波オンデマンドブックス) 作者:マーサ・C. ヌスバウム 岩波書店 Amazon ヌスバウムによるケイパビリティ(潜在能力)アプローチの説明は、下記の通り。 ケイパビリティ・アプローチが問う中心的課題は、「バサンティ(…

社会は「男性の幸福度の低さ」について配慮するべきか?

新版 現代政治理論 作者:W. キムリッカ 日本経済評論社 Amazon 最近はキムリッカの『現代政治理論』をじっくりと読んでいたのだが、最終章の「フェミニズム」の章で、近頃の日本(のネット上)における議論にとっていろいろと示唆に富む箇所があったので、か…

「弱いものいじめ」としてのキャンセル・カルチャー

s-scrap.com 晶文社の連載で先日に書いた内容の続編的なものを書くために、キャンセル・カルチャーに関する洋書をいくつか取り寄せてもらって読んでいる。 そのうちの一冊が『Cancel This Book: The Progressive Case Against Cancel Culture(本書をキャン…