道徳的動物日記

倫理学、社会科学、時事問題、世相などについて論じます。

哲学

「マイノリティの被害者意識」に関する議論のジレンマ

良き人生について―ローマの哲人に学ぶ生き方の知恵 作者:ウィリアム・B・アーヴァイン 発売日: 2013/09/11 メディア: 単行本 『良き人生について:ローマの哲人に学ぶ生き方の知恵』については以前にも紹介したが、あらためて、この本の第11章「侮辱」からち…

「人生の意味」の進化心理学

野蛮な進化心理学―殺人とセックスが解き明かす人間行動の謎 作者:ダグラス・ケンリック 発売日: 2014/07/18 メディア: 単行本 ダグラス・ケンリックの『野蛮な進化心理学:殺人とセックスが解き明かす人間行動の謎』の白眉は、やはり、第七章の「マズローと…

有徳に生きることと、幸福に生きることの関係

徳は知なり: 幸福に生きるための倫理学 作者:ジュリア・アナス 発売日: 2019/03/25 メディア: 単行本 ジュリア・アナスの『徳は知なり:幸福に生きるための倫理学』については過去にも紹介記事を書いているが、今回は、徳と幸福について論じられている八章と…

読書メモ:『ストイック・チャレンジ:逆境を「最高の喜び」に変える心の技法』

ストイック・チャレンジ: 逆境を「最高の喜び」に変える心の技法 作者:アーヴァイン,ウィリアム・B. 発売日: 2020/11/27 メディア: 単行本 著者のアーヴァインは『良き人生について - ローマの哲人に学ぶ生き方の知恵』や『欲望について』の著者*1。『ストイ…

左派の思想と自己啓発が相反する理由(読書メモ:『生き抜くための12のルール:人生というカオスの解毒剤』)

人生というカオスのための解毒剤 生き抜くための12のルール 作者:ジョーダン・ピーターソン 発売日: 2020/07/07 メディア: Kindle版 海外では大ベストセラーになった本であり、日本でも熱心に薦める人が何人かいたので、ほしいものリストから送ってもらった…

ケアの倫理と二層理論/「アイデンティティ哲学」がつまらない理由

link.springer.com ヘルガ・クーゼ、ピーター・シンガー、モーリス・リカードによる共著論文 "Reconciling Impartial Morality and a Feminist Ethic of Care" (「公平な道徳と、フェミニストによるケアの倫理を調和させる」)を読んだのでメモ的に内容を記…

道徳の問題は科学的に、定量的に考えなければいけない理由

〈効果的な利他主義〉宣言! ――慈善活動への科学的アプローチ 作者:ウィリアム・マッカスキル 発売日: 2018/11/02 メディア: 単行本 ビル・ゲイツやウォーレン・バフェットが実践していることでも有名な「効果的な利他主義」について書かれた本。パート1では…

読書メモ:『モラル・トライブズ:共存の道徳哲学へ』

きのうからはじまった某所での連載の次々回くらいの原稿の元ネタとして『モラル・トライブズ:共存の道徳哲学へ』を借りて読み直しているうちに、図書館からお怒りの電話が来てしまった。 しかし『モラル・トライブズ』は細部まで刺激と啓発に満ちたおもしろ…

ジェンダー論が男性を救わない理由

Lonely at the Top: The High Cost of Men's Success 作者: Thomas Joiner Ph.D. 出版社/メーカー: St. Martin's Press 発売日: 2011/10/25 メディア: Kindle版 この商品を含むブログを見る 思うところあって、トマス・ジョイナーの『Lonely at the Top: The…

「インターセクショナリティ」が対立を招く理由

The Coddling of the American Mind: How Good Intentions and Bad Ideas Are Setting Up a Generation for Failure (English Edition) 作者:Lukianoff, Greg,Haidt, Jonathan 発売日: 2018/09/04 メディア: Kindle版 先日から、社会心理学者ジョナサン・ハ…

ポストモダンの右と左

真実の終わり 作者:ミチコ・カクタニ 発売日: 2019/06/05 メディア: 単行本 ようやく『真実の終わり』が図書館で借りれるようになったので、パラパラと読んでみた。内容としては大したことがなくて、HONZの書評にまとめられている以上のものはほとんど得られ…

使える倫理は、つまらない(読書メモ:『動物倫理の新しい基礎』)

動物倫理の新しい基礎 作者:ローリン,バーナード 発売日: 2019/12/01 メディア: 単行本 この本のスタンスは、序章となる「新しい動物倫理の必要性」の最後の段落に、おおむねまとまっているだろう。 たとえば、功利主義的理由のためにシンガー自身が、産業的…

労働から逃避したところで幸せになれるの?(読書メモ:『隠された奴隷制』)

隠された奴隷制 (集英社新書) 作者:植村邦彦 発売日: 2019/08/23 メディア: Kindle版 本のタイトルはマルクスの『資本論』に出てくるキーワードであり、この本の内容もマルクス主義的なものだ。 第一章〜第三章では、ロックやモンテスキューからはじまってア…

ひとこと感想:『美学への招待:増補版』

美学への招待 増補版 (中公新書) 作者:佐々木 健一 発売日: 2019/07/19 メディア: 新書 旧版は学部生のころに読んだような気がするが、詳細は忘れた。 タイトル通り「美学」の入門書だが、美学について主張してきた思想家たちを通時的に解説するタイプの本で…

フランシス・フクヤマの『IDENTITY 尊厳の欲求と憤りの政治』

IDENTITY (アイデンティティ) 尊厳の欲求と憤りの政治 作者:フランシス・フクヤマ 出版社/メーカー: 朝日新聞出版 発売日: 2019/12/06 メディア: 単行本 この本は途中まで原著で読んでいたのだが、全14章のうち5章まで読んだ時点で放置しているうちに翻訳…

「自殺」の思想史(読書メモ:『Stay: A History of Suicide and the Philosophies Against It』)

Stay: A History of Suicide and the Philosophies Against It (English Edition) 作者:Jennifer Michael Hecht 出版社/メーカー: Yale University Press 発売日: 2013/11/01 メディア: Kindle版 この本の副題の「自殺と、それに反対する哲学の歴史」が示す…

読書メモ:『哲学者が走る 人生の意味についてランニングが教えてくれたこと』

哲学者が走る: 人生の意味についてランニングが教えてくれたこと 作者:マーク ローランズ 出版社/メーカー: 白水社 発売日: 2013/09/14 メディア: 単行本 私は子供の頃から喘息を患っており、すこしでも走るだけですぐに息が切れてしまいしんどいことになる…

『功利主義とは何か』

功利主義とは何か 作者:ピーター・シンガー,カタジナ・デ・ラザリ=ラデク 出版社/メーカー: 岩波書店 発売日: 2018/11/16 メディア: 単行本(ソフトカバー) おそらく現代の世界に現存する哲学者としていちばん有名で影響力のあるピーター・シンガーと、ポ…

ネット言説における「合理性」信奉

もしかしたらこのブログの読者ならご存知かもしれないが、私にはインターネット中毒の傾向がある。 特に、Twitterとはてなブックマークはついつい見てしまう。 会社でフルタイムで働きだすようになってからは本を読める時間が減った一方で、インターネットを…

読書メモ:『AI時代の労働の哲学』

AI時代の労働の哲学 (講談社選書メチエ) 作者:稲葉振一郎 出版社/メーカー: 講談社 発売日: 2019/09/11 メディア: Kindle版 人工知能と労働の哲学、といえば「人工知能が発達してシンギュラリティを起こして人間を凌駕する存在になる」ことを前提として、…

労働・やりがい・疎外・ベーシックインカムなどについての雑感

働くことの哲学 作者: ラーススヴェンセン,Lars Svendsen,小須田健 出版社/メーカー: 紀伊國屋書店 発売日: 2016/04/07 メディア: 単行本 この商品を含むブログ (4件) を見る ここ最近、仕事や労働や賃金、および財産の分配に関する哲学や思想史の本を何冊か…

反出生主義は女性差別?

生まれてこない方が良かった―存在してしまうことの害悪 作者: デイヴィッドベネター,David Benatar,小島和男,田村宜義 出版社/メーカー: すずさわ書店 発売日: 2017/11/01 メディア: 単行本 この商品を含むブログ (2件) を見る 先日に聴きに行った、学習院大…

読書メモ:『幸福と人生の意味の哲学』(2)

幸福と人生の意味の哲学 作者: 山口尚 出版社/メーカー: トランスビュー 発売日: 2019/05/20 メディア: 単行本 この商品を含むブログを見る この本では「幸福であることの欺瞞性」や「私たちがひとを苦しめながら生きているという事実」が重視されている。 …

反出生主義についての雑感

Better Never to Have Been: The Harm Of Coming Into Existence 作者: David Benatar 出版社/メーカー: Oxford University Press, Usa 発売日: 2008/09/15 メディア: ペーパーバック 購入: 2人 クリック: 72回 この商品を含むブログ (1件) を見る 先日にペ…

読書メモ:『幸福と人生の意味の哲学』(1)

幸福と人生の意味の哲学 作者: 山口尚 出版社/メーカー: トランスビュー 発売日: 2019/05/20 メディア: 単行本 この商品を含むブログを見る 先日に『若者のための<死>の倫理学』についての記事を書いた時には同著を(否定的な意味も込めて)「"文学的"な哲…

読書メモ:ペットと反出生主義

Pets and People: The Ethics of Our Relationships with Companion Animals (English Edition) 出版社/メーカー: Oxford University Press 発売日: 2017/02/01 メディア: Kindle版 この商品を含むブログを見る www.oxfordscholarship.com 現代の哲学界にお…