道徳的動物日記

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哲学

読書メモ:『哲学人 生きるために哲学を読み直す』

哲学人―生きるために哲学を読み直す〈上〉 作者:ブライアン マギー 日本放送出版協会 Amazon 著者のブライアン・マギーはオックスフォードやケンブリッジを学んだ経歴を持つが、アカデミシャンや職業的な「プロ哲学者」ではなく、あくまで在野の人間としてテ…

「思想の自由市場」の価値とはなんだろうか?

ヘイト・スピーチという危害 作者:ジェレミー・ウォルドロン みすず書房 Amazon 前回の記事でも紹介したジェレミー・ウォルドロンの『ヘイト・スピーチという危害』では、表現の自由を擁護する議論の古典であり現代でも頻繁に参照されているジョン・スチュア…

読書メモ:『ヘイト・スピーチという危害』ほか

davitrice.hatenadiary.jp 前回に引き続き、来たる6月13日の「左からのキャンセル・カルチャー論」トークイベントに向けて、表現の自由というトピックに関して復習中*1。 最近に読んだり再読したりした本は以下の通り。 ヘイト・スピーチという危害 作者:…

ピーター・シンガーによる「言論の自由」論

出勤前の短い時間なのでメモ的な記事。 www.project-syndicate.org 昨年の11月に倫理学者のピーター・シンガーが書いたコラム。イ ーロン・マスクがTwitterを買収したことに言及しながら、自身が編集委員をやっている雑誌 Journal of Controversial Ideas …

「思いやり」があれば正しいってもんか?(読書メモ:『ケアの倫理と共感』)

ケアの倫理と共感 作者:マイケル・スロート 勁草書房 Amazon この本は邦訳の発売直後、2021年の年末に当時もらった図書カードで購入済だったのだが積んでいたところ、先日の日本哲学会のワークショップに向けて、『もうひとつの声で』に続いて読んだ、という…

「片目の男」(読書メモ:『ノージック 所有・正義・最小国家』)

ノージック―所有・正義・最小国家 作者:ジョナサン ウルフ 勁草書房 Amazon 政治哲学者ロバート・ノージックの思想について、『アナーキー・国家・ユートピア』を中心に解説する本。 ノージックといえばリバタリアニズム(自由尊重主義)を正当化する思想を…

読書メモ:『もうひとつの声で 心理学の理論とケアの倫理』

もうひとつの声で──心理学の理論とケアの倫理 作者:キャロル・ギリガン 風行社 Amazon 言わずとしれた、「ケアの倫理」を最初に提唱した元祖的な本。このブログの以前の記事でねだったら購入してもらえましたので読みました*1。また、この本を読むために、批…

【翻訳希望!】『資本主義の倫理学』

The Ethics of Capitalism: An Introduction (English Edition) 作者:Halliday, Daniel,Thrasher, John Oxford University Press Amazon さきほどの記事で書いたように、この4月は引越しに伴う作業と会社の仕事とでなかなか読書・執筆の時間が取れなかった…

「気概」とリベラルな民主主義(読書メモ:『歴史の終わり』)

歴史の終わり〈上〉 作者:フランシス フクヤマ 三笠書房 Amazon 歴史の終わり〈下〉「歴史の終わり」後の「新しい歴史」の始まり 三笠書房 Amazon フランシス・フクヤマの『歴史の終わり』は数年前にも読んで感想を書いているが、『IDENTITY 尊厳の欲求と憤…

「普遍的な道徳」は存在するか?(読書メモ:『道徳性の発達と道徳教育』)

道徳性の発達と道徳教育 作者:ローレンス・コールバーグ,アン・ヒギンズ 麗澤大学出版会 Amazon 「ケアの倫理」を最初に提唱したキャロル・ギリガンの『もうひとつの声で』の批判対象として有名な……というか、哲学・倫理学界隈では「ギリガンに批判された人…

キムリッカとドナルドソンによる「動物の権利」論(読書メモ:『アニマル・スタディーズ 29の基本概念』⑥)

アニマル・スタディーズ29の基本概念 平凡社 Amazon 第22章「権利」の著者は政治哲学者のウィル・キムリッカと哲学者のスー・ドナルドソン。『人と動物の政治共同体:「動物の権利」の政治理論』を執筆した夫婦であり、このブログでは二人の著書や論文も何…

「アニマル・ウェルフェア」の多様な意味(読書メモ:『アニマル・スタディーズ 29の基本概念』⑤)

アニマル・スタディーズ29の基本概念 平凡社 Amazon 第29章「ウェルフェア」の執筆者はクレア・パルマーとぺテル・サンデュ。どちらも倫理学者であり、前者についてはこのブログでも過去に何度か取り上げている。また、両者はコンパニオン・アニマルの倫理…

クリスティン・コースガードの「理性」論(読書メモ:『アニマル・スタディーズ 29の基本概念』④)

アニマル・スタディーズ29の基本概念 平凡社 Amazon 第20章「理性」の執筆者は、カント主義の哲学者クリスティン・M・コースガード。なかなか難しい内容であった。 義務とアイデンティティの倫理学 規範性の源泉 作者:クリスティーン・コースガード 岩波…

ローリー・グルーエンの「からまりあう共感」論(読書メモ:『アニマル・スタディーズ 29の基本概念』②)

アニマル・スタディーズ29の基本概念 平凡社 Amazon 本書の編者でもある倫理学者のローリー・グルーエンは、第9章「共感」を執筆している。 この章の議論はグルーエンの単著 Entangled Empathy: An Alternative Ethic for Our Relationships with Animals …

動物倫理における「有感覚主義」(読書メモ:『アニマル・スタディーズ 29の基本概念』①)

アニマル・スタディーズ29の基本概念 平凡社 Amazon 先日に発売された『アニマル・スタディーズ 29の基本概念』を図書館で入手してきたので(とても個人で購入できるような値段ではない)、気になる章をいくつか読んで読書メモを取っていく。 まずは、倫理学…

読書メモ:『フェミニストの理論』

フェミニストの理論 作者:ジョゼフィン ドノヴァン 勁草書房 Amazon davitrice.hatenadiary.jp 先日に英語論文を読んだジョゼフィン・ドノヴァンが1985年に書いた単著の『フェミニストの理論』がAmazonで安く売っていたので、せっかく論文を読んだのというの…

フェミニズムと動物:まとめと批判

An Introduction to Animals and Political Theory (The Palgrave Macmillan Animal Ethics Series) (English Edition) 作者:Cochrane, Alasdair Palgrave Macmillan Amazon 先日に引き続き、「フェミニズムと動物倫理」というテーマでお勉強。 今回は政治哲…

読書メモ:「動物の権利とフェミニズム理論」

The Feminist Care Tradition in Animal Ethics: A Reader Columbia University Press Amazon Animal Rights and Feminist Theory - JSTOR 唐突に思われそうだが、本日から一時的に動物倫理に関する文献を読んで読書メモをここに書くターンに突入する。……と…

読書メモ:『現代思想入門』

現代思想入門 (講談社現代新書) 作者:千葉雅也 講談社 Amazon 大学生から大学院一年生の頃までのわたしはいっちょまえに「哲学」や「思想」に対する興味を抱いており、哲学書そのものにチャレンジすることはほとんどなかったが、様々な入門書は読み漁ってい…

読書メモ:『哲学の門前』

哲学の門前 作者:吉川浩満 紀伊國屋書店 Amazon 著者の吉川浩満さんには文筆家としてのデビューするきっかけをいただいており、その後も編集者を紹介していただいたり『21世紀の道徳』や次作の執筆の打ち合わせにも毎回のように参加していただいてもらったり…

「運の平等主義」とはなんぞや(読書メモ:『平等主義の哲学』)

平等主義の哲学: ロールズから健康の分配まで 作者:巌, 広瀬 勁草書房 Amazon 「運の平等主義」についてはロナルド・ドウォーキンの『平等とは何か』の読書メモ記事でも紹介しているが、広瀬巌の『平等主義の哲学』の第二章でもドゥウォーキンとそのフォロワ…

日本じゅうがわたしのレベルに落ちたら…(『布団の中から蜂起せよ』読書メモ:追記)

布団の中から蜂起せよ: アナーカ・フェミニズムのための断章 作者:高島 鈴 人文書院 Amazon 表題にもなっている、第4章の「布団の中から蜂起せよーー新自由主義と通俗道徳」から引用。著者(高島)が博士後期課程に進学した直後に鬱病になった、というくだ…

「運」にどこまで配慮すべきか?(読書メモ:『自由意志対話:自由・責任・報い』)

自由意志対話:自由・責任・報い 作者:ダニエル C デネット,グレッグ D カルーゾー 青土社 Amazon 非両立論-楽観的懐疑論者のグレッグ・カルーゾーと両立論者のダニエル・デネットが論争する本*1。訳者あとがきでも指摘されているように両者の議論はかなり細…

自由や責任についてどう「解釈」するか?(読書メモ:『そうしないことはありえたか?:自由論入門』)

そうしないことはありえたか?: 自由論入門 作者:高崎将平 青土社 Amazon 「自由意志は存在するか否か」と言われたら、わたしを含めた多くの人が、「事実」に関する問題だと思うだろう。……つまり、自由意志というものがこの世界には「ある」のか「ない」のか…

「選良政治」は実現するか?/「熟議」がダメな理由(読書メモ:『アゲインスト・デモクラシー』②)

アゲインスト・デモクラシー 下巻 作者:ジェイソン・ブレナン,井上彰,小林卓人,辻悠佑,福島弦,福原正人,福家佑亮 勁草書房 Amazon 一昨日の記事が長くなったので、残りは駆け足で紹介。 ●エピストクラシー(選良政治論)は「理想理論」か「悲理想理論」か? …

選挙権は「力」を与えて「自尊」と結びつくのか?(読書メモ:『アゲインスト・デモクラシー』①)

アゲインスト・デモクラシー 上巻 作者:ジェイソン・ブレナン 勁草書房 Amazon 著者であるジェイソン・ブレナンの議論については、過去に下記の翻訳記事で紹介している。 davitrice.hatenadiary.jp この記事ではやや変則的だが、本書の4章と5章の内容を先…

読書メモ:『リベラルとは何か 17世紀の自由主義から現代日本まで』

リベラルとは何か 17世紀の自由主義から現代日本まで (中公新書) 作者:田中拓道 中央公論新社 Amazon ●ワークフェア競争国家 「ワシントン・コンセンサス」は、「底辺への競争」論とともに、新自由主義が世界を席巻しつつあることの象徴として語られてきた。…

「だれを好きになるか」を批判の対象にしていいのか?(読書メモ:『すごい哲学 世界最先端の研究が教える』

世界最先端の研究が教える すごい哲学 総合法令出版 Amazon 献本してもらったので読んだ。十数人以上の若手日本人哲学者が「サステナブルなファッションを選ぶにはどうしたらいいか?」や「小説を読むことで人はやさしくなれるのか?」といった具体的かつ詳…

賭けと人生と平等(読書メモ:『平等とは何か』③)

平等とは何か 作者:ロナルド・ドゥウォーキン 木鐸社 Amazon もし保険というものが利用可能だとすれば、これは自然の運と選択の運を連結する役目を果すことになるだろう。というのも、災害保険に入ったり、これを拒否することは計算された賭けと言えるからで…

人生の意味の「挑戦」モデル、共同体と善き生(読書メモ:『平等とは何か』②)

平等とは何か 作者:ロナルド・ドゥウォーキン 木鐸社 Amazon コメントが思い浮かばないので写経。 ●人生の意味の挑戦モデル ある人の生の影響力はその人の生が世界の客観的な価値に対してもたらす変化である。誰の生が善き生であるかについての我々の判断に…