道徳的動物日記

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文化と倫理

「公共的正当化」とはなんぞや(読書メモ:『リベラルな徳』)

リベラルな徳―公共哲学としてのリベラリズムへ 作者:スティーヴン マシード 風行社 Amazon ジョン・ロールズの『正義論』のような、リベラリズムに関する議論への基本的な忠誠は、それ自体が広く認識され、需要されうる理性的議論であるという事実においては…

市民の議論に対して哲学者が提言できる範囲とは?(読書メモ:『「正しい政策」がないならどうすべきか 政策のための哲学入門』②)

「正しい政策」がないならどうすべきか: 政策のための哲学 作者:ウルフ,ジョナサン 勁草書房 Amazon ●「安全性」をめぐってわたしたちの内部で生じる、帰結主義と義務論の対立 たとえば、鉄道衝突事故が起きた後に、犠牲者の親族が訴えるであろうことを考え…

能力のある人は、他の人よりも恵まれた暮らしに「値する」のか?(読書メモ:『政治哲学への招待』①)

政治哲学への招待―自由や平等のいったい何が問題なのか? 作者:アダム・スウィフト 風行社 Amazon ●格差原理と、不平等の正当化 分配の正義に関する論争において、最大の注目を集めたのは、最後の原理ーーすなわち、格差原理ーーである。不平等は、どのように…

「利他」は「理性」に由来する(読書メモ:『The Kindness of Strangers』)

The Kindness of Strangers: How a Selfish Ape Invented a New Moral Code (English Edition) 作者:McCullough, Michael E. Oneworld Publications Amazon ここではざっくりとしか紹介しないので、各章ごとのちゃんとした要約はShoreBirdさんのほうを参照し…

ハーバーマス(読書メモ:『いまこそロールズに学べ:「正義」とはなにか?』)

いまこそロールズに学べ 「正義」とはなにか? 作者:仲正 昌樹 春秋社 Amazon あとがきで著者が「ロールズ研究者はミイラ取りがミイラになりがちだ」と述べたうえで、著者自身はミイラにならずにロールズとの間に一定の距離を保ちながらも、彼の理論をあっさ…

読書メモ:『神はなぜいるのか?』

神はなぜいるのか? (叢書コムニス 6) 作者:パスカル ボイヤー NTT出版 Amazon 写経。 ●超自然的行為者と道徳的直観 道徳的直観は、社会的相互作用のための私たちの心的傾向の一部をなす。では、なぜ、それらが神や霊や先祖と結びつくのだろうか?それらの超…

読書メモ:『自由原理:来るべき福祉国家の理念』

自由原理 来るべき福祉国家の理念 作者:橋本 努 岩波書店 Amazon あまりコメントすることがないので、覚えておきたい箇所の「写経」みたいな記事になっちゃいます。 ●ヌスバウムのケイパビリティ論について 第一に、アリストテレス的な社会民主主義の文脈に…

現実逃避としてのケア論(読書メモ:『「格差の時代」の労働論』)

「格差の時代」の労働論―ジョン・ロールズ『正義論』を読み直す (いま読む!名著) 作者:福間 聡 現代書館 Amazon …労働や生産性を人間にとって最も重要な価値であると規定し、そうした価値を促進すように社会の諸制度は編成されることを唱導する「労働中心主…

なぜ人類学者は人間の「共通点」ではなく「差異」を強調するか?(『ヒューマン・ユニヴァーサルズ:文化相対主義から普遍性の認識へ』)

ヒューマン・ユニヴァーサルズ―文化相対主義から普遍性の認識へ 作者:ドナルド・E. ブラウン 新曜社 Amazon 原著は1991年であり、スティーブン・ピンカーの『心は空白の石板か』の11年前に出版されたもの。当時における文化人類学が人間の「普遍特性」の存在…

公正価格の誤謬、「ホモ・エコノミクス」批判批判(読書メモ:『資本主義が嫌いな人のための経済学』③)

資本主義が嫌いな人のための経済学 作者:ジョセフ・ヒース NTT出版社 Amazon ● 第7章「公正価格の誤謬」から。 あえて私の考えを言えば、左派または人類の味方とすら辞任する御仁にとって、豊かな工業化社会で食住をあがえない人がいるのはいるのは許し…

「ハッピーエンド」を唱える議論には警戒せよ(『資本主義が嫌いな人のための経済学』読書メモ①)

資本主義が嫌いな人のための経済学 作者:ジョセフ・ヒース NTT出版社 Amazon まずは「エピローグ」から引用。 若かりしころの私は、社会正義の問題など簡単だと考えていた。世界には二種類の人間がーー根っから利己的な人間と、もっと寛大で思いやりのあ…

拙著『21世紀の道徳』が発売しました

21世紀の道徳 作者:ベンジャミン・クリッツァー 晶文社 Amazon 拙著『21世紀の道徳:学問、功利主義、ジェンダー、幸福を考える』都内の書店では昨日から購入できたみたいだけれど、正式な発売日は本日です。ぜひ書店などで購入してください。 また、講談社…

読書メモ:『道徳の自然誌』

道徳の自然誌 作者:トマセロ,マイケル 勁草書房 Amazon トマセロの本は7年ほど前に『コミュニケーションの起源を探る』を読んで以来だ*1。『道徳の自然誌』は進化論に基づく道徳心理学の本であるが、たとえばジョナサン・ハイトの『社会はなぜ右と左にわかれ…

自立の倫理、共同体の倫理、神聖の倫理(『社会はなぜ左と右にわかれるのか』読書メモ③)

社会はなぜ左と右にわかれるのか――対立を超えるための道徳心理学 作者:ジョナサン・ハイト 紀伊國屋書店 Amazon ハイトは、文化心理学者のリチャード・シュウィーダーによる「三つの倫理」の考え方を紹介している。 「自立の倫理」は、「人間は第一に、欲求…

リベラルが「分裂」する理由(読書メモ:『リベラル再生宣言』)

リベラル再生宣言 (早川書房) 作者:マーク リラ 早川書房 Amazon マーク・リラの「アイデンティティ・リベラリズム」論についてはトランプ当選直後の記事を自分で訳した*1。『リベラル再生宣言』も以前に図書館で借りて読んだことはあるが、メモを取るために…

「徳」とアイデンティティ(再読メモ:『IDENTITY:尊厳の欲求と憤りの政治』)

IDENTITY (アイデンティティ) 尊厳の欲求と憤りの政治 作者:フランシス・フクヤマ 朝日新聞出版 Amazon 以前にもこのブログで何度か扱ってきた本なので、簡潔にメモ。 ・女性が同一賃金を求める理由について「メガロサミア(優越願望)」の観点から説明して…

生物学者に「道徳」は語れるか?(『社会はなぜ左と右にわかれるのか』+『社会はどう進化するのか』読書メモ)

社会はなぜ左と右にわかれるのか――対立を超えるための道徳心理学 作者:ジョナサン・ハイト 紀伊國屋書店 Amazon 〔ジョシュア・グリーンによる「カントの魂の密かなジョーク」論文に関して〕 これは統合知の格好の例である。ウィルソンは一九七五年に、「倫…

デュルーケム流功利主義とダーウィン左翼(『社会はなぜ左と右にわかれるのか』読書メモ②)

社会はなぜ左と右にわかれるのか――対立を超えるための道徳心理学 作者:ジョナサン・ハイト 紀伊國屋書店 Amazon 前回の記事ではジョナサン・ハイトによる「道徳基盤理論」をかなりディスって、『社会はなぜ左と右にわかれるのか』という本自体についても辛め…

保守の道徳はリベラルより「広い」のか?(『社会はなぜ左と右にわかれるのか』読書メモ①)

社会はなぜ左と右にわかれるのか――対立を超えるための道徳心理学 作者:ジョナサン・ハイト 紀伊國屋書店 Amazon ジョナサン・ハイトの『社会はなぜ左と右にわかれるのか:対立を越えるための道徳心理学』は、大学院生のころに原著の The Righteous Mind のほ…

現代だからこそパターナリズムが正当化される理由(『啓蒙思想2.0』読書メモ⑨)

啓蒙思想2.0―政治・経済・生活を正気に戻すために 作者:ジョセフ・ヒース NTT出版 Amazon 先日の記事でも述べたように、現代社会は、わたしたちの報酬系や認知バイアスの欠陥をついて健康と時間(とお金)を奪うような商品やシステムで溢れており、そういう…

インターネットで「言論」は成立するか?(『啓蒙思想2.0』読書メモ⑦)

啓蒙思想2.0―政治・経済・生活を正気に戻すために 作者:ジョセフ・ヒース NTT出版 Amazon 政治的言説の質にインターネットが与える長期的な影響はまだはっきりとわからない。これはテクノロジーが急速に変化しているからでもあり、伝統的なメディアーー特に…

ファストフードとゲームは依存を悪化させて健康と時間を奪う(『啓蒙思想2.0』読書メモ⑥)

啓蒙思想2.0―政治・経済・生活を正気に戻すために 作者:ジョセフ・ヒース NTT出版 Amazon 『啓蒙思想2.0』の主なテーマは「非合理化する政治」であるが、現代社会では、政治に限らずわたしたちの「生活」全般が、非合理なものとなっている。 これまでの記事…

左派が「共感」に訴えられない理由(『啓蒙思想2.0』読書メモ⑤)

啓蒙思想2.0―政治・経済・生活を正気に戻すために 作者:ジョセフ・ヒース NTT出版 Amazon 『啓蒙思想2.0』では、政治や言論をめぐるアメリカの状況がとにかく「不合理」なものとなっていることが、繰り返し指摘されている。ヒースは、現在における「不合理」…

人種差別は「本能」ではない(『啓蒙思想2.0』読書メモ④)

啓蒙思想2.0―政治・経済・生活を正気に戻すために 作者:ジョセフ・ヒース NTT出版 Amazon 心理学者のジョナサン・ハイトは、『社会はなぜ右と左にわかれるか』などの著作や諸々の記事などで、人間には「部族主義」の本能(バイアス)が備わっていることを何…

反合理主義としてのフェミニズム(『啓蒙思想2.0』読書メモ③)

啓蒙思想2.0―政治・経済・生活を正気に戻すために 作者:ジョセフ・ヒース NTT出版 Amazon ジョセフ・ヒースはカナダ人であるけれど、『啓蒙思想2.0』における彼の問題意識は、ティーパーティーに代表されるように近年のアメリカで不合理で反動的な右派の運動…

対等願望、優越願望、承認欲求、民主主義

IDENTITY (アイデンティティ) 尊厳の欲求と憤りの政治 作者:フランシス・フクヤマ 朝日新聞出版 Amazon フランシス・フクヤマの『IDENTITY:尊厳の欲求と憤りの政治』はこのブログでも何度か扱ったが、あまり高く評価してきたわけではなかった*1。しかし、ポ…

伝統を守ればいいというものではない(『啓蒙思想2.0』読書メモ②)

啓蒙思想2.0―政治・経済・生活を正気に戻すために 作者:ジョセフ・ヒース NTT出版 Amazon 前回の記事で書いた通り、理性とは不自然なものであり、せいぜいが適応の副産物に過ぎず、その力は限られている。 たとえば、野球でボールがフライとなったとき、外野…

『ニコマコス倫理学』読書メモ

他の箇所で細々と書いていたメモを、こちらにまとめる。上巻はしっかり読んだけど、下巻ではかなり力尽きています。たぶん誤字脱字もかなり含んでいるけどとりあえず無視。 (まずは上巻) ニコマコス倫理学(上) (光文社古典新訳文庫) 作者:アリストテレス…

ネットリンチと「非難」の問題

ルポ ネットリンチで人生を壊された人たち (光文社新書) 作者:ジョン・ロンソン 光文社 Amazon 『ルポ ネットリンチで人生を壊された人たち』から引用する*1。 最初に何人かが「ジャスティン・サッコは悪人だ」と意見を述べた。その何人かに対して即座に称賛…

「進化政治学」はそんなにおかしいのか?

www.asahi.com note.com 広島大学の伊藤隆太氏の発言が差別的であるとして問題視されており、それにあわせて、彼の研究分野である「進化政治学」も批判の対象となっている。 わたしの目から見ても伊藤氏の発言のうちのいくつかは差別的であり、解雇まで求め…