道徳的動物日記

動物や倫理学やアメリカについて勉強したことのある人の日記です。

Google社員の「反多様性メモ」の内容は間違っていたのか?

 

jp.reuters.com

 

www.bbc.com

 

 やや時機を逸している感はあるが、今更ながら、Google社員のジェームス・ダモアが社内文書にて男女の生物学的性差などを論じながらGoogleの多様性制度を批判したために解雇されてしまった事件について、軽く英語記事を紹介してみようと思う。

 

www.nydailynews.com

 

 まず紹介したいのは、倫理学者のピーター・シンガーが8月10日に発表した「なぜGoogleは間違っているか:ジェームス・ダモアが社内文書のために解雇されたことは正当なのか?」という記事。

 

 ダモアの文書についてのシンガーは以下のようにまとめている:

 

・まず、ダモアの文書は「一部の種類のジェンダー・ステレオタイプには、その根拠となる理由が実際に存在する」ということを論じている。具体的には、男性と女性とを比較すると女性の方には「他人に対して関心を抱きやすい」「分析を行ったりシステムを構築することに対して関心を抱きづらい」「より不安を抱きやすく、ストレスに対する耐性が低い」「地位を求める気持ちが低い」「仕事と生活との間のバランスを取ることに対する関心が高い」といった傾向があり、そのことを示す証拠もある、とダモアは論じている。

 

・しかし、注意深いことにダモアは「全ての女性が、これらの特徴を男性よりも強く持っているわけではない」ということも指摘している。女性と男性との間に差異はあるとしてもその差異は小さく、女性一般や男性一般に見受けられる特徴だとしてもそれが個々人としての各男性や各女性に必ずしも見受けられる訳ではない、というようなこともダモアは書いているのだ。そして、「人々を、その人々が属する集団アイデンティティに還元することは悪いことである」ともダモアは書いている。

 

・ダモアの主張を支持する科学的研究が存在する一方、それらの研究の一部には疑問の余地がある。

 

 シンガー自身の、ダモアの文書に対する評価は以下の通りだ:

 

・まず、ダモアの議論は歪んだ主張でもクレイジーな主張でもない。査読付きの科学ジャーナルに掲載された真剣な論文のなかにも、ダモアの主張を支持するものは存在する。

 

・そして、ダモアの主張は重要な問題について論じたものである。採用の際に性差別が働いていることは多くの業界で見受けられることなのだから、自社の社員の大多数が男性であることをGoogleが問題視するのは充分に正当であるし、性差別に対して敏感になり性差別が起こらないように予防に努めることは望ましい。例えば、近年では一部のオーケストラは音楽家の採用試験を行う際に相手の性別がわからないようにスクリーンの向こうから演奏させるという対策を取っているが、この対策は女性音楽家の採用率の劇的な上昇につながった。採用の際に応募者の性別に左右されないようにするための同様の対策は、どの業界も取るべきである。

 …しかし、性差別に対抗する処置が取られた後にも尚、ある業界に努める人の大多数が男性であり続けるとすれば、その男性比率の高さは性差別が原因でないという可能性がある。例えば、その業界で行える仕事が、女性よりも男性にとって魅力的な仕事であるという場合だ。…ダモアの主張が正しいとすれば、(Googleが提供しているような)ソフトウェア・エンジニアリングの仕事は、一般的に女性よりも男性の方が魅力を感じやすい仕事である。そして、男女比の偏りの原因が性差別でないとすれば、採用の際に男性よりも女性を優遇することには疑問の余地が出てくる。

 

・ただし、上述のような場合でも、女性を優遇することが必ずしも認められないわけではない。ロール・モデルとなるような女性がいることが重要であるという場合もあるだろうし、何らかの理由で職場の男女比率が均等である方が望ましいという業界もあるだろう。しかし、これらの各事例においても、女性を優遇する理由を論証して正当化する必要が有る。

 

 ダモアは科学的に妥当に支持できる主張を行っているし、職場の男女比や採用の際に女性を優遇するべきか否かという問題について考えるには「事実は何であるか」ということを知ることが重要である、とシンガーは述べる。そのうえで、ダモアを解雇したサンダー・ピチャイCEOの主張について、以下のような評価を述べている。

 

・「同僚の一部は生物学的に仕事に向いていない、などと示唆するのは、不愉快で不適切だ」とピチャイは述べたが、ダモアは自分の主張は個人を集団に還元しようとするものではないと何度も書いているし、ソフトウェア・エンジニアとしてGoogleに雇用された特定の女性たちが男性よりもその仕事に生物学的に向いていないとも論じていない。Googleに採用されるための競争率は非常に高いということをふまえれば、Googleに採用された女性たちが、女性一般のものではないような特徴を備えていたとしても不思議ではない。…ダモアが批判していたのは、「ソフトウェア・エンジニアリングの職場に採用される人の半分は女性となるべきであり、その結果を達成するためにGoogleは対策を取るべきだ」という主張であるのだ。

 

・また、ピチャイは「Googleに勤める者は、ハラスメントや脅し、偏見、不法な差別を取り除くとする企業文化を創りあげるためにできる限りのことを行う」とするGoogle社の行動規範を引用しているが、ダモアの文書はハラスメントでも脅しでもないし、言論の自由が守られている社会においては不法でもない。ダモアの文書には偏見が存在していた、と論じることは可能であるかもしれないが、そのためには、ダモアは他の研究を無視して自分にとって都合の良いように選択的に科学研究を引用していた、ということを反論側の方が論証しなければならない。しかし、ピチャイはそのような論証を全く行っていない。

 …そして、皮肉なことに、ダモアを解雇するというピチャイの行動は、ピチャイ自身が引用したGoogle社の行動規範に反するものである。ダモアのような意見を持っている社員に対して脅しをかけて口を噤ませるような企業文化を創ってしまったからだ。

 

 

heterodoxacademy.org

 

  また、上述の記事はHeterodox Academyというサイトに掲載されたショーン・スティーブンスという学者による記事であり、性差についての科学的研究のメタ分析を参照しながらダモアの主張の成否について検討したもの。長過ぎるし専門的過ぎるしで細かく紹介することはできないが、「科学/数学の能力や達成力やパフォーマンスの性差は小さいが、科学やシステム業に対する興味の性差は大きい」と論じながら、ダモアの文書はGoogle社内においては無視されていたような重要な科学的事実を指摘していた、と評価している。

 

 

How Google Works (ハウ・グーグル・ワークス)  ―私たちの働き方とマネジメント

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