道徳的動物日記

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読書メモ:『モンテーニュ私記 - よく生き、よく死ぬために』

 

モンテーニュ私記―よく生き、よく死ぬために

モンテーニュ私記―よく生き、よく死ぬために

 

 

 この本からではなく、この本で引用されているモンテーニュの『エセー』文章で気に入ったものを孫引き。

 

私は自分の生活のために使えなかった幸福などは物の数とも思っていません。私は自分がどんな人間であっても、紙の上とは別なところで幸福でありたいと思っています。私の技術と腕前は、この私自身を立派に活かすために使って来ましたし、勉強の方は、書くことでなく作ることを覚えるために充てて来ました。私は一切の努力を傾けて自分の生活を作って来たのです。それが私の仕事であり、作品なのです。

 

汝のなすべきことをなせ、そして汝自身を知れ、というこの偉大な掟は、しばしばプラトンのなかに援用されている。この掟の二つの項はどちらも広くわれわれの義務のすべてを含み、それぞれが他の項を同じように含んでいる。自分のことをなさなければならない者は、まず自分が何者であって、何が自分に固有のものであるかを知ることが第一の務めであることを知るだろう。

 

妻や、子供や、財産、そしてできることなら、なんといっても健康を持つことが必要である。しかし、われわれの幸福がそれに左右されるほどそれに縛られるようではいけない。まったくわれわれだけの、まったく自由な店裏の部屋を自由に取っておいて、そこにわれわれの真の自由と、主要な隠れ家と、孤独を築くようにしなければならない。そのなかでわれわれはつねに自分自身と話し合い、外とのどんな付き合いや会話もそこに入り込んで来ないような私的な話し合いをしなければならない。

 

私はたしかに物事のいっそう完全な理解を持ちたいとは思っているが、しかしあれほど高価な代償を払ってまでそれを買いたいとは思わない。私の意図は残された余生を穏やかに過ごすことであって、あくせくと過ごすことではない。私が頭を絞ってでもやってみたいと思うようなものはなに一つない。学問にどれだけ大きな価値があっても、やはり同じことである。私が本に求めるのは、正しい娯楽によって快楽を得ようとすることだけである。私が勉強するのも、私自身の認識を扱っている学問、すなわち、よく死に、よく生きることを私に教えてくれる学問だけを求めて勉強するのである。