道徳的動物日記

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読書メモ:『進化倫理学入門』

 

進化倫理学入門

進化倫理学入門

 

 

 前半は進化心理学や人類学などが道徳に関してもたらす客観的知見の概説やおさらい、後半はそれらの知見が倫理学においてどのような含意を持ったりどのように扱われたりどのような影響を与えるかということについてのメタ倫理学に関する議論、という構成。

 いちおう道徳心理学の本もそれなり読んでいる身としては前半はついていけたが、なにしろ私はメタ倫理学が苦手なので、後半はなかなか厳しかった。タイトルには「入門」と付いているが、多くの人にとってはなかなか敷居の高い本ではあると思う。

 全体的なバランスはちゃんと取れており、「進化心理は道徳や規範とは何の関係もない」という極端な進化心理学否定派の主張も「進化によって備わった適応的な行為が正しいのだ」といった極端な自然主義的誤謬派も、どちら側もたしなめられている。また、「人間の道徳的感覚や"善悪""正しさ"という概念は全て進化の産物なのだから、進化論の知見は道徳や倫理の存在を無効化する」という道徳的反実在論と、それに反対する道徳的実在論との議論も終盤で取り上げている。これもまた難しい。

 でもまあ進化と道徳に関する議論は一見想像するよりもずっと複雑で難しいということはわかるので、この本を読んだら、どちら側の主張をするにせよ単純で無責任なことは言えなくなるはずだ。そういう点では広く読まれるべき本かもしれない。