晶文社のサイトでわたしが行っている連載だけれど、今月の記事がかなり多くはてなブックマークが付いている(Twitterでも話題になっている)ので、せっかくなのでこちらで補足と宣伝。
・「めちゃくちゃ長い」「長くて読めなかった」というコメントが散見されるけれど、晶文社のサイトの連載は後日に単行本化することを前提にしているものなので、Web記事としてというよりも、のちに本のなかの一章として読まれることを想定しながら書いている。
たとえば2020年から2021年にかけて掲載した9つの記事は、加筆修正したうえで、『21世紀の道徳:学問、功利主義、ジェンダー、幸福を考える』に収められている。本書にはさらに4つの章が書き下ろしで追加されています。『21世紀の道徳』をまだ買っていない人は買ってください。
・記事内で紹介した、心理学者のトマス・ジョイナーによる、男性の自殺率が高い理由とそれを予防するための具体的な方策についての議論は下記の記事にまとめている。
ジョイナーの著書のいくつかは日本でも翻訳されているが、「男性の自殺」というテーマにスポットを当てた Lonely at the Top: The High Cost of Men's Success は未邦訳。だけれど、そのうち日本の読者にも届けられるかもしれない。
・「男性特権」という概念(の問題)については、先月の記事で詳しく論じている。
・男性の苦悩について社会的や政治的にどう扱うべきかとか、「非モテ」の問題についての議論はまだ構想中であるが、この問題を言語化するうえではマーサ・ヌスバウムなどによる「ケイパビリティ」概念を援用すればうまくいくんじゃないか、と思っているところだ。ただし、このトピックについて議論をまとめられるのはしばらく先になりそうである。
・ヌスバウムと言えば、彼女が『感情と法:現代アメリカ社会の政治的リベラリズム』で行っていたような「感情」に関する議論も、今シーズンの連載(またはそれを単行本化した際の書き下ろし)では取り入れるかもしれない。
・アリストテレスの『ニコマコス倫理学』の最終章の題は、「人間に関する哲学は倫理学から政治学へ向かうこと」である。
『21世紀の道徳』がタイトル通り「道徳(倫理学)」をテーマにしていたのに対して、今シーズンでは「政治」がテーマになりそうであり、それに伴って議論の内容もより複雑で曖昧なものになりそうだ。
また、『21世紀の道徳』では自分の主張を展開するだけでなく、倫理学者たちの理論や心理学や人類学の知見などを読者に対して提供すること(それによって読みものとして面白くして、読者にとって本の価値を増させること)をねらった。
一方で、今シーズンでは、フェアでフラットな視点を忘れないようにしながらも、政治や「正しさ」が関わる物事に対してわたし自身が抱いている主観的な「モヤモヤ」について、できるだけ丁寧に言語化することをこころがけている(だからひとつひとつの文章が長くなってしまうのだ)。ある種の「正しさ」に対してそのような向き合い方をできる人がわたし以外にあまりいなさそうなこと、そしていまの時代に関してわたしが(そして多かれ少なかれ他の人たちが)抱いている「モヤモヤ」を言語化して残しておくことにも価値があるはずだと考えているからだ。
・今週の土曜日に渋谷ロフト9でイベントやるのでチケット買ってください(配信でも買ったら見れます)。
・わたしの作家活動を支援したい人はぜひコーヒーとかノンアルコールビールとか米とか胃腸薬とかをを買ってください(切れてきたので)。本なら『現代倫理学基本論文集II: 規範倫理学篇1』とか『生活の豊かさをどう捉えるか』とか『怒りについて』あたりがほしい。ホッブズの『リヴァイアサン』もほしくなってきた。経済学も勉強したいなあ。