読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

道徳的動物日記

動物や倫理学やアメリカについて勉強したことのある人の日記です。

無神論と動物倫理 ・ 「ある種差別主義者の告白」 by マイケル・シャーマー

動物倫理 社会運動 時事問題 宗教

 

 (翻訳はところどころ意訳・省略している。無神論については最近関心を持って調べ始めたところなので、知識の間違いや誤解などが含まれているかもしれない。)

 

 

 マイケル・シャーマーはアメリカの科学史家、サイエンスライター疑似科学や宗教信仰を懐疑・批判する懐疑主義者であり、懐疑主義の雑誌『Skeptic』誌の発行人である。ホロコースト否定論に対する反論も行っている。無神論者として有名であるようだ。 多数の著書があり『なぜ人はニセ科学を信じるのか』などが邦訳されている。

 

なぜ人はニセ科学を信じるのか〈1〉奇妙な論理が蔓延するとき (ハヤカワ文庫NF)

なぜ人はニセ科学を信じるのか〈1〉奇妙な論理が蔓延するとき (ハヤカワ文庫NF)

 

 

 日本語字幕のあるTEDでは、人が超常現象を信じるようになる心理的メカニズムについて解説している。

 

www.ted.com

 

 

www.salon.com

 

 2016年の1月10日に、Salon.comというwebサイトで、精神医学と哲学の研究家であるスティーブ・スタンケヴィチウスが「新無神論者は新ビーガン(完全菜食主義者)にならなければならない」という記事を発表した。*1

 記事の冒頭では、有名な新無神論者であるサム・ハリスが以前には「自分が工場畜産の実態を知りながらベジタリアニズムを実践していないことは、偽善だと感じている」とインタビューで答えていたこと、最近ではベジタリアンになりビーガンになる志も抱いていると表明したことが書かれている。スタンケヴィチウスは、リチャード・ドーキンスマイケル・シャーマーなどの他の新無神論者たちが動物倫理や動物の権利運動に共感や理解を示していることを記しつつ、彼ら自身は菜食主義を実践していないことや動物の権利運動に積極的な参加をしていないことを批判している。記事の末尾で、スタンケヴィチウスは以下のように書いている。

 

 無神論世俗主義、科学、理性のイメージキャラクターとなっている彼ら(訳注:リチャード・ドーキンススティーブン・ピンカーなどの無神論者たち)は、公的な言説において、数多くの面でとても良い影響を与えてきた。彼らは、宗教の強制という問題に限らず様々な道徳的問題についても、適切に論じてきた。しかし、人間の権利については論じていても、動物の権利の問題は今のところ彼らの注目を惹いていないようである。だが、理性の最も優れている点は、それが道具であるところだ。理性は答えを前もって決めるものではなく、入手可能な最善の証拠に基づいて結論を導く過程のことである。そして、現在において入手可能な証拠は、動物の肉やその他の畜産品を食べることは、動物にとって悪いことであり、我々の健康や環境にとっても悪いことであることを示している。多くの新無神論者とその仲間たちは、このことを理解してはいる。あとは、実際に行動するだけだ。

 

 記事について、シャーマーは以下のように(好意的に)コメントしている。

 

「我々(訳注:新無神論者たち)は、ビーガンになろうとしているところだよ!まず、リデュースタリアンから始めてみよう。(訳注:リデュースタリアンは、食べる肉の量を減らそうとする人たちのためのwebサイト)」

 

 記事のなかで言及されているように、著名な新無神論者たちの多くは動物倫理や動物の権利運動に関心・理解があるようだ。*2

 新無神論者たちに対して宗教支持者から投げかけられる批判の一つに「宗教がなくて、個人や社会のモラルはどのようにして保たれるのか。宗教がなくて道徳や倫理は可能なのか」というものがあり、その批判に反論するという理由もあってか、新無神論者たちは道徳や倫理学についても積極的に発言している。例えば、マイケル・シャーマーやサム・ハリスは、宗教ではなく理性や科学に基づいて道徳を分析・主張する本を出版している。*3*4その関係で、記事内でも倫理学者ピーター・シンガーの名前が登場しているように、宗教に基づかない世俗的な倫理学についてもよく言及されているようだ。無神論においては、人命の神聖性を重視するために妊娠中絶や安楽死尊厳死を否定するキリスト教的な倫理観は批判されて、科学や合理的な理論に裏付けられた倫理観が求められるだろう。しかし、(シンガーの倫理学がそうであるように)人命の神聖性を問い直すなら人間の動物に対する道徳的特権も問い直されることになる…という理路で、無神論と動物倫理はつながるのだろう。

 

 

 以下に掲載する記事は、シャーマーが本人のwebサイトに掲載している記事「Confessions of a Speciesist」を私訳したもの。この記事は2014年の1月に書かれたものである。動物倫理や動物の権利運動についての、当時のシャーマーの意見・感想が書かれている。

 

Confessions of a Speciesist

www.michaelshermer.com

 

「ある種差別主義者の告白」 by マイケル・シャーマー

 

 人間以外の哺乳類動物たちは、我々の道徳的ヒエラルキーのどこに位置付けられるだろうか?

 

 

 食料、衣類、娯楽のために動物を搾取することを擁護する主張は、我々人間が優れた知性を持っていることや、言語や自己意識を持っていることに基づいている場合が多い。「優れた存在が持つ権利は、劣った存在が持つ権利を上回る」という訳だ。これに対し、マーク・デブリースの映画『Speciesism : The Movie』は強烈な反論を行っている。*5私はこの映画を2013年9月のプレミア上映で鑑賞した。ロスアンゼルスシアターを埋め尽くした動物愛護活動家たちは、プリンストン大学倫理学者ピーター・シンガーが登場すると大歓声をあげた。映画の中で、シンガーとデブリースは、一部の動物は特定の人間(乳幼児、昏睡状態の人、重度な精神的障害を持っている人)よりも優れた精神状態を備えている、と論じている。人間は動物よりも道徳的に優れているという主張は破綻する、とデブリースは言った。「動物の利害は人間の利害に比べて重要ではない、という仮定は、単なる偏見であるかもしれない。レイシズム(人種差別主義)のような特定の人間の集団に対する偏見と同様の偏見、スピーシーイズム(種差別主義)と名付けられるものだ」。

 私は、自分のことを種差別主義者であると思う。赤身肉より美味しいと感じる食べ物は少ししかない。私は革製品の手触りが気に入っている。二つのレンガで飼い馬の去勢を行う農夫についてのジョークに、私は大声で笑ってしまう。「それは痛いことなのか?」「親指をレンガに挟まないようにすれば、痛いことはないよ」。また、動物の権利活動家たちが主張する、動物たちに「ホロコースト」が行なわれている、というアナロジーには困惑させられる。このアナロジーは歴史家のチャールズ・パターソンが2002年に出版した『永遠の絶滅収容所 ー 動物虐待とホロコースト』に書かれているものであり、デブリースは畜産工場の建物とアウシュビッツの捕虜収容所の設計を比較することで、アナロジーを視覚的に示している。*6このアナロジーの欠点は、加害者たちの動機には違いがある、ということだ。私もホロコーストについて本を書いたことがあるが、農家の人とナチスとの間には、道徳的に非常な違いがあるように思える。*7利益目的で工場畜産を行っている企業であっても、アドルフ・アイヒマンやハインリヒ・ヒムラーとはかなりの道徳的な違いがあるはずだ。「働けば自由になる」と書かれた看板は(訳注:ナチス強制収容所で掲げていた標語)、畜産工場には掲げられていない。

 しかし、工場畜産と強制収容所を同等視する人たちを、完全に非難することは私にはできない。私は1978年にカリフォルニア州立大学(フラートン市)の動物実験所で実験心理学の院生として働いてたが、実験を生き延びたラットたちを処分することは、私の仕事だった。私はラットをクロロホルム安楽死させるように指示されていたが、私はそれを行うのに躊躇していた。私は彼らを地元の丘の上にまで連れて行って放してやりたいと思っていた。他の動物に食べられたり空腹で死んだりするとしても、ガスによって殺されるよりかはマシだと思っていたからだ。しかし、実験動物を放すことは、違法だった。だから、私は彼らを皆殺しにした…ガスで。私が行ってきたことのなかでも、最も恐ろしいことの一つだ。

 このことは、書くだけでも悲しくなる。しかし、「フリー・フロム・ハーム(危害からの解放)」のwebサイトに投稿された動画を見た時の程ではない。*8列に並んで死ぬのを待っている一頭の牛の映像であり、動画には適切にも「最も悲しい、屠殺場の映像」というタイトルが付けられている。前に立っている仲間が殺される音を聴いた彼は、後ろへと逃げていき、脱出する場所を探して周りを見回す。彼は怯えているように見える。職員が牛追い棒で彼を叩く。彼はよたよたと前方に歩き、最後の死の扉が彼の後ろで閉ざされるまで歩く。罠から逃れようと、最後に一度だけ彼は後ろ足でもがくが…ザッ!…彼は落ちていく。死んだのだ。私は、牛の顔に人間の感情を投影しているのだろうか?そうかもしれない。しかし、ある食肉工場の職員も、廃棄物の悪臭について調査していたアメリカ農務省の覆面検査官にこう言った。「彼らは怯えているんだ。彼らは死にたくないんだよ」。

 哺乳類は感覚のある生き物であり、生きることを望んで、死ぬことを恐れる。進化は、生き延びること、繁殖すること、幸せになること(flourish)への本能を、全ての哺乳類に与えている。進化生物学が示すように、我々と動物とは系統的に繋がっている。このことは、全ての人間を道徳の対象に含むだけでなく…このことは、過去2世紀の権利革命で行われてきたことだ…感覚を持つ全ての動物へと道徳の対象を拡大することについて、科学的な基盤を与えてくれるのだ。

 

 

 

*1:無神論者とは、2000年代に登場した、科学的な知識や理論に基づいて有神論や宗教を積極的に否定する運動を行う人たちのことである。

 新ビーガンとは、 スタンケヴィチウスによると、疑似科学スピリチュアリズムを是としないビーガンのことであるようだ。

*2:記事では言及されていないが、新無神論者の一人であるジェリー・コインも、自身のブログに「動物の権利運動の不公平な扱われ方」と題された記事を発表しており、動物の権利運動に理解を示している。

The unfair treatment of the animal rights movement « Why Evolution Is True

*3:

 

The Moral Arc: How Science and Reason Lead Humanity Toward Truth, Justice, and Freedom

The Moral Arc: How Science and Reason Lead Humanity Toward Truth, Justice, and Freedom

 

 

*4:

 

The Moral Landscape

The Moral Landscape

 

 

*5:

 

Speciesism: The Movie

Speciesism: The Movie

 

 

*6:

 

永遠の絶滅収容所―動物虐待とホロコースト

永遠の絶滅収容所―動物虐待とホロコースト

 

 

*7:

 

Denying History: Who Says the Holocaust Never Happened and Why Do They Say It?

Denying History: Who Says the Holocaust Never Happened and Why Do They Say It?

  • 作者: Michael Shermer,Alex Grobman,Arthur Hertzberg
  • 出版社/メーカー: University of California Press
  • 発売日: 2009/04
  • メディア: ペーパーバック
  • クリック: 1回
  • この商品を含むブログを見る
 

 

*8:

freefromharm.org