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道徳的動物日記

動物や倫理学やアメリカについて勉強したことのある人の日記です。

ヨハン・ノルベルグ『進歩:未来について前向きになるべき10の理由』

経済 歴史

 

Progress: Ten Reasons to Look Forward to the Future

Progress: Ten Reasons to Look Forward to the Future

 

 

『進歩:未来について前向きになるべき10の理由(Progress: Ten Reasons to Look Forward to the Future)』の著者ヨハン・ノルベルグ(Johan Norberg)はスウェーデン人。wikipediaによると歴史学者で経済に関するスタンスは古典的リベラルであるらしい*1

 

 この本は要するに「世間の人々は、世界では紛争が起こっていたり犯罪が増えていたり自然が破壊されていたり格差が拡がったりしていて世の中はどんどん悪くなっており未来は暗いと思いがちだが、実際には真逆で、人類はどんどん豊かになっているし健康になって平均寿命も増しているし様々な形の暴力や差別や格差は減り続けているし自然破壊も実はそれほど深刻ではない」ということを主張する本で、要するにスティーブン・ピンカーの『暴力の人類史』やマット・リドレーの『繁栄』などと同じタイプの本…というか、内容もかなり重複している。正直言ってピンカーやリドレーの本を読んだことがある人ならわざわざ手に取る必要もないかも。

 著者のノルベルグは 2001年に『グローバル資本主義を擁護する(In Defense of Global Capitalism)』という本を書いているらしく、『進歩:未来について前向きになるべき10の理由』でも国際貿易やグローバリズムは途上国の貧困の改善を始めとして様々な恩恵を人類にもたらした、ということが強調されている。最近ではアメリカやヨーロッパなどの先進国では反グローバリズムの勢いが増してポピュリズムが隆興している訳だが、グローバリズムは先進国では格差を拡げるとしても途上国の人々を貧困から脱出させて生命を救いリテラシーその他を身に付けさせて人間らしい人生を過ごすことを可能にしたというのは恐らく揺るぎのない事実である訳で、まあそれを再確認することができるという価値はある本かもしれない。

 

著者の挙げている「未来について前向きになるべき10の理由」とは、具体的には以下の通り。

 

1:食糧。農業に関する様々な技術とかが発展したおかげで飢餓や栄養不良は減り続けている。世界人口における栄養失調の人々の割合は1970年前後には29%だったのが2015年前後には11%になった。

 

2:衛生。上下水道とか水洗トイレとかが整備されたので、昔の人々に比べて現在の人々はずっと清潔になった。そのおかげで様々な病気に罹らなくなっている。

 

3:平均余命。昔に比べてすごく伸びた。

 

4:貧困。減った。世界人口における極限的貧困の人々の割合は1981年には44.3%だったのが2015年には9.6%になった。

 

5:暴力。減った。

 

6:環境。地球温暖化とかは起こっているけど対策が進んでいるので心配なし。

 

7:識字能力。上がった。世界人口における読み書きができない人の割合は1820年には90%弱近くだったのが2010年には10%強にまで減った。識字能力が上がることは本人の人生を豊かにするだけでなく、経済や政治の改善にもつながる。

 

8:自由。奴隷が合法化されている国の割合は1800年には60%近かったが、2010年には0%。非合法な奴隷や形を変えた奴隷制度というべきものは現在にもまだ存在しているが、その犠牲になっている人は昔と比べてずっと少ない。

 

9:平等。女性が参政権を持っていた国は1900年には存在しなかったが、2010年には180ヶ国以上で女性は参政権を持っている。同性愛者に対する差別も減った。人類のIQが向上したことに伴い道徳的思考を行う人々の数が増えて他者に対する理不尽な差別を否定する人の数も増えた、という「道徳的フリン効果」の話もされている。

 

10:次世代。世界における10歳~14歳の児童の中で児童労働をさせられている割合は1950年には30%弱だったのが2000年には15%弱にまで減った。これからも世界は進歩し続けて、次世代の人々は豊かで幸福になり続けるであろう。悲観論者の言っていることは無視してよい。

 

 エピローグでは「この本を読んでもまだ世界が良くなっていると信じられない読者も多いだろうが、それはネガティブな物事や印象的な物事ばかりに注目しがちでありまた過去を美化しがちでもある人間の心理的傾向や、目先の出来事ばっかり取り上げて長期的な傾向について論じないメディアのせい」と論じられている。