道徳的動物日記

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ケネディ大使は「イルカを「ヒトに相当する」と見なしている」のか? / 「inhumane」を「非人道的」と訳すべきか?

 

 Twitterやブックマークでも書いたが、せっかくなのでここにも掲載。

 

なぜ米国はイルカ漁に敏感なのか? 米大使が批判発言 /早稲田塾講師 坂東太郎のよくわかる時事用語

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20140124-00000004-wordleaf-int&p=1

 

 この記事について。

 

 

 

 ・ケネディ大使は以下のようにツイートした。

 

 

 この文中の「非人道性」という言葉を取り上げて、記事の著者は、「ケネディ大使の「非人道性」とは何でしょうか。本来この言葉はヒトがヒトにゆえなき害を与える行為に使います。もちろん動物愛護の観点からも用いてもおかしくありませんが、太地町の人は虐待しているのではなく食用なので当たりません。」と書いている。

 

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20140124-00000004-wordleaf-int&p=2

 

 ・ところで、ケネディ大使は、日本語ツイートの直後に、ほぼ同じ文意の英文ツイートをしている。

 

 

 おそらく、ケネディ大使本人が英文ツイートを書き、担当の翻訳者が英文ツイートを日本語に翻訳して、ほぼ同時に投稿しているのだと思う。

 そして、日本語ツイートにおける「非人道性」とは英語ツイートにおける「inhumaneness」を訳したものだろう。

 

 ・たしかに、「humane」という英単語は「人道的」とも訳せる。しかし、「人道」という日本語には、「人道に対する罪 (crime against humanity)」を想起させるなど、かなり強い意味合いが含まれている。だが、「humane」という英語は「慈悲」「思いやり」とも訳すことができて、日本語における「人道」ほど強い意味合いは持たない。

 そして、「humane」という言葉の対象には、人間だけでなく動物が含まれる。

http://ejje.weblio.jp/content/humane 

http://dictionary.goo.ne.jp/leaf/ej3/41869/m0u/

 

 アメリカには「Humane Society」という組織があり、直訳すれば「人道協会」だが、実際には動物愛護団体である。

 http://www.humanesociety.org/

  http://dictionary.goo.ne.jp/leaf/ej3/41874/m0u/

 

 そして、「humane」という単語は、食用動物の取り扱いについて示す際にも使われる。動物を屠畜する際にはその動物に与える苦痛を減らそう、という趣旨の法律はHumane Slaughter Actであり、日本語では「人道的屠畜法」と翻訳されている。

 http://en.wikipedia.org/wiki/Humane_Slaughter_Act

 http://www.primate.or.jp/PF/yamanouchi/156.html

 

 

 ・ケネディ大使が使った「inhumaneness」という単語は「無慈悲さ」「思いやりの無さ」とも翻訳できただろうが、「非人道的」という訳も、「人道」という単語から深読みをされなければ、妥当であったかもしれない。

 しかし、記事の著者は「非人道性」という単語を「本来この言葉はヒトがヒトにゆえなき害を与える行為に使います」と解釈してしまっている。おそらく、「人道に対する罪」のような、強い意味合いを想起している。

 だが、ケネディ大使の原文を見て、humaneという言葉の意味合いを確認すれば、記事の著者が示している「ケネディ大使が「イルカを「ヒトに相当する」と見なしていると考えた方が妥当」という解釈は、ほとんど根拠が無いことがわかる。

 

「動物愛護の観点からも用いてもおかしくありませんが、太地町の人は虐待しているのではなく食用なので当たりません。」 

→ 「人道的屠畜法(Humane Slaughter Act)」など、humaneという言葉は食用の動物についても用いられる。

 

「とするとイルカを「ヒトに相当する」と見なしていると考えた方が妥当です。食用目的でヒトがヒトを殺して食べれば文句なく人道に反しますから。」

→ humaneという言葉は食用の動物についても用いられる以上、イルカを「ヒトに相当する」と見なしていない人でも、食用のためにイルカを殺害することを、その殺害の仕方が残酷だと思えば、「inhumane(非人道的、人道に反する)」と表現するだろう。

 

 「ここで気になるのがイルカ保護活動の中心人物で、「ザ・コーヴ」の「案内人」であるアメリカ人・リック・オバリー氏の口ぐせ「イルカは海の人間」論です。」

→ リック・オバリーが「イルカは海の人間」を口癖にしていることと、ケネディ大使との関係が示されていない。

 

 ・そもそも、ケネディ大使のアカウントで「inhumaneness」を「非人道性」と訳してしまっていることが、ミスだと思う。おそらく、日本語ツイートはケネディ大使が想定している以上に強い意味合いで受け取られてしまっているだろうし、その責任も、アカウントの責任者である大使自身が負うべきだろう。一般の人に対して「原文まで確認してニュアンスを理解しない方が悪い」と開き直るわけにはいかない。

 しかし、「よくわかる時事用語」という名称のシリーズで、講師という肩書きでニュース記事を書く以上は、記事の著者は、ケネディ大使が「非人道性」「inhumaneness」という言葉で何を意図しようとしていたのかについて、注意すべきだと思う。また、「ケネディ大使が「イルカを「ヒトに相当する」と見なしていると考えた方が妥当」という、かなり憶測めいた解釈を提示して、無用な偏見を読者に植え付けるべきでもないだろう。