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道徳的動物日記

動物や倫理学やアメリカについて勉強したことのある人の日記です。

退行的左翼とイスラム教

時事問題 宗教

www.wikiwand.com

 

togetter.com

 

 上にリンクを貼った記事などでも紹介されたり言及されたりしているが、近頃の英語圏の無神論者や反PC界隈のメディアやブログ等を読んでいると、 Regressive Left 退行的左翼 という言葉を目にする機会がある。

 退行的左翼について私なりに簡単に説明すると、本来なら左派には容認できない物事(人権や自由の侵害・女性や性的少数派に対する性的虐待や性差別など)を、多文化主義や反植民地主義アイデンティティポリティクスなどの左派的な原則を尊重するあまりに容認してしまう左翼のことである。

 

 上の記事でも説明されている通り、この言葉を最初に使い出したのは 元イスラム原理主義者であり現在はイスラム原理主義に反対している活動をしている Maajid Nawaz(マージド・ナワズ)であるようだ。英語版Wikipediaによると、エジプトで原理主義者の活動をしていたナワズは逮捕されて投獄されたが、人権に関する本を読んだりアムネスティ・インターナショナルと関わっているうちに原理主義から離れて、原理主義的なイスラム社会を世俗化させる運動を行うようになったらしい*1キリスト教イスラム教を強く批判する無神論者として有名なサム・ハリスとも共著を出している*2*3

 

www.thedailybeast.com

 

 上述の記事は、ナワズが書いた「イギリスの左翼によるイスラム原理主義の偽善的な称賛」というタイトルの記事である。アメリカの左派が自国内のキリスト教原理主義者や宗教的右翼に対して熱心に戦っているのに比べて、イギリスやヨーロッパの左派はイスラム原理主義者を容赦して野放しにしている、とナワズは記事の中で批判している。ムスリムはヨーロッパではマイノリティであること、イスラム圏を批判することは西洋中心的で植民地主義的であると思われること、イスラム教を批判することは自国の極右を調子付かせてしまうこと、などが左派がイスラム教を批判することを躊躇う理由であるが、だからといってイスラム国がヤジディー教徒の女性を奴隷化したりシリアで同性愛者を殺害することを容認するべきではない、とナワズは書いている*4。退行的左翼はイスラム圏で起こる悪いことを何でもかんでもイスラエルや西洋のせいにするが、それは間違っているし、「ムスリムが文明的になることは期待できない」と言っているようなものだ。また、退行的左翼は西洋やマジョリティに対して怒りを表現するムスリムの声は聞きたがるが、(ナワズのように)イスラム原理主義に疑問を示したり批判したりするムスリムの声は聞きたがらない…と記事の中でナワズは書いている。また、イギリスの代表的な左派メディアであるガーディアン誌(Guardian)が特に批判されている。 

 

  ナワズと対談しているサム・ハリスや、生物学者であり無神論者で宗教批判者として有名なリチャード・ドーキンスやジェリー・コインも、退行的左翼を批判している。コインのブログ記事は以前にも何度か訳しているが、最近の記事でも退行的左翼とガーディアン誌に対する批判が書かれているので、少し紹介してみよう*5

 

 

The Guardian publishes the ultimate abasement of the Left: an anonymous writer flagellates himself for criticizing Islamwhyevolutionistrue.wordpress.com

 

 

 上述の記事にて、コインは最近のガーディアン誌の記事を取り上げている*6。その記事は匿名の著者によって書かれたもので、もともとはリベラルなイギリス人男性だった著者が、インターネットで "オルタナ右翼 (Alt-RIght)"の発言に触れているうちに影響を受けて危うく自分もオルタナ右翼の一員になるところだったが何とか正気に戻れた…という体験談である。

 コインは、この記事自体にガーディアン誌や退行的左翼の偏ったイデオロギーが表れている、と論じる。例えば、イスラム教を批判する無神論者のサム・ハリスと、(オルタナ右翼の代表的な存在であり差別的な言動で有名な)マイロ・ヤノプルスが一緒くたにされていることをコインは批判している*7。以下はコインの記事からの引用である。

 

 

「宗教を批判することが"右翼"で"教化"であると書かれているが、笑わずにはいられないじゃないか。…光を見た著者は、自分の罪を告白しなければいけなかったわけだ。無神論者の哲学者のピーター・ボグホシアンが言ったように、退行的左翼には宗教の特徴が含まれている。白人の男性であること(または、イスラム教を批判すること)が原罪だというわけだ。深く恥じ入らなければなくて、他の退行的左翼たちに告白しなければならなくて、長く激しい自己処罰を自分自身に課さなければ許されない罪だというわけだ。 」

 

「ほら見ろ、ブレクジットで"EU離脱"に投票されたことはとてもレイシストなことだと書かれている(間違った投票だったとは私も思うが、レイシストな投票ではないだろう)。フェミニズムを批判したり男性の権利を主張することもレイシストだ。そして、イスラム教を批判することは特にレイシストなんだ。」

 

「一体この男性はどんな世界に生きているんだろう?この男性は"これらの物事について、相手のことをレイシストや差別主義者だと呼ばずに議論をすることはできるはずだ"という考えを否定している(そして、そんな考えを持ってしまった自分を処罰している)。相手のことをレイシストや差別主義者だと呼ばなければならないというわけだ。結局のところ、相手をレイシストと呼ぶことこそが退行的左翼たちの最後の武器だからだ。他の左翼たちは自分がレイシストだと呼ばれることをどんなコストを払ってでも避けようとする、ということを退行的左翼たちは知っているのだ。レイシストだと呼べば、相手を黙らせることができる。それにしても、考え方や概念を批判するとどうしてレイシストになるのか知りたいものだ。

 とはいえ、退行的左翼の教会では、レイシストであることを告白すれば(少なくともしばらくの間は)罪が許される。だから、この匿名の著者はガーディアンの読者たちに告白したわけだ。…」

 

「この記事がジョークであるように思えてきただろうか?普通の人ならジョークだと思うだろうが、ガーディアンの読者たちは普通じゃない。二つ以上のリベラルな価値観(負け犬に対する配慮と、言論の自由に対する配慮と、女性の権利に対する配慮)が衝突した時に起こる認知的不協和のために、この匿名の著者は臆病者になってしまい、言論の自由を捨ててしまうことで自分の認知的不況を解決しようとしてしまったのだ。この著者は、サム・ハリス(や他の人)によるイスラム教に対する批判と、個人としてのイスラム教徒に対して行われる差別である本当のイスラモフォビアを区別することもできていない。イスラム教は人種じゃなくて、特定の信仰であるということもわかっていない(もちろん、イスラム教にも多様な分派はあるのだが)。著者はこれから妻に告白して("辛い会話"になるだろうと書かれているが、一体この妻はどんな女性なんだろう?)、イスラム教の教義は西洋文明とは両立しないかもれないと考えることすらタブーであると妻に言うだろう。考えられてはならない考え方があるし、論じられてはならない議論があるのだ。言うまでもなく、それらの全てが、レイシストであると見なされることに対する恐怖から来ているのだ。

 この記事は信用に値しないものだが、ガーディアンがこの記事を出版したという事実は退行的左翼主義の危険を表している。それは権威主義の危険だ。"レイシストの言論"だとして言論の自由が抑圧される危険であり、退行的左翼たちが力を持ったとすれば、他の左翼たちも自分がレイシストであり差別主義者であると呼ばれることを恐れて厄介な問題について議論をしなくなるという危険だ。」

 

  

quillette.com

 

 

 上の記事は Quillette というサイトに掲載された「言論の自由イスラム教:左派は最も弱い人々を裏切った」とタイトルの記事。この記事でも、イスラモフォビアと呼ばれることを恐れた左派がイスラム圏で行なわれている非道(世俗的・穏健なイスラム教徒に対するイスラム原理主義による迫害など)を等閑視していることや、イスラム教の問題点について議論することが差別であると封殺されていることが批判されている。

 

 

  ………まとまりのない記事となってしまったが、「退行的左翼」という言葉の使われ方がどんな感じであるかは示すことができたと思う。

*1:

Maajid Nawaz - Wikipedia

*2:ナワズとハリスの共著『イスラムと、寛容の未来:一つの対話』

 

Islam and the Future of Tolerance: A Dialogue

Islam and the Future of Tolerance: A Dialogue

 

 

*3:ナワズの TEDトーク

www.ted.com

*4:

www.afpbb.com

www.afpbb.com

*5:以前に訳したコインの記事の一つ

davitrice.hatenadiary.jp

*6:

www.theguardian.com

*7:ヤノプルスについて日本語で紹介されている記事

miyearnzzlabo.com

opus-english.com