道徳的動物日記

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再読メモ:『結婚の条件』

 

結婚の条件 (朝日文庫 お 26-3)

結婚の条件 (朝日文庫 お 26-3)

 

 

 フェミニストの学者が、当時(2002年〜2003年)の日本の女性の結婚にまつわる悲喜劇や結婚観について書いた、軽めのエッセー集のような本。学部生の頃に手を取ってみて面白かった記憶があったのだが、最近は「女性の上昇婚志向」についての議論が(ごく一部で)話題ということもあり、なんとなく思い出して手にとってパラパラと読んでみた。

 フェミニストによる著作であるが、あらゆる女性の結婚観やライフスタイルを何から何まで擁護するというものでもなく、教え子である女子学生たち(と男子学生たち)の甘ったれた結婚観には皮肉を浴びせ、考えなしに専業主婦になったために後悔している女性たちについても手厳しく書いている。とはいえ、女性たちが上昇婚を志向せざるをえない理由について同情的に分析されている箇所も多い。経済的・社会制度的な分析ももちろんされているが、特徴的なのは、女性たちの家庭環境や親の影響について考慮していること。女性の学者である著者が、女子学生たちや知人女性から実際に見聞した意見やエピソードに基づいて分析されているだけあって、リアリティが感じられる点がよい。いかにも"社会学"的な分析や精神分析的な発想など、根拠のない理論が多々持ち出される点はイマイチだが。

 

 しかし、リーマンショックが起こる数年前に書かれただけあって、当時の日本はまだ豊かだったんだなと思わされる箇所も多い。著者は女性の結婚願望を「生存」・「依存」・「保存」の3種類に分類しているが、当時であれば「依存」のための結婚を志向していたであろう女性も、今の状況では「生存」のための結婚へと願望をスケールダウンせざるを得なくなっている場合が多いだろう。男女ともに、結婚観はよりシビアなものになっているはずだ。

 また、実際の社会の状況や一般的な人々のエピソードに基づいてた書かれた本を読んでみると、ネットで行われる男女論はやはり抽象論や極論に偏りがちなものだなと再認識させられる。特に最近は、男性側にせよ女性側にせよ、「自分の性別は被害者である」という意識が激しいものが目にあまる。結婚や恋愛に関わる論争とは誰にとっても当事者性が強くなりすぎるからこそ、一歩引いた俯瞰的な立場からの議論が必要とされるものなのだろう。