道徳的動物日記

倫理学、社会科学、時事問題、世相などについて論じます。

ひとこと感想:『働く女子のキャリア格差』&『若者は社会を変えられるか?』

●『働く女子のキャリア格差』

 

 

働く女子のキャリア格差 (ちくま新書)

働く女子のキャリア格差 (ちくま新書)

 

 

 タイトルからして様々な属性の職業選択や出世に関する格差(地方と東京ではこんなに違う、大卒と非大卒とではこんなに違う、みたいな)に関して論じた社会学・経済学系の本かと思ったら、全くそんなことはなくて、どちらかと言うとビジネス書や自己啓発書に近い。経営学者である著者が、働く女性向けに「時短トラップにハマったりマミートラックに乗ったりすると出世できずに生涯賃金が大幅に下がるから、"経営者マインド"を持ちながら効率よく成果を上げられるような働き方をして、育児と仕事を両立させましょうね」とハッパをかける内容だ。出産したり育休を取ったりする女性を受け入れるうえでの企業側の心構えについても多少は論じられているが(出産したからといって女性社員の仕事や責任を減らすのは逆に女性のモチベーションを下げる結果につながる、など)。

 以前に読んだ『高学歴女子の貧困:女子は「学歴」で幸せになれるか?』とはある意味で真逆の本であり、あちらは「反・自己責任論」であり高学歴女子の能力を活かせなかったり高学歴女子を労働から阻害する「社会」の責任を問うという調子の本であったが、こちらは、現代日本の社会状況や労働環境を前提としながらそのなかで女子がサバイブする手段(だけ)を論じるものである。「経営者マインド」というのも、要するに「自己責任マインド」だし。とはいえ、新書本を一冊読んで自己責任論を相対化して批判する視座を身に付けたところでそれが現実の労働のつらさを緩和するわけでもなければキャリアになにか利益をもたらすわけでもないのだから、こういう本の方がまだしも実用的ではある。

 ……と言いたいところだが、Amazonレビューなどに寄せられている一部の人の怨嗟の声を見ればわかる通り「"仕事と育児を両立せよ"だなんて簡単に言われても、それができないんだから苦労しているんだよ」とか「子どもが障がいを持っていたり病弱であったりしたら、この著書で説かれているようなキャリアプランはすぐに破綻するよね?」とか、男性であるわたしからしても理想論ばっかりあることがすぐに察せられてしまうような内容ではある。逆に、この本で書かれているような理想を達成しているような人は相当バイタリティとガッツのある人なので、本なんか読まなくても元からそういうマインドで生きているであろうことが想像できる。だから誰の役に立つ本であるかもわからないという感じだ。

 

●『若者は社会を変えられるか?』

 

若者は社会を変えられるか?

若者は社会を変えられるか?

  • 作者:中西 新太郎
  • 発売日: 2019/08/01
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

 

 SEALDsやAequitasなどの現代の若者による社会運動を取り上げつつ、マジョリティの若者が権力によって政治から遠ざけられている状態になっていることとか、若者たちが諸々の社会問題や労働環境により疲弊したり絶望を抱いていることにも触れながら、自己責任論を批判したり「若者が政治から遠ざかったり希望が抱けない状態になっているのはだいたい社会のせいであって若者たち自身のせいではない」と論じたりして、若者たちを擁護しつつ若者たちに期待をかけて……という感じの本。

 この本のなかで描かれている議論とか事象とかはよくネットで話題になったり議論になったりするようなことばっかりであり、わたしのような若者(?)が読んだところで特に新しい知見が得られるわけでもなかった。どちらかというと、若者の理解者であり頭の柔らかく人の良い高齢者である著者が、若者に対して偏見を抱いている頑固で厳しい他の高齢者たちに対して、「若者の現状や、彼らの感じているつらさや苦しみについて、もっと理解してあげましょう」と呼びかけるために書かれた本のようである。なので、当の若者向けに書かれているわけではない。ラノベとか若手論客の本からの引用とか漫画からの引用がされているところはちょっと痛々しい感じがあったが、まあ書いてある内容自体に特に間違ったところがあるわけではなかった。