道徳的動物日記

倫理学、社会科学、時事問題、世相などについて論じます。

ひとこと感想:『美学への招待:増補版』

 

美学への招待 増補版 (中公新書)

美学への招待 増補版 (中公新書)

 

 

 

 旧版は学部生のころに読んだような気がするが、詳細は忘れた。

 

 タイトル通り「美学」の入門書だが、美学について主張してきた思想家たちを通時的に解説するタイプの本ではなく、各章で分けられたテーマごとに「美学ではこう考える」ということを示していくタイプの本だ。そして、美術史や芸術作品に関する蘊蓄も多い。薀蓄というものは良し悪しであり、読み物としては面白くなってなにか説得力が増しているような気もするが、読み終わってみると「けっきょく何が言いたいのか」ということがよくわからない、ということにもなりやすいものだ。蘊蓄が多いと新書でも「教養っぽさ」が出るものだが、この「教養っぽさ」って理解とは対極にあるものだし、やっぱり理論立てて淡々と説明してくれる方がありがたいとは思う。

 

 とはいえ、カタカナ語の「センス」と漢字の「感覚」「感性」のそれぞれが指し示す微妙な意味合いの違いの解説する箇所とか、ウォーホルの『マリリン』と『ブリロ・ボックス』の芸術としての根本的な質の違いを説明する箇所、アーサー・ダントーの「アート・ワールド」論の解説とかは興味深かった。近代美学は美や芸術を道徳から切り離したが、「ものがたり論」の観点からすれば感動を語るうえでは道徳は切り離せない、というところもわたしの問題意識とマッチしていて印象に残った。一方で、環境美学のサバンナ仮説を「獲得形質の遺伝」で「ラマルク説」だと勘違いしているのはかなり大きなポカであるとも思った(p.242)。

 また、「美」の「価値」について論じた最終章における以下の引用箇所は特に参考になった。

 

ハマスは、美の思想の両極にプラトンショーペンハウアーを置きます。プラトンとは『饗宴』で展開されるエロスの哲学を指しています。そのテーゼは、《美はエロス、すなわちその美しいものについて一層の探求を行いたいという欲望をかきたてる》と要約できるでしょう。他方ショーペンハウアーとは、「美による救済」という一九世紀的な思想を代表するひとりです。世界を動かしているのは「意志」であり、この世界を生きることは争いと苦悩をもたらします。その対極にあるのが「表象」で、意志の現実から一歩退いて、理想的な世界を観想することです。その観想の典型が美しい藝術にあります。美についてのショーペンハウアーのこの思想の背後には、美の無関心性(脱現実性、脱利害関心)というカントの考えがありますが、意志との対比を鮮明に図式化しているために、ネハマスショーペンハウアーを典型と見做したものと思われます。

プラトンショーペンハウアーという基本図式は、決して常識的なものではありません。わたくしはこれまでそのような説に出会ったことはありませんが、十分に明快です。一方には、ひとが生きて活動することへのコミットメントを美が促進する、という点を強調する考えがあり、他方には、現実の苦悩を抜け出して、この世ならぬ境地へとつれていってくれるという面を美の本質と見る説がある、という理解です。

(p.263-264)