道徳的動物日記

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最近読んだ本シリーズ:『サンデルの政治哲学』とか

 

●『サンデルの政治哲学』&『公共哲学:政治における道徳を考える』

 

 

 

 

 

 このブログでも現代ビジネスでも『実力も運のうち』について紹介したし、『これからの正義の話をしよう』についても以前に紹介したが、改めてサンデル先生のこともちょっとお勉強しなおしてみた。

『サンデルの政治哲学』を読んでみて思ったのが、『実力も運のうち』の実力主義批判は世間ウケを狙って当たり障りなく書かれたものではなく、以前からのサンデル先生の思想と一貫しているということ。‥‥とはいえ、『実力も運のうち』のなかでも核心となる「適価」に関する議論は、以前とは真逆になっているようにも思える。『サンデルの政治哲学』によるとサンデル先生はロールズが「適価」の概念を否定したことを批判していたのだが、『実力も運のうち』ではサンデル先生も「適価」の概念を否定しているように読めるからだ。

『サンデルの政治哲学』のなかでは『実力も運のうち』ではあまり触れられなかった共和主義的理念に関する議論もなされているのだが、これは解説を読んでいても理想論ですよねえという感じ。そして、読めば読むほど、サンデルよりもロールズのほうが人間というものに関する洞察や理解が深かったのではないかと思わされる(「ケアの倫理」に関する本を読めば読むほどローレンス・コールバーグに対する興味が増すのと同じような現象だ)。いい加減に『正義論」も読んでみていたけど、なにしろ物理的に重たいのでためらっちゃうんだよね。でもそろそろまじで手にとってみよう。

 なお『公共哲学』のほうは冒頭を除けば数ページ程度の評論の寄せ集めという感じで、つまらない。読まなくていいと思う。

 

 ●『政治はなぜ嫌われるのか:民主主義の取り戻し方』

 

 

 

 大学院生のころに読んで感心して、そして感心したくせに本の題名を忘れて読み返すことができていなかったのだが、訳者の吉田徹さんの名前でぐぐったりしているうちにふと発見して、ようやく読み返すことができた。

 しかし、改めて読み返してみると思いっきり社会学っぽい感じの内容で、つまらない。「公共選択理論が流行って政治家の行動について合理性のみの観点に基づいて説明されるようになって、政治から理念が失われて、有権者は政治や民主主義に対して"白け"を感じて忌避するようになった」といった趣旨の議論がなされるのだが、「そんなことあるかあ?」って思っちゃう。理論とか学問とかの影響力を過大評価しすぎでしょ。

 

●『正義とは何か:現代政治哲学の6つの視点』

 

 

 正義論についての包括的な概説が新書の範疇でまとまっており、文章は比較的読みやすく、各トピックのフックとしてジェイン・オースティンやクリストファー・ナイトなど政治学者以外の人物についてのエピソードが挟まるところも工夫が効いていて、なかなか良いと思う。わたしはさすがにそれなりには勉強してきているのであまり新しい知見は得られなかったが、これから勉強を始める学部生とかにとってはかなり優れた本であるだろう。実はわたしは新書ってもの自体をそんなに評価していないのだが(作られ方や構造の問題のためか、本としての面白さに致命的に欠けているものばっかりだ)、先日に紹介した『リベラリズムとは何か』といい、学問的知識への入門や概説としてのクオリティがアップして多様性も増していることは認めざるを得ない。そういう点ではいまの若い子が羨ましいとも思う。

 ところでまたロールズの話に戻ると、社会や政治や経済の仕組みのあり方を考える議論であっても、やはり「人間とはなにか」ということに関しての細かい洞察がキモであり、面白さもそこにあると思う。仕方がないことではあるが、『正義とは何か』ではそういった細かい部分までは解説されていない。