道徳的動物日記

『21世紀の道徳』発売中です。amzn.asia/d/1QVJJSj

2016-01-01から1年間の記事一覧

広島・長崎への原爆投下の是非についての、マイケル・シャーマーの議論

オバマ大統領が広島を訪問することや、そこで「謝罪」はしないであろうことの是非を巡って議論が起きているようだ。 最近読んでいたマイケル・シャーマーの『Moral Arc』のなかで、「ファットマンの道徳、リトルボーイをめぐる論争」という題の、広島・長崎…

警官による黒人の射殺は人種差別が原因か?

www.nationalreview.com 今回紹介するのは、アメリカで盛り上がり続けているBlack Lives Matter 運動や「(白人の)警官が黒人を射殺するのは人種差別が原因だ」的な主張に対するカウンター的な記事。National Reviewのwebサイトに掲載された記事であり、著…

2016年4月の世界における戦争と暴力の状況 (ジョシュア・ゴールドスティンとスティーブン・ピンカーの記事)

www.bostonglobe.com 今回紹介するのは、国際関係学者のジョシュア・ゴールドスティンと心理学者のスティーブン・ピンカーが2016年の4月15日にBoston Globe誌に掲載した記事。2011年からの5年間で世界における戦争が激化し死者数も増えていたこ…

「私たちは道徳的に賢くなっているのか?:IQの上昇、暴力の減少、経済的リベラリズムの関係」 by マイケル・シャーマー

reason.com 今回紹介するのは、心理学者で疑似科学批判者で無神論者のマイケル・シャーマー(Michael Shermer)が Reason.com というサイトに掲載した「Are We Becoming Morally Smarter?」という記事。 シャーマーは昨年に『 The Moral Arc: How Science an…

「古代の戦争と、空白の石板論」by マイケル・シャーマー

evolution-institute.org 今回紹介するのは、心理学者で疑似科学批判者であるマイケル・シャーマーがEvolution Instituteというサイトに掲載した記事。 記事の原題を全て訳すと「ツイートと石板について:古代の戦争と空白の石板論に関して、デビッド・スロ…

「文明が登場する以前の戦争」 by ピーター・ターチン

evolution-institute.org 今回紹介するのは、進化生物学者・心理学者・人類学者たちなどが集まって進化に関する様々な記事を掲載しているサイトであるEvolution Institueに掲載された、ピーター・ターチン(Peter Turchin)の「文明が登場する前の戦争(War …

「人権から感覚のある存在の権利へ」 by アラスデア・コクレーン

www.casj.org.uk 先日に引き続き、イギリスの政治学者アラスデア・コクレーンがCentre for Animals and Social Justiceに掲載した記事を紹介。 記事の原題はFrom Human Rights to Sentient Rights. 別のところで発表された論文の圧縮版のようである。記事の…

「誰が動物の福祉に責任を負っているのか?」 by ロバート・ガーナー

www.casj.org.uk 今回の記事はイギリスのレスター大学の政治学部の教授であるロバート・ガーナー(Robert Garner)によるもの。ガーナーは以前から動物に関する政治学的な著作を書いており、この分野では有名な人。 先日の記事と同じく、イギリスの「Centre …

「動物の福祉 VS 動物の権利:誤った二分法」 by アラスデア・コクレーン

www.casj.org.uk 今回は、イギリスのシェフフィールド大学の政治学部で政治学理論の講師をしている政治学者アラスデア・コクレーンの記事を紹介。コクレーンは動物の権利・動物倫理に関する単著も出版している。 原文が掲載されているサイトは「Centre for A…

「動物の感情、動物の感覚、動物の福祉、動物の権利」 by マーク・ベコフ

www.psychologytoday.com 「動物の感情、動物の感覚、動物の福祉、動物の権利」 by マーク・ベコフ 私が書いてきた本やブログ記事の多くは、動物の感情や感覚という話題を扱ったものだ*1。この記事では、動物は実際に苦痛を感じることができるし深い感情を持…

「自発的安楽死:信心家にご用心!」by ラッセル・ブラックフォード

theconversation.com 今回紹介するのは、オーストラリアのThe Conversationというサイトに掲載された、哲学者のラッセル・ブラックフォード(Russell Blackford)による「自発的安楽死:信心家にご用心!(Voluntary euthanasia: Beware of godly ! )」という…

「科学から政治的活動へと変貌させられる人類学」by グリン・カストレッド

www.popecenter.org 今回は、カリフォルニア州立大学イーストベイ校の人類学者グリン・カストレッド(Glynn Custred)による記事「Turning Anthropology from Science into Political Activism(社会科学から政治的活動に変貌させられる人類学)」を紹介する…

「科学はお断り。私たちは人類学者だ」by アリス・ドレガー

www.psychologytoday.com 今回紹介する記事は、アリス・ドレガー(Alice Dreger)の「科学はお断り。私たちは人類学者だ」(No Science, Please. We're Anthropologists.)という記事。 2010年の11月25日に発表された記事で、アメリカ人類学会(Amer…

「イスラエルに対するBDS運動と、非-事実的(post-factual)な人類学の登場」 by  デビッド・ローゼン

BDS and the Rise of Post-Factual Anthropology | Minding The Campus 今回はアメリカの人類学者、デビッド・ローゼン(David Rosen)の記事を紹介する。 記事の本題とはあまり関係ないが、ローゼンの専門は少年兵士に関する人類学的な研究であるようだ。 A…

スティーブン・ピンカー、ノーム・チョムスキーらがイスラエルに対する学術的ボイコットを批判

japanese.irib.ir Anthropologists for the Boycott of Israeli Academic Institutions アメリカ人類学会(American Anthropological Association)は、パレスチナに対するイスラエルの侵略などを批判する目的で、イスラエルに対する学術的ボイコットを20…

「"インターセクショナリティ"はフェミニズムとは正反対だ」 by エヴァ・グラスラッド

www.thehappytalent.com 今回紹介するのは、エヴァ・グラスラッドという人のブログ THE HAPPY TALENTの記事。 "インターセクショナリティ"という考え方を、いわゆるリベラル・フェミニスト的な立場から批判している記事である。"インターセクショナリティ"と…

「警官による黒人の殺害(の大半)は偏見が原因ではない」 by リー・ジュシム

heterodoxacademy.org リー・ジュシムがHeterodox Academyに掲載した短めの記事を私訳して紹介(一文が長くて日本語にしづらい箇所は、文章の順番を変えたり意訳したりしている)。 ジュシムはステレオタイプについて研究している社会心理学者だが、ステレオ…

「保守的フェミニズム」 by ニーナ・シランダー

www.psychologytoday.com 今回私訳して紹介する記事は、ニーナ・シランダーの「保守的フェミニズム」。 原文記事の先頭に付いている紹介によると、彼女はトラウマや酒や薬物などの乱用の治療を研究している臨床心理学者(博士号取得候補者)であるらしい。女…

「「ペット」:動物の家畜化に内在する本質的な問題」 by ゲイリー・フランシオン

www.abolitionistapproach.com 今回紹介するのは、動物の権利論者・動物の権利運動家の、ゲイリー・フランシオンの記事。フランシオンはアメリカの法律学者で、法律において動物が「所有物」として扱われていることを批判し、動物を利用することを認める ins…

「フェミニストはいつフェミニストでなくなるか?」 by ポーラ・ライト

www.psychologytoday.com 今回紹介するのは、ポーラ・ライトの「フェミニストはいつフェミニストでなくなるか?(When is a Feminist Not a Feminist?)」という記事。タイトルからは分かりづらいが、「家父長制」の存在を主張したり、社会構築主義的な主張…

「工場的畜産は残酷なのか?」という記事についての雑感

工場的畜産は残酷なのか? - 感想文 この記事についての雑感をTwitterの方でつぶやいたので、まとめて転載する。 工場的畜産は残酷なのか? - 感想文 https://t.co/zpYG4efP2h — デビット・ライス (@RiceDavit) 2016, 2月 2 自然界の動物も人間も、自分と同…

「被害者性の文化」と「マイクロアグレッション」

Where microaggressions really come from: A sociological account | The Righteous Mind 今回私訳したのは、社会学者のブラッドベリー・キャンベルとジェイソン・マニングによる共著論文「マイクロアグレッションと道徳文化」を社会心理学者のジョナサン・…

「リベラリズムの死」 by ジェリー・コイン 

今回紹介する記事は、ジェリー・コインの「リベラリズムの死」。 The death of liberalism: Goldsmiths feminists ally with Muslims opposing feminist speaker Maryam Namazie « Why Evolution Is True 以下のTogetterに掲載している、リチャード・ドーキ…

「セーフ・スペースの暴力」 by ブレンダン・オニール

今回私訳して紹介するのは、ブレンダン・オニールの「セーフ・スペースの暴力」。 http://brendanoneill.co.uk/post/137934715274/the-violence-of-the-safe-space (埋め込みを行うと記事の全文が表示されてしまうので、URLのみ掲載)。 本人のブログに掲載…

「ピンクウォッシュ」と反ユダヤ主義

今回紹介する記事は二つ。 www.gatestoneinstitute.org www.slate.com 前者の記事の著者はアラン・ダーショウィッツ。親イスラエルとして有名な弁護士兼コメンテーターであるらしい。著作もいくつか邦訳されているが、私はいずれも未読。 ケース・フォー・イ…

一部フェミニズム系の記事について思うこと

フェミニストが聞き飽きている5つの質問(そしてそんな質問をする代わりにできるいくつかのこと) - feminism matters https://t.co/64T84KyRCk — デビット・ライス (@RiceDavit) 2016, 1月 25 私も議論や意見について「イラっとする」という言葉をついつい…

「植物は痛みを感じるか? 生物学者に訊いてみた。」

アメリカのVICEというwebページに掲載された、植物学者のダニエル・チャモヴィッツ氏へのインタビュー記事を私訳。 チャモヴィッツ氏の著書は翻訳もされており、植物が痛みを感じるかということや植物への倫理的配慮などの論点は160ー164ページにて触…

「我々はいかに道徳的であるべきか?」 (道徳と直感の関係について) by ジェリー・コイン

今回紹介するのは、無神論者で進化生物学者のジェリー・コインが自身のブログで2013年に発表した、道徳と直感の関係について議論している3つの論文と1つの本を取り上げた記事。 How should we be moral?: Three papers and a good book « Why Evolutio…

「2015年に起こった(隠れた)善いこと」 by ピーター・シンガー

今回私訳して紹介するのは、倫理学者ピーター・シンガーがProject Syndicateに発表した記事「The Hidden Goods of 2015」。 www.project-syndicate.org 題名は「2015年に起こった(隠れた)善いこと」と訳した。元記事は1月6日に発表されているので、…

「大きな神々」の八つの法則、アラ・ノレンザヤンの『Big Gods: How Religion Transformed Cooperation and Conflict (宗教はいかに協力と争いを変えたか)』

今回紹介するのは、Ara Norenzayan(アラ・ノレンザヤン)の著書『Big Gods: How Religion Transformed Cooperation and Conflict (大きな神々:宗教はいかに協力と争いを変えたか)』。 この本では、進化心理学や文化進化論の観点から、(一部の)宗教が集…