道徳的動物日記

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自殺 の検索結果:

学問の自由と倫理的個人主義(読書メモ:『自由の法』①)

…本人または第三者の目から見たものであるとき、もしも我々が、自分がその見解を伝えるときは必ずその人の権利を侵害するのだ、と本当に考えるようになったとしたら、我々は、誠実に生きるとはいかなることかに関する自分自身の理解を、犠牲にしてしまったことになるのである。我々は、人種差別主義や性差別主義と闘うための武器としては、これとは別の、これほど自殺的ではないものを、見出さなければならない。我々は、いつもと同じように、抑圧ではなく自由を信頼しなければならない。 (p.339 - 340)

近況報告(鼎談の掲載&学会での発表)

…」はいつも正しい』『自殺の思想史』『アゲインスト・デモクラシー』の3冊を選書してコメントしています。『フィルカル』は分析哲学者とそのファンが読む雑誌(?)なので、そのことを意識したコメントと選書にしました。 フィルカル Vol. 8, No. 1―分析哲学と文化をつなぐ― ミュー Amazon ■5月21日(日)に早稲田大学戸山キャンパスで開催される日本哲学会の第82回大会の公開ワークショップ「動物倫理とフェミニズム・ジェンダー問題」で発表を行います。このテーマは10年前に修…

『21世紀の道徳』がじんぶん大賞に入賞しました(年末のご挨拶)

21世紀の道徳 作者:ベンジャミン・クリッツァー 晶文社 Amazon 30作中29位だけど。 store.kinokuniya.co.jp 大学に所属してもいなければ批評ゼミに通ったり同人誌を出したりしたこともなく、はてなブログでしか意見や文章を発表してこなかった一介のブロガーであった自分が単著を出版できたこと、その単著が名だたる学者や著述家たちの著作に並んでじんぶん大賞にランクインしたことは、うれしく思います。 上位陣にいかにも「流行り」なジェンダー系の本や毒にも薬にもな…

宣伝:最近の執筆活動について(『群像』批評特集号に掲載など)

…も、たとえば「男性の自殺率の高さ」という弱者男性の問題にもつながるトピックについての個人的な解決策については、記事を書いたことがあります。 gendai.ismedia.jp また、弱者男性の問題についての社会的な解決策については模索中、というところです*4。考えている方向性としては、「弱者男性(または男性一般)が被っている危害や不利益は女性やその他のマイノリティが危害や不利益と同じように社会正義に係る問題であり、対応策が検討されたり、可能であれば是正されたりするべき問題であ…

「男性にも"ことば"が必要だ」:補足と宣伝

…イナーによる、男性の自殺率が高い理由とそれを予防するための具体的な方策についての議論は下記の記事にまとめている。 gendai.ismedia.jp ジョイナーの著書のいくつかは日本でも翻訳されているが、「男性の自殺」というテーマにスポットを当てた Lonely at the Top: The High Cost of Men's Success は未邦訳。だけれど、そのうち日本の読者にも届けられるかもしれない。 ・「男性特権」という概念(の問題)については、先月の記事で詳し…

読書メモ:『神はなぜいるのか?』

…に関係し、人を殺人や自殺に駆り立てることもある。私たちは、劇的なものごとの説明も同様に劇的であってほしいと思いがちである。似たような理由から、宗教に憤慨し宗教を拒絶する人々も、彼らには大いなる誤りに見えるものの唯一の原因ーーきわめて多くの人間の心が道を誤る、いわば分岐点ーーを見つけようとする。しかし実際には、そういった単一の地点などない。なぜなら、宗教的概念に説得力をもたせているのは、さまざまな認知プロセスの共謀だからである。 もちろん、私がそれをよいことと思っているのに、物…

社会は「男性の幸福度の低さ」について配慮するべきか?

…性のほうが女性よりも自殺率が高い」という点を強調する場合もある。いずれにせよ、男性の幸福度の低さや自殺率の高さが、「男性は女性よりも差別されている」という主張や「男性は女性よりも公的な支援を必要としている」という主張の根拠とされる。 しかし、引用した議論で示されているように、「幸福度の低さ(≒主観的苦痛)」が支援を要求する根拠になるとは限らない。男性が不幸になっているとしても、それは男性たちは(男女平等の社会で認められないという意味で)不当な期待やニーズを抱いているからかもし…

デュルーケム流功利主義とダーウィン左翼(『社会はなぜ左と右にわかれるのか』読書メモ②)

…している。愛国主義や自殺率などの社会的な事実は、人々の交わりを通して生じる。それは(心理学の対象たる)個人の心理と同様に現実的なものであり、(社会学の)研究対象として大きな意味を有する。マルチレベル選択と「主要な移行」の理論はデュルケームには知るよしもなかったが、彼の社会学はこれらの理論に不思議なくらい一致する。 デュルケームは、個人の心理と二者間の関係のみに基づいて、道徳や宗教を説明しようとするフロイトらの同時代人をたびたび批判している(「神は単なる理想の父親像だ」とフロイ…

『ニコマコス倫理学』読書メモ

… 「勇気」の観点から自殺を否定するところもいい。自殺した人を悪く言ってはいけないどころかエラい人として生前よりも過大に評価する風潮があるけれど、そういうのはやっぱりよくないのだ。反出生主義をあれこれ言っている連中に関しても、理屈で論破するより、そいつらの人格のみみっちさとか情けなさを責めてやるほうが適切であるかもしれない。 気前のよさ さて、使用される事柄を、人は立派にもまた稚劣にも使用することができる。富は、そうした事柄のひとつである。そして、それぞれの事柄をもっとも立派に…

「特権」概念の不毛さ

…プレッシャーや孤独や自殺リスクなどは男性の側に顕著な問題だ*7。 いま現在、キャリア形成へのプレッシャーや孤独に苦しむ男性が「男性特権」を糾弾されたら、反発を抱くのも当たり前であるだろう。そうやって糾弾すること自体が非倫理的である、とすら主張できるように思える。 こうやっていろいろと考えていくと、差別について新しい社会学用語や社会運動用語を用いて論じたり考えたり主張したりすること自体を一旦ストップしてもいいのではないか、と思えるようになってきた。 いまこの世の中に存在する差別…

「傷つき」と表現の自由(読書メモ:『表現の自由を脅すもの』)

…マを与えたり彼女らを自殺に追い込んだりしてきたらしいことは周知されるようになっており、良心的な人々は、だからこそ自分や他人が差別的な言動や表現することを危惧して「規制もやむなし」と考えるようになっているのだ。 ……とはいえ、過去に現代ビジネスで紹介した『アメリカン・マインドの甘やかし』のなかでも危惧されていたように、現代では不愉快な表現や非・左派的な思想や言論を抑圧するために、「危害」の概念が後付けで拡大されている感がある。そして、攻撃的であったり挑戦的であったりする言論に触…

なぜ、不倫されたら傷付いて、嫉妬するのか?(読書メモ:『不倫と結婚』)

…ろも多い。だけどまあ不倫というテーマに興味がある人は必読な本であることは間違いないだろう。 *1:「自分は幸福になれる権利があるはずだ」と思って幸福を追求し過ぎることで不幸になってしまうアメリカ人たちの姿は、映画の題材としても定番のものだ。 theeigadiary.hatenablog.com theeigadiary.hatenablog.com *2: gendai.ismedia.jp 妻(家族)への依存と同性の友人の少なさは、男性の自殺率の高さの一因ともなっている。

「愛のあるセックス」はなぜ必要か(読書メモ:『性と愛の脳科学』)

…。恋人を失った人は、自殺すらしかねない。また、パートナーと別れた直後の人が仕事に集中できなくなって、相手の痕跡(残された髪の毛やメモ、相手と一緒に行った場所や一緒に食べた料理など)に敏感になることは、薬物を禁止された中毒者の反応とそっくりであるのだ。ついでに言うと、いちど禁断症状から脱出できた人がわずかなきっかけで再び薬物にハマってしまうのと、いちど別れたカップルのやけぼっくいに火がつくのも同じようなメカニズムである。 なお、失恋によって受けるダメージは、一般的には男性のほう…

幸福には「仕事」が欠かせない理由

…失業状態である人々は自殺率が高い、ということも論じられているし。 ということで、仕事は疎外や搾取によって人を不幸にする可能性が高いが、仕事がなかったらなかったで人は幸福から遠ざかる、というのが実情であるように思える。 バイタル・エンゲージメントが得られるような仕事が日本にどれだけ存在するのかって話でもあるし、「気の持ちよう」であることはある程度までは事実であるだろうけれどそれだけでは何ともならない仕事というものも多いだろうし。 わたしが労働や仕事に関する哲学や社会科学の本を積…

読書メモ:『ジェンダーの終わり:性とアイデンティティに関する迷信を暴く』(1)

…トランスジェンダーの自殺率の高さ」などのショッキングな情報によって親たちの不安が煽られていることや、性移行を検討しない親は「差別的」であるとして活動家たちから非難されることも親を怯えさせて、子どもの性移行が安直に行われる原因となっている、と著者は主張するのだ。 ● また、著者は「女性として生まれた女性とトランス女性の間に違いは存在しない」という考えも「迷信」として批判している。 たとえば最近に日本でもすこし話題になった、女性スポーツ競技へのトランス女性の参加については、生物学…

読書メモ:『孤独の科学:人はなぜ寂しくなるのか』

…って、場合によっては自殺してしまうのだ(特に昔の文学者はよく自殺していたことは、文学者はもともと孤独になりやすい傾向があるから作品のなかでも孤独を美化してしまうことを示しているかもしれないし、孤独を美化する文学サークルに関わっているうちに不健全で破滅的な思考や行動パターンをインストールしてしまったということであるかもしれない)。 …(前略)…孤独は私たちから自己調節と実行制御の機能を奪い、自主抑制と粘り強さを損なう。認知と感情移入を歪め、そのせいで社会的調節に貢献するほかの認…

読書メモ:『自殺の対人関係理論:予防・治療の実践マニュアル』

※自殺について扱っている記事なので要注意 この本の代表著者のトマス・ジョイナーは Why People Die by Suicide や Lonley at the Top の著者でもあり、このブログでもこれまでに何度か取り上げてきた*1。ジョイナーの本で邦訳が出ているのはいまのところこの本だけであり、Why People Die by Suicide がエッセイや概説書としての要素が強く読みものとしても興味深かったのに比べると、こちらは副題から想定される通りカウンセラーなど…

「男性同士のケア」が難しい理由

…主題は、「男性の高い自殺率は、男性は女性に比べて孤独になりがちであるから」というものである。そして、男性が孤独になりやすい理由のなかでも大きなものが、「男性はコミュニケーション能力に欠けているから」ということだ。 男性がコミュニケーション能力に欠ける理由には、生得学的な要因もあれば、環境的な要因もある。 生得学的な要因としては、「男性は女性に比べて生来的に物質主義的であり(instrumentalism)、人間に対する興味が薄い」という点がある。おもちゃ箱にいくつもおもちゃが…

ジェンダー論が男性を救わない理由

…平山亮による「男性が自殺するのは支配欲が原因」発言を批判した*2。そして2019年には「有害な男らしさ」概念がフェミニズムやジェンダー論の文脈で流行するようになり、「有害な男らしさ」概念についての批判記事を書いたり、流行の発信源のひとつと思しきレイチェル・ギーザの『BOYS 男の子はなぜ「男らしく」育つか』を読んだりした*3。 ジョイナーにせよ、平山やギーザにせよ、「男性が直面している問題」であったり「"男らしさ"や、男性に特有な価値観や行動様式が本人たちに与える影響」という…

読書メモ:『経済政策で人は死ぬか?:公衆衛生学から見た不況対策』

…「第7章:失業対策は自殺やうつを減らせるか」が最も印象的であった。 ……不況が自殺増加の主要因の一つであることは間違いないが、不況でなくとも自殺が増えることはあるし、逆に不況というだけで自殺が増えるわけでもない。イタリアとアメリカの例のように、政府が失業による痛手から国民を守ろうとしなかった場合には、だいたいにおいて失業の増加と自殺の増加にはっきりした相関が表れる。しかしながら、政府が失業者の再就職を支援するなど、何らかの対策をとると、失業と自殺の相関が低く抑えられることもあ…

「自殺」の思想史(読書メモ:『Stay: A History of Suicide and the Philosophies Against It』)

…版 この本の副題の「自殺と、それに反対する哲学の歴史」が示す通り、自殺について西洋の伝承や哲学者や知識人たちはどのようなことを語ってきたか、という思想史を軸に展開する本である。 この本の序文では、著者の大学時代からの二人の友人が立て続けに自殺した出来事について語られている。友人たちが自殺した後、著者は自殺を考えている人たちが自殺を止めるように説得するエッセイをブログに掲載して、それが Boston Globe 誌にも掲載された*1。その後に過去の西洋の思想や自殺についての社会…

読書メモ:『幸福と人生の意味の哲学』(2)

…「桐生市小学生いじめ自殺事件」という悲惨な事件を取り上げることで、「この本では小手先の浅薄な議論を行うのではなく本質的で深遠な議論を行う」という宣言をしている。いじめで自殺した少女がいるという残酷な事実に向き合えるほどの耐度を持った議論を構築していく、という抱負の宣言であり、志としては立派である。だが、そのような「気負い」をしてしまうことで、世俗的に幸福や人生の意味を語る議論に対して傲慢な態度を取ってしまったり、また深遠で意味のある主張をしようとするあまり主張が空回りしてしま…

ストア哲学の知恵を現代の生活に活かす(読書メモ:『迷いを断つためのストア哲学』)

…1章のテーマは、死や自殺などに関してだ。来世や天国や地獄などの存在を考えないらしいストア哲学では、「死」に関しては「死は避けられないのだから、いつか死ぬという事実を前向きに受け入れて、人生を充実させよう」的なさっぱりした考え方をするようだ。また、自殺や安楽死も状況によっては認めるそうなのだが、この点に関しては個人的には好感が抱ける。 ・第12章は、怒りや不安や孤独などのネガティブな感情に関して。ストア哲学では、ネガティブな感情が生まれる原因となる状況や物事について別の言葉で言…

「男性のつらさ」論についての雑感

…不良につながったり、自殺リスクなどにもつながったりする。 規範的な主張としては、「結婚や異性の恋人にこだわるのはヘテロセクシュアル中心主義だ」とか「子供を欲しがるのは反出生主義の観点からすると間違っている」などと主張することはできるかもしれないし、もしかしたらその主張は間違っていないかもしれない。しかし、まずは事実の問題を直視して、異性の恋人や結婚に対する願望の根強さや、それらが身体的・生物学的な性質にも根ざしていること(つまり、社会や文化を変えるだけでは対処できるものではな…

精神病や自殺者の数は世界的に増えている?トランプやブレクジットは啓蒙主義が終わった証拠?(スティーブン・ピンカー「啓蒙をめぐる戦争」の要約【その2】)

…憂鬱や孤独や精神病や自殺が流行している。このことについてはどう説明するつもりだ? ピンカーの反論:そもそも、「人々はどんどん不幸になっている」いう発想が誤りだ。マックス・ローザーたちの記事が示すように、人々には「(自分は不幸ではないが、)最近の社会では、自分以外の人々は不幸になっている」と考えがちなバイアスが存在するのである。 実のところ、先進的でリベラルな社会は世界の中でも最も幸福な場所である。世界幸福度ランキングによると、北欧諸国やスイスやオランダやカナダなど、とりわけリ…

「啓蒙をめぐる戦争」(『Enlightment Now』への批判に対するスティーブン・ピンカーの応答)【その1】

…に対する脅威・孤独や自殺の原因として非難する、というのが主な構図である。また、批判者たちは「人類は進歩しており、世界の状態は良くなり続けている」というピンカーの主張を「データをチェリーピッキングして作り上げた幻想だ」とみなし、啓蒙主義はトランプ大統領に代表されるような権威主義的ポピュリズムやソーシャルメディアや人工知能に取って代わられる旧世代の遺物だ…と冷笑する。 しかし、ピンカーの方も批判されっぱなしではいられない。『Enligtment Now』の出版から一年経った段階で…

家父長制・弱者男性・フェミニズム

以前に訳して紹介したポーラ・ライト(Paula Wright)のブログの記事を読みながら、だらだらと考えたこと*1。 porlawright.com 「改良された"家父長制"を擁護する」というこの記事では、家父長制とは単一の種類しかないものではなく、悪性の家父長制もあれば良性の家父長制もある、とされている。そして、悪性の家父長制は大半の男性と女性にとって害をもたらすが、現代の欧米社会に存在する家父長制は改良されたものであり悪性の家父長制から人々を守る役割を果たしている良性の制…

弱者男性論とか女性だけの街とかについての雑感

…たことがある(男性が自殺するのは「支配欲」が原因だって?)。 しかしまあ、上述したような主張を行うのはフェミニスト・ジェンダー論者の間でも多数派ではないだろうし、基本的には、「女性特有の苦しみも男性特有の苦しみのどちらも社会的性差の押し付けや性別役割分業の構造などから生じているのだから、社会的性差や性別役割分業の問題を解決すれば、男女ともに苦しみから解放される」といった認識を抱いている人の方が多いはずだ。「フェミニストは男性の苦しみについて積極的にはケアせず女性の苦しみばかり…

男性が自殺するのは「支配欲」が原因だって?

…の中で、日本人男性の自殺率の高さを取り上げ、日本の過剰労働を紐づけて「男の生きづらさ」だ、とまとめているように読めました。自殺するほど男は追い詰められているのだと言わんばかりです。 平山 男性の自殺率は、もともとは、男性が追い詰められたときに取る選択がなぜ自殺なのか? ということを問うためのデータだったはずです。例えば、男性が自殺に向かうのは、支配の志向を手放せないからだ、という説明があります。つまり、経済力や社会的地位によって他者を支配できなくなったとき、自分がコントロール…

原罪としての"男性特権"

…性であること、男性の自殺率は女性よりもずっと高いこと、戦争や職場での事故で死ぬ人も大半が男性であること、同じ犯罪でも男性の方が裁判で罪が重くなりやすいこと、などなどの男性が受けている様々な差別や不利な側面が無視されることになる。人種差別にしても、たとえばアファーマティブ・アクションのために白人は大学への入学や就職が黒人よりも不利であったりする。 人種や性別だけでなく階級や豊かさといったものを含んだ、それぞれの個人が持っている特権の総体(net priviledge)を見るのな…