道徳的動物日記

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さいきん読んだ本シリーズ:『リベラルとは何か』とか

・『リベラルとは何か』 リベラルとは何か 17世紀の自由主義から現代日本まで (中公新書) 作者:田中拓道 中央公論新社 Amazon この本はなかなか面白かった。もう図書館に返却してしまったけれど、ブログ記事にしてもよかったくらい。アメリカとヨーロッパと…

社会性の収斂進化、「社会性」は「善」であるのか?(読書メモ:『ブループリント:「よい未来」を築くための進化論と人類史』)

ブループリント:「よい未来」を築くための進化論と人類史(下) 作者:ニコラス・クリスタキス ニューズピックス Amazon この本のメインの主張である「青写真(社会性一式)」に関する議論などは先日の記事で紹介したので、今回は、感想とか気に入った部分の引…

「正しい怒り」は存在するか?(読書メモ:『怒りの人類史:ブッダからツイッターまで』)

怒りの人類史 作者:バーバラ H ローゼンウェイン 青土社 Amazon 「人類史」とは書いてあるが、内容は思想史のそれ。主に西洋で「怒り」という情動とはどのようにみなされてどのように扱われてきたか、ということが論じられている。 第一部では怒りを否定する…

愛情と結婚の進化論と人類史

ブループリント:「よい未来」を築くための進化論と人類史(上) (NewsPicksパブリッシング) 作者:ニコラス・クリスタキス ニューズピックス Amazon 『ブループリント:「よい未来」を築くための進化論と人類史』では、基本的には進化心理学や文化進化論などの…

経済的不平等のなにが悪いのか?(読書メモ:『21世紀の啓蒙:理性、科学、ヒューマニズム』)

21世紀の啓蒙 上:理性、科学、ヒューマニズム、進歩 作者:スティーブン・ピンカー 草思社 Amazon 原著が出たあとに寄せられた反論に対してピンカーが行なった再反論を紹介したり*1、現代ビジネスの記事でピンカーについて書いたりしたけれど*2、『21世紀の…

読書メモ:『尊厳ーーその歴史と意味』

尊厳: その歴史と意味 (岩波新書 新赤版 1870) 作者:マイケル・ローゼン 岩波書店 Amazon 海外の哲学者が「尊厳」という概念について主にカントとカソリック哲学を参照しながら解説した本の邦訳。新書本ではあるが、内容はそれなりに専門的で、なかなか堅い…

なぜ、不倫されたら傷付いて、嫉妬するのか?(読書メモ:『不倫と結婚』)

不倫と結婚 作者:エスター・ペレル 発売日: 2019/03/15 メディア: 単行本 著者のエスター・ペレルはセラピストであり、多数のカップルの不倫問題について現場で扱ってきた。この本は著者がセラピーしてきた男女たちによる様々な事例に基づきながら、「不倫」…

芸術家やリベラルが不倫をしやすい理由(読書メモ:『もっと!愛と創造、支配と進歩をもたらすドーパミンの最新脳科学』)

もっと! : 愛と創造、支配と進歩をもたらすドーパミンの最新脳科学 作者:ダニエル・Z・リーバーマン,マイケル・E・ロング 発売日: 2020/10/02 メディア: 単行本 研究者らが発見したのは、ドーパミンの本質は快楽ではまったくないという事実だった。ドーパミ…

「恋愛」とは自然なものなのか(読書メモ:『女と男のだましあい:ヒトの性行動の進化』)

女と男のだましあい―ヒトの性行動の進化 作者:デヴィッド・M. バス メディア: 単行本 原著は1994年、邦訳も2000年とかなり古く、進化心理学の本のなかでは「古典」の部類に入るものだ。そして、古典なだけあって、進化心理学の考え方のなかでももっとも基本…

読書メモ:マーサ・ヌスバウムによる「性的モノ化」論

davitrice.hatenadiary.jp ↑ ひと月ほど前にこのブログに掲載した記事でも間接的に取り上げた、マーサ・ヌスバウムによる「性的モノ化」論文について、以下の書籍に収録されているバージョンを読んでみたので、感想や考えたことを書いておこう。 Sex and Soc…

読書メモ:『意志の倫理学:カントに学ぶ善への勇気』

意志の倫理学――カントに学ぶ善への勇気 (シリーズ〈哲学への扉〉) 作者:秋元康隆 発売日: 2020/01/27 メディア: 単行本(ソフトカバー) カント「哲学」の入門書は数あれど、カント「倫理学」の入門書はほとんど存在しないので、この本は実にありがたい。 こ…

「弱者男性」でありたがることのなにが問題か

gendai.ismedia.jp ↑ 「弱者男性論」に関するわたしの記事が講談社現代ビジネスに掲載されてからちょうど一ヶ月になるが、この記事をきっかけに「弱者男性論」が盛り上がったようで、SNSや個人ブログに匿名ダイアリーなどで、弱者男性について書かれた文章が…

サンデル教授の「大学入試くじ引き論」

実力も運のうち 能力主義は正義か? 作者:マイケル サンデル 発売日: 2021/04/14 メディア: Kindle版 『実力も運のうち』の第六章「選別装置」で、サンデルは以下のような提案をしている(太字部分は強調のためにわたしがつけたもの)。 四万人超の出願者の…

能力主義は魅力的である(読書メモ:『実力も運のうち』②)

実力も運のうち 能力主義は正義か? 作者:マイケル サンデル 発売日: 2021/04/14 メディア: Kindle版 前回の記事で論じたように、サンデルによる能力主義批判の核心は、能力主義が人々の「心情」に与える影響についての議論にある。 生まれ落ちた環境のちが…

「共通善」で問題が解決できるなら苦労はしないよ(読書メモ:『実力も運のうち』①)

実力も運のうち 能力主義は正義か? 作者:マイケル サンデル 発売日: 2021/04/14 メディア: Kindle版 「能力主義」に対する批判には、二つのパターンが考えられる。「不徹底な能力主義」に対する批判と、「能力主義」そのものに対する批判だ。 学問的なもの…

やっぱり恋愛には"能力"が必要だよね(読書メモ:『性の倫理学』)

現代社会の倫理を考える〈12〉性の倫理学 (現代社会の倫理を考える (12)) 作者:田村 公江 発売日: 2004/12/01 メディア: 単行本 基本的にはあまり面白くもなく、参考にもならない本だ。 日本の応用倫理というものは古びるのが異様に早くて、90年代やゼロ年代…

「愛のあるセックス」はなぜ必要か(読書メモ:『性と愛の脳科学』)

性と愛の脳科学 新たな愛の物語 作者:ラリー・ヤング,ブライアン・アレグザンダー 発売日: 2015/12/09 メディア: 単行本 この本の概要については先日の記事でさくっと触れているので、いきなり本題から*1。 この本でまず面白かったのが、第4章から第6章に…

「そんな動物みたいなことするなよ」

性と愛の脳科学 新たな愛の物語 作者:ラリー・ヤング,ブライアン・アレグザンダー 発売日: 2015/12/09 メディア: 単行本 『性と愛の脳科学』はたしか2015年の前半に英語版の原著(The Chemistry Between Us: Love, Sex, and the Science of Attraction)を半…

読書メモ:『饗宴』

饗宴 (光文社古典新訳文庫) 作者:プラトン 発売日: 2014/11/28 メディア: Kindle版 哲学系の文章を書いているものとしてはあるまじきことかもしれないが、プラトンの本をまともに読むのはこれがはじめて。 おじさんたちがお酒を飲みながらエロス(恋愛)につ…

恋人と友人はどうちがうのか

32歳にもなってこんなタイトルの文章をいちいち書きたくもないんだけれど。 davitrice.hatenadiary.jp 前回の記事では「男性からの女性に対する恋愛的なコミュニケーションには、積極的に関わろうとすればその行為が加害になってしまうリスクがあるが、消…

道徳と恋愛は相性が悪い

道徳形而上学の基礎づけ (光文社古典新訳文庫) 作者:カント 発売日: 2013/12/20 メディア: Kindle版 先日に「性的モノ化」についてあーだこーだ書いたが、それと関連しているかもしれない内容。 フェミニズムとかジェンダー論とかが市井に浸透して、男性たち…

なぜ人間は進化のメカニズムに逆らって、道徳的に行為することができるのか

The Expanding Circle: Ethics, Evolution, and Moral Progress 作者:Singer, Peter 発売日: 2011/04/18 メディア: ペーパーバック 道徳と理性の関係についての議論はこのブログでは何度もやっており、「またかよ」と思われるかもしれない。とはいえ、原稿の…

メモ:「性的モノ化」とはなんぞや、村上春樹の『女のいない男たち』

女のいない男たち (文春文庫) 作者:村上春樹 発売日: 2016/10/07 メディア: Kindle版 先日に友人とやったラジオで「性的モノ化」に関することを口にしたけれど、自分で言っていてこの言葉についてきちんと理解していないことに気が付いたので、ちょっと調べ…

覚え書き:なぜ功利主義者がいないと動物の権利は発見されなかったか

動物の解放 改訂版 作者:ピーター シンガー 発売日: 2011/05/20 メディア: 単行本 某所の連載で動物倫理についても何回か書くことになりそうなので、ピーター・シンガーの『動物の解放』を久しぶりに読み直している。 『動物の解放』では『実践の倫理』ほど…

「社会学叩き」についての私見

出勤前に、サクッとメモ的に書いておこう。 Twitterやはてなブックマークをはじめとしたネット・SNS界隈では、十年一日という感じで、相変わらず「社会学叩き」が盛んだ。 といっても他人事ではなくて、このブログでも、過去に、社会学や社会科学の現状につ…

「マイノリティの被害者意識」に関する議論のジレンマ

良き人生について―ローマの哲人に学ぶ生き方の知恵 作者:ウィリアム・B・アーヴァイン 発売日: 2013/09/11 メディア: 単行本 『良き人生について:ローマの哲人に学ぶ生き方の知恵』については以前にも紹介したが、あらためて、この本の第11章「侮辱」からち…

『男にいいところはあるのか?:文化はいかに男性を搾取して繁栄するか』

Is There Anything Good About Men?: How Cultures Flourish by Exploiting Men (English Edition) 作者:Baumeister, Roy F. 発売日: 2010/08/12 メディア: Kindle版 前回の記事でも紹介した、心理学者のロウ・バウマイスターの著作『Is There Anything Good…

男性と女性は対立していない

Is There Anything Good About Men?: How Cultures Flourish by Exploiting Men (English Edition) 作者:Baumeister, Roy F. 発売日: 2010/08/12 メディア: Kindle版 昨日からロイ・バウマイスターの『Is There Anything Good About Men? :How Cultures Flo…

「人生の意味」の進化心理学

野蛮な進化心理学―殺人とセックスが解き明かす人間行動の謎 作者:ダグラス・ケンリック 発売日: 2014/07/18 メディア: 単行本 ダグラス・ケンリックの『野蛮な進化心理学:殺人とセックスが解き明かす人間行動の謎』の白眉は、やはり、第七章の「マズローと…

有徳に生きることと、幸福に生きることの関係

徳は知なり: 幸福に生きるための倫理学 作者:ジュリア・アナス 発売日: 2019/03/25 メディア: 単行本 ジュリア・アナスの『徳は知なり:幸福に生きるための倫理学』については過去にも紹介記事を書いているが、今回は、徳と幸福について論じられている八章と…