読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

道徳的動物日記

動物や倫理学やアメリカについて勉強したことのある人の日記です。

「動物が苦痛を感じているとも、植物が苦痛を感じないとも、確実に言うことはできない」(倫理に関する事実判断と価値判断についての私見)

togetter.com 上記のTogetterは私のツイートをセルフまとめしたものだが、この話題について、ブログでもちょっと書いてみたい。 動物を道徳的配慮の対象とする倫理学理論(や政治哲学などその他の規範理論)の多くは「ある存在は幸福や快楽などのポジティブ…

社会運動において意見を発信する側はどうするべきか、そして意見を受け取る側はどうあるべきか

davitrice.hatenadiary.jp 上述の、先日に自分で書いた記事に付け足す形で思うところを書きたい。 先日の記事でも紹介したが、ニック・クーニー(Nick Cooney)の著書『心を変える:社会を変える方法について心理学が教えてくれること(Change of Heart: Wha…

社会運動を効果的に行うためにはどうすればいいのか?

Change of Heart: What Psychology Can Teach Us About Spreading Social Change (English Edition) 作者: Nick Cooney 出版社/メーカー: Lantern Books 発売日: 2015/09/01 メディア: Kindle版 この商品を含むブログを見る 今回は、ニック・クーニー(Nick …

"女のヒステリー"と動物愛護運動

ヒマなので、昔自分で書いた修士論文の内容の一部を参考にしながら、記事を書いてみようと思う。私はアメリカ史を専門にしていた訳ではないので歴史に関する文章については事実誤認とか間違いが含まれているかもしれないが、そこはまあ勘弁してほしい。 アメ…

マーサ・ヌスバウムによる動物の「繁栄・開花」/「可能力アプローチ」論と、その問題点

正義のフロンティア: 障碍者・外国人・動物という境界を越えて (サピエンティア) 作者: マーサ・C.ヌスバウム,神島裕子 出版社/メーカー: 法政大学出版局 発売日: 2012/06/29 メディア: 単行本 クリック: 10回 この商品を含むブログを見る ドナルドソンとキ…

野生動物と境界動物:『人と動物の政治共同体』(3)

人と動物の政治共同体-「動物の権利」の政治理論 作者: スー・ドナルドソン,ウィル・キムリッカ,Sue Donaldson,Will Kymlicka,青木人志,成廣孝 出版社/メーカー: 尚学社 発売日: 2016/12/26 メディア: 単行本(ソフトカバー) この商品を含むブログ (3件) を…

『歴史の終わり』はトランプの出現を予期していた?

歴史の終わり〈上〉歴史の「終点」に立つ最後の人間 作者: Francis Fukuyama,フランシスフクヤマ,渡部昇一 出版社/メーカー: 三笠書房 発売日: 2005/05 メディア: 単行本 購入: 8人 クリック: 277回 この商品を含むブログ (21件) を見る 1992年に出版さ…

「死ぬ権利」を整備することは「死ぬ義務」につながるのか?

以下のツイートを目にしたのをきっかけに、前々から思っていたことを書こうと思う。 この学会の構成員は医療従事者(半数が医師)約4000人で、比較的小さな学会だが、こういうところからも「尊厳死」の世論作りを始めてきたんだね。 / ”本人が望まなければ救…

「植物への倫理的配慮?」 by ゲイリー・フランシオーン

A Frequently Asked Question: What About Plants? – Animal Rights: The Abolitionist Approach 今回訳して紹介するのは、動物の権利論者・動物の権利運動家のゲイリー・フランシオンがホームページに掲載した記事。記事の正式なタイトルは「よくある質問:…

家畜動物のシティズンシップ:『人と動物の政治共同体』(2)

人と動物の政治共同体-「動物の権利」の政治理論 作者: スー・ドナルドソン,ウィル・キムリッカ,Sue Donaldson,Will Kymlicka,青木人志,成廣孝 出版社/メーカー: 尚学社 発売日: 2016/12/26 メディア: 単行本(ソフトカバー) この商品を含むブログ (3件) を…

「動物実験のコストとベネフィット」 by アンドリュー・ナイト

今回紹介するのは、倫理学者のアンドリュー・ナイト(Andrew Knight)が2011年New Internationalist のwebページに掲載した「動物実験のコストとベネフィット(The costs and benefits of animal experiments)」という記事。ナイトは同じ題名の単著も出して…

動物の市民権:『人と動物の政治共同体』(1)

人と動物の政治共同体-「動物の権利」の政治理論 作者: スー・ドナルドソン,ウィル・キムリッカ,Sue Donaldson,Will Kymlicka,青木人志,成廣孝 出版社/メーカー: 尚学社 発売日: 2016/12/26 メディア: 単行本(ソフトカバー) この商品を含むブログ (3件) を…

人文学は何の役に立つのか?

近年、「学問は役に立つのか?」「人文学を学ぶ意味はあるのか?」「利益を上げない学問に税金を投入する意味はあるのか?」みたいなことが言われることが多くなっているような気がする。大体の場合、やり玉に挙げられるのは人文学や文系の科目全般だったり…

野生動物とペット・家畜に対する道徳的責任の違い - クレア・パーマー『文脈のなかの動物倫理』

Animal Ethics in Context 作者: Clare Palmer 出版社/メーカー: Columbia University Press 発売日: 2010/12/05 メディア: Kindle版 この商品を含むブログを見る 数年前にClare Palmer(クレア・パーマー)という人が書いた『Animal Ethics in Context(文…

ジョエル・モキール『経済発展の文化:近代経済の起源』

A Culture of Growth: The Origins of the Modern Economy (Graz Schumpeter Lectures) 作者: Joel Mokyr 出版社/メーカー: Princeton University Press 発売日: 2016/10/25 メディア: Kindle版 この商品を含むブログを見る 経済史学者のジョエル・モキール…

動物愛護運動は人間の苦痛から目を逸らすための運動?

階級としての動物―ヴィクトリア時代の英国人と動物たち 作者: ハリエットリトヴォ,Harriet Ritvo,三好みゆき 出版社/メーカー: 国文社 発売日: 2001/10 メディア: 単行本 クリック: 2回 この商品を含むブログ (4件) を見る 動物への配慮―ヴィクトリア時代精…

ヨハン・ノルベルグ『進歩:未来について前向きになるべき10の理由』

Progress: Ten Reasons to Look Forward to the Future 作者: Johan Norberg 出版社/メーカー: Oneworld Publications 発売日: 2016/09/01 メディア: Kindle版 この商品を含むブログを見る 『進歩:未来について前向きになるべき10の理由(Progress: Ten Re…

ナチスの理性は世界一?

ナチスというと、その科学技術力が注目されることが多い。私は軍事は全然詳しくないのだが、V2ロケットとかいうすごいミサイルを開発したらしいというくらいのことは知っているし、フィクションの中では月面に基地を作ったり爆散した少佐をサイボーグ化さ…

「他人の立場に立つ」:黄金律、視点取得、共感、物語、理性、輪の拡大

何度か書いてきたことだが、儒教やキリスト教などの伝統的な道徳にせよ、現代における倫理学理論にせよ、道徳的な規範の多くには「黄金律」と呼ばれる考え方が含まれている*1。「あなたが人からしてもらいたいことを、人にしてあげなさい」という肯定的な形…

アメリカという実験/科学的手続きと民主主義

The Science of Liberty: Democracy, Reason, and the Laws of Nature 作者: Timothy Ferris 出版社/メーカー: Harper Perennial 発売日: 2011/02/08 メディア: ペーパーバック この商品を含むブログを見る 先の記事に引き続いて、ティモシー・フェリス著『…

ポストモダニズムとポリティカル・コレクトネス

The Science of Liberty: Democracy, Reason, and the Laws of Nature 作者: Timothy Ferris 出版社/メーカー: Harper Perennial 発売日: 2011/02/08 メディア: ペーパーバック この商品を含むブログを見る 先日から読み始めたティモシー・フェリス著『自由…

動物園にまつわる倫理的問題

動物倫理入門 作者: ローリーグルーエン,Lori Gruen,河島基弘 出版社/メーカー: 大月書店 発売日: 2015/11/20 メディア: 単行本 この商品を含むブログ (5件) を見る davitrice.hatenadiary.jp 某アニメの影響で動物園への関心が高まっているようだが、倫理学…

Cultural appropriation(文化の盗用/文化の簒奪)という概念に対する批判の雑なまとめ

www.huffingtonpost.jp togetter.com togetter.com このテの話題でよく出てくるCultural appropriation(文化の盗用/文化の簒奪)という概念だが、白人が着物を着ることばかりでなく、「エミネムのような白人ラッパーはCultural appropriationだ」「ロック…

グローバリズムとかナショナリズムとかについての雑感

www.humansandnature.org Voters deserve responsible nationalism not reflex globalism www.bostonglobe.com davitrice.hatenadiary.jp davitrice.hatenadiary.jp 社会心理学者のジョナサン・ハイトがCenter for Humans & Natureに掲載した「グローバリズ…

トランプ政権について、ピーター・シンガーのコメント

vpoint.jp ↑ こんな記事も出ていることなので、シンガー本人はドナルド・トランプ米大統領についてどんなコメントをしているのか、簡単に調べてまとめてみた。 www.project-syndicate.org 上述の、2017年2月1日付でProject Syndicateに発表された「ト…

ハラールと給食の話題についての雑感(追記あり)

なんか「ムスリムの人が給食のハラール対応を要求した」ことが確定事項みたいに扱われているが、元記事を読むともっと微妙な話だと思う。 Twitterで書いた文章を丸々転載。 学校生活、給食など苦慮 ムスリムの子に「理解を」 https://t.co/r2ZLNoEkrE この記…

フランシス・フクヤマによる、民主主義の発達過程についての議論

Political Order and Political Decay: From the Industrial Revolution to the Globalisation of Democracy 作者: Francis Fukuyama 出版社/メーカー: Profile Books Ltd 発売日: 2015/09/17 メディア: ペーパーバック この商品を含むブログを見る フランシ…

動物倫理とポストモダン思想

davitrice.hatenadiary.jp ゲイリー・シュタイナーの主張は以前にも本人が書いた短い記事を訳して紹介したが、何しろ短かい記事だったのでシュタイナーの主張がわかりづらかったかもしれない。今回は、シュタイナーが著書『動物と、ポストモダニズムの限界』…

読書メモ:進化論 vs 道徳的実在論

The Point of View of the Universe: Sidgwick and Contemporary Ethics 作者: Katarzyna de Lazari-Radek,Peter Singer 出版社/メーカー: Oxford Univ Pr (Txt) 発売日: 2016/06 メディア: ペーパーバック この商品を含むブログを見る 『普遍的な観点から:…

読書メモ:実践理性の二元性

The Point of View of the Universe: Sidgwick and Contemporary Ethics 作者: Katarzyna de Lazari-Radek,Peter Singer 出版社/メーカー: Oxford Univ Pr (Txt) 発売日: 2016/06 メディア: ペーパーバック この商品を含むブログを見る 第6章は「倫理学にお…

読書メモ:シジウィックによる倫理学の三つの公理

The Point of View of the Universe: Sidgwick and Contemporary Ethics 作者: Katarzyna de Lazari-Radek,Peter Singer 出版社/メーカー: Oxford Univ Pr (Txt) 発売日: 2016/06 メディア: ペーパーバック この商品を含むブログを見る 『普遍的な観点から:…

読書メモ:反省的均衡と基礎付け主義

The Point of View of the Universe: Sidgwick and Contemporary Ethics 作者: Katarzyna de Lazari-Radek,Peter Singer 出版社/メーカー: Oxford Univ Pr (Txt) 発売日: 2016/06 メディア: ペーパーバック この商品を含むブログを見る 第4章では、道徳的な…

「問題となることは存在するのか?」 by ピーター・シンガー (デレク・パーフィットの On What Matters について)

dailynous.com 哲学者のデレク・パーフィット(Derek Parfit)が元旦に逝去したが、パーフィットの著作『On What Matters(問題となることについて)』について書かれた、ピーター・シンガー(Peter Singer)が2011年の1月にProject Syndicateに発表し…

読書メモ:知覚直観主義(道徳的個別主義)と常識道徳

The Point of View of the Universe: Sidgwick and Contemporary Ethics 作者: Katarzyna de Lazari-Radek,Peter Singer 出版社/メーカー: Oxford Univ Pr (Txt) 発売日: 2016/06 メディア: ペーパーバック この商品を含むブログを見る 第3章のタイトルは「…

あけましておめでとうございます

僕の誕生日は1月2日です。 https://www.amazon.co.jp/gp/registry/wishlist/?ie=UTF8&cid=AKL85246JVN3W

読書メモ:倫理学とはなんぞや、道徳における「理由」と感情についてのシジウィックの見解

The Point of View of the Universe: Sidgwick and Contemporary Ethics 作者: Katarzyna de Lazari-Radek,Peter Singer 出版社/メーカー: Oxford Univ Pr (Txt) 発売日: 2016/06 メディア: ペーパーバック この商品を含むブログを見る 『The Point of View …

メモ:死がもたらす危害の「時間的利益相対説」

ジェフ・マクマーン(Jeff McMhan)が著書『Ethics of Killing(殺すことの倫理学)』で主張している「時間的利益相対説(Time-Relative Interest Account)」についてのメモ。とはいえ、『Ethics of Killing』は現在手元にないので、デビッド・ドゥグラツィ…

「動物の権利と先住民の権利」 by ウィル・キムリッカ、スー・ドナルドソン

人と動物の政治共同体-「動物の権利」の政治理論 作者: スー・ドナルドソン,ウィル・キムリッカ,Sue Donaldson,Will Kymlicka,青木人志,成廣孝 出版社/メーカー: 尚学社 発売日: 2016/12/26 メディア: 単行本(ソフトカバー) この商品を含むブログを見る 政…

読書メモ:デール・ジェイミーソンの環境倫理学入門

Ethics and the Environment: An Introduction (Cambridge Applied Ethics) 作者: Dale Jamieson 出版社/メーカー: Cambridge University Press 発売日: 2008/01/24 メディア: ペーパーバック この商品を含むブログを見る 先日に読んでいた本。著者のデール…

「限界事例の議論」に関する、ゲイリー・ヴァーナーの議論

道徳的地位やパーソン論に関する議論では「限界事例の議論(Argument from Marginal Cases)」がよく出てくる。 「人間はパーソンであるが動物はパーソンではない」と論じるとき、人間がパーソンである理由として「過去・現在・未来に渡って自分が存在すると…

メモ・二層功利主義とはなんぞや

R・M・ヘアが『道徳的に考えること』にて論じている「二層功利主義」という考え方を、『道徳的に考えること』や他のヘアの著作を読み解きながら書かれたゲイリー・ヴァーナーの著作『Pesonhood, Ethics, and Animal Cognition: Situating Animals in Hare's …

メモ・功利主義と思考実験、功利主義と直観

・功利主義に対してよくある批判が、「ある犯罪によって社会不安が起こり暴動が起こりそうになっており、暴動が起こると確実に何人以上かが死ぬ。政府には犯人を特定して捕まえることができないが、無実とわかっている一人の男を犯人だということにして処刑…

「共感の罠」 by ピーター・シンガー

www.project-syndicate.org 今回紹介するのは倫理学者ピーター・シンガーが先日にProject Syndicateに発表した記事。心理学者ポール・ブルームの新刊の書評的な記事である。 「共感の罠」 by ピーター・シンガー バラク・オバマがアメリカ大統領として選出さ…

メモ・道徳的地位と道徳的重要性、なぜパーソンの生は特別な道徳的重要性を持つのか

davitrice.hatenadiary.jp 前回の記事の付け足し、補足的な内容。書き終わってから気付いたが、前回では「人格」「準-人格」と訳していたところを「パーソン」「準-パーソン」と訳してしまった。直すのめんどくさいのでそのままにしておく。意味は一緒。 パ…

「捕鯨に対する文化的偏見?」 by ピーター・シンガー

www.project-syndicate.org 今回紹介するのは、倫理学者のピーター・シンガーが2008年の1月に Project Syndicate に発表した、「Hypocrisy on the High Seas?(公海上の偽善?)」という記事。2016年に発売されたシンガーの倫理学エッセイ集である…

『動物と、ポストモダニズムの限界』 by ゲイリー・シュタイナー

哲学者のゲイリー・シュタイナー(Gary Steiner)が、本人の著書『Animals and the Limits of Postmodernism(動物と、ポストモダニズムの限界)』について短く解説している記事を紹介する。 私はポストモダニズムにはあまり詳しくないのだが、いくつかの本…

科学的知識に基づいた動物倫理:ゲイリー・ヴァーナーのパーソン論

動物について言及する倫理学的主張の多くは「人間だけでなく動物も道徳的地位を持つ」「人間だけでなく動物も道徳的配慮の対象になる」と主張するが、「人間と動物は全く全く同じ道徳的地位を持つ」とは主張しない。例えば人間と猫を比較する場合には、多く…

ペット動物の去勢に関する倫理

猫や犬などのペット動物に去勢・不妊手術を行うことは日本でも一般に行われているし、動物愛護協会も各都道府県の獣医師会も環境省も支持しているようだ*1。だが、インターネットやメディアではペット動物に去勢・不妊手術を行うことへの反対意見を見かける…

オルタナ右翼とソーシャル・ジャスティス・ウォーリアー

quillette.com Quilletteというサイトに掲載された記事を紹介。 「社会正義左翼とオルタナ右翼:我らの分断された新世界」 by ベン・シックススミス あなたが猫の写真や料理のレシピやヌード写真以外のことをインターネットで調べた経験があるなら、現代政治…

19世紀アメリカにおける子供の権利と動物の権利

humanitiesctr.cas2.lehigh.edu 前回に引き続き、動物愛護運動の歴史を書いた本に関する記事を紹介。 「政治的なケアと、子供と動物に対する配慮:歴史的視点」 (前略) 「感傷と野蛮:アメリカの歴史における動物と子供の境界を崩す」と題された講演の冒頭…